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冒険者のお仕事!

「お弁当のサンドイッチよし! オヤツのクッキーよし! 紅茶の水筒よし! 念の為のフリスビーもよし!」


 少し大きいバスケットの中身を指さし確認する。このバスケットはオッケーだ。次にナップサックみたいな袋の中身も確認する。着替えもあるし、レジャーシート替わりの布もある。準備は完璧だ!

 ちなみにゴムボールの様な物の作成依頼をセラジール商会にお願いしたが、数日では無理だった。フリスビーがシャルロットのトラウマになってなきゃいいんだけど……。


「シャルロットも準備できた? なら出発だ! 行ってくるねー!」


「ケガしないように気を付けて行くんですのよ!」


 リリと部屋でお別れして外を目指す。今日は念願、かどうかはイマイチわからないけど冒険者のお仕事をする日なのだ。

 着せ替え人形のドールハウス製作で相談があるとの事でセラジール商会へ行った時に偶然何とかの風のサラさんに再会した。なんでも少し遠出の依頼があるらしく、それの買い出しに来ていたみたい。私はこれ幸いと一緒に行きたいと伝えたところ二つ返事でオーケーが貰えたのだ。片道三日、依頼で一日はかかるとして最短七日間の旅だ。必要な道具はサラさん達が用意してくれるそうで、私は着替えと装備くらいで良いんだってさ。


 そして今日がその冒険の旅に出発する日って訳だね! 早速待ち合わせ場所の東門へ高速スキップで向かった。


 浮かれすぎて早く来すぎたのか、何とかの風の人達はまだ来ていないみたい。まだ早朝の為か、いつにも増して東門は閑散としていた。


「あ、門番さん! おはようございまーす!」


「ヒィッ! お前また来たのか!?」


「そんなテンション上がってる所申し訳ないけど、今日は皆が揃ったら長期の旅になるんだよ。ごめんね?」


 いつもの門番さんは奇声を発して大はしゃぎ。久しぶりに帰ってきた家族に会った大型犬くらいオーバーなリアクションだ。


「長期の旅……? いつだ? いつ帰ってくる?」


「えっとね、片道三日、依頼に一日だから往復で七日の旅かな?」


「それはあまり長期とは言わないぞ。七日だな? わかった。七日後は休みだ。休みにして貰おう」


 門番さんがブツブツと自分の世界に旅立ってしまったので、私はその隣でシャルロットを抱えながら立っている。自分の世界に旅立つ人は結構多いから慣れっこだ。


「あっ! ノエルがもう来てるニャ!」


 独特な口調はニーナさんだろう。 声の聞こえた方向を見ると一台の馬車が近付いてきていた。

 御者をしているのは無口のミゲルさんで、その横にニーナさんが座って手を大きく振っている。


「あ、お疲れ様でーす」


 馬車が私の前に止まると荷台からグスタフさんとサラさんが降りてきた。


「みなさんおはようございます! 今日からよろしくお願いしますね!」


「おう! まぁ気楽にいこうぜ」


「寝坊はしなかったみたいね。さぁ馬車に乗ってちょうだい」


 門番さんにじゃあねと手を振ってから荷台にピョンと飛び乗った。馬車はホロ馬車っていうのかな? 布に覆われていて外は見えない。中は結構広くて、私が寝っ転がっても十分な広さがあった。

 ニーナさんも御者台から荷台の方に移ってきた。女子組が荷台で、男子が御者台に別れる感じだね。


「ノエルは装備はどうしたのニャ?」


「どうしたって言われても持ってないよ?」


「あら? 装備は自前って言わなかったかしら。ノエル用の装備なんて用意してないわよ?」


 そもそも私は装備を持ってないのであって、忘れたわけじゃないんだよね。アレクシアさんも必要なくねって言ってたし買うつもりもなかったよ。


「無いとダメなの? アレクシアさんからは必要ないって言われてるんだけど」


「よく分からんが、それでアレクシアが平気だって言ったんだろ? ならいらねーよ」


 ケモ耳のグスタフさんも荷台に上がってきて会話に混じり始めた。お前もこっち来るんかーいって思ったけど、私は外部の人間だからね、余計なことは言わない。ただ、ミゲルさんがひとりぼっちなのはちょっとどうなのと思わなくもない。

