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アンドレさんとの模擬戦

 少し汗ばむ日が増えた頃、珍しくフレデリック様に呼び出された。怒られるような事はした記憶もないし、頼みたいことでもあるのかな?


 アンドレさん案内のもと、フレデリック様の執務室にやってきた。ちなみにリリの水魔法をバカにした日以来、私はアンドレさんに対して塩対応だ。元々仲良しこよしではないから大差はないかも?


「お待たせしました。何かありましたか?」


「急に呼び出してすまないね。折り入ってお願いしたいことがあるんだよ。とりあえず座って」


 ソファに促されたので座る。お願いしたい事はアレクサンドル様のことだろうか。リリとは順調に仲良くなっていて、今でも毎晩一緒に寝ているし、キラーハニービーの魔力あげも一緒にやってくれている。そうなると手付かずのアレクサンドル様もどうにかしてよと言われるのかな?


 アンドレさんが出してくれた紅茶を飲みながらフレデリック様の話を待った。


「お願いというのはね、実は我が家の騎士団についてなんだよ」


 これまた予想外の言葉が出てきたね。


「騎士団ですか?」


「ああ。最近は戦争もないし、魔物の侵攻もないだろう? アンドレが執事になって抜けた事もあって少し弛んでるんだよ。危機感が足りないと言い換えてもいいね」


 私がこの世界に生まれてから、今まで近隣で戦争があったって話は聞いたことがないし、魔物の侵攻みたいな脅威の話も聞いたことがない。田舎村にそんな話はやってこないって訳じゃなくて、そもそも起きてなかったんだね。平和でいいじゃん。


「そこでノエルちゃんにお願いしたいんだよ。世の中にはノエルちゃんみたいに小さくて可愛い子でも凄い子はいるんだよって教えることで危機感を煽りたいんだ。どうだろうか?」


「このノエルに任せてください!」


 この小さくて可愛い美少女が騎士団ボコっておじさん達大人なのにそんなに弱くて平気なの、って言えばいいんでしょ?


「おお! 助かるよ。でも突然君を騎士団の所へ連れて行って戦えって言っても難しいだろう? そこで最初に皆の前でアンドレと模擬戦をして欲しいんだ。実力を見せたあと、改めて騎士団と戦うって流れだね」


 へー、ほー。アンドレさんとの模擬戦ね。まぁ別にそれも望むところではあるんだけど、単純に騎士団の風紀の乱れを正すというのは方便で私のテストをしたかったとみた。アンドレさんが私は強いって言ってもどの程度戦えるのか、個人戦と集団戦で試してみたいって事なんだろうなぁ。


 変に回りくどく言わないで君の実力見せてって言ってくれればいいのに。


「別に構いませんよ。いつにしますか?」


「なら早速だ」


 ●


 という訳で、やってきました訓練場! 私は普段着のまま一応刃を潰した剣だけ持って中央に立っている。広い訓練場の観客席には辺境伯家の皆や、騎士団の人達が席に座ってるよ。みんな集まっちゃってまぁ。


 シャルロットはリリに預けて来たけど、リリはシャルロットと新女王蜂の二匹を抱えてる。隣のヘレナ様も抱えたそうにしてるよ。気づいてあげて!


「お待たせいたしました」


 そう言って現れたのはいつもの執事服ではなく、鎧を身にまとったアンドレさんだ。正直初めて見る鎧姿なのに、執事服よりしっくりくるね。

 それなりに大きな金属の盾を左手に持って、腰には直剣をさしている。大きな体から勝手に大剣みたいなのを振り回すパワータイプかと思ったけど、意外と騎士っぽい武装なんだね。


「いえ」


 私の塩対応っぷりにアンドレさんは苦笑いだ。この模擬戦に私情を挟むつもりはないけど、まだ始まってもないしね。やる時はちゃんとやるよ。


 近くにやってきた別のおじさん騎士が合図を出してくれるみたいだ。


「準備はよろしいですか? それでは、はじめ!」


 舐めているというわけではないけど、全力で近付いて全力で殴ってはなんのこっちゃわからない戦いになってしまう。先ずはアンドレさんと同じくらいの強化レベルになる様に少しづつ強化のレベルを下げて調整しよう。


 盾と剣をもってどっしりと構えたアンドレさんは動くつもりがないみたいだ。筋肉モリモリだけど堅実に戦うタイプかな? 私まで待ってたら何も始まらないから、とりあえず剣を片手に走り出す。


