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秘密の特訓!

 お昼ご飯を食べた後、私とリリはまた訓練場にやってきた。今は訓練場を利用してる他の人に見られないように隅っこで壁の方を向いてる。ちなみに今日はシャルロットはお仲間のキラーハニービー達と過ごしてる。


「それで急にどうしたんですの?」


「秘密の実験をしようと思ってね!」


 派手な事をする訳じゃないから隅っこで十分だ。水の温度が変えられるのか、から試してみよう。これができなきゃそのまま終了だけどね!


「午前中も魔法の練習してたんだから魔力が少なくなったり疲れたらちゃんと言ってね? それじゃあ先ずは少し水を出してくれる? コントロールは必要ないから魔力節約して壁に向かって飛ばしてみて!」


「わ、わかりましたわ」


 リリが壁に向けて指をさしてぴゅーっと水を飛ばす。飛び散って濡れないように結構低い所へ飛ばした。そこに私が手を当てて温度を確認する。うん、さっき飲んだ時とだいたい同じくらいの温度かな?


「ありがとー。一旦止めていいよ。次は少し暖かいお水出せる? ぬるいのでも良いし、あったかいのでも良いし、あっつあつでも良いよ! はい、早く出して出して!」


 お湯とか熱湯とか言ってしまうと水じゃないから出せないとか思ってしまうかもしれないから言葉選びに気をつけてみた。深く考えずに暖かいお水出そうと思ってもらえるように急かす。


「わ、わかりましたから急かさないで下さいまし! あたたかい感じ、あたたかい感じ……」


 リリは目を閉じてぴゅーっとお水を出した。さわってみるとぬるーい感じのお湯が出てる。

 凄いぞ。水魔法でお湯が出てるって事は温度の調整が出来るって事だね!


「リリ凄いよ! 凄い凄い!」


 私は水魔法に無限大の可能性を感じた。お湯が出せるならきっと熱湯も出せるし、氷、あるいはマイナス何十度の水とか出せるはずだよ!


「え? 普通に出してるだけですけど凄いですか? わたくし凄いですか?」


「凄いよ! リリは天才かもしれない!」


 私はリリの脇に手を入れて持ち上げてぐるぐる回る。我が子を褒めるお父さん気分だよ!

 下ろしてくださいと騒ぐリリを心ゆくまで振り回してから下ろした。リリはまだよく分かってないみたいだけど、出す水をある程度コントロール出来るなら極端な話、海水を出すことも出来るかもしれない。まぁさすがにそれは出来ないかもしれないけど。

 それでも単純に水を出せますというのとは訳が違うと思う。大きな一歩だよ!


「もう! 危ないじゃありませんか!」


 プリプリしてるリリはまぁいいとして、深く考える前に次いってみようー!


「じゃあ次はあっつあつのお水出してくれる? 湯気が出るくらいあっつあつのやつ! 天才のリリならきっと出せるしね! 早く見せてー!」


「もう! 仕方がありませんわね! 少し待っていて下さいまし! あっつあつのお水ーあっつあつのお水……」


 リリが小鼻をピクピクさせながら目を閉じてイメージを練り始めた。また壁に向かって指を向けてぴゅーっと水を出す。

 飛ばしてる水からは湯気が立ち昇っていて、触る前から熱湯なのは見てわかる。一応さわってみたけどあっついわ! 熱湯出せるとか結構凶悪な攻撃じゃない?


「おおおおおお前ら何をやってんだ! 女の子がそんな事するんじゃない!」


 急な怒鳴り声に驚いて振り返ると、アレクサンドル様がこちらを指さしながら怒っていた。後ろにはアンドレさんも一緒だけどアンドレさんも何だか少し気まずそうな表情で目を逸らした。

 魔法の訓練をこっそりするのは貴族のご令嬢的には良くないのかな? 剣や魔法は紳士の嗜みだから女はお茶会でもやってなさいみたいな?

