69話 ドラゴン牧場はじめます
「ふわあーのどかだなあ」
「きゅきゅっ」
「ぴよっ?」
「ばふわふっ」
俺は晴天の下、暖かな日差しを受けて草原の清々しい香りを満喫していた。
そよそよと風に揺れる緑、そこに日頃の疲れがたまった身体を投げ出せば、たちまち開放感に癒される。
周囲には可愛らしいきゅー、そしてひよこ形態のぴよがじゃれあっている。
そばではフェンさんが気持ちよさそうに寝転がり、優雅な昼寝を決め込もうとしていた。
『というか、なんでフェンさんまで来てるのかな?』
『笑止。近頃はぬしの美味い飯を食べておらんからな』
『んんー、たしかにこの広々とした牧草地で何か食べるのは最高かもなあ』
『ほれ、であるならば何か作ろうぞ』
『でもなー。今日は竜の卵を温めにきたからなあ』
『卵焼きでもよいぞ?』
相変わらず食い意地の張ったフェンさんはなでておき、俺は当初の目的を果たすために腰を持ち上げる。
「んんー、やっぱ最高の眺めだな」
ここは【天秤の世界樹】の片皿の大地。
【天秤に座す神ジャッジ】から黄金領域解放のお礼にと、広大な敷地をいただいたので今や俺の領地みたいになっている。
眼下には天秤樹の森が広がり、そこには多種多様な大地の皿が景色に彩りを与えている。
まさに巨大な世界樹に吊るされた天空草原、それが今いる場所だ。
この地を手中に収められたなら、七時間の女体化ぐらい小さな代償さ。
さてさて。
こんな開放的な場所をいただいたのなら、当然やるべきことは一つだろう。
すなわち、ここで残り10個の竜の卵を孵化させることだ。
ぴよもサイズ的にはまだまだ小竜にしか変化できないとはいえ、先日の戦いで立派な竜の片鱗を見せている。
どうせなら親と子ほど離れてしまう前に、兄弟ぐらいの距離感で生まれた方がぴよも楽しいだろう。
「きゅー、フェンさん、少し大きくなってくれないか?」
「きゅきゅっ」
「ぴよ!」
『わふっ……よかろう。ただし、わかっておるな?』
ぴよもなぜか白い竜に形態変化をして、一緒になって卵を温めようとする。しかし竜形態の自分には温める毛がないとわかった途端、ひよこ姿に戻った。
それから羽毛をぴぴーっと逆立てながら膨らませ、まさかのひよこ状態で巨大化してしまった。
ジャンボぴよだ。
「ぴっ!」
これで僕も仲間を温められる! と、ちょっと自慢げになるぴよは可愛い。
そんなわけで俺は【宝物殿の守護者】から三個の卵を取り出し、一つずつ三匹に温めてもらう。
一気に10個温めたいところだけど、どうやら竜の卵は還るまでに温めてもらった者の特性みたいなものを受け継ぐ傾向にあるらしい。元々の竜種の能力+温め期間の魔力=幼竜といった寸法だ。
ぴよだったら、きゅーの形態変化などを色濃く受け継いでいる。
なのでここはやはり、丁寧に丁寧に竜の卵を温めてもらうのが得策だろう。
『フェンさん。その卵を万が一にも食べたら、もうずっとご飯抜きだよ』
『わかっておる』
一応、釘を刺したところで俺には俺のやるべきことがあった。
それは竜舎作りだ。
生まれてくる幼竜たちが安心して過ごせる巣を作ってやらないといけない。
まずは技術〈神域を生む建築士Lv70〉で習得した技術を使いながら、木造の竜舎を作ってゆく。特殊な木材を使用していれば色々と効果をつけられたけど、ドラゴン牧場を探すきっかけにもなった聖杯があるので簡易的なものでいい。
【白金領域の聖杯】
『白竜と金狐の聖炎を宿した杯。どんな極寒の地でもじんわりとした温かみを周囲にもたらし、まさに聖域を展開する。この聖域内にいる者は、特殊技術『白金の守り手』を得る』
要はちょっと信仰を消費するだけで、何でも溶かす白い炎に守られるよって感じだ。
さて。あとはきゅーやぴよが卵を温められない時もぽかぽかにしておくため、藁を敷き詰めておく。
竜舎のサイズは、卵の大きさ的にぴよ同様の体格の幼竜になるだろうから、大きすぎず小さすぎず、20畳ぐらいの平屋であれば問題ないだろう。
成長してゆく毎に増築してゆけばいい。
次に巨大石を削り、上手く組み合わせて祠のような形に整えてゆく。
竜の中には水晶や巨石が重なってできた巣に住む種類もいるようなので、試しに作ってみた。こちらは技術〈至宝飾士Lv50〉を用いて、【水晶吹きの隠れ里】、今は【極彩花殿ファーヴシア】から購入した水晶を加工しながら造りあげてゆく。
もちろん内部には、ぽかぽか藁も敷いておく。
「うーん、草原の中にポツンと水晶の小山がある。なんとも不思議な光景だな」
ちょっとストーンヘンジみたいなミステリアスな雰囲気もあり、なかなか気に入った。
よし、竜舎も二つ作ったことだしそろそろ一息入れるか。
俺がフェンさんたちの様子でも見ようかなって思うと、背後から声がかかる。
「あのー、七々白路くん?」
不意に俺の本名を呼ばれて振り向く。
そこにいたのは銀髪のボブカットが人目を惹き、たわわすぎる魅力の双丘がさらに人目を惹く美少女。
ぎんにゅうこと、銀条月花だった。
「あれ? 月花? 今日はどうしたんだ?」
「あっ、あの……お休みを少し取れたから、七々白路くんは何してるのかなあーって思ったです」
なんだか妙に目が泳いでいるというか、そわそわした面持ちだ。
なにはともあれせっかくここまで来てくれたのなら、どうせフェンさんたちに振舞おうとしていた鬼料理を堪能していってもらおうか。
「だから、その、七々白路くんが気になって……来ちゃったです」
うーん。
月花は着衣越しでも、もじもじするだけで胸元が立体的に寄せられてしまうのはずるいと思う。
俺の視線も自然と寄ってしまった。
今日のおかずは決まったぜ!
あっ、もちろん今から作る鬼料理の話です。
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