117話 神様の正体
「この度はありがとうございましたでっす!」
【エルフ姫みどり】が配信を切り終えると、俺と彩はエルフ一同に謝意を贈られた。
ん、まあ、俺がやったことと言えば全身白タイツで、ちょっと自分のお気持ちを表明したにすぎないから、そこまで感謝されることでもないんだ。
っていうか、まだこの肌に張り付くピタコス脱いじゃダメなんかな?
「俺も、すまなかった……」
【聖剣】もかなり精神的に疲弊していたが、今ではすっかり真っ当な冒険者として活動すると改心したようだ。
「活動名を【魔剣】に変更しようとするなんて馬鹿げていた……やはり俺が望む在り方は【聖剣】だ」
失った信用を取り戻すのは難しいかもしれないけれど、自分に嘘をつき続けてまで生きていくのもまた辛すぎる。
だったら自分らしく前を向こうって姿勢は嫌いじゃない。
「うん、白マントマンのおかげで大切なことに気付けたな……剣技は制御できても下半身は制御できない、不倫無双の【聖剣】って笑われながら頑張るさ。犯した罪を考えれば、これぐらいは受け入れないとだしな」
清々しい笑みで以って、これからはモンスターの素材を売ったり、配信を頑張って稼ぐと言う【聖剣】。
「くまくまー! 何にも変わらないくまっ! 最高ッ……じゃないくまっ!」
「くまたちは変わらずエルフ姫ちゃんにいじめてもらえるくまっ!」
「エルフ姫ちゃん、もっと、叩いて、くまあああんっ!」
「ハァ…………これでいいでっすか!」
真面目な話の最中だというのに、『ベチンッ』と小気味よい音が響く。
こんな高頻度でおねだりされたら、さすがに病んだりしないのだろうか? と少し心配になってエルフ姫の表情を窺うが、やっぱりそれなりにキているようだった。
しかしそんなエルフ姫の心情などおかまいなしに、自分たちの欲望をぶつけんとする【熊耳の娘】たちがこぞって群がってくる。
「ああー……もう見てられないって」
【熊耳の娘】のデザインだけとは言え、生みの親である彩も呆れているようだ。
「もうっ、やめなさい! 今すぐに!」
彩はそんな感情を抑えきれなかったのか、近くの【熊耳の娘】にペチコラをかます。
すると不自然なまでに【熊耳の娘】たちの動きが静止した。
「えっ……【熊耳の娘】たちが本当に、やめた……?」
「し、信じられないぞ……我々があれほどまでに拒んでも、執拗に求めてきた彼女たちが……!?」
「あ、ありえない」
「……これぞ奇跡の光景だ!」
「神のなせる御業だ!」
「えっ?」
俺も彩もエルフたちの尋常じゃない驚きっぷりと喜びに困惑してしまう。
それからおずおずとエルフ姫が尋ねてくる。
「あの……つかぬことをお伺いするでっす。白マントマン様のお傍におられるお方は、【熊耳の娘】ではないのでっすか?」
「あー……熊耳は生えてきたけど、あたしは正真正銘の人間だよ」
「それは……ッ!」
「伝承は本当だったのか!?」
「くまくまっ! 我らの神様くまああ!」
「やったくまあああああああ!」
「命じられたら身体が自然に動いたくま!」
「それが証拠くまあああ!」
「創造主くまっ!」
彼女たちは完全に俺たちを置いてけぼりで、意味不明な盛り上がりを見せてくる。
「くまたちの創造主は、彼の地よりきた現人神くまっ!」
「元々は人であり、くまたちと共にくまになる!」
「そしてくまたちが窮地に陥いるや、救済の御使いを連れて現れるくまっ!」
御使い、というワードに誰もが俺に注目してきた。
はあ……彩が神様で、俺が神の使徒ってやつですか。
「ええっと……いきなりあたしが神様って言われても……【月語りの大熊】だっけ? その子たちを救う手立てだってわからないし……」
動揺する彩と俺に、エルフや【熊耳の娘】たちはこちらを信じ切った眼差しで見つめてくる。
「大丈夫くま! 伝承は絶対だって証明されたくま!」
「きっときっと、【月見もちもち】も復活するくま!」
ん? 月見もちもち?
どこかで似たような名前の植物を聞いたことがあるぞ。
あれは確か————
そう、フェンさんの大好物【雪見もちもち】だ。
そして絶滅寸前だった【雪見もちもち】は、俺の技術【神獣住まう花園師】で栄養促進を享受し、今では【夢に雪国メリースノウ】にて簡単に量産できている。
「【月語りの大熊】が弱っているのは、主食にしてる【月見もちもち】が育たなくなっているからなのでっす」
んん?
つまり【月見もちもち】を上手く育てられれば、【月語りの大熊】は助かる?
本当に伝承通り、うまくいきそうだな?
となると————俺の幼馴染は本当に神様だった?