アダマンタイトゴーレム
少し傾斜のある岩肌を駆け上がり、アダマンタイトゴーレムの所まで走る。アイアンゴーレムより大きくて、5メートルくらいはあるかな?
勝手なイメージで黒光りしてるような姿を想像してたけど、実物はブルーメタリックって感じで結構綺麗だ。是非ともお土産に持ち帰りたい!
足をめり込ませるように歩いているアダマンタイトゴーレムに近付いて、挨拶がわりに膝関節に蹴りをお見舞いした。
「いった! 固すぎでしょ!」
アイアンゴーレムが簡単に砕けるくらいのレベルで強化しているのに、アダマンタイトゴーレムは一切欠けることも無く寧ろ私の足が痛かった。
ゴーレムは私を潰そうと拳を振り下ろしてくる。速度はそこまで早くもないけど、大きさと重量感が凄くて大迫力だよ。強化のレベルを一気に三段階くらい上げて、避けた拳を駆け上がりゴーレムの顔を蹴り飛ばす。
ドゴンという音で、ゴーレムの顔はひしゃげたけど砕くまではいかなかった。
「くっそー! お土産に持って帰れないじゃん!」
「ノエル! 何やってるのよ! 早く逃げなさい!」
シャルロットに抱えられて空を飛んでいるサラさんがそんなことを言うけど、私だってまだ全力は出していないのだ。そう簡単には引き下がれないよ!
久しぶりに魔力を燃焼させてエネルギーに変える身体強化を使う。どれくらい強化されてるのかはわからないけど、これでダメなら一旦諦めようかな。
速すぎても怖いからクロックアップを併用しながら走り出す。スローモーションになるクロックアップの世界でも普通に走るくらいのスピードが出てる。これ素のままだったらどっかに激突してたかも……。
再度ゴーレムの膝を蹴ると、今度は簡単に砕けた。私だけが加速した様な世界は、片足を失ったゴーレムが倒れるよりも速く手足全てを砕いて、オマケに頭を引きちぎることが出来た。ついでに胸ら辺から核も引きずり出してからクロックアップを解いた。
お土産はこれで十分な量を確保出来たと思うけど、問題はどうやって持って帰るかだよね。身の丈5メートルはありそうな体だ。総重量何トンだろう。下まで持ってくのも大変だし、下まで持ってっても馬車に乗らないよね……。
「サラさーん! これどうやって持って帰ればいいかなー?」
お空でポカーンと口を開けてるサラさんに手を振る。山でそんな口開けてると、虫とか入っちゃうぞ!
手に持った核が振動を始めて、砕いた体が集まりだした。アイアンゴーレムよりも修復スピードはかなり速いね。歩くような速度でパーツが近づいてくるよ。
……これこのまま核持って歩けば勝手にアダマンタイトも付いてくるんじゃない? 昔の国民的RPGみたいに私の後ろをゾロゾロとさ。その作戦でいこう!
「シャルロットー! そのままサラさんみんなの所まで連れてってー!」
アダマンタイトゴーレムの核を手に持ったままみんなの所まで戻る。この核はさっきのと違って青と黒のマーブル模様だね。
背後にゴリゴリという重い金属を引きずる音を響かせながらみんなの所へ戻ってきた。
「おまたせー! ごめんね? もう用事済んだから帰ろ?」
「お前とんでもねぇもん連れてきたな! 大金星じゃねーか! ガハハハハッ」
「その核早く壊すニャ!」
「ダメ! 壊したらアダマンタイト持って帰るの大変になっちゃうじゃん! このまま核に運んでもらうんだよ!」
磁力か魔法か知らないが、体を修復しようとアダマンタイトを見えない何かで一生懸命引っ張ってってくれるならありがたいよね。荷物が勝手に着いてきてくれるとか便利機能じゃん。
たまに早く近付いてくる小さ目の破片はぶん投げて大きい部品にめり込ませる。
上空を飛んでいたシャルロットもサラさんを抱えたまま合流してみんなと一緒に下山を開始する。
歩いていると、ちょくちょく飛んでくる小さい部品がいい加減ウザくなって来たから、キャッチしてから思いっきり握り潰した。ゴーレムの核に目があるのかはわからないけど、私の指の形に潰れてしまったアダマンタイトを見せてから核にも徐々に力を込めていく。
「悪いけど、大人しく運んでくれるよね?」
私の言葉巧みな交渉術は功を奏し、小さいアダマンタイトは飛んで来なくなった。ニーナさんは肝が座っているのか勝手に動いているアダマンタイトに座って下山し始めたよ。
「なぁ、あのアダマンタイトどうやって持って帰るんだ? 帰りの三日間、核を監視しとくことも出来ないだろ?」
「んー、確かにそうだね。寝てる間に元の大きさに戻って襲ってきても困るよね」
