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異常現象解決します 澄川事務所  作者: 神木ユウ
第二章 妖刀の伝説
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第三十五話 妖刀伝説

 その昔、日本中で戦いが頻発していた戦国の時代。世の武士たちは刀を手に、戦場を駆け抜けた。そんな世界では、武士に限らず庶民までもが自衛のために武器を持っており、刀は人々の日常の中に存在している物だった。戦争時にはそんな庶民が招集されて駆り出されることもあり、そんな人々には刀が貸し出されたりもしていたのだ。


 当然ながら、武装した人間が多ければ治安は悪化する。些細なトラブルすら暴力によって解決される世を変えるため、一揆を防止するため、そして身分制度を確立するため。そんな目的から一五八八年、刀狩令が布告。人々から多くの刀が没収され、またその使用を規制された。刀が当たり前の世の中は終わりを告げ、当然のように帯刀するのは武士だけである世界へと変わっていったのだ。



 が、誰もが素直に刀を差し出した訳ではない。



 あらゆる人々のあらゆる行動が管理出来る訳ではないのだ。役人の目を誤魔化して刀を持ち続ける者も当然のこと存在していたし、そんな者の中には大人しくしていられない性分の者も存在していた。周囲が武装しなくなったのを良いことに、快楽殺人に手を染める狂人がいたのだ。自分だけが刀を持っている。好きに斬りかかろうが抵抗されることはない。斬って、斬って、斬って、斬って。その狂気に従って何人もの命を無意味にいたぶりながら奪い。


 いつしかその刀は、血を、魂を、怨念を吸い込んで





 独りでに動き、人を斬るようになった。





 妖刀と化した刀が真っ先に斬り捨てたのは、持ち主の人間だった。その人間がやってきたように、脚の腱を斬り、腕を落として、何度も腹や胸を突き、散々痛みを与えてから頭を貫き殺した。そうして人の手を離れた刀は、宙を泳ぐように命に向かって飛び続け、斬ってはその命を啜り、斬ってはその血を染み込ませ、斬ってはその魂を飲み込んで。



 やっと陰陽師によってその刀が封印されるまで、百を軽く超える命を奪ったと言われている。



「ここにはそんな刀が封じられているんです。年に一度、その封印を守るための儀式が行われることで、今でも刀の怨念を鎮めているんですよ」


「そうそう、そんなんだったぜ」


 流凪の年齢にショックを受けていた朱里だったが、少しして立ち直り、この神社に伝わる刀について教えてくれた。それに対する優の何とも言えない反応は置いておいて。どうやら毎年この時期に明里一家がこの村に帰省しているのは、刀を鎮めるための儀式に参加するためのようだ。


「希美ちゃんは知らなかったの?」


「うーん、もしかしたら覚えてないくらい小さい頃に聞いたことがあったかも?」


「希美さんにはまだ早いという判断かもしれませんね。もしかしたら私がこのお話を希美さんにしたのもあまり良くなかったかもしれません」


「あ、大丈夫です。わたしももうそんなに小さくないし」


 実際にはもう小さくないからというよりは、以前の事件のせいで多少のことならば、あの時の方が大変だったしなー、という考えで受け流せる心を得たというのが正しいのだが。本人に自覚はないままにいつの間にか成長している希美だった。


「じゃあそろそろ帰るか。もう見るとこもないし」


「優さん、そのようなことでは困りますよ。あなたもやがては田野山家の人間として、この神社と関わりながら生きていくことになるのですから」


「うえっ!? ま、まだ何かあったっけ……?」


 本気で分かっていない様子の優にため息が出る朱里。もう何度目か分からない注意を続けようとして、それを遮るように流凪が拝殿の前へと進み出る。


「神社に来たんだから、ちゃんとお参りはしていった方が良いと思うよ」


 そう言いながら五十円玉をそっと賽銭箱へ入れる流凪。そして鈴を鳴らし、二度頭を下げる。二回手を鳴らし、目を閉じてしばらく動きを止めた後、最後にもう一度頭を下げた。流凪がそうしているだけで、周囲まで何か清浄な空気に包まれたように感じられ、自然と誰もが背筋を伸ばしていた。


「素晴らしいですね、流凪さん。先ほども中央を避け、端を歩いておられましたし、神社での作法がよく分かっておいでです」


「うーん、出来れば手水舎は欲しかったんだけどねー。やっぱりお参りの前には清めておきたかったよ。神社に来るって分かってたらウェットティッシュくらい用意しておいたんだけど」


「それは……申し訳ありません。あまり人が来る場所でもないので、なかなか……」


 人が来なければお金も集まらない。それは商売でなくとも同じことだ。大切な神社であろうと、お金がないことには設備を整えることも出来ない。残念ながら、それが世界の常識だ。流凪としてもそれくらいのことは分かっているが、怪異に関するプロとしてはそういった作法は遵守したいと思ってしまうのだ。


「流凪ちゃんはやっぱりそういうの気になるんだね。穢れとか、神様とか。ここに祀られてるっていう妖刀についても何か見えてるの?」


「ん? んー、どうだろ」


 見えているとも見えていないとも、何とも判断しかねる反応を返す流凪。それは一体どっちなのか、質問を重ねようとして、しかし思いとどまる。言いにくいことがあるのかもしれないし、拝殿を一目見るだけでは分からないこともあるのかもしれない。実際に目の前に伝説の妖刀が置かれている訳ではないのだ。曖昧な返答にもきっと理由があるのだろう。今はそんな流凪の言葉については気にしないようにして、自分もお参りをしようと流凪と入れ替わるように拝殿前に進み出る希美。五円玉を投げ入れ、二礼二拍手一礼。流凪を真似したお参りは形だけのものだが、何もしないよりは良いだろう。その後、玲もお参りをして。そしてその場の全員が優をじっと見つめた。


「ん? あ、俺もか。そりゃあそうだな」


 慌てた様子で拝殿前へ立ち、五円玉を勢い良く投げ入れて賽銭箱に弾かれる優。あ、と小さく声を漏らして少しの間考えていたが、どうしようもないと結論してささっとお参りを済ませる。


「よしっ!」


「全然よしではありません。全く、もう少し流凪さんを見習ってください」


「ご、ゴメンて……」


 もう数えるのも面倒になるくらい繰り返された朱里から優への注意の声を背に、一行は錬刀神社を後にした。








 田野山家に帰ってきた流凪たちを出迎えたのは、耳を塞ぎたくなるような大声による怒号だった。



「てめぇ、優!! どこほっつき歩いてやがった!!」



「お、親父? 何だよでけぇ声出して」


 家の玄関前で立って待ち構えていたのは、優の父親。希美からしたら伯父に当たる人物、田野山 (まさる)だ。剣道着に袴姿で、優と同様に大柄で筋肉質な男性だ。頭を丸坊主にしたその姿は、いかにもスポーツマンらしさを感じさせる。


「練習はどうした!」


「え、今日は休みだって言ってたろ」


「休みでも自主練せんか! お前のような弱い奴に休んでいる暇なんぞないわ!!」


「そ、そんな」


 優の文句など聞く気は一切ないようで、優の腕を掴んだ勝はそのまま優を引きずるようにして家の奥へと歩いて行く。玲や朱里に怒られている時とは比較にならないほど弱り果て、今にも泣きそうになっている表情が印象的だった。


「えーっと……」


「勝おじさん、やっぱり怖い……」


「流石に……あれは憐れですね……」


 散々優にキツく当たってきた玲ですら同情的な目になるほど、理不尽に怒鳴られ何かの練習に連れていかれる優は可哀想に見えたのだった。

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