81話 おつかれさま社長
「これより、【にじらいぶ】恒例の定例会を始めるわ」
紅の号令のもとに集った【にじらいぶ】の4人&俺。
今日のミーティングは珍しく、学校の図書室ではない。爽やかな風と草原がそよぐドラゴン牧場で行われている。
というのも今の今まで、ぎんにゅうのソロコンテンツをここで撮影していたので、各メンバーがそれに合わせる形で集合したのだ。
「ふう……初めて来たけれど、とても気持ちのいい場所なのね」
心なしか紅にはいつもの覇気がない。
というのもここ最近、紅は演者としての活動に加えて、【にじらいぶ】の社長としてあらゆる所に東奔西走していたからである。
おそらく度重なる激務により疲れ切っているのだろう。
「まず銀条さんこと、ぎんちゃん。よくやってくれたわ。貴女のおかげで、ドラゴンという強力なワードに惹かれた新たなリスナー層を【にじらいぶ】は獲得できたわ」
ぎんにゅうによるソロコンテンツ【ドラゴン牧場】はなかなかに好評だ。今まで未知だったドラゴンの生態が少しずつ明らかにされているのも話題になっている。そして各竜種の能力など、政府の異世界課や冒険者ギルドにも大きく貢献している。
もちろん、きゅーやぴよ、そしてフェンさんの協力あってのものだ。すでに三つの竜は卵から孵り、この三頭の育成が落ち着いたら、さらにまた三頭ずつ卵を孵化する予定だ。
育てがいのある子ばかりで苦戦しているのが正直な話だけど、みんな可愛いんだよなあ。
なのでめっちゃ楽しい。
「このまま上手くいけば……緊急の際は【にじらいぶ】の武力にすらなりえるわよ。ぎんちゃん、この調子でがんばってね」
「はい! 【にじらいぶ】のみんなの安全は僕と七々白路くんが守るです! ドラちゃんたちも守るです!」
社長の期待に応えるべく、たわわすぎる胸を張った月花が元気よく頷いた。
「次に藍染坂さんこと、そらちー。貴女もすごいわね。異世界魚釣りって未知のコンテンツに興味を持ってくれた、年齢の高いリスナー層へ【にじらいぶ】が浸透してきているわ」
蒼とはあれから普通に【彫刻の大鬼ジュエル】のもとへ通っている。どうやら【獄・鬼タン塩】を食べなくても仲良くやれるようで、魚釣りの手ほどきを学んでいる。ついでに宝石魚も大漁に釣っており、実は俺もポケットマネーが増えている。
というのも、特殊な宝石魚を釣り放題なのだ。目玉が本物のサファイアだとか、鱗一枚一枚がダイヤモンドだとか、もちろんある程度は【にじらいぶ】に回しているけど財力がやばいことになりつつある。
また、湖の主である【宝玉竜ジェルムド】は、俺たちを息子の芸術仲間だと認識してくれているので、最近では宝玉竜が頭の上に乗せてくれる。なので竜上での魚釣り配信をすることが多い。
加えて【宝石が浮かぶ湖】以外の未知の釣り場を探したり、新たな海や川などでの釣りもけっこう楽しかったりする。
「【にじらいぶ】の事務所を建設するのに、潤沢な資金が役立っているわよ。音響ブースも豪華な仕上がりになる予定よ。助かっているわ」
「ふっふっふー、【にじらいぶ】への美味しいお魚とお金の提供は任せてね!」
お金という言い方に語弊があるものの、蒼は自分の胸をぽよんと叩き自信満々に頷いた。
「次に、黒宮さんことヤミヤミ。貴女にもだいぶ助られているわ。貴女が手配してくれた人形たちは、事務処理をこなすにはもってこいの労働力よ。それに今話題のヤミヤミ発祥のファッションブランドも、【にじらいぶ】のファッション業界へのアプローチとしてかなり有効よ」
夜宵はあれから【機械仕掛けの劇場世界】の女王に即位してから、人形たちと協力してあの地を盛り上げている。
