第52話
三月も半ば近くなり、日向の桜の蕾が一輪二輪、ちらちらと開き始めている。
私立聖漣高校では先日、理事会の改組が行われ、前理事長時代からの不祥事の温床だった常任理事たちの解任後、実にスムーズに――まるであらかじめ用意されていたかのように、外部の組織と有識者を含む人員で新たな理事の任命がなされた。
その結果、慎やくるみが入学する前から隠蔽されてきた様々な後ろ暗い事件や、二度にもわたる保護者説明会を伴う『教師から生徒への暴力』と、以前から退職者を出すほど陰惨だった『職員間に横行していた特定の教員からの種々のハラスメント』に対する引責という形で、前理事長に最も近しい人物であった校長が辞任し、さらに病気療養のために長期入院していたその前理事長が月初に逝去するという形で、この学校に三十年以上も付きまとっていた古き悪しき『金さえ出せば誰でも入れる』というイメージは、ついに覆ることになった。
その空いた『校長』のポジションは、三年前から理事長を務める『天竜孝蔵』――前理事長の遠戚である、元小学校教諭の人物が兼任することとなり、その快活で誠実かつ鷹揚な人柄と、刷新的な手腕によって快適になった校内の雰囲気で、既に職員生徒の心を掴んでいた彼がその職に就くことを、おおよその人々が歓迎した。
併設されていた幼稚園も再来年度には『こども園』に運営方式を変えることが決まり、次年度から試験運用的に雇用者数を大幅に増やして保育時間を伸ばすという通達が行われ、共働きの世帯が多い園児の保護者たちを大いに喜ばせた。
天竜の仕事ぶりを見る限り、まだまだこの学校法人には変革の余地があるらしく、時間ぴったりに理事長室に来て、ほぼ残業をせずに一番早く帰っていくその間に練られたいくつもの案を可及的速やかに運用するため、職員たちは大わらわになっている。
しかし、そのどれもが、これまでの古めかしくカビの生えた硬直的で閉鎖的な固定観念を壊し、幾人かの教職員に「自分が子供の頃にこんな学校があればよかったのに」とまで言わしめるものばかりで、天竜曰く「自分が生きていく場所を見つけるための力」を生徒に身に着けさせようという熱意の下に考案したものだということは教職員にも十二分に伝わり、それは決してこれまでのように惰性で働く者の下で感じる、苦行のような気怠い忙しさではなく、非常にやりがいのある、前向きな多忙さのある仕事となった。
部活動や同好会も、後期後半に天竜からの提案で、生徒たちは彼に直接申請許可をもらえば自由に創設してよいことになり、『アウトドア同好会』『トライアスロンクラブ』『ボディビル同好会』『落語研究会』などのユニークなものが次々に創設されて名を連ね、サッカーや剣道、吹奏楽といった既存の部活に負けじと、各々手ぐすねを引いて歓迎会のその時を待っている。
その上で、難関校志望クラスの中から国立大の医学部に現役で合格した生徒を三人出したことで、聖漣高校への評価は決定的なものになり、しかしそれにおごることなく、前任の理事の残していった問題点に手を付け始めた天竜を、もはや誰も止める者はいなかった。
国公立大志望の去年のクラスよりは多忙ではなかったものの、私立の文系クラスを担任していた今年、大学を受験した生徒たちの合否も、就職を希望していた生徒の内定も出て、上京した紘輝を含め、三年一組全員の進路がすべて決まり、興津は肩の荷が下りた思いで仕事用のノートパソコンを閉じる。
春休みに入ってから毎日詰めに詰めてこなしたおかげか、今日は仕事をどうにか正午を少し過ぎたあたりで終えられそうで、それとなく心は弾む。