 グスタフさんが乗った事で馬車が動き出した。


「一応お前に何ができるのか確認しておきたいんだが、平気ならどんな魔法が使えるのか聞いてもいいか?」


「いいよ。アレクシアさんが皆さんなら信用していいって言ってたからね。私は身体強化ができるの」


 動いてる馬車の中を転ばないように注意しながらグスタフさんの所まで歩く。これから依頼なのに装備破壊する訳にもいかないし、私は座っているグスタフさんの肩に手を添えた。


「グスタフさん、立てる? 私の手をどかしてもいいよ」


「あん?」


 グスタフさんは何を訳分からんことをって顔をしながら立ち上がろうとしたが、私がしっかりと肩を抑えてるから立てない。周りの人からすればグスタフさんがモゾモゾ動いている様にしか見えないだろうけど、結構力入れて立とうとしてるね。ムキになり始めたのか、私の腕を押したり引っ張ったりしてるけどビクともしない。パントマイムみたいでシュールだ。


「くそ降参だ。よく理解したわ。それで全力でもないんだろ?」


「うん。全力だったら肩ちぎれてると思うよ」


「ニャー達にもわかるように説明するニャ!」


「察するにグスタフでも勝てないくらい力が強いって事かしら?」


 サラさんは察したみたいで、その『ニャー達』にはニャーしか居なかったみたいだよ? ニーナさんは右へ左へ首を傾げている。


「俺に勝てる勝てないなんて生温い話じゃねーよ。絶壁を押してるかと思うくらいビクともしなかったぜ」


 絶壁と言われて視線を落とす。まだ第二次性徴期に入ってないからね、仕方ないね。私は第二次性徴期を過ぎてなお、絶壁に近いニーナさんの肩をとんとんと叩いた。どんまいだよ。


「んー? ニャーにはそんな凄い力に感じねーのニャ」


「いえ、今のはそういう意味では……何でもないわ。ニーナは気にしなくていいのよ」


「んー?」


 首を傾げるニーナさんを見てほっこりした。


「そういう訳で、力だけじゃなくて頑丈さも強化されるので防具より私の体の方が硬いんだよ。だから防具着て守れるような攻撃ならそもそも喰らわないから意味ないんだよね」


 サラさんは急に私を抱き上げて膝に乗せて、腕やお腹、顔なんかもぺたぺたと触りだした。


「でも柔らかいわよ? 普通に女の子の肌ざわりだし、寧ろ若いから張りがあってプリプリよ、プリプリ。……あら?」


 サラさんは透明化してるシャルロットを触ったみたいで不思議そうにしている。そういえば紹介してなかったね。


「言うの忘れてた。シャルロット出ておいでー。ほら皆にご挨拶だよ」


 ガチガチ


「よし!」


「なんだそいつ? キラーハニービーに見えるがなんかちげーな」


「この子はシャルロットで、キラーハニービーの女王だったんだけど、進化したらこうなった。私にも種族はわからないけど良い子だから仲良くしてあげてね」


 シャルロットを抱っこして皆に改めて紹介する。グスタフさんとサラさんは見たことないキラーハニービーを見て何かを考えて、逆にニーナさんは何も考えてなさそうな顔でシャルロットをジッと見つめている。


「ニャんかその子甘い匂いがするニャ」


 シャルロットはまた透明化して消えるが、ニーナさんは嗅覚で見つけられる様で、シャルロットが動く方向をジーッと見つめている。天井の隅とか、部屋の一角を何故か凝視する猫と一緒だ。

 正直ちょっと怖いからやめて欲しいよね。


  

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