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アイアンゴーレム

 旅は順調に進み、夜は野宿する事もあった。女子は馬車で寝て、男子は外だ。私はまだ子供ということで見張り番は無しにしてくれたよ。まぁ子供って急に寝る事があるから任せられないよね。


 今はふもとの村に馬車と馬を預け、山に登っている途中だ。近くで見るとかなり大きな山で、一部岩肌が目立つエリアにゴーレムが居るそうだ。


「もし大変だったらそのデカイハンマー私が持つよ?」


「それが一番効率良いんだろうが、少女に重い荷物を持たせるのは獣人としてのプライドが許さん」


 アイアンゴーレムは鉄で出来ているから、ボディを破壊するのに打撃系のしっかりした武器が必要になるそうだ。剣で切れないこともないけど、少なからず剣が痛むから嫌なんだってさ。


 私は軽やかに歩き、シャルロットも山登りを満喫している。飛んでるのに山登りってどうなんだ? 楽しいのか?

 しばらく山を登っていると、だんだんと勾配が急になり始めた。さすがはAランク冒険者、誰一人として苦戦することなくひょいひょいと登っていく。


「それにしてもノエルはさすがね。この山をそんなお散歩みたいに登れるんだもの」


「まぁ体動かすのは得意だからね」


「ニャーも得意ニャ! 勝負するニャ!」


「いいよー! じゃああそこの岩まで競争ね!」


 この旅で結構な頻度でニーナさんとは勝負している。馬車から降りて走ったり、サラさんに投げてもらったフリスビーを取りに行ったりと猫獣人なのに犬っぽい人だ。当然私の全戦全勝だよ!


「やっぱその魔法はずるいニャ!」


「じゃあ魔法無しでやる? ニーナさんが絶対勝つからそれはそれで勝負にならなくて楽しくないと思うよ?」


 遅れてやってきたニーナさんに、私はゴール地点の岩に腰掛けながら話す。身体能力に優れた獣人で、かつ最高位冒険者として誰にも負けない気持ちはあったんだろうけど魔法には勝てないみたい。


「おい遊んでないで構えろ。出てきたみたいだぞ」


 まだ木々があるエリアなのにゴーレムが現れたらしい。私は念の為、シャルロットを抱えて下がる。

 木々の枝を折りながら出てきたのは鈍色に輝くゴーレム。身長は3mくらいはありそうだ。マスコットの様な可愛らしさはなく、ゴツゴツした鉄の塊を寄せ集めた様な無骨なフォルムをしていた。


 討伐の作戦は単純で、ハンマーを担いだグスタフさんとミゲルさんがメインで殴り、核が露出したらニーナさんが短剣で最小限のダメージに留めて破壊するそうだ。

 私とサラさんは他の魔物や、ゴーレムが来ないか警戒して出来るなら対処、無理そうなら警告するのが仕事だ。


 ゴーレムは声帯などはないのか、特に何かを言うでもなくグスタフさんとミゲルさんに向かって走り出した。その速度は速いとは言えないが、大きな鉄の塊が突っ込んでくる様子は中々に迫力があった。

 ゴーレムの攻撃はやはり物理特化のようで、腕を振り回したり殴るのがメイン。たまに踏み潰そうとしてくるぐらいかな? 二人は余裕を持って回避してハンマーで殴っている。


 戦いと言うよりは作業に近い。単調な攻撃を避けてからハンマーで殴るターン制バトルみたいになってるね。ハンマーで殴って取れた部分も、ゆっくりとではあるがコツコツと音を立てて勝手に動いてゴーレムにくっついていく。核を壊さないと動き続けるってのは再生するって事でもあったんだね。

 ゴーレムの胸ら辺を殴って割ると、球体の様な物が露出した。


「ニーナ!」


「はいニャ!」


 すかさず距離を詰めたニーナさんが、露出した核に短剣を刺して下がると、ゴーレムはゴロゴロと崩れてガレキの山になった。


「お疲れ様。特に危ないことも無かったわね」


「単調だからな。退屈で面白くもないぞ」


 どうやら戦闘終了みたいだね。避ける必要はあるものの、ゴーレムの体を割るだけの力があれば採掘と変わらない様に見えたよ。


「ねぇ、次私もやってみていい?」


「おん? 別にかまわねーよ」


 お許しが出た! ミゲルさんがガレキを漁って割れた核を取り出した。


「見せて見せて!」


「……」


 ミゲルさんは無言で核を渡してくれた。核は銀と黒のマーブル模様になっている手のひらサイズの球体で、ニーナさんが刺した短剣の後がしっかりと残っていた。触った感じは硬いけど、落としたら割れそうな感触だった。

