表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異常現象解決します 澄川事務所  作者: 神木ユウ
第一章 学校の怪談
29/65

第二十八話 日常へ

 ただそこに浮かぶ幽霊の体が、どんどん薄くなっていく。それが成仏しようとしているのだと、知識のない希美たちにも理解出来た。きっと奏の心が届いたのだろう。どれだけ長い時間苦しんできたのかは分からないが、穏やかに、安らかに、笑顔で眠ってくれたら良いなと、そこにいる全員が同じことを思っていた。


「お疲れ様」


 背後から聞こえてきた声に希美たちが振り向くと、流凪と奏がやってきていた。校舎が元に戻ったことで、音楽室からここまでの距離も短くなった。この場所まで来るのにそう時間はかからない。それでもそれなりに急いで来たようで、二人ともわずかに息が上がっている。


「ごめんね、勘違いで攻撃しちゃって。君の道行きに幸多からんことを、こちらから祈っているよ」


 そう言って、パンッと一つ柏手を打つ流凪。その音が通り抜けた瞬間、幽霊の姿に変化が起こる。ボサボサで伸び放題だった髪は綺麗に整えられ、虚ろな目に光が宿った。黄ばんでいた制服も清潔さを取り戻し、ただそこに浮かぶだけだった彼女は、自分の変化に驚いたように己の全身を何度もキョロキョロと見渡している。


『……ありがとう』


「ううん、これくらいしか出来ることがなくて、申し訳ない。せめてものお詫びだよ。天国では、綺麗な姿で楽しく過ごしてね」


『うん。さようなら』


 そうして最期にはニコリと可憐な笑みを浮かべて、彼女はこの世を去っていった。


「よし、それじゃ、帰ろっか」








「うーん! やっと外に出れたー!」


「はぁ、疲れたわ」


「あはは、もう丸一日くらい経った気分だね。まだ日付が変わってからそんなに経ってないみたいだけど」


「みんな無事に出てこれて良かったよ……」


 口々に安堵の言葉を吐き、伸びをしながら校舎を出る四人。そんな子供たちの後ろを歩く流凪と玲は、学校の門ではなく、別の方向へと歩き始める。


「じゃあ、わたしたちはここで。門から出ると監視カメラに見つかって面倒だから」


「皆さん、お疲れ様でした」


「えっ?」


 当然流凪たちも一緒に帰るものだと思っていた四人は、驚いた表情で振り返る。そういえば、監視カメラなんてものが門にはあったな、と思い出す四人。自分たちは恐らくガッツリ映っているだろう。きっと怒られる。というかそもそも凜々花は結構な怪我をしているので、隠し通せるものではないし、蛇田雄があの結界内で死んでこの世から完全に消滅してしまったので、きっと大騒ぎになるし、考えれば考えるほど今後が大変そうだ。せっかく無事に脱出出来たのに、憂鬱になってきたなと、笑顔だった四人ともの表情が暗くなった。


「ま、今回みたいなことがあったら、わたしを頼ってくれて良いから。はいこれ」


 そう言って流凪が差し出してきたのは、一枚の小さな紙。


「これは……名刺?」


 受け取って確認してみると、



 異常現象解決します 澄川事務所



     所長 澄川流凪



 と書かれている。


「しょ、所長……?」


「あの、流凪、これは……?」


「え? わたしの名刺だよ? そういう仕事をしてるから、困ったら呼んでねー」


 いつも通りの眠たげな眼でそう言う流凪は、戸惑う小学生ら四人の疑問が分かっていないようだ。これははっきり言葉にしないときっと自分たちの疑問に答えてもらえないだろう。そう思った四人は顔を見合わせて、代表して希美が口を開く。


「あ、あの、流凪ちゃん。ちょっと聞きたいんだけど、流凪ちゃんの年齢って……」




「うん? 二十三歳だよー」




「に、にじゅうさんさいいいいぃぃぃっ!?」


 四人ともが綺麗に声を揃えて、驚愕の声を空に響かせるのだった。








 その後、当然ながら学校では行方不明になった大地場蛇田雄について騒ぎになった。どうやら蛇田雄も流凪たちのように監視カメラに映らないように学校に侵入していたようで、蛇田雄が最後に目撃されたのは肝試しの前日、金曜日の十八時頃に職員室を出た時のようだ。そのため、希美たちが蛇田雄について何か知っているのでは、という疑いはかからなかった。しかし、残念ながら、蛇田雄捜索のために学校の監視カメラが確認され、深夜に侵入する四人の姿がバッチリ映っていたことで別の意味で問題になってしまった。


