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異常現象解決します 澄川事務所  作者: 神木ユウ
第一章 学校の怪談
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第二十六話 暴走する憐れなる魂

 通常、幽霊に人間の攻撃など当たらない。それは当然の話で、そもそも幽霊というのは実体を持っていないのだ。触れることは出来ないし、相手から触れられることもない。今回学校に現れた幽霊は活性化していて、一般人でもその姿を見ることが出来るほどに存在感を持ってはいたが、それでも触れられないという事実は変わらない。


 しかし、何事にも例外は存在する。幽霊に限らず、怪異の類というのは大体はその伝承に基づく何らかの弱点を持っているもので、例えば鬼ならばヒイラギの葉などが苦手だというのはネットで調べれば誰でもすぐに知ることが出来る。一般人では到底太刀打ち出来ない鬼でも、そうした弱点を活用して追い払ったりすることも可能である。


 では、今回現れた幽霊の弱点とは何か。


 一般的に幽霊に効くとされているのは、明かりや塩といった物だろう。大きな音を嫌うとか明るい音楽が苦手とか、性的な話が苦手などという俗説もある。だが、今回の幽霊に対してこれらは当てはまらない。そもそもこの幽霊が創り出した世界が夜より明るい時点で明かりに弱い訳がないし、塩など手元にはない。散々大きな声を出して走り回っているのに近寄ってきたのだから、それを嫌っているということもないはずだ。明るい音楽は分からないが、果たしてあの幽霊がその程度でどうにかなる存在だろうか。性的な話などもっての外である。嫌いではあるだろうが、怒らせるだけだろう。


 あの幽霊の弱点は分かり切っている。ハサミだ。ハサミを頭部に突き刺すことで一般人でも退治することが出来る。それは何故かといえば、生前の彼女が自殺に用いたのがハサミであり、それを頭部に突き刺したことで死亡したからである。幽霊となっても、その死の感触は消えない。あの幽霊には、自分の頭部を突き刺した感触も、ハサミが頭部に突き刺さり命を失う感覚も残っているのだ。ハサミが頭部に突き刺さるというのは、彼女にとって死そのもの。実際にはその霊体に触れられていなくても関係ない。特別な力が込められていなくても、ただのハサミで充分な効果がある。




 ただし、今回はそれをしてはいけなかった。




 現在のあの幽霊は活性化し過ぎている。あまりにも存在が固定されているので、一撃で仕留めようと思うのならしっかり拘束して避けられないようにした上で、態勢を整えて真っ直ぐ綺麗に深くハサミを突き刺す必要がある。流凪のように特別な力を持った者や、ハサミ自体に力が込められている場合、もしくは玲のような圧倒的な身体能力で無理矢理完璧な刺突を放てば話は別だが、一般人がただのハサミを不完全な状態で突き刺しても完全に仕留めることは出来ないのだ。


 秋子は自分が持つ知識から、あの幽霊の弱点は頭部にハサミを突き刺すことであると看破した。そして、念のためと言って流凪が自分にハサミを渡したのは、いざという時に自力で幽霊を仕留められるようにという意味なのだろうと考えた。奏が幽霊に捕らわれてしまった今、幽霊が流凪から逃げて自分の前に現れたのなら、その時こそハサミを使う時だと。確かに奏を害された怒りはあれど、あくまで合理的な思考に基づいてそう判断した。そして、その判断は概ね間違ってはいない。




 流凪も分かっていなかった、たった一つの勘違いさえなければ。




 秋子は狙い通り、幽霊の頭部にハサミを突き刺した。回避を試みた幽霊に対し、足元が悪い中を全力で走って疲労した体で、運動能力の低い秋子が、ハサミを突き刺した。それを受け、幽霊は叫びを上げる。断末魔と思われるそれは、幽霊が消える前の最期の抵抗のようなものだ。秋子はそう思ったし、これで奏を助けられたはずだと安堵した。



「ぎゃあああああァァァァァッ!!?」



 しかし、いつまで経っても幽霊が消える様子はない。いつまでも、いつまでも、背筋が寒くなるような嫌な悲鳴を上げ続け、両手で頭を押さえて長い髪を振り乱しながら苦しんでいる。幽霊の追跡が止まって、一度玲に下ろしてもらった希美と凜々花は、幽霊が暴れても大丈夫なように下がってきた秋子と並んでその様子を見る。


