88話 神獣の友
「そういえば名無し、白虎の友達がお前に興味があるって言ってたがう。そっちの赤いのが長をしてるグループも気にしてたがうなー」
きるるんの配信が終わると、白虎さんは意味深なことを言ってきた。
この発言には│紅も俺も少しだけ警戒する。
神様と友誼を交わしている相手と聞けば、今までの経験上なかなかの大物である可能性が高い。
「どのような御方なのでしょうか?」
「んーよくわからんがう」
投げやりな返答に俺たちはたたらを踏みそうになる。
「白虎さんのお友達、という事は神獣にゃのでしょうか?」
「あー違うがう。でも、そうがうなー玄武や朱雀はあいつに従ってるがうなー」
聞き捨てならない返答が飛び出て、俺たちは動揺をどうにか隠す。
「北方の神獣、玄武……南方の神獣、朱雀を掌握している存在……?」
二柱の神を従える謎の存在Xに興味を抱かれているなんて少しだけ怖い。もし仮に相手が好戦的な性格だったら、【にじらいぶ】に迷惑をかけてしまうかもしれないからだ。
『にゃご~ん、にゃご~ん、にゃご~ん、にゃご~ん、にゃご~ん、にゃご~ん』
俺たちの緊張感が少しずつ高まるなか、【時守りの猫】が18時を告げる。数々の時計塔がそびえ立つ街に、本格的な夕闇が迫ってくる。一方で、尻尾にぽわーっと暖かな光を灯す猫たちが現われた。
【歩く明かり猫】である。
街灯の役割を果たす猫たちが、ゆらゆらと街を照らすさまは少しだけ幻想的だ。
「がう? あっ、白虎が説明するより名無したちが直接見た方がいいがうよ」
白虎さんは不意に一つの時計塔に目をやったかと思えば、スッと指をさした。
「あいつもよくこの街に来てるがう。タイミングがよかったがうね……グルォォォオォォォォォオオオオオオオオ!」
瞬時に大型の虎に変貌した白虎さんは、闇が迫る空へと跳躍した。
圧倒的な脚力によって近くの時計塔をみるみると駆け上がってゆく。そして先ほど、白虎さんが指さした時計塔の隣に座す。
「ん……白虎も……来てた……?」
自身の存在を誇示するかごとく時計塔に登った白虎さんに対し、隣の時計塔から透き通った声が響く。
その人物は時計の針の上にいる【時守りの猫】を静かになでていた。
「あんなところに少女……?」
思わず見惚れるほどの美しい銀髪には、立派な双角が生えていた。そして血のように真っ赤に煌めく瞳は、虚ろ気にぼーっとしている。しかし、気の抜けた表情でもその美貌は、アイドルが束になっても一網打尽してしまいそうなほどだ。
そして何より、年齢が10歳そこらの幼女に近い少女だというのにも驚きだ。
その割に遠目からでも……胸のあたりがすごい膨らみをしている……?
「魔王ちゃんねる……通称、『千獄の鍛冶姫』よ……」
「あ、あれが……」
俺たちが見上げるなか、抑揚のない声で『千獄の鍛冶姫』が呟く。
「白虎がいるってことは……ん、やっぱり」
時計塔という遥かな高所から俺たちを見下ろす魔王ちゃん。
「キミが噂の……白虎を手懐けた人間……?」
俺に興味があると言っていた白虎さんの友達とは————
どうやら彼女のようだ。