 事情聴取に対し、四人はあらかじめ決めていた。どれだけ頭がおかしい子扱いをされようとも、全てを正直に話そうと。上手に口裏を合わせて大人が納得してくれる供述が出来るとは思えなかったし、蛇田雄がただ行方不明になった憐れな教師であるという世間評価をされるのも癪にさわる。だから、四人は幽霊に関係する超常現象も含めて全てを正直に話して伝えた。当然それが全て納得されるようなことはなかったが、凜々花が怪我をしていること、蛇田雄が行方不明になっていること、供述にあったトイレから隠しカメラが発見されたことから一定の信憑性はあると判断され、大きなショックにより錯乱して幻覚を見ていた可能性を視野に入れて捜査されている。


 四人の供述に登場した流凪と玲にも事情聴取がされた。しかし、彼女たちの口からも四人と全く同じ内容しか出てこない。結論として、流凪が子供たちの友達だと紹介されたことで、流凪と玲も一緒に肝試しをして、蛇田雄に襲われたことで精神的ショックを受け、同様の集団幻覚を見たのだろうと、一般人である捜査担当者にはそうまとめることしか出来なかった。流凪たちが監視カメラに映っていなかったことについて多少追及はされたが、勝手に学校へ侵入しないようにという注意がされただけで済んだ。一般人から見れば、流凪たちも大変な目に遭った被害者なのだ。そこに追い打ちをするようなことは避けようと考えるのが普通だし、彼女らの活躍で子供たちが無事だった可能性も高い。今後の捜査で新たな疑惑が出てこない限りは、これ以上の追及はされないだろう。


 流凪たちへの追及は止まったが、その中で発言があった侵入経路についてはチェックがされた。流凪たちが監視カメラを避けて学校へ侵入したのは、学校を囲う柵に穴が開いていた場所だった。話を聞いて確認してみると確かに穴が開いてたのだが、その穴は流凪はもちろん玲ですら楽々通れるほどに大きいものだった。大地場蛇田雄が学校に入るために作った侵入経路だろう。当然その穴は塞がれ、以降定期的に状態確認のための巡回が行われるようになる。


 ニュースでは、『小学校教師が深夜に学校で肝試しをしていた女子児童らに性的暴行を加えようとした後逃走した疑い。現在も行方不明』と報道されることとなった。


 子供たちは、各々の親から厳しく叱られることとなる。親にも黙って深夜に抜け出して、警察の世話になるような危ない事件に巻き込まれたのだ。まともな親ならば当然心配するし子供を叱る。幸い四人の親は皆まともな親だったので、家に帰りついて泣きじゃくる子供を抱きしめ、そして叱った。子供の口から語られる事件については流石に納得出来ない部分もあったものの、親同士で話し合って、子供が言っていることを一度受け入れ、否定しないということでまとまった。


 凜々花は病院で診察を受けることになったが、幸い放っておけば治る傷ばかりとのことだ。傷跡や後遺症が残る心配も一切なし。抜けた歯も本人の言の通りもうすぐ抜けそうだった乳歯であり、しばらくすれば問題なく永久歯が生えてくるとのこと。その事実を報告された友人らは凜々花を抱きしめて喜んだが、本人としては最初から分かっていたことなのでうっとおしそうに、しかし隠し切れない笑みを浮かべてそれを受け入れた。



 子供たちの心に大きなトラウマを刻みかねない事件だったが、終わってみれば何も問題なく解決され、全員が日常へと帰っていく。



 希美には新しい友達が出来たし、奏は自信を持って背筋を伸ばして生活出来るようになった。秋子も世の中には不思議な事があるという事実を知識として蓄えられ、凜々花も憧れの子と友達になれた。



 めでたし、めでたし。皆が事件前より成長して、以前より賑やかで楽しい日々へ。




 と、思われたのだが




「うーん……」


「ちょっと凜々花、どうしたのよ」


「うーん……」


 今回の事件の経緯をまとめたくて、澄川事務所へと向かう凜々花、秋子、奏の三人。予定では希美は先に事務所に着いているはずだ。そんな道中で、凜々花はずっと何かに悩むように唸り声を上げていた。


「うううーん……」


「あーもう、うっとおしいわね! 言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ!」


「ま、まあまあ秋子ちゃん。凜々花ちゃんだって悩むこともあるよ」


「……奏、あたしだってってどういう意味?」


「え、いや、深い意味はないよ?」


「はぁ……まあ良いわ。とりあえずあたしのことは後回しで良いから。ほら、行くわよ」


 そう言って凜々花が指さした先。建物の間の薄暗い路地を奥まで進んだ、商売する気があるのか疑わしい立地のそこに、目的の建物はあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