 そういう考え方は好きじゃないなぁ。貴族文化だから私がどうこう言う問題ではないけど……。


「お兄様、突然なんですか? わたくしたちは二人で秘密の特訓をしておりますのでどっか行ってくださいまし」

 

 リリは手で追い払うようにしっしと手を振った。アンドレさんは余計な事は言わずに静観する事にしたみたい。


「何が秘密の特訓だ! そういう下品な遊びは平民の男がやるんだよ!」


「平民の男性はやらないと思いますわよ?」


「いや、酒場に入り浸る様な奴らは店の裏で直ぐにやると言っていたぞ」


 ……言いたいことがわかったけどさすがに酷過ぎないか? 酒場に現れる自称水魔法使いこと小便魔法の使い手達のことを言ってるんだと思う。リリはそういう下ネタ野郎と違ってちゃんと水魔法を使えるし、午前中も家庭教師に教わって一生懸命訓練していた。


 それをアレクサンドル様は突然やってきて酒場の酔っ払いどもと同列に扱った。普通に許せる事じゃない。


「ねぇ、さすがに酷過ぎない? 何でリリの事バカにすんの?」


「は? なんだ平民。バカにはしてないぞ。注意してるだけだ」


「アンドレさんも同意見なの? 立場もあるだろうけど、こういうのはちゃんと注意するのが臣下の務めじゃないの?」


「いえ、私もアレクサンドル様と同意見でございます」


 アンドレさんもリリの水魔法をバカにするらしい。貴族社会は男尊女卑が強いのかもしれない。家督を継ぐのは男だけで、女は家でダラダラお茶を飲んでるだけとかそういう価値観なの? フレデリック様がヘレナ様を大切にしてるみたいだから勘違いしてたわ。アレクサンドル様は元々ちょっとアレだったけど、アンドレさんは普通に見損なった。


「もういいや、リリ行こう?」


「ちょ、ちょっと……」


 私はリリの手を引いて訓練場を出ることにした。これ以上この場に居たら私はイラッとしてぶん殴ると思うよ。文化や価値観の違いは仕方ないとしても、人の努力をバカにするのは違うでしょ。

 もう魔法の訓練に関しては誰も信用ならない。誰にも見つからない所へ行こう。


 私はリリの手を引いてズンズン歩いてお部屋のお風呂にやってきた。


「もう! やっと止まりましたわね。そんなムキにならなくても……」


「だってリリの努力をバカにした」


「お兄様はバカなので仕方ありませんけど、アンドレまでお兄様の味方になるのは意外でしたわ。たぶん何か誤解されてるのではなくって?」


 私はアンドレさんとの付き合いが長いわけじゃないし知らないよ。でも何にしてもバカにされたままじゃいられない。こっからは鬼の特訓だよ!


「よし、じゃあ特訓の続きだよ! 今度は出来るだけ冷たーい水を出して! 想像出来る限り一番冷たいやつね!」


 リリは冷たい水冷たい水とブツブツ言いながら浴槽に向かってぴゅーっと水を出した。さわってみるといつもよりは冷たいけど、凍るほどかと言われたら程遠いね。リリにとっての一番冷たい水がこれなんだろう。

 考えてみたら八歳の貴族令嬢が凍るほど冷たい水なんてさわらないよね。雪もあまり降らないような地域だし。


 それからも何度かもっと冷たくってお願いしても結果はほぼほぼ変わらなかった。沸騰する程ではなかったけど、春に湯気が立つほどの温度で出せたのに、凍る手前くらい低い水温で出せないのはおかしい。

 水温が3度くらいでも水って言うけど80度くらいあったら普通はお湯とか熱湯って言うもん。それなのにキンキンに冷えた水が出ないのは水魔法の限界ではなくて、リリの想像力不足か力不足だと考える方が妥当だと思う。

 作戦を変更しよう。


「ねぇリリ、私の言うことをどこまで信じられる?」


「突然なんですの? 何でもは無理ですけどだいたいの事は信じられますわね」


 なんの話かもわからず信じる、なんて言えるほど長い付き合いでもないしね。エマちゃんなら全力で全て信じますなんて鼻息荒く言うんだろうなってふと思った。ほんの少しだけ寂しくなった。



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[一言] 湯気なんか出しちゃうから……
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