まずは【にじらいぶ】主催のファッションショーを開き、夜宵がデザインした服のお披露目会だ。これはほぼグラドル化しつつある月花の伝手で、有名コスプレイヤーなどをゲストモデルとして招待して開催するので多くのリスナー層を開拓しつつある。
さらに一部の人間しか入れなかった仕様だが、人形たちが外の世界に出るのは問題ないので人海戦術を駆使して異世界において国交を開きつつある。
もちろん、人形たちの反感を買わない程度にだ。
「元々、横の繋がりを広げるのが得意だったのでしょうけど、今はまさに鬼に金棒ね。その情報収集力には、今後も【にじらいぶ】は助けられそうね」
「【にじらいぶ】の情報武装は、うちに安心して任しぇんしゃい!」
薄い胸を一生懸命に張った夜宵は、力強く頷いた。
「次に紫鳳院さんこと、紫音ちゃん。貴女の連続チャリティライブは老若男女に幅広く響いているわ。怒涛の新曲リリースもがんばってくれたわね」
紫鳳院先輩は、【にじらいぶ】に所属してから積極的にライブを実施している。有料コンサートから被災地や地方を盛り上げるためのチャリティコンサートなど多岐にわたる。
いわば彼女こそが【にじらいぶ】の好感度、つまり世間への顔になりつつある。
また、各ライバーが出した楽曲の音楽プロデュースにも深く関わっており、夜宵が作ったトラックをプロ顔負けの技術でアレンジする時もある。
「この勢いで【にじらいぶ】の躍進に貢献してくれると嬉しいわ。やっぱり王道が頂点、みんなの心に響く存在である貴女が必要不可欠なの」
「……!」
『絶対に皆様やナナシ様のお力になります! だって、今の私は最高に楽しいですもの!』
と、紫鳳院先輩は澄んだ眼差しで誇らしく胸を張りながら頷く。
「そして最後にナナシ。各ライバーのソロコンテンツのほぼ全てに関与し、協力してくれていること……感謝するわ」
紅にしては珍しく、率直に俺を褒めてきたので少しだけ意外だと思ってしまう。
まあそれぞれのソロコンテンツによって【にじらいぶ】の戦力が強化されたのは間違いないから、やっぱり社長としては評価するべきなんだろうな。
「本当に……貴方が必死になってくれたから……みんなが必死になってくれたから、おかげで今日の【にじらいぶ】があるの。本当に、本当に、感謝しているわ」
みんなが必死になってくれたから、か。
その言葉に、月花、蒼、夜宵、そして紫鳳院先輩が微笑んだ。
美少女たちが互いを見合い、互いに頷いている。
無論、俺も美少女ではないがコクリと頷く。
そこには一種の互いを認め合う、誇りのようなものを感じられた。
まあどうしてみんなこんなに頑張れるかって話だ。
もちろん、一人一人がそれぞれの目標を持っているからだろう。
でも、俺たちは知っている。
【にじらいぶ】をより良くするために、この場の誰よりも身を粉にして動いている人がいると。
配信用のサムネの準備、手配、専属イラストレーターさんとのやり取り。
様々な企画案もそうだが、外部クリエイターさんとのASMRの台本や脚本、BGM作成などの膨大な依頼のやり取り。
グッズ販売におけるデザインや、工場との交渉、そして販路確保などなど。さらに各企業へのコラボ営業から、コラボ依頼の吟味から対応。
イベント時の会場を抑える業務から、ライバー5人のスケジュール管理などなど。
もちろん各ライバーへのヒアリングも紅が行っている。
俺はメンケア担当っぽい立ち位置だが、実際に各ライバーの要望や今後の展望、そして戦略などの話し合いはほぼ全て紅1人で回している。
一人一人に親身になって、事務所の意向とどれだけすり合わせることが可能なのか、真剣に取り組んでいるのだ。
