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異常現象解決します 澄川事務所  作者: 神木ユウ
第一章 学校の怪談
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第二十三話 理不尽な暴力

 凜々花を床に押し倒した蛇田雄は、凜々花の両手を上げさせて頭上で重ね、それを右手で床に押し付けることで拘束する。


「いや、やだやだやだ! 何するの、やめなさいよっ!」


 拘束を振りほどこうと暴れる凜々花。しかし、凜々花の手を押さえる蛇田雄の手は外れる気配もなく、それどころか脚で脚を挟み込むことで更に固く拘束してくる。ニヤニヤと笑いながら、荒く息を吐き出す顔を近づけてくる蛇田雄。ポタリと垂れたよだれが頬を伝う感覚に、嫌悪感で吐きそうになる。そんな怯える凜々花の表情を一頻り楽しんだ後、蛇田雄はゆっくりとその左手を凜々花のスカートへと伸ばす。まるで見せつけるような手の動きを目で追って、その目に溜まっていた涙が一滴、流れ落ちた。


「ひ、ヒヒヒ、可愛い水色のパンツだねぇ、凜々花ちゃぁん。こんなフリフリが付いたの穿いちゃって、おませさんだ。俺に見せるために身に着けてるのかなぁ……」


「い、いやぁ……やめて、やめてよぉ……」


 気丈に抵抗していた凜々花の語気も段々と弱くなっていく。初めて目にする男性のむき出しの性欲。それを直接ぶつけられ、感じたことのない恐怖に凜々花の体が震える。その目からは止めどなく涙が溢れ、自身の性器を隠す最後の一枚が剥がされた時、自分の心を守る鎧も剥ぎ取られてしまうのだと、そんな錯覚を覚え始めた。ついに蛇田雄の手が下着に触れる。最早抵抗するほどの気力すら絞り出すことが出来ない凜々花は、それをただ見つめるだけ。



「凜々花ちゃんを放して!!」



 そうして、凜々花が全てを諦めそうになっていた時、希美が蛇田雄に掴みかかった。希美だってこんな男性の姿を見るのは初めてのこと。自分が襲われている訳でなくとも、湧き出す恐怖はかつてないほどで、希美だって今にも泣き出しそうなことに変わりはない。それでも、ここで立ち向かわなくては凜々花が、友達の人生がここで終わってしまう。ただ見ているだけなんて、ましてや凜々花を置いて逃げ出すなんて、そんなことは出来ない。


 絞り出した勇気で蛇田雄に掴みかかった希美は、凜々花の下着に触れる蛇田雄の手を引き剥がして、そのまま凜々花に覆い被さる蛇田雄を押し飛ばそうと力を込める。



 が、力の差があり過ぎた。



「邪魔だ!」


「きゃあっ!?」


 片手で希美を振り払おうとした蛇田雄だったが、流石に体の大きな希美を片手で弾き飛ばすのは難しく、凜々花を拘束する手を放して両手で希美を押し飛ばした。希美は確かに体が大きいが、それはあくまで小学四年生女子としては、に過ぎない。成人男性に力で勝てるはずもなく、突き飛ばされてしりもちをつく。


「そこで大人しくしてろ! 凜々花がぶっ壊れたらお前も使ってやるからよぉ!」


 自分はこれから壊れるまで使われるのか、とか、希美でもこの男に敵わないのか、とか。そういう新たな絶望へと至る要素が耳に入ってくる凜々花。しかし、それよりも先にその内に届いたのは、自分の後は希美も襲われるという事実だった。自分さえ大人しくしていれば希美は助かるのではないのか。この後希美も酷い目に遭うのなら、自分から捕まりに行った意味がない。


 このままでは希美も助からない。


 その事実に、諦めを、絶望を振り払って



 もう一度、凜々花の目が開く



「希美に手を出すなぁッ!!」


「があああぁぁぁぁッ!?」


 希美のお陰で自由を取り戻した上半身を起こし、自分に覆い被さる男の腕に全力で噛みつく凜々花。人間が全力で噛む力は一般的に七十キロほどあると言われ、これはリンゴを握りつぶせる握力に相当する。加えて、当然それだけの力で噛めば鋭く尖った歯が思い切り食い込むことになり、蛇田雄は自身の腕が食い千切られるのではないかと錯覚するほどの激痛に襲われることになる。


「このっ、ガキがッ! ふざけるな! 放せ、クソがぁッ!!」


「ううううぅぅぅぅッ!!」


 腕を放させようと、蛇田雄が凜々花の顔面を殴る。何度も、何度も、何度も。それによって一瞬歯が腕から離れた拍子に、凜々花の口から一本の歯が飛び出した。それすら気に留めず、凜々花は再び蛇田雄に噛み付く。絶対に放さない。希美には手を出させない。意志を込めて、睨みつける。