 ちなみにこの旅の間、私はミゲルさんの声を一度も聞いていない。


 鉄のガレキは放置して再度山登りを再開する。しばらくしてドスドスと重い足音が聞こえてきたのでそちらを見てると、またアイアンゴーレムが姿を現した。


「私行ってくるね!」


「あちょっと!」


 身体強化してゴーレムに走って近付いた。大きさはさっきと同じくらい。個体差はないのかな?

 私はシャルロットに危ないから離れて貰い、ゴーレムに突っ込んだ。そこそこ強化して膝に一撃蹴りを入れると簡単に砕けて、足を一本失ったゴーレムはそのままバランスを崩して地面に手を着いて倒れた。ついでに腕も蹴りで砕いてから地面に倒れ伏したゴーレムに登る。核ごと壊さないように慎重にゴーレムを引き裂いていると、核が見えてきたので力づくで引っこ抜く。なんだか化石の発掘作業みたいでちょっと楽しいね!

 一切傷付けずに核を取り出す事が出来たのは完璧じゃないかな?


「見てみてー! 壊さないで取れたよ!」


「バカバカ! はやく壊せ!」


 グスタフさんが少し焦った様子で言うと、核が振動してバラバラにした体が核の方へとゆっくり動き出した。壊さないと動くってこういう事なのか。磁力か魔力かわからないけど、引き寄せてまた体を作るんだね。

 私が核に人差し指をブスっと刺すと、動かなくなった。どうやら機能停止したみたい。


「みてみて! 素手でゴーレムと戦ったから指がこんなに腫れちゃったよ!」


 私はゴーレムの核をさしたままの指を皆に見せる。でっかくなっちゃった!


「はぁー……。アホか」


 むぅ、ちょっと面白いと思ったのに指が腫れる漫画的表現は異世界では通じないらしい。スポッと核から指を引っこ抜いてミゲルさんに渡す。

 ミゲルさんは不思議そうに私が作った穴を見てから指を入れようとする。いや、私の指のサイズは合わないでしょ。


「なんだか癇癪起こした子供見てる気分だったわね」


「ニャーもそう思ったニャ」


「少なくとも人の戦い方ではないだろ。素手で金属引き裂いて核引きずり出すなんてほとんど化け物だろ」


「え、結構失礼じゃない? 華麗に戦ったじゃん」


 降りてきたシャルロットを抱きしめてスリスリする。ゴーレムボディにも魔力ってありそうだけどどう? 食べてみる?

 ガレキになった体の一部をシャルロットの前に出すと、シャルロットは足でコツコツつついた後、足を虹色に光らせて鉄の塊に突き刺した。

 ……そんなこと出来るんだね。知らなかったよ。虹色の光は速度だけじゃなくて、力とか頑丈さも上げられるらしい。


 どこかご満悦なシャルロットの足から鉄の塊を外して、探索を再開する。

 納品に必要な数は五個、念の為に予備も含めて合計七個は集めたいらしい。今のところもう二つは取ったから順調だね。


 その後もゴーレムの核集めを進めた。私もハンマーを借りて、ミゲルさんと協力プレイをしてみたけどハンマーを壊さないかが気になってやりにくかったね。でも協力して戦うのは新鮮で凄い楽しかった!


 岩肌エリアを探索してゴーレムの核が残り一個となった頃、一際大きくて青いメタリックのゴーレムが見えた。


「ねぇねぇ、あの青いキラキラゴーレムはなに? あれがアダマンタイトゴーレム?」


「そうよ。グスタフ、アダマンタイトゴーレムが出たわ! 一度離れましょう」


 アダマンタイトゴーレムは大きくて目立つけど、そこまで移動は速くないみたいで焦った様子もなく皆で移動を始めた。だけど私はせっかくの機会だから戦ってみたいのだ。


「私ちょっと戦ってくるね!」


 前を歩いていたサラさんの背中にシャルロットを張り付けてから、私はアダマンタイトゴーレムに向かって走り出した。

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