つまり紅の、社長の休みがないのだ。そこを慮って、各ライバーは少しでも紅の負担が減るようにと頑張っていた。
異世界での安全マージンや、戦力育成なら竜たちに任せて! と、ぎんにゅう。
事務所運営の財力なら宝石魚釣りまくるから任せて! と、そらちー。
事務仕事や営業もドールに任せて! と、ヤミヤミ。
アンチや風評被害などの払拭、ライブ会場や音響スタッフさんとの打ち合わせは任せて! とウタ。
各々が得意とする分野で、できる範囲ではあるが【にじらいぶ】を————
この場の誰よりも率先して俺たちを引っ張ってくれるリーダーを支えたいと。
本気で想っての行動なのだ。
「夕姫さん。いや、きるる姉様こそ、僕たちをプロデュースしてくれてありがとです!」
「んんーやっぱきるるんは天才であり秀才って感じ! いつも企画案とかブランディングとかすごく助かってるよー!」
「きるるは……うちのやりたい事をさせてくれて、色々手助けしてくれて、すっごくうれしか!」
「………………」
紫鳳院先輩が無言のまま紅に近づき、そっと抱きしめた。
そして『おつかれさま、ありがとう』といった気持ちを込めながら、頭をゆっくりとなでる。
抜群の包容力、お姉さん力を発揮した紫鳳院先輩に続き、みんなが紅を囲みながらギュッとする。
紅にとってそんな行為は予想外すぎたのか、時が停止してしまった。
「えっ、やっ、みんな……」
困惑する紅に俺は告げる。
「みんな紅に感謝しまくってるんだよ。俺もな。だから素直に受け入れとけよ、社長さま」
それから我らが社長は、少しだけ気恥ずかしそうに綺麗な笑みを咲かす。
「ふふっ……本当は私もナナシとソロコンテンツを始めたくて焦っていたのに……これじゃあ、なんだか私だけ一人で馬鹿みたいじゃない」
「大丈夫です。安心して、きるる姉様」
「実はねーきるるんにうってつけの場所があるんだなー。しろくんと行ってきなよ」
「あっ、ちょっと、その情報はうちが仕入れたばい! きるるは動物たちに嫌われやすいからって!」
「…………新スタッフの一次採用試験の件は、お任せください。ですから、きるるさんも、少しは息抜き、しましょう」
四者のリクエストに、特に最後の紫鳳院先輩の魔力の乗った言葉に紅はハッとする。
実は俺たちは夜宵を中心に、紅が喜びそうな異世界ロケーションを調べに調べていたのだ。
そして紅、きるるんといえば……! モフモフに愛されない可哀そうな女子!
そんな彼女でも一匹ぐらいは懐かれると期待して、決定したのがあの領域だ。
無論、案内役は満場一致で俺が仰せつかっている。
みんなの思いやりに触れた紅は、やはり照れくさそうにしている。
「し、仕方ないわね! 確かに社長が休まないと、みんなも休みづらいものね!」
とかツンデレ発言をかます。
ようやく我らが社長は休憩を取ってくれるようだ。
だが、みんなはこれから仕事だ。
「その前に、みんな腹ごしらえが必要だろう」
まずは【にじらいぶ】の硬い絆を祝して、俺が美味しいご飯をふるまうべきだ。
俺の唐突な発言に、みんなが目を輝かす。
若干名、よだれを垂らす推しもいる。
そんな彼女たちにクスリと笑いそうになる。
さあさあ、推しも待ちきれない料理!
今回の食材はこれだ!
俺が【宝物殿の守護者】からある物を取り出すと————
「ナナシ……その食材は一体、何なのかしら……?」
紅社長は驚きの眼差しで、首を傾げた。
お読みいただきありがとうございます。
この物語を『おもしろかった!』『続きが気になる!』と思ってくださった方は、ブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります!




