任務完了と帰還
「お? なんかちっせぇアダマンタイトゴーレムいるじゃねーか。どうしたんだそれ」
馬車に乗ったグスタフさんとミゲルさんが戻ってきた。私はゴレムスくんを抱える。やはり金属、見た目より遥かに重いよ。
「この子はゴレムスくん。ペット……? 舎弟……? 戦利品……? うん、戦利品です!」
「それ嫌がってねーか?」
ゴレムスくんは何が不満なのか頭を左右に降っている。体に直接プリンみたいな形の頭が乗ってるから、左右に振るとゴリゴリ鳴ってるよ。ゴマとか挟んだらいい感じにすり潰してくれそうだ。
「まぁなんでもいいか。それで、アダマンタイトはどう持ち帰るか決まったのか?」
「まっかせてよ! ゴレムスくん、アダマンタイトであの馬車と同じ形に出来る?」
ゴレムスくんはできると言いたいのか、ヘッドバンギングで答えてくれる。体を起こすときに私の体にゴスゴスと当たってるのは事故だよね?
ゴレムスくんを下ろしてあげるとドスドスと足音を立てながらアダマンタイトまで近づいていく。塊に手を触れると、アダマンタイト全体がグニグニと液体の様にうごめいて少しづつ馬車の形になっていった。
「ねぇ、ゴレムスくん。さり気なくちょっとだけ大きくなったりした?」
わからないけど念の為聞いてみると、ゴレムスくんは慌てた様子で頭を左右に振っている。まるで疑われるなんて心外だと言わんばかりに振っているけど、足元からアダマンタイトがポロポロと剥がれて馬車にくっついてくの見えてるからね? 戻したから許してあげるけど減点だよ?
存在感のあるブルーメタリック一色のキラキラ馬車は、その重さ故か車輪部分が地面に半分めり込んでる。
「アダマンタイトゴーレムはそんな事までできるのね。自由自在に操作できるのに、外見的特徴が同じなのはどうしてかしら?」
「それでその馬車どうするニャ?」
「馬車なんだからひくよ?」
金属製のハーネスのような物を自分の体に巻き付けてから私は歩き出す。動き始めるまではそれなりの力が必要だけど、動き出したら案外力は要らないね。
こうして私はアダマンタイトを持ち帰る手段を得るのだった。
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「ティヴィルが見えてきたよ!」
ゴーレム馬車が増えた都合で予定より一日だけ遅くなってしまったけど、大きなトラブルもなく無事に帰ってくる事ができた。
意外と言っては失礼だけど、ゴレムスくんはシャルロットと楽しそうにお話をしているばかりで、大きくなろうとはしなかった。
ゴレムスくんは一日に一、二回体の表面に核を露出させて私に魔力を注ぐようにお願いしてくる。どうやらそれがゴレムスくんにとってのご飯みたいで、何かを食べるというのはしなかった。
最初に核を見せつけてきた時は要らないのかと思って体から引きちぎったけど、シャルロットが滅茶苦茶慌てて私の手から奪って体に戻してた。再び動き出したゴレムスくんとシャルロットから凄い怒られたよ。まぁ何を言ってるのかはわからないから、お説教されてる気分ってだけだけどね。
謝ったらシャルロットは直ぐに許してくれたけど、ゴレムスくんは身振り手振りで怒りを表現し続けてたからちょっとウザくなって頭掴んだら大人しくなった。躾は大事。甘噛みだとしても噛みグセはちゃんと矯正した方がいいんだよ。
「ニャんでかわかんニャいけど、ティヴィルの街が久しぶりに感じるニャー」
「そうね。依頼自体は簡単に終わったし、いつもより短かかったのに何故だか疲れたわ」
「中々刺激的で楽しかったじゃねーか。久しぶりに冒険って感じがしたぜ。ガハハハハッ」
「……」
やはり約七日間の旅路はベテランのこの人達でも結構疲れる様で、皆ホッとしたような表情をしている。馬車を引きながら東門へ並ぶと、ブルーメタリックのオリジナル馬車は注目の的だね。全員があんぐりと口を開けている。
