65話 戦友と神殿
「きっ、貴様……」
ソリッドさんは意識が戻るとすぐさま俺をきつく睨んできた。
それを制したのはキヨシさんだ。
「ソリッド・ジェノバくん。きみは鍛冶場で魔剣を抜き放ち、他の冒険者や傭兵団【武打ち人】に危害を加えようとした罪で拘束させてもらう」
「くそっ! 離したまえ!」
【海渡りの四皇】が中心になって彼を抑えてくれた、というか連行してくれた。
それに俺とウタは黙ってついてゆく。
「なあ……嬢ちゃんたちは一体何者なんだ?」
「あの【海渡りの四皇】と知り合いなんて……」
馬車で相乗りした冒険者二人も、これから同じレイドクエストに参加するので、ついでに現地入りを果たすために同行している。
「ちょっとした知り合い? みたいなものです」
正直に言いたいところではあるが、今後の【にじらいぶ】のブランディングを考えると曖昧な返答の方が良い気がする。
そうして俺たちは【神殿】が陣を張っている場所まで移動する。
そこにはすでに【天秤と断罪の森】を踏破するために、多くの冒険者が集められていた。
「おう、キヨシたちじゃねえか! おめーらも参加すんのか!」
「やあ、オンドさん。【巨人狩り】と一緒なら心強いな」
「ん? で、おめーさんはゾロゾロと何を引き連れてんだ?」
「いや、この【神殿騎士】がナナシロくんのお姉さんに粗相を働いていたから、少し【神殿】を詰めようかなって」
「あぁ!? ナナシロの……姉貴に!? おい、てめえ、ぶっ殺すぞ!」
「ひっ!?」
オンドさんは本当にソリッドさんを今すぐひき肉にしそうな勢いだったので、どうにか割って入ってゆく。
「あっ……オンドさん……、その、えっと……【天空城オアシス】では、弟がお世話になったとか。その節はありがとうございます」
あー……ついに姉発言をしてしまった。
いや、今後の【にじらいぶ】のブランディングを考えるなら、人目が多い中でこの選択しかないのはわかってる。
わかってはいるけれど……共に命を賭けた戦友に嘘をつくのは心苦しい。
今度ゆっくり説明できるときにしっかり謝っておこう。
「おっ……おぉ……ナナシロの姉貴さん……?」
オンドさんにしては珍しく歯切れが悪い反応だ。
どうしたのかと首を傾げると、オンドさんが赤面しだす。
「いや! いやいや! 世話んなったのは俺らの方だぜ……! あの時は本当にナナシロのおかげで俺たちは救われたんだ!」
「そう言っていただけて光栄です」
「あ、あの……ナナシロの姉貴さんは、な、名前はなんていうんですかい? その、今度おれと————」
「オンドさん。まさかと思うけど、口説いてないよね?」
キヨシさんのツッコミにより、正気に戻ったオンドさん。
「あっ、やっ……俺としたことが……す、すまねえ……恩人の姉貴さんに失礼なことをしちまった。でも、これだけはわかってくれ……俺は本気だ。こんなこと、滅多にしねえ」
ほ、本気……?
うわ、普通に気まずいぞ!?
