第十一話 学校中大騒ぎ
その後、結局六人で行動することになった。勝負などする空気でもなく、ただただ楽しくプールで遊んだだけの一日を過ごし、しばらく。小学生たちをあまり遅くまで遊ばせておくのも良くないということで、まだまだ日暮れは遠い時間だが解散することに。
「じゃあこれで全員の連絡先登録だねー」
「う、うん」
秋子とだけ連絡先の交換をするのもどうかということで、結局凜々花、奏の連絡先も登録することになった流凪。更についでに希美も凜々花たち三人の連絡先を登録し、親と流凪しかなかったスマホの連絡先登録件数が倍になった。
「じゃあね。勝負はまた別の何かを考えとくから、逃げるんじゃないわよ、希美! 流凪は、まあ気が向いたら呼んであげる」
「バイバイ、流凪ちゃん、希美ちゃん、玲さん」
「さようなら、流凪。またいつでも連絡して。玲さんも、また。希美は学校で」
手を振って帰っていく三人組を、同様に手を振って見送る。まるで友達になったかのようなやりとりに感動しそうになった希美だったが、よく考えたら、これでいつでも勝負勝負と連絡が来る可能性に怯えることになるのではないだろうか。金髪ではなく希美と呼んでもらえるようになったのは進歩だが、学校以外でも凜々花のあのテンションに付き合わされるのかと思うと希美は少し憂鬱になった。
「じゃあ流凪ちゃん、わたしも帰るね。いつでも好きな時に連絡してきて良いからね」
「あーい。じゃあねー」
流凪、玲とも別れ、帰路に就く希美。アクシデントもあったが、初めての友達とのプールは概ね楽しく過ごせたのではないだろうか。こうやって少しずつ友達と遊ぶことに慣れていって、凜々花たちとももっと普通に接することが出来るようになれば、自分のつまらない日々も変わるに違いない。これからの人生に希望を抱き、笑顔で家の扉を開ける。
「ただいまー」
今日は良い一日だった。もしかしたら、明日も楽しい一日になるかもしれない。希美は心地良い疲労感に包まれ、穏やかな眠りに就いた。
数日後、学校にて。あのプールで遊んだ日以来、学校で凜々花に絡まれるのがそこまで嫌ではなくなった希美。凜々花も少し、ほんの少しだけ大人しくなり、キツイ嫌味も減り、呼び方も金髪やデカブツではなく名前になり、クラスメイトたちも一体何があったのかと不思議に思う。そんな日常の中で、昼食が終わり、自分の席でいつも通りの休み時間を過ごしていた時。
「希美、勝負の内容が決まったわよ!」
「……忘れてなかったんだ」
「当たり前でしょ!」
秋子と奏を引き連れて現れた凜々花は、開口一番、希美へと指を突き付けて宣言した。数日の間、勝負の話を凜々花が全くしてこなかったので、忘れていてくれたら嬉しいなと思っていた希美だったが、やはりそう上手くはいかないようだ。
「その内容は……」
これから重大発表をしますと言いたげに溜めを作る凜々花。希美にとっては面倒なだけの勝負だが、凜々花にとってはきっと大切なコミュニケーションなのだろう。何故ここまで勝負に拘るのか希美には全く分からないものの、仕方がないので発表の瞬間を静かに待つ。ここで邪魔せずに付き合ってしまうから凜々花を調子に乗らせるのに、相変わらず損な性格してるわ、と秋子は気の毒に思ったが、やはり希美と同様に口は挟まない。ちなみに奏は凜々花が発表した瞬間にすかさず盛り上げられるように構えている。
が、そんな凜々花の出鼻を挫くように、教室内がにわかに騒がしくなる。
「ねえ、あれ!」
「え、何あの子ー!」
「カワイイー!」
主に女子たちが中心になって、窓際に集まって騒いでいる。どうやらグラウンドに何かを発見したようで、指を伸ばして友人にもその存在を熱心に知らせている。
「もう、何なの!」