「いい加減にしろ、クソガキがぁッ!!」


「止めて、凜々花ちゃんを放して!!」


 蛇田雄の殴る手を止めさせようと再びその腕に掴みかかる希美。だが、その腕を封じるには至らず。思い切り振り回される腕に、すぐさま弾き飛ばされてしまう。そしてまた、何度も、何度も、凜々花への暴力は続く。殴られた顔は腫れ、切れた口からは血が流れ出す。最早凜々花に噛み付いている感覚はなく、痺れた顔からは痛みすら感じない。そんな状態で、それでも決してその顎に込めた力は緩めない。このまま腕を食い千切って殺してやる。それほどの覚悟で全力を振り絞る。




「よく頑張りましたね」




 凜々花の視界に映ったのは、透き通るように白いしなやかな脚と、ひらりと揺れるロングスカートの裾だけだった。


「ぶへえええぇぇぇッ!?」


 蹴り飛ばされた蛇田雄が、人間が飛ぶ速度とは思えない勢いで吹き飛び、何度も床を跳ねて四、五十メートル近く転がってやっと止まった。それを見送って、やっと凜々花と希美は自分たちのすぐ傍に立っている人の姿を視界に入れる。


「玲、さん……?」


「はい、篝火玲です。申し訳ありません、もっと早くお助け出来れば良かったのですが。思ったよりも校舎内の空間が広がっていて、遅くなってしまいました」


「玲さんっ! うわあああぁぁぁっ!!」


 その人物の正体が分かった瞬間、凜々花は涙や血を拭うことも忘れて玲に飛びついていた。堪えていた恐怖が、痛みが、罪悪感が、全てまとめて溢れ出し、涙が止まらなくなる。


「よしよし、偉いですよ。お友達を守るため、立ち向かったのですね」


「うんっ、うんっ! あたし、あたしぃ、がんばったん、だよっ!」


「後はわたしに任せなさい」


 そっと凜々花を抱え上げ、希美の隣に降ろす玲。そして、玲に蹴り飛ばされたことで潰れて歪んだ鼻から血をだらだらと流しながら起き上がる蛇田雄へと向き直る。


「あの外道は、わたしが捻り潰します」


「れ、玲さんっ! あのっ!」


 蛇田雄と戦おうとしている玲の姿に、急激に不安が込み上げてくる希美。確かに玲の身体能力がとても高いことは分かる。だが、相手は大人の男だ。玲は見た目的には十八歳くらいのごく普通の少女にしか見えない。まともに正面から殴り合ったら、流石に蛇田雄の方が強いのではないか。玲まで凜々花のようにボロボロになってしまうのではないか。そんな不安が抑えきれず、思わず声を掛けていた。


「ご心配なく、希美さん」




 相手が実体ある物であるなら、わたしは無敵ですから




 穏やかな微笑みで希美を見る玲の姿に、根拠のない安心感が胸中を満たしていく。だから、やっと一息吐いて、隣の凜々花を一度見て。玲の頼もしい姿にやっと涙が止まり始めた凜々花の、その口の中。そこに一つ、あるべき物がないのが目に入る。


「あ、凜々花ちゃん、歯が……」


「ん? ああ、これ、元々グラグラしてて、あと少しで抜けそうだったから別に大丈夫よ。それより今は、玲さんの戦いをしっかり見ておかないと」


 その凜々花の返答に、また一つ安心する希美。再び玲を見て、ふと、その隣にいるべき人がいないことが気になった。


「そういえば玲さん、流凪ちゃんは?」


「お嬢様は上から来ていますよ」


「う、上から……?」


 意味が分からない返答に首をかしげる希美。上からとは。屋上からヘリでも使って校舎に入ってきているのだろうか。もしかして、この異常な世界を流凪一人で歩いているのか。安心したり不安になったり、忙しい心に振り回されながら、希美が流凪の居場所について詳しく質問しようとしたところで、狂気的な笑い声に遮られる。


「流凪……ひ、ひゃはははははァッ!! あのロリ、ここに来てるのか!? ひ、ひひひ、これは良い。前に一目見てから、あれは絶対に犯したいと思ってたんだ。何て運が良いんだ! ハハハハハハァッ!!」


 鼻が潰れた痛みも忘れ、天井を見上げて楽しそうに、大口を開けて笑う蛇田雄。凜々花だけでなく、流凪も狙っているというのか。絶対に許さないと、怒りのままに怒鳴ろうとした希美だったが、直後、自分とは格が違う怒気を感じて思わず隣の凜々花に抱き着いてしまった。



「黙れ」



「ハハハハ、は?」


 それは、玲から発せられていた。穏やかに微笑んでいた先ほどまでの姿はどこにもなく、周囲の空間が歪んでいるのではないかと思えるほどに怒っているのが分かる。殺気、というものを感じたことはないが、もしかしたらこれがそうなのかもしれない。希美と凜々花は震えながらお互いを抱きしめ合っていた。


「お嬢様は世界一愛らしいんだよ、このゴミが! お前みたいな豚がお嬢様に触れることなんて許される訳ないだろうが! お嬢様の名前がお前の口から出てくるだけでも不愉快だ。二度とそんな不遜な行為が出来ないように、ベコベコのスクラップにして地中深くに埋め立ててやる」


 完全にキレてしまった玲は、蛇田雄に向かって恐ろしい文句を叩きつけ、低くした姿勢から矢の如く駆け出した。

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