「困るとかって話じゃないわよ……」
サラさんは正気に戻ったようで、飛んだまま会話に入ってきた。
「まぁ交渉次第じゃないかな? 話した感じ、この核も知性はありそうだよ? さっきは交渉できたし。まぁなんとかなるでしょ!」
●
帰り道にアイアンゴーレムを皆でサクッと倒して、依頼分の確保は完了した。
後ろからするゴリゴリ引きずる様な音を聞きながら、やっとこさ麓まで降りてきた。ゴーレム連れて村に戻る訳にもいかないから、グスタフさんとミゲルさんが馬車を取ってきてくれるってさ。私たちはお外で待機だ。
「それで? 交渉ってどうするのかしら?」
「まぁ見ててよ」
私は核をゴーレムの頭だったアダマンタイトの上に乗せた。核はまるで吸収される様にアダマンタイトの塊の中に入っていき、次第に体や腕、足などがくっつき始めるが私はそれを再度もぎ取っていく。
「だーめ!」
それでも核は再生しようと体を集め始めるから、負けじと壊していく。
「だからだーめ! 君が使っていいのはこれだけ! それ以外はだーめ!」
私はゴーレムの核入りの頭に足を乗せて、わからずやにもちゃんと理解できるように足に力を入れていく。ミシミシと足がめり込んでいくと、周りで動いていたアダマンタイトは動きをとめた。
「よし、交渉成立だよ!」
私は振り返ってサラさんとニーナさんにピースする!
「今のは交渉ではなく、脅迫じゃないかしら?」
「ニャーは上下関係を叩き込む動物的な支配だと思うニャ」
私が足蹴にしているアダマンタイトが急にグニグニと液体みたいに動き出すと、三十センチくらいの丸っこいゴーレムに姿を変えた。
「おー? 凄いじゃん! ゴレムスくんそんな事までできるの?」
ゴレムスくんはアダマンタイトの部品までドシドシと走っていくから頭を掴んで持ち上げる。
「だからダーメ! ゴレムスくんまた大きくなろうとしたでしょ。ワガママ言うともっと小さくするよ?」
私はゴレムスくんの腕を引きちぎってから降ろした。地面に降りたゴレムスくんは返してと言わんばかりに私の持ってる腕の部品に向かって片腕を伸ばしてピョンピョンとジャンプする。見た目はピョンピョンだけど、金属の塊だから着地した時の音はドスドスだね。結構重いわ。
「ワガママ言うからでしょ? 使っていいのはそれだけって言ったのに、他のまで勝手に使おうとしたのは誰? ゴレムスくんでしょ? だからこれはもう没収です」
腕の部品をボキッと半分に折ると、ゴレムスくんは項垂れてしまった。
「ね、ねぇノエル。反省してるみたいだし返して上げたら?」
「そうニャ! 折るのはいくら何でもあんまりだニャ!」
「ダメです! この子がちゃんと言うこと聞くまで返しません」
私が躾をしていると、シャルロットがゴレムスくんに近付いてガチガチとアゴを鳴らしながら何かを伝えている。シャルロットの方が身長的には倍くらい大きいけど、ゴレムスくんはずっしりしたフォルムをしてるから存在感はゴレムスくんの方があるね。
シャルロットのガチガチアゴトークに対して、ゴレムスくんは片腕で何かをジェスチャーしている。話し合いが終わったのか、ゴレムスくんがシャルロットに頭を下げるとシャルロットは私にガチガチと話しかけてきた。
「君たち会話できるんだね。どうなってんの?」
シャルロットは私の持ってるゴレムスくんの腕をコンコンと叩いてからゴレムスくんを見て、アゴを鳴らした。
「ゴレムスくんに返してあげてって言ってるの?」
ガチガチ
「でもその子言うこと聞かないんだもん。今度はちゃんと言うこと聞くの?」
ガチガチ
「じゃあシャルロットに免じて返してあげる」
私はゴレムスくんの体に腕をグリグリと押し付けると、勝手にくっついて微調整し始めた。しっくりくるポジションが見つかったのか、腕をぐるぐると回したあとでシャルロットを見てゴレムスくんは何回かバンザイをした。シャルロットも満足そうにアゴとオシリを鳴らしている。残念ながら私には何を言ってるのかわからない。
「じゃあゴレムスくん、次私の指示に従わなかったら腕じゃなくて核の方をポキッとするからね? 意味、分かるよね?」
ゴレムスくんは両腕で胸を抑えてから、お辞儀する様に頭を二回下げた。この子首が無いから縦には動かせないのかな?
「言うこと聞くってさ! 交渉成立です!」
二人に両手でピースサインする。
「今のは絶対に脅迫だったわよ」
「私も同感です」
ニャーも同感だニャーって言いなさいよ。