「門番さんただいまー! 無事に帰ってこれたよ!」
「いや、七日って、無事って、その馬車は……」
「まぁ落ち着けって。危険はねーから」
「そうだよ! それより見てよ! この馬車はここがポイントなんだよ。車輪の代わりにソリにしてあるんだ。最初は車輪だったんだけど、重さでめり込んで畑作るみたいに掘り返しちゃうからソリみたいにしたの。坂は車輪より注意する必要が」
「はいはい、ノエルの話は後で聞くから一旦待ってなさいな」
むー、まぁ少数とはいえ門の審査待ちの人達がいるから私がお喋りしてたら迷惑か。大人しくしてよう。
「ニャーノエル、これ全部アダマンタイト製だからすげー座り心地がわりーのニャ」
アダマンタイト馬車の御者台に座っていたニーナさんがそう言ってきた。私は馬車をひく立場だから乗り心地は気付かなかったなぁ。
「持ち帰る為に馬車型にしただけだし、もう乗らないからいいんじゃないかな?」
「ほらさっさといくぞー」
「はいニャー、ノエル出発ニャー!」
「はいにゃー」
グスタフさんが手続きをしてくれたみたいで、街へ入った。依頼の達成報告の為に取り敢えず冒険者ギルドを目指しているが、心なしか世間の目が冷たい。
冷たい目で見ているのは果てなき風の人達に対してで、私のことは憐憫の眼差しでみている気がするね。私たちが街から離れている間に何かがあったんだろうか……。
「ねぇ、何か街の空気がおかしくないかしら」
「あぁ、俺も思ったぜ。まさかタイミング悪く俺たちのいない間に魔物の襲撃でもあったか?」
Aランク冒険者の果てなき風に対する期待は大きいだろう。強力な魔物が現れたとしても彼等がいればきっと大丈夫だ、そんな風に思っていたのにいざ有事が起きた時にはいなかった。勝手な期待は勝手な失望に変わって、それがこの冷たい視線の正体ってこと?
「んでも街はキレイニャよ?」
「……そうね。東門も普段と変わらない様子だったし襲撃があった訳ではないのかしら。取り敢えずギルドへ急ぎましょう。なんだか気味が悪いわ」
どこかねっとりとした視線を浴びながら私達はギルドへ急いだ。
ギルドへ到着してハーネスを外そうかと思ったが、辺境伯家に帰るためにはまた付けなきゃならないしこのままでいっか。
果てなき風の人達が報告を済ませて戻ってくるまでの間、私はシャルロットを撫で回す。私が馬車を引いてる間はあまり構って上げられなかったからね。
「シャルロットも長旅お疲れ様ー! 楽しかった? ならよかったよ」
「おう! 待たせたな、これがノエルの取り分だ。やっぱり襲撃はなかったみたいだぞ」
「へー、じゃあ尚更疑問が残るね。あ、そうだ。これあげるよ」
私は馬車にお金を積んで、一人一個ずつアダマンタイトのインゴットをあげた。ゴレムスくん製作のインゴットだ。自分の体を切り売りする様なものだからか、少し悲しげにインゴットを作っていた。悲運のインゴットと名付けよう。
アダマンタイトは私が勝手に取ってきた物だけど、そもそも連れてって貰った立場だからね。多少はお礼しないと!
「こんな貴重な物貰えない……と思ったけど、ノエルからしたら貴重でもないわね……」
サラさんは突き返そうとしたけど、私の総アダマンタイト製の馬車をみて、考えを改めたみたい。遠慮せず受け取ってくれ。
「それじゃあ、今回のこの不気味な視線について私も辺境伯家の人に聞いてみるからわかったらギルド経由で連絡するよ。それじゃまたねー!」
「辺境伯家ってどういう」
私は馬車を引いて家を目指す。サラさんが何か言いかけてたけど、馬車は走り出しが重いから止まる気にはなれなかった。
フレデリック様にも悲運のインゴットを何個か渡してゴレムスくんの挨拶がわりにしよう。お土産兼、賄賂みたいなものだよ!




