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対騎士団

 騎士団の人達がフレデリック様に何かを一生懸命訴えているが、フレデリック様は目を閉じて首を左右に降っている。


「ノエル様、今の模擬戦はどれくらい全力を出しましたか?」


 激しい戦闘を物語るように金属片がくっ付いてるだけになった鎧姿のアンドレさんが話しかけてきた。


「そうですねぇ、正直に言ってしまうと半分も出していません」


「全力を見せて頂くことは出来ますか?」


 全力は難しい。私自身出したことがないのだ。極端な話音速を超えて衝撃波でも出てしまったら怖い。


「全力は難しいですけど、もっと力を出すのは構いませんよ。じゃあ私はアンドレさんにさわるので、アンドレさんはさわられないようによけてくださいね?」


 距離を取ってから強化をさらに上げる。前からやろうと思っていたことを試す。

 私はタイミングを見計らって一気にアンドレさんの背後に周り、背中にぴとっと手のひらをそえた。アンドレさんは私の動きに全くついて来れなくて、さわられたことで背後にまわられたことに気付いて全身をビクッとさせた。

 さっきまで金属引き裂いたりちぎってた手を背中に当てられたらビビるよね。


「全く見えませんでした。わかっていましたが、実力差をまざまざと見せつけられると言葉が出ませんね」


「まぁ魔法も今のもインチキみたいなものですからね。相性の問題だと思います」


 今回私がしたのは身体強化と脳を加速させるクロックアップだ。クロックアップをしてアンドレさんの瞬きに合わせ、高速で動いて背後を取った、ただそれだけの事だ。目を閉じてる間に動くんだから見えないのは当たり前だよ。

 つまり、まばたきをする生き物は私とは相性が悪いし金属より柔らかい生き物も私とは相性が悪い。そのどちらも当てはまる人間は相性が悪いんだよ。


 騎士団の人たちは今のも見ていたようでこっちを指さして必死に何かをフレデリック様に訴えかけてるが、変わらず答えは断じて否だね。


 私は対騎士団戦の準備をしようかな?


「アンドレさん、大きい盾二つ借りたいんですけどいいですか? 大きければ大きいほど良いんですけど」


「ではこちらへどうぞ」


 案内されたのは武器庫のような所だ。訓練場で使う木剣や刃の潰された鉄製の剣など色んな武具が置いてある。私は盾が沢山置いてあるエリアで大きな盾を吟味する。盾の善し悪しなんてわからないけど、とりあえず大きければ大きいほどいい。


「これかな? うん、これにします!」


 私は自分よりも大きい長方形の盾を二枚選んだ。私は武器の扱いなんてほとんど素人だし、自分よりもろい物を武器として使うのもなんだかなって思うから基本素手だ。でも私みたいな美少女が大きな武器を使うのってロマンがあるよね! 今回は盾だけどこれも鉄壁の乙女って感じで良き!

 二枚の盾を左右に持って少し動かす。体にたいして盾が大き過ぎて盾同士がぶつかりあっちゃうけどまあいいね。今回もパワープレイでゴリ押しでいくから細かいことは気にしない。


 アンドレさんは盾を二枚も持った私に疑問を抱きながらも聞いてくることはなかった。訓練場に戻ってくると、騎士団の人達はもう隊列まで組んで準備万端な状態だった。


「ほう、あれは対魔物用の布陣ですね。中央の盾の部隊が全力で敵の足を止め、その間に周りの攻撃隊が回り込んで叩く短期決戦用の戦術です」


 アンドレさんが言うように、中央に盾を構えた人達が集まって、その若干後方に剣や槍なんかを持った人達が展開している。


「戦術ばらしちゃっていいの?」


「私だけがボコボコにされるのも悔しいですからね。どうぞ暴れて下さい」


 アンドレさんはニヤリと笑ってそう言った。ではお言葉に甘えて暴れようかな? そもそもこんな美少女相手に対魔物用の布陣っておかしくない? お望みならそうしますけど?


 私は両手に持った大盾を引き摺りながら中央に歩いていく。今度はアンドレさんが合図を出すみたいだ。


「それではよろしいですね? では、はじめ!」


「ウガアアアアアアア!」


 私は始まりの合図と共に身体強化のレベルを上げて奇声を発した。お前らのお望みの魔物だぞ!


「く、くるぞおおおおおお!」


 騎士団の盾部隊が自分とお互いを守るように盾を構えて引きこもった。彼等は攻撃は一切せずに、防御で敵の足を止める事だけが役割みたいだ。


「ねぇアンドレさん、あれ対魔物用でガッチガチに固めてるけど、知性のある私が後ろに回り込んだらどうするの?」


「……まさかしませんよね?」


 いやまぁしないで正面から行くけどさぁ。なんかホントに魔物扱いみたいで気に入らないじゃん!