「あ、秋子、あんた何をしたの?」


「これで幽霊を仕留められる、はずなのだけれど……」


「様子がおかしいですね。これは、逃げた方が良さそうです」


「そ、そうですね、ひゃあっ!?」


 四人が様子のおかしい幽霊から離れようと決めた、ちょうどその時、校舎が揺れた。経験したことのない大規模地震が発生したのかと思えるほどの揺れは、今にも窓が割れて校舎が崩れてしまうのではないかと不安になるほどの強さで、玲以外の三人は立っていることすら出来ない。



「あああああアアアアアアァァァァァッッ!!」



 そして、倒れた三人に向かって空中から飛び掛かってくる幽霊。秋子がハサミを突き刺す前はどこか冷静さがあったように思えた幽霊だったが、最早その面影は一切なく、見る者全てを呪い殺さんばかりの、必死さすら感じる形相を髪の間から覗かせている。床に倒れる三人には、襲い掛かってくる幽霊の手を避けようとすることすら出来ない。ただその手を受け入れ、蛇田雄のように全身から血を噴き出し息絶える自分の姿を幻視して



 三人の前に飛び出した玲が、自分の腕を盾にして幽霊の手を弾く。



「玲さん!」


「大丈夫です。このメイド服はお嬢様が何度も力を込めた特別製。防御するだけなら可能ですから」


 一度弾かれても諦めず、何度も繰り返し襲い掛かってくる幽霊だが、玲はその全てをメイド服の袖で防御し跳ね返す。玲の身体能力は流石の一言。床が揺れる中、空中を飛び回って様々な方向から襲い掛かってくる幽霊の攻撃を、全てメイド服で受け止めている。床に倒れる三人はこれなら助かると安心していたが、一身に攻撃を受け止め続ける玲はそれほど楽観出来る状況ではなかった。


(お嬢様の力も無限ではない。いつかはこのメイド服もただの布に戻ってしまう。それに、単純に攻撃が重い。とても霊体とは思えない。いつまで受け止められるか)


 メイド服で受け止めなくてはいけない都合上、玲は攻撃を受け流すということが出来ない。全てを真正面から受け止め、跳ね返す必要がある。表面上は平気な顔を取り繕っている玲だったが、既に腕が痺れ始めていた。それに、玲ではメイド服にどれだけ流凪の力が残っているのかが把握出来ない。そう簡単になくなりはしないはずだが、気が付いた時にはもう力が残っておらず、幽霊の攻撃をまともに受けてしまう可能性もある。そうなれば、自分はあの男のように。そしてその後は、後ろの三人も。


(お嬢様、急いでください)








「ひえっ!? な、なになになに!?」


「遅かったか……!」


 自分の失敗に気が付き、すぐに奏を連れて秋子を追おうと思った流凪だったが、音楽室を出る直前で急に校舎が揺れ始めた。目の前の扉を叩き、外と隔離することで音楽室だけは揺れを止めることが出来たが、今から音楽室を出て自分の足で玲たちと合流するのは現実的じゃない。飛び回る幽霊たちが暴れ出し、害意を持って襲ってくるのを軽く手で払って追い返しつつ、音楽室の中へと戻る。


「な、何が起きてるの……?」


「あの幽霊、わたしたちの敵じゃなかったんだよ。でも中途半端に殺してしまったことで、悪霊としての側面が表に出てきたんだ」


 流凪の言葉に、奏は思い出す。そういえば、あの幽霊に実際に攻撃されたことは一度もなかった。音楽室に捕らわれてからも怖くはあれど攻撃はされなかったし、この奇妙な世界に入り込む直前、先生に襲われそうになっていたことを考えれば、むしろ助けてくれたと言える。中途半端に殺した、という言葉の意味はよく分からないが、要するにあの幽霊の自分たちを助けてくれたような良い部分を祓ってしまい、悪い部分が出てきたということだろうか。


「こうなると、ちょっと状況が悪い」


「そ、そうなの?」


「無理矢理この結界を破壊することは出来るんだけど、それをするとあっちの四人が結界内に閉じ込められて二度と出られなくなる。どうにかして、この場所から幽霊を鎮めて落ち着かせないと」


 流凪が力を使えば、あの幽霊が創り出したこの世界を丸ごと破壊することは可能だ。しかし、その後脱出するためには、最初に流凪がこの世界に入ってきた時のように、斬り裂いて穴を開け、外に出なくてはならない。それが出来るのは流凪だけ。今結界を破壊した場合、脱出可能なのはこの音楽室にいる流凪本人と奏の二人だけということになってしまう。まずは幽霊を落ち着かせ、あちらの四人と合流してから脱出しなくてはならないのだ。


「そ、そんなこと出来るの……?」


「やるしかないよ」

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