とは言っても、家に帰ってもすることといえば、近所のスーパーに買い物に行って、料理の作り置きをし、シャワーを浴びた後、くるみがバレンタインに渡してくれた、金銀のアラザンやカラースプレーをふんだんに使った、曰く『平成女児チョコ』を冷凍しておいたもの――だいぶ残り少なくなったそれをアテに少しだけ酒を飲みながら、動画サイトを見つつひたすらベースとギターを交互に弾くだけなのだが、その時間すらなかなか取れないのが教師の春休みというもので、今年度の仕事が終われば来年度の準備も控えているため、まとまった時間が取れることは非常に大事だった。
部活も年度内は自主練ということでくるみたちが学校に来ることもないため、今日はまっすぐ帰宅できる。
せっかくだから今日は楽器店で新譜をチェックしてからスーパーに寄って、夜はいっそ惣菜で食事を済ませてしまおうか、と考えながら、興津は同僚たちに挨拶をして職員室を後にした。
駅ビルの楽器店でベースの弦と専門誌、そして最新ヒット曲のバンドスコアを手に入れた後、帰り道にあるスーパーで適当に買い物を終え、アパートの駐車場まで車を走らせると、目の前の道路に黒い外車が横付けして停まっているのが見えた。
(なんだよ、車庫入れするのにあんなとこ止めやがって。邪魔だなあ……)
少しだけ苛つきながらアパートの前に着くと、自分の割当の駐車スペースに外車が被っていないことに安堵しつつ、いつものようにバック駐車で車を停め、助手席においてあったカバンと買い物袋を持って下りる。
その途端、外車から二人のスーツ姿の男が下りてきて、まっすぐ自分に向かって歩いてくることに驚き、興津は身がすくんだ。
「……『興津大地』くん、だね」
二人のうち、髪を後ろになでつけた、自分より頭一つ背の低い中年男性が声をかけてくる。
「……」
はいそうです、と素直に言うことにするか迷っているうちに、その隣にいた、真っ白い髪と、深いシワの刻まれた顔の、穏やかながらどこか厳しい雰囲気の壮年の男性の方が口を開く。
「安心してくれていいよ、我々は君に危害を与えに来たんじゃない。……私はこういう者だ」
彼はそう言って胸元から革の名刺入れを取り出し、中身を一枚取って興津に差し出す。
『白須建設 専務取締役 白須康仁』
そこに書いてある情報の意味不明さに、興津は思わず首を傾げた。
「いい雰囲気の店だね」
話したいことがあると言われ、買い物袋の中身だけを急いで冷蔵庫に突っ込んで駐車場に下りていくと、当たり前のように相手の外車に乗せられそうになり、慌ててそれを断った興津は、歩いていける距離の洋菓子屋に併設されたカフェで、二人の男と向かい合わせに座っていた。
ランプの形をした照明に浮かび上がる薄暗い輪郭の店の中には、『リカード・ボサノヴァ』が会話の邪魔にならない音量で揺蕩っている。
顔なじみの店主の妻が、濃い口のコーヒーを三人分テーブルに置いて去っていくと、興津はまず最初に訊こうと思っていたことを口の端に乗せる。
「……なぜ、私の名前と住まいをご存知なんですか?」
「ちょっと君を探し出す必要があってね、致し方なくと言ったところだよ。……私立高校の先生をしているんだってね。色々と大変だろう」
「いえ。やりがいのある仕事です」
どことなく含みのある白須の物言いに、興津は思わず逆らった。
「そうか。それは良かった。……やっぱり、お父さんが高校の先生だったからかな?」
「は?……あの、でしたら人違いです。うちは代々専業農家でしたから」
相手から振られた情報の間違いを訂正するが、白須はふむ、と言って顎に手をやる。
「なるほど、君のお父さんは何も教えないままだったのか。……ということは、梓も……君のお母さんも、何も本当のことは言わなかったんだろうな」
今度は聞いたことのない名前が飛び出してきて、興津はひどく居心地が悪くなり、