後でナナシロ(男)ですって言い辛くなったあああああぁぁぁぁ。
「たしかにオンドさんが女性を口説くなんて見た事ないけどさ。でも本気って言われてもねえ。お姉さんの見目から、オンドさんがすごい面食いなんだって事しか伝わらないよ?」
「うっ、うるせえぞキヨシ! そ、そんなんじゃねえ! う、運命的な、ひ、一目惚れってやつだろうが!」
「いや、それを面食いと言うんだけど」
「ふぉっふぉっふぉっ、それにお茶の先約ならこの仙じぃがおるわい」
「な、なんだと!? 仙じぃ、ふざけんな!」
「冗談だっての。落ち着けよ、オンドさん」
「アピールするのなら、筋肉でアピールする他ないのであーる!」
「あはははっ、なんだよそれ」
【海渡りの四皇】と【巨人狩り】の間で笑いが起こる反面、ソリッドさんや冒険者2人の顔面が蒼白になっていった。先ほどから俺と彼らを何度も見返しては震えあがっている。
まあ、さすがに上位パーティーとして名高い彼らに睨まれるのは得策ではないと察知したのだろう。
いやー……俺も男ですって後日カミングアウトしたら、友情にヒビが入らないか心配だ。
まあみんなならお酒のつまみ、笑い話にしてくれそうだけどさ。
謝罪の際は極上の料理をご馳走しよう、そうしよう。
『私の執事様に色目を使うなんて……この殿方たちは度し難いですわ』
おっと。
一難去ってまた一難。
こちらのお嬢様もどうにかなだめないと。
ウタにぴよときゅーをけしかける。極上のもふもふ体験で、意識を逸らしながら【神殿】の陣内を進んでゆく。
すると一際、煌びやかな甲冑集団と遭遇した。
その中でも明らかに偉そうな雰囲気の人物が、ソリッドさんを凝視してから俺たちに視線を移してゆく。
「おや? 【海渡りの四皇】に【巨人狩り】……もしやうちのソリッドが何かしたのかな?」
「ちがっ! 聞いてください、ヨハネスさん! このバカ女が! この僕にいちゃもんをつけてきたんです!」
ソリッドさんにヨハネスさんと呼ばれた男性は、これまた日本人ではなかった。
金髪に蒼い瞳、そして白い肌。
イギリス人っぽい風貌の彼は、じっと俺を見つめた後に事情を詳しく聞き始める。
「なるほど……傭兵団【武打ち人】から請求書および報告書が……ソリッド君。貴重な魔剣を失っただけでなく、他所にケンカを売るなんて……なんてことをしてくれたんだ……」
「ちがいます! 全てはこのクソ女のせいなのです!」
周囲の人間が説明しても反省の色を一切見せないソリッドさんに、ヨハネスさんは深いため息をついた。
「はあ……きみが先ほどから無礼な呼称で連呼している相手だが、我々【神殿】が名指しでサポーター依頼を出した御方だよ」
「は? サポーターの依頼を……?」
「君にもわかりやすくいうなれば、いわば等級【第十位】以上のトップが招待した大切な協力者だ。そんな御方相手に、まずその物言いを改めなさい」
「【第十位】……? かっ、えっ? ヨハネス、さんも……この女を、女性にお声がけを……?」
「無論だとも。彼女の相貌は事前に通達していただろう? 等級【第三位】である私も、今回の黄金領域解放には彼女の協力が不可欠だと判断している」
ニコリと笑うヨハネスさんだけど、目だけは全然笑っていなかった。
「ソリッド君。きみの功名心は評価していたが……今一度、周囲を冷静に捉える慧眼を養うべきだな……それに他者への思いやりもだ……理解できているか?」
そんな彼の圧力に押されてか、それとも余程ヨハネスさんという人物が恐ろしいのか、今までずっと息巻いていたソリッドさんが猛烈な勢いで頭を下げてきた。
「あっ……かっ……今までのご無礼! 誠に申し訳ございませんでした!」
「【神殿】の者がとんだご迷惑をおかけして申し訳ありません。諸々の被害や弁償も含めて、お話をしたく存じます。しかし、その前に改めて自己紹介をさせていただいても?」
「あ、はい。私は【にじらいぶ】の執事、ナナシと申します。こちらは【紫音ウタ】様でございます」
俺の紹介と同時にウタがローブを取れば、やはり周囲がざわめく。
本物だとか、めっちゃ可愛いとか、執事ちゃんの方が好みだとか。
ん……?
「ご丁寧にありがとうございます。私は【神殿騎士】、等級【第三位】ヨハネス・ロマネティコと申します。僭越ながら、この度の踏破指揮を任されております」
こうして俺とウタは、【神殿】の方々と対面することとなった。
◇
【紫音ウタ 変身後ステータス】
身分:魔法幼女/歌姫/雷鳴姫
Lv :13
記憶:7
金貨:213枚
命値:3(+1)信仰:4 (+4)
力 :4(+1) 色力:6(+4)
防御:1(+1) 俊敏:3(+1)
【スキル】
〈魔法幼女Lv3〉
〈歌魔法Lv6〉
〈雷鳴魔法Lv4〉
【技術】
〈絶対音冠Lv3〉〈魔女の弟子Lv2〉〈紫電Lv2〉
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