一生懸命考えてきた勝負内容を発表する盛り上がりの瞬間を潰されたことで不機嫌になった凜々花は、一体どんな存在が自分の邪魔をしたのか確認するために、クラスメイトたちに倣って窓際へと移動。グラウンドへ目を凝らす。するとそこには、とても見覚えのある白黒フリフリの少女がグラウンドを横切って校舎に近付いてくる姿があった。流凪だ。流凪は何かを探しているかのようにキョロキョロと顔を動かしながら、真っ直ぐにこの校舎へと歩いてきている。
「ちょっと希美、あれ!」
「え、あれって……!?」
思わず窓を乗り越えてベランダへと飛び出す希美。柵から身を乗り出すようにしてじっくりその姿を確認してみるが、どう見ても流凪だ。あんな現実離れした可愛い子が他に存在する訳がない。驚愕で流凪を凝視したまま固まる希美。二階から見下ろすその視線に気が付いた、という訳ではないかもしれないが、周囲を見回す流凪の視線が、バッチリと希美を捉えた。
「あ、やっほー、希美ちゃーん」
「流凪ちゃーん!」
のんびりおっとりしているはずのその声は意外なほどはっきり希美の耳へ届く。手を振る流凪のあまりの愛らしさに、緩ませた表情のまま手を振り返す希美。まさか学校で流凪に会えると思っていなかった希美は思わぬ出来事に嬉しくなって目の前の天使の姿しか見えていなかったのだが、直後、己の失敗を悟る。
「ちょっと希美ちゃん、あの子知り合いなの!?」
「明里さん、誰あの子!」
「紹介して、お願い!」
「えっ、ちょっ、わわっ!?」
窓際に集まっていた女子たちが一斉に希美へと集まってくる。そして口々に流凪についての質問を投げつけてきた。それだけではなく、チラチラとこちらの様子を窺う男子の視線もあり、人と話すのが得意ではない希美はどうすれば良いのかとひたすらに慌てるのみ。まともな返答が可能な状態ではなくなってしまった。普段の希美であればこの状況を予見して迂闊な真似はしないのだが、学校で流凪を発見するという思わぬ状況に舞い上がってしまった結果である。
あわあわと目を回す希美の様子を気に掛けることもなく次々に質問をぶつけてくるクラスメイトたち。最早それは尋問の如し。決して逃がしはしないと希美を包囲する。
「ほらほら、解散、かいさーん! あんたら、そんなんで希美が答えれる訳ないでしょ! しっ、しっ、離れなさい!」
助け船は意外な所からやってきた。希美が囲まれる前からすぐ傍にいたことで包囲の中心付近にいた凜々花が、持ち前の大きな声をクラスメイトたちの騒ぐ声を貫通して届かせる。それによって、気弱な希美に詰め寄ってしまっていたことに気が付いたクラスメイトたちは、口々に謝りながら離れていった。どうやら可愛い子の情報を得られなさそうだと理解した男子たちの視線も徐々に外れていき、やっと落ち着くことが出来た希美は一つ息を吐く。
「えっと、ありがとう凜々花ちゃん」
「ふん、あんたのためじゃないわ。あたしの大事な発表をいつまでも邪魔してるからムカついただけよ」
そう言って顔を背ける凜々花。相変わらずの態度に、希美はあははと一度愛想笑いを挟んで再びグラウンドへと視線を戻す。そこでは、校舎中の騒がしい声で状況を確認した若い女性教師がグラウンドに出てきて、流凪に注意している姿があった。首を傾げたりふんふんと頷く可愛らしい姿に思わず笑顔になってしまう女性教師だったが、それでもしっかり注意して流凪を学校から追い出すことに成功したようだ。手を振りながら門へと歩いて行く流凪に、女性教師も笑って手を振り返していた。
「ああ、流凪ちゃん行っちゃった……」
「ちょっと! だから聞きなさいよっ!!」
せっかく会えたのに、碌に話も出来ないまま行ってしまった流凪を残念そうに見送る希美。門を出て、流凪の姿が見えなくなったところでようやく振り返った希美に、凜々花はいら立ちを隠さないままに右手の人差し指をビシッと突き出す。
「明後日、土曜の夜、空けときなさい! 学校で肝試しするわよ!」
大きく響く凜々花の宣言と同時、待っていたかの如く休み時間の終了を知らせるチャイムが鳴る。教室の扉を開けて担任の教師が入ってきて、授業の開始を告げた。