「……すみません、やはりどなたかとお間違いではないでしょうか」
そう言って困惑と疑惑の視線を白須に向けた。
「そんなことはないよ。君のお姉さんは『瑛里奈』。交通事故で、十一歳のときに亡くなっているはずだ。お父さんの名前は『興津洋介』、お母さんの名前は『梓』、間違いないだろう?」
「違います。母の名前は『杏奈』です。『あずさ』さんという方は全く存じ上げません」
突然こじ開けられた傷口の痛みに耐えながら、興津は白須を半ば睨むようにして見る。
「『アンナ』……そうか、やっぱり父親のつけた名前は捨てたか」
白須は納得した様子で興津を眺める。
「君のお母さんの昔の名前は『白須・アンナ・梓』だ。……君もわかっているだろう、お母さんが外国人の血を引いていたことは。『アンナ』というのは君のお祖母さまが、聖書に倣ってつけたミドルネームだ」
「……」
あっけにとられて黙り込んでしまった興津に、白須の隣に座った中年男性が話しかける。
「君、社会科の先生なら新聞は読むよね。今年の一月、白須建設の会長が亡くなったのは知ってるかな? 一応それなりに名の知れたゼネコンなんで、ちょっとしたニュースにはなったんだけど」
相手の軽い喋り口調に少しだけ詰まった息を吐きながら、そういえばそんな記事を読んだ気がする、と興津は心のなかで独りごちる。
「簡単に言えば、僕はその会長である等おじさんに指名されてさ、遺言の執行人になっちゃったんだよ。いやあ参った。……ああ、自己紹介がまだだったね。僕は有前丈増。こちらとは親戚でさ」
そう言って隣を見遣ってから有前は興津に視線を戻すと、
「そいでもって、君とは親戚なんだよ。僕は外戚だから血の繋がりはないけどね」
「……は?」
満面の笑みで、彼の意識にハンマーを振り下ろした。
「……順を追って話そうか」
驚きとショックで目を見開いたままの興津に、白須が話しかける。
「まず、君のお母さんだが、我々の会社である『白須建設』の会長の一人娘だったんだ。そして……元々は私の婚約者だった」
憎しみではなく諦観のこもった声でそれを告げると、白須は先を続ける。
「君のお母さんは、会長……君のお祖父様が決めた私との結婚を嫌がって、大学時代から我々に秘密で付き合っていた、君のお父さんと駆け落ちしたんだ。それも、結婚式の当日にね。私をはじめ、数多くの人間が方々手を尽くして、探しに探して、やっと半年後に名古屋にいるのを見つけ出したときには、もう彼女のお腹には、君のお姉さんがいた。……私も若かったから、それ以上追いかける気にもなれなくてね。何も見なかったことにして、別の女性と結婚したんだ」
「……」
ひどく現実味のない話を聞かされ、言葉の出ない興津に、白須はなおも語り続けた。
「君のお父さんは東京の大学で教師になるための勉強をしていたときに、君のお母さんと知り合った。お母さんが音大にいたことはわかっているかな?……いずれは彼女も、君のお祖母様と同じ、ピアニストになることを夢見ていたよ。彼女は非常に才能豊かで、とても美しく、将来を嘱望された人物だった。コンクールで賞を取ったことも少なくない。……『若き天才』と呼ばれたお祖母様の素質を、それ以上の形で、彼女は受け継いでいた」
「!」
興津の頭の中で、いくつかの情報の断片が線で繋がれ、額に冷や汗がにじむ。
「君のお祖母様も、とても素晴らしい演奏家だった。あの時代のピアニストの中でも群を抜いていたよ。それは、音楽をろくに嗜んだことのない、子供だった私にもよくわかった。……だが、残念な事故があってね、お若くして亡くなられた」
「……飛行機事故……」
乾いた喉でやっと一言発した興津の目を、白須はじっと見てため息を吐き、核心を突く目で興津を睨んで、重々しく言葉を続けた。