 せっかく盛り上げる為に吠えたのにふと気になったせいで台無しだ。


「ほれこれから魔物が突っ込むよー! 気張って止めないと死んじゃうよー!」


 私は大盾二枚を持ったまま自分の正面の地面にドスッと突き刺した。それでは突貫します!

 地面をゴリゴリと抉りながら二枚の大盾で突っ込んでいく。気分はブルドーザーだ。


「止めろおおおおお!」


 大盾で前が見えないけどギャーギャー騒ぐ声が近付いてきたからもうすぐ激突しそうだね! さぁ吹き飛んでしまえ! 魔物の突進だぞ!


 盾に衝撃が伝わると同時に阿鼻叫喚の悲鳴が聞こえる。無理だとか逃げようだとか騒ぎまくってるけど、ガッチガチに固まってんだからもう逃げられないでしょ君たち。


「あははははははは!」


 ドンドン弾き飛ばしていくのはボーリングみたいで楽しくなってきたけど、ちょっとしたら何にもぶつからなくなったから盾を持ち上げて振り返る。私が通って来た所は死屍累々って感じだね!


「ねぇ、その対魔物用の陣形って力負けしちゃったら何も出来なくない? 私もう一度突っ込んでみるから止めてみる?」


 大盾をガンガンぶつけ合ってからまた地面に突き刺し、ゴリゴリ進み始めた。


「逃げろぉぉお!」

「散れ! 纏まってると引き潰されるぞ!」

「下がれ下がれ!」


 もう隊列ぐちゃぐちゃじゃん! 可哀想だからやめてあげようかな? 私は後方の一目散に逃げていく人の所までダッシュして回り込んだ。


「ヒィッ……」


 そんな怯えなくてもええやん……。若干傷付いた。目の前に持っていた大盾の一枚を突き刺し、他の逃げる奴の所へも回り込んでそいつの前にも盾を突き刺した。

 騎士団の使ってた大盾も奪って逃げる奴の前に突き刺すのを繰り返していくと、奴らは結局逃げられずに中央へドンドン追い込まれていった。


「お、おい! 奴が来る! もっと下がれ!」

「後ろにもいるんだよ! 下がれるか!」

「クソッ! 何人いるんだ!」


 一人だよ! 前にも後ろにもいるわけないでしょ!

 訓練場は至る所に大盾が立てられて、遮蔽物だらけだ。その中央で騎士は背中を合わせるように全方位警戒している。


 私は大盾の裏に隠れ、大盾から大盾へ移動を繰り返す。


「そっちいったぞ!」

「クソッ! 来るなら来いってんだ!」


 隠れている大盾の一部をちぎって離れた所にある大盾へ投げて大きな音をたてる。ガンっと音を立てた大盾は後ろへ倒れ、さらに大きな音を立てた。


「く、くるぞおおおおおお!」


 奴らは大きな音を立てた盾の方を向き、震えながら剣を構えている。だけど残念! いるのは反対なんだな!

 私に背を向けてしまった騎士の一人を足を掴んで引きずって連れ去っていく。


「た、たすけてくれええええ!」


 引きずられていく騎士は必死に地面を引っ掻くがそれで止まる私では無い。


「クソクソクソクソっ! ジャックがやられたっ!」


 私はジャックと呼ばれる人を盾の裏まで引き摺っていった。


「えっと、ジャックさん? 貴方はもう負けね、ここで静かにじっとしてて? シーだよ?」


 口を両手で抑えたジャックさんはこくこくと首をたてに振った。

 さて、次は誰を連れていこう。


 一人一人順番に、油断した者から連れ去っていく。これはまるでクローゼットの話と同じ様な光景だ。アレクサンドル様をチラッと見ると顔色が悪い。多分私と同じこと思ったんだろうね。後で、もしかして思い出しました? 三日間気をつけてくださいね、って言いに行こう。


 しばらく繰り返すと連れ去った騎士を隠す盾がなくなり始めた。騎士の人達はなんで降参しないの? 騎士道精神的に降参はできないのかな。でも下手に殴って気絶させるのも怖いし。

 連れ去られた騎士達はもう襲われることもないわけで、怯えている同僚を盗みみて楽しんでるまであるよ。もう十分役目は果たしたよね?


「ねぇ! もうそろそろ降参しない? 私下手に殴って一生モノの怪我とかさせたくないんだけど」


 残った騎士の人達は我先に武器を捨てて手を挙げるのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この大惨事は是非第三者視点から見てみたいですね。実際に戦った執事さんか観戦だけで許された公爵家の人たちか、仲間が次々と殺されていった騎士たちか…いるかわかんないけどお嬢様付きのメイドさんか…
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