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シャルロットの挑戦

「それで、これからなんの依頼なの?」


「あん? サラはそんな事も説明してないのか。しっかりしてんだが抜けてんだか。今回の依頼はゴーレムの核の納品だ」


 ゴーレムって無機物じゃない? 生き物じゃないなら可哀想とか思わないし、私大勝利じゃん! これからは美少女ゴーレムハンターノエルを名乗っていこうかな。


「納品と言っても厄介な点があるの。ゴーレムは核を破壊すれば動かなくなるけれど、核は内部にあるから固いゴーレムの体を破壊しないといけないのよ。だから納品依頼であり、討伐依頼でもあるの。そしてできるだけ破壊は軽く済ませて欲しいんですって。無茶な話よね」


 壊さなきゃ取れないのに、出来るだけ壊すなね。それで実質最高ランクのこの人達が依頼を受けたのかな? それともゴーレムは単純に強いのかな?

 シャルロットが私の背中側に隠れた事で、ニーナさんが私の背中をじっと見ている。背中側に人が張り付いてるとなんだか落ち着かないからシャルロットをニーナさんに渡した。


「それでどこにゴーレムはいるの?」


「向こうの山だ。アイアンゴーレムが今回の狙いだな。アダマンタイトゴーレムが出たら勝てないから逃げる予定だ」


 アダマンタイトゴーレムとか上から下までファンタジー丸出しの名前出てきたぞ! 見てみたいし、綺麗だったらお土産にしたいな!


「勝てないってそんなに強いの?」


「あー、強いって言うより硬い。だから核が壊せないから勝てねーんだよ」


 ゴーレム界の私かな? せっかく三日もかけて行くんだし、どっちが硬いか勝負してみよう。アダマンタイトより硬い少女、アダマンタイトを砕く少女、どちらもキャッチコピーとしては微妙だ。


 シャルロットがニーナさんに匂いを嗅がれているのを嫌がって私のところに帰ってきた。ボサボサになってしまったファーの部分を手ぐしで整えてあげる。


「そこ私も触ってみたいんだけど良いかしら?」


「シャルロット、いい?」


 ガチガチ


「良いってさ」


「なぁキラーハニービーってアゴ鳴らすの威嚇じゃねーか?」


 大柄な癖して細かいオジサンだな!

 シャルロットはサラさんに撫でてもらうのは嬉しいみたいでオシリを揺らすが、ニーナさんが近付くとアゴを鳴らして威嚇した。


「ニャーも触っていいって言ってるニャ!」


「ダメだよ、今のは威嚇」


「いやさっきのと一緒じゃねーか」


 微妙に違うんだよ? さすがに会話が成立する程細かくはわからないけどさ。


「ねー? シャルロットはニーナさんが嫌なんだよねー」


 ●

 

 酷く揺れる馬車の旅は中々に過酷だ。まさか身体強化でおしりを集中強化する日が来るとは思わなかったよ。走行中でもシャルロットと合体して飛べば安全だし、ホロの上に乗ったりミゲルさんの横に座ったりと暇を潰しながら過ごした。


 何時間か経った頃、グスタフさんの、洞窟の奥底に潜む魔物の唸り声みたいなお腹の音でお昼休憩になった。馬車なんて乗ってるのも休憩みたいなものだけど、馬を休ませる必要もあるからちゃんと止まるんだってさ。

 見通しの良い草原で休憩だ。私は荷物からレジャーシート替わりの布を草むらに広げて座る。バスケットからは紅茶の水筒と、お昼ご飯のサンドイッチも取り出して並べた。


 今日は日差しが強いのが気になるけど、天気はいいし、風も穏やかで良いピクニック日和だね。


「ノエルの冒険はなんか変なのニャ」


「そうね、あれは多分ピクニックよ」


 そういう何とかの風の面々はどうしてるのかと言うと、荷台に腰掛けていたり草むらにダイレクトで座ってる。ここは草むらだからそれでもいいけど、下が土とかだったら嫌じゃん。

 

 皆でお昼ご飯を食べてから食休みの時間だ。こうして外で座ってるのは退屈じゃないのに、馬車になると退屈なのはなんでだろうね。

 そんなことを考えていると、シャルロットがバスケットに顔を突っ込んでフリスビーを取り出した。


「まさかシャルロット、苦手を克服するの? それなら付き合うよ!」


 トラウマになってはいないかと心配していたが、シャルロットは強い子だった。自分から苦手な物に挑戦していくらしい。立派だよ!

 

 私は走ってシャルロットから離れてから手を上げる。ここまで届くかな?

 シャルロットは一生懸命投げるが、前回同様二、三メートルふにゃりと飛ぶだけでしっかり飛んだりはしない。それでもシャルロットは諦めずに拾っては投げ、拾っては投げを繰り返した。


「シャルロットー! がんばれー!」


 シャルロットの頑張る姿を母として見届けていると、グスタフさんがフリスビーを拾って私の方へと綺麗に投げた。さすが実質最高ランク冒険者、どういう物か直ぐに理解したらしい。


 綺麗な放物線を描いて飛んできたフリスビーをキャッチすると、シャルロットまでビュンと飛んできて私の胸に飛び込んだ。

 しがみついて顔を擦り付ける姿は、涙は出ていないものの、なんだか泣いているように見えた。

 前回といい、今回といいあんなに練習したのに上達しなかったフリスビーを、ぽっと出のグスタフさんが一度で綺麗に投げて見せたのだ。シャルロットの心を折るには十分だったんだろう。


「ヨシヨシ。シャルロットは頑張ったねー。偉いよー。グスタフさんは飛べないからね。シャルロットの勝ちだよー」


 デリカシーの欠けらも無いグスタフさんはニーナさんとサラさんに殴られていた。当然の制裁だよ。

 落ち込んでしまったシャルロットを励ます何か良い方法はないだろうか……。


「あ、そうだ。じゃあ私が投げるからシャルロットは取ってきてくれる? それならどう? エマちゃんとやってたみたいにさ」


 シャルロットが控え目にガチガチとアゴを鳴らした。もうフリスビーは余りやりたくないけど、それだったらまぁ……くらいの乗り気なのかな? これで自信を取り戻してあげよう!


「よし、じゃあ行くよー! それっ!」


 フリスビーを皆のいる方向へ投げると、シャルロットはピューっと飛んで行った。これで普通にキャッチして持ってきてくれれば少しは自信を取り戻せるでしょ。


 そこまで速くないスピードで飛んでいくフリスビーを、ショボクレた飛び方でシャルロットは追い掛けてる。そしてフリスビーが地面に落ちる前にニーナさんが高くジャンプしてキャッチした。……ニーナさんがキャッチしたのだ。


 私は身体強化して急いで走ってニーナさんからフリスビーをぶんどる。


「シャルロット、もう一回やろっか? ね? ね?」


 シャルロットはイヤイヤと首を振ってから、うなだれた様子で一足先に馬車に戻って行った。


「な、なんかウチの馬鹿どもがごめんなさいね……?」


「いえ、オヤツのクッキーは分けないことにしたので大丈夫ですよ」


「わたしは……? わたしは何もしてないわよ?」


「ええ。サラさんは何もしてないです。何も」


 私の言いたい事がわかったみたいでサラさんは膝から崩れ落ちた。サラさんは空気読めるんだから止めてくれたって良かったんだよ。


 再度走り出した馬車の中では上機嫌でおしりを揺らすシャルロットと、サクサクとクッキーを食べる音が鳴っていた。グスタフさんは気絶していて、ニーナさんとサラさんはクッキーを食べるシャルロットを羨ましそうに見て指をくわえるのだった。

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