「……知っているようだね。君のお祖母様の名前は『アデリーヌ・フォスター』。会長とはパリで出会って、そこで結婚し、君のお母さんが三歳になるまでパリで過ごした。日本に帰化してからは、東京を拠点に活躍されていた。だが、……アメリカでの演奏旅行の帰りに、彼女の乗った飛行機は、海に落ちた。会長はそれ以来、人が変わったように冷酷になられたと、梓……君のお母さんは、時折こぼしていたよ」
(……こんな、とってつけたような、安っぽいメロドラマみたいな話、あってたまるか)
一方的に相手から投げつけられる情報にひどい吐き気とめまいを覚え、興津は無言でうつむいて、ぬるまったコーヒーの中に映る自分の顔を見る。
(僕の父さんと母さんはこの街で出逢って結婚したんだ。ふたりともそう言ってた。母さんの家系の人はみんな外国にいるから、いつか連れて行くって……じゃあ、父さんと母さんは、僕にも姉ちゃんにも、嘘をついてたっていうのか? じいちゃんたちも、知ってて黙ってたのか……)
出来すぎた話を理解することを拒む心が、唇を痛いほど噛み締めさせる。
(……母さんがあのレコードを持ってたのだって、きっとただのファンだったからで……)
レコードのジャケットに遠目に描かれていた、金色の髪をした女性の横顔を思い出す。
(似てない。僕とも母さんとも、姉ちゃんとも似てないじゃないか。やっぱり、人違いだ。父さんたちが嘘なんてつくはずがない。僕のじいちゃんとばあちゃんは二人しかいないんだ)
今すぐに暴れ出したくなるほどに荒れた心を抑え込んで、彼は前に座る男たちを見据えた。
「……残念ですが、やはり人違いです。そちらが仰られていることは、私が両親から聞いた話とは違います。確かに母は、外国人の血を引いていたかもしれませんが、そんなこと、この街では特に珍しくもありません。現に私が通った小学校では、クラスの4分の1がブラジルやフィリピンや、ベトナム人の親を持っていた。私の母もきっと、いずれかの国の人間でしょう」
興津が反論すると、
「……まあ、そう来るよね。いきなりこんな都合のいい話、信じろって方が無理だ」
有前が鼻でそれを笑い、電子タバコを胸元から取り出す。
「この店は禁煙です」
「おっと、これは失礼」
興津に鋭く咎められ、彼は慌ててそれを元の場所にしまう。
「……でも、等おじさんはいちど、この街へ君に会いに来てるはずなんだよ。多分、君が高校生くらいの時だ。覚えてないかな?」
「……」
そう言われて思わず辿った記憶の中に、学校から帰宅すると、温厚だった祖父が激高しながら、祖母に「玄関に塩をまけ」と怒鳴っていたことが、一度だけあったことに思い当る。
あの日、自宅に続く狭い農道で、周りの風景にあまりにも似つかわしくない真っ黒な高級車と自転車ですれ違ったが、まさかそれが――
中に乗っていた人の姿までは記憶にないが、嫌な確信に身体が震えた。
「……さて、君の身の上話についてはこの辺にして、遺言の方に移らせてもらうよ」
有前はそれまでの軽い雰囲気とはうって変わって、カエルを睨む蛇のような目で興津を見る。
「単刀直入に言おう。等おじさんは君を跡継ぎに指名した。もう決算月だし、相続するしないを早急に決めてほしい。期限はできれば三日、遅くとも一週間だ。君にその気があるなら、新年度からはまず見習いとして、康仁おじさんの下で働いてもらう」
「お断りします」
「はは、即答されちゃったよ」
きっぱりと答えた興津に、有前は首をすくめて乾いた笑いを返す。