 はっきり言ってちゃんと対人戦をやるのは初めてだから、どれくらいの力で殴れば平気かがわからない。やり過ぎて大怪我をさせても嫌だから、軽めに行こう。

 私は走って近づき、ワザと盾を叩く。ガンっという大きな音は出たけど、アンドレさんはビクともしない。まだまだ強く殴っても平気そうだ。アンドレさんも剣を振り下ろしてきたけどその速度ははっきり言って遅かった。私はバックステップで一旦距離を取った。


「アンドレさん、多分ですけどお互いどのくらいやっていいかわからない感じですよね? 非常に言い難いんですけど、全力を出してみて貰えませんか? それで私が全然ついていけないようだったら、私に合わせてください。どうでしょう?」


 アンドレさんは苦笑いした後にそうしましょうと提案に乗ってくれた。なんだか上から目線みたいになっちゃうから言い難いよ。


 剣を真ん中で構えてアンドレさんが来るのを待つ。私の準備が整ったのを確認してからアンドレさんは突っ込んできた。その速度はかなり速い。アレクシアさんよりも速そうだ。アンドレさんは盾で半身を隠しながら接近してきて、そのままシールドバッシュをしてきたので剣で受ける。力加減はこんなものかな?


 私はアンドレさんと同じくらいの力加減になる様に強化の段階を調整する。ここからが本番かな。


 私は牽制する為に盾を叩く。アンドレさんは最初より強い攻撃を、受け止めるのではなく盾で受け流したみたい。あまり手応えがなくて、上手く力が伝わっていないようなそんな感覚がする。


 その後も攻防が続くが、なんというか凄くやりにくい。攻撃は盾で受け流され、そこへ剣での追撃がくる。アンドレさんは盾で半身を隠してるから剣筋は読みにくく、剣に意識を向けているとそのまま目の前の盾で殴ってくるのだ。当然盾を意識し過ぎれば剣での攻撃がくる。まるで後出しジャンケンだ。はっきり言って全然勝負になってない。


 私はアンドレさんの盾を蹴り飛ばして後方へ飛んで距離をとった。


「えっと、アンドレさん。正直言って全然勝てそうにないです。お見逸れしました。模擬戦は私の降参です」


 技術力というか、経験というか、そういうのが段違いだ。所詮私はスポーツをやっていただけで、対人での殺し合いをしてきた訳じゃない。全力での殺し合いなら絶対に勝つ事は出来るけど、これはあくまでも模擬戦なんだよね。

 身体強化にものを言わせてぶん殴るのは模擬戦においてはレギュレーション違反だと思うよ。


「でもやられっぱなしも悔しいのでもう一段階あげてもいいですか?」


 アンドレさんはニヤッと笑ってから盾をガンガンと叩いた。かかってこいって事かな。

 私は強化レベルを上げてから、使い慣れてない剣を後ろにポイッと投げ捨てる。全力は出せないけど、リリも皆も見てるからね。それなりにやらせてもらうよ!


 私はゆっくり歩いてから、一気に加速して盾の前に立つ。盾に右手の指全部をを突き刺して、ドアノブをひねるようにねじった。手首と肘を強引に外側にねじられるアンドレさんは危険を察知して盾から手を離した。厄介な盾はこれで封じた。


 そこからは独壇場だった。防御の要を失ったアンドレさんは剣を振るうが、その剣だって私は握り潰し、アンドレさんの鎧を素手で引きちぎっていく。アンドレさんの身体は傷付けないように鎧だけ引き裂き、むしり取っていく。


 そもそも身体強化で全身が金属より硬くなる私に金属をぶつけても武器が壊れるだけだし、私は全身が武器になっているのだ。私への攻撃は私の攻撃で、私の攻撃は私の攻撃だ。


 技術も経験も関係ないパワープレイにアンドレさんは引きつった顔で両手をあげ、降参ですと告げた。


「一勝一敗って感じですね! お疲れ様でした」


 インチキ臭い身体強化で負けはしないものの、地力は明らかにアンドレさんの方が上だった。敬意をもって頭を下げてから、観客席の方を見るとアレクサンドル様とリリは大はしゃぎで何か言っているものの、フレデリック様とヘレナ様は顔が引き攣ってる。

 これから私と戦うことになる騎士団達は生きているの不安になる程顔色が悪かった。


 皆に手を振ってから騎士団にはニヤリと不敵に笑って見せた。

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