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120話 どっちが主様?




 なにはともあれ平和だ。

 (さい)は未だに少し不機嫌そうだけど、やはり【熊耳の娘(ベアルック)】たちに囲まれて幸せそうだ。


【聖剣】から聞いた魔王【石眼の姫(メデューサ)】の話は不穏ではあるけど、大した脅威ではないように思える。それよりもフェンさんやきゅーに、【月見もちもち】をお土産にしない方が怖い。



「白マント様……(わらわ)はストレスで禿げそうだったでっす……でも、ようやく白マント様の御言葉を浴びて、解放されまっしたでっす!」


「くううう白マントはでけえ! 器がでかすぎる! そのモッコリ加減からして俺の聖剣よりでけえんじゃねえか!?」


【エルフ姫みどり】と【聖剣】もすっかりお酒に酔ってしまったのか、妙に絡んでくる。

 というかエルフ姫さんって、見た目が明らかに未成年だけど大丈夫なのか?

 それとも長寿種のエルフだから実は数百歳とか?


「白マント様、もしよろしければ(わらわ)にそのッ……ご尊顔を一目だけでもッ……アァ、(わらわ)はなんと恐れ多い願いを胸に抱いてしまったのでーっすか!」


「白マントの聖剣か! 俺の聖剣か! どっちがでかいか勝負だ! ケチケチするな! 一目だけでも見せてみろ!」


 仮面は脱ぎたいけど(さい)が怖いから脱げないし、ピタピタスーツの下半身も脱ぎたいけど……いや、この場合は脱いじゃダメか。


「白マント様~!」

「白マントー!」


 うん、平和だ。

 なんかすごくひっついてくるエルフ姫や、なぜか股間をまさぐってくる聖剣も、平和じゃなかったらきっとこんな光景は生まれないさ。


 さあ、俺も……不快なピタコスの感覚を無視して、平和に穏やかに現実逃避をしながらお月見を楽しもうじゃないか。



「あら、両手に炎上なんて、ずいぶんといいゴ身分(ミぶん)じゃないの」


 しかしここに新たな火種が投下された。

 その情熱的な響きは、とてもよく聞きなれた美声だった。


「ぷっ……くすくす……面白半分、じゃなくて……コホンッ、貴方が炎上まっただなかの配信者に突っ込むものだから、心配になって来てあげたら……ずいぶんと楽しそうね?」


 (くれない)こと【手首きるる】が、赤竜のセキから飛び降りて颯爽登場をかます。


「キミの寝首もきるるんるーん☆ 手首きるるだよー♪」


 挨拶が物騒になってないか?

 もう何もかも油断できないぞ。


「ワワワッ、【にじらいぶ】の手首きるるでーっす! どうしてここにいるでっすか?」

「ほう……こいつが飛ぶ鳥を落とす勢いの魔法少女VTuberか」


 きるるんは俺の方をチラリと見て笑いを堪える。そして再起動して、精悍な顔つきに戻った。


「この、白マントメェ~ン(笑)は、知人なのよ。さすがに炎上冒険者二人に突っ込み……絡まれては放っておけないわ」


「白マント様が手首きるるのお友達でーっすか!?」


「なに? ってなると、まさかお前も白マントを狙ってる? なあ、白マント!【聖剣チャンネル】のメンバーにならないか!? 男同士の熱い冒険に出よう! 俺を闇から救ってくれたお前なら、俺の背中を預けられる! お前となら、どんな苦難も乗り越えられると信じぬけるんだ! さあ、魔王【石眼の姫(メデューサ)】を倒しに行こうぜ!」


【エルフ姫みどり】と【聖剣】の反応に、きるるんは少しだけ訝しむ。

 それから推しのご尊顔を俺のすぐ隣に近づけて、こそこそと内緒話をしてくれた。


「ちょっと……これはどういう状況なの? エルフ姫の配信で、貴方がみんなをボコボコにした姿は見れたけれど、懐柔したって認識でOKなの?」


「アハハハ……自分にもよくわかりません。そしてやはり……あの配信を見ていらしたのですね……」


「当たり前じゃない」


 きるるんは何だかんだその後が心配になって、ここまで来てくれたようだ。

 嬉しい。嬉しいんだけど、なんだろう。

 あの姿を見られてたと思うと複雑だよ。今もホラ、こんな格好の俺を見て口元がヒクついてるし、これ絶対笑いを堪えてるやつだろ。


「も、問題なさそうならよかったわ……アレだけ炎上系とは慎重に接しなさいって言ったのに、いきなり大暴れするんだもの。ここはネームバリューのある私とのコラボ案件で、穏便に手を引いてもらおうと思って、ってちょっと何よ?」


「白マントマンにくっつきすぎ。きるるんファンがこんなの見たら悲しむよ? いつもこんなに近いの?」


 なんとここで(さい)が俺ときるるんの間を割って入ってくる。



「あなたは……」


「わたし? わたしは白マントマンの……神さま、そう神様なの!」


 (さい)は周囲の【鹿角の麗人(エルフィン)】や【熊耳の娘(ベアルック)】の視線を気にしてそんな風に宣った。


「神様……? この子は何を言ってるのかしら。白マントメェ~ンの(あるじ)は私よ?」


「こ、雇用主……? たしかにそうかも」


 と、周囲に聞こえない声量で(さい)は納得し、それでもきるるんに挑むように宣言する。



「それでも白マントマンは、私の大切な幼馴染だから!」


「それなら白マントメェ~ンは、私の……! 私のた、大切なパートナー……部下なのよ! 過去の栄光に縋るだけの幼馴染なんかよりも、今を共に歩むパートナーの方がよっぽど生産的な関係だと思わないかしら?」


「なっ……! 白マントマンをこき使う人をパートナーなんて言いません! 私だったら白マントマンと日がな一日ゲームしたり、映画見たり、一緒にだらだらしてるだけでお給料払うもん! これでも売れっ子イラストレーターなんだから、名誉アシスタントとして雇えるもん!」


 二人はなぜか張り合い始めてしまった。

 どうかきるるんも(さい)も落ち着いてほしい。

 こんな時は素早く俺が————




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