「でもね、僕が執行者として優先しなくちゃいけないのは、君を等おじさんの跡取りにする、という遺言の内容なんだよ。はいそうですかって引き下がるわけにもいかないんだ。……悪い話じゃないと思うんだけどなあ。こんなど田舎で高校の先生なんかやってるより、ずっと収入もやりがいもある仕事だよ? 結婚するなら女もより取り見取りだ。女の子ってバカだからね、金持ちのスイス人のクォーターってだけで、頼まなくたって向こうからやってくるから、相手には困らないはずだ。もしも結婚なんかしないで若い子と遊びたかったら、僕のとこで預かってる女の子紹介してあげるよ? こう見えて芸能事務所の社長なんでね」
「……もう一度言いましょうか。お断りします」
有前の態度に湧き上がってきた不愉快さを飲み下しながら、興津は再び拒否の姿勢を取った。
「丈増、品がないぞ」
「ああ、ごめんごめん、おじさん。ちょっといつもの癖が出ちゃった」
白須に睨まれ、有前は口を閉じる。
「ともかく、我々としてはぜひ前向きに考えてほしい事柄だ。会長は最期まで、君のことを案じておられた。本当なら君が子供のうちに引き取って、東京で面倒を見たかったと何度も仰られていたよ。そうしたら、君がおじいさんの介護で煩わされることなんてなかったはずだ」
「!……」
あまりの言い方に、興津は殺意にも似た心持ちで白須を睨んだが、彼はそれを無視した。
「どうかな、長い間苦労してきた人生が、ここですべて報われると思えば、決して魅力のない話ではないはずだ。……三日後にもう一度来るから、その時に返事を聞こう。それまでゆっくり考えなさい」
白須はそう言いながらコーヒーを半分ほど飲むと、伝票を手にして立ち上がる。
それに慌てたように有前は自分のカップの中身を飲み干すと、
「いい返事、期待してるよ。じゃあね」
白須を追うように床と椅子を鳴らして席を立ち、こちらに向けて数回手のひらを開いて閉じてしてから立ち去った。
(……これは悪夢だ)
そう思って試しに右手の甲をつねるが、普通に痛くて興津はため息をつく。
現実感のない手でカップを持ち上げてコーヒーを一口飲むと、いつもより少し濃い酸味と苦味が、人肌の温かさの液体の中に感じられた。
頭の中でどう処理したらいいかわからない話をまとめようとして格子窓の外を見遣ると、遠くの空に暗く重たい雲をはらんで吹く南風が、窓の外の桜の枝を揺らしている。
(雷雨でも降りそうだな。……春の嵐か……)
早く帰って洗濯物を取り込まないと、と明後日なことを考えつつも結局は動けないまま、彼は言葉を発することなく、視界の端で風にざわざわと蠢くカフェの看板を覆う蔦の葉を眺めた。
「ホントにあの男なんですかね?」
「間違いないよ、梓の面影がある。目鼻立ちがそっくりだ」
会計を済ませて店の前に出た二人は、迎えの車が到着するのを待ちながら言葉を交わす。
「しっかし、断られると面倒なんだよなあ、親戚総出の会議になるから、絶対もめるし……」
「お前の面倒如何で、人ひとりの人生を決めさせちゃいかんよ」
「おっ、駄洒落ですか」
「馬鹿者。……ここに嫁に来なければ、梓ももっと長生きできたかもしれないのになあ……」
つまらない会話に大きく肩を落としながら、白須はため息をつく。
「振られた男の恨み節ってやつですね」
有前の無遠慮なひとことに白須が一瞥をくれると、彼はようやく言葉を発するのをやめる。
(……いい青年だ。どうして彼が、私の息子じゃないんだろうな……)
財産の散逸を防ぐための政略結婚だったとはいえ、それなりに想いのあった相手の後ろ姿が思い出されて、白須は緩く曇った空を見上げる。
(家も夢も捨てて、この街に来て、あの男と一緒に朝から晩まで働いて、ひどい死に方をして……それで良かったのか、梓。本当に君は、幸せだったのか?)
こちらを振り向かない彼女の幻が風の中に溶けたとき、見慣れた黒いセダンが店の前に停まった。




