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リリの水魔法

「今日はどうなさいますの?」


 朝食を食べ終えたあと、部屋で紅茶を飲んでるとリリが尋ねてきた。そろそろ冒険者でもやろうかなぁと思ってはいたけど、リリともう少し遊んであげないと可哀想だとも思っている。


「今日はリリと一緒に過ごそうかな?」


「そ、そうですか。そうですか……」


 リリは手に持ったソーサラーとカップをカタカタと鳴らしながら紅茶を飲んでいる。動揺が目に見えるよ。


「で、でも今日はこれから魔法の授業がありますの」


 悲しそうに眉をへにょりと下げながらそう言うけど、その授業は少し気になるんだよね。さすがに政治、算数とか言われたら頑張ってねと笑顔で見送るけど魔法となったら話は別だ。


「ねぇねぇ、それって私も一緒に聞いちゃだめ? もちろん大人しくしてるからさ」


「ふぇ? かまいませんわよ! フフフッ、魔法の授業を誰かと受けるのは初めてです」


 アレクサンドル様は魔法が使えないから一緒には受けないのかな? 一応受けた方が魔法に対する認識とか対処法とか学べる気もするけどね。

 何にせよ、ひとりぼっちではないということでリリは獣人族なら尻尾ぶんぶん振ってそうなくらい嬉しそうな雰囲気が出てる。いつものメイドさんもうんうんと頷いているよ。メイドさんリリに対する愛情が深いよね。


 そんなわけで今は辺境伯家の訓練所の一角に来ている。今日は座学だけじゃなくて、実技もあるみたいだ。訓練所は結構広く作られていて、私たちと離れたところでは兵士か騎士かわからないけど、そんな感じの雰囲気の人達が剣を振り回したりしてる。

 教師役の人は結構な御年配の男性で、かつてはこの国の魔法師として色んな所へ行っていたそうだ。


「ではリリアーヌ様。先ずは前回同様、制御の訓練をしましょう」


 リリは両手の手のひらを上に向けて器のようにした。そこから水が湧き出して宙で丸くなった。少しいびつな形だけどウォーターボールって感じかな? あれを出来るだけ綺麗な球体にして維持をする訓練だろう。

 私は放出系の魔法が使える訳じゃないからイメージになってしまうけど、体から切り離した魔力を遠隔でコントロールするっていうのは難しいんだろうね。


 リリの表情がゆがみ始めると、それに連動するようにウォーターボールもゆがみ始め、そのままバシャっと地面に落ちてしまった。


「はい、結構です。以前より随分と上達しましたね。今度は少しづつ動かしてみましょう」


 別の訓練になったみたいで、今度は新しく出したウォーターボールを右へ左へゆっくりと移動させている。

 特に変わり映えはしなさそうな訓練よりも私が気になったのは、地面に落ちた水の方だ。訓練所の土の床はリリのウォーターボールで濡れた。そして今は別のウォーターボールのコントロールに集中してる以上、地面に落ちた水はリリの意識の外にあるんだろう。

 けれど、地面が濡れたままだということは一時的に魔力が水の形を成している訳じゃなくて、魔力が水に変わったか、或いは魔力を使って水分を集めたって事になると思うんだよね。シャルロットのちょっと本気出す時に羽からでる虹色の光は霧散していくからね、それと水魔法は別の性質みたい。


 ギルマスが砂漠で水魔法使いがどうこう言ってたし、空気中の水分を操作してって考えるよりも魔力を水に変化させたって方が正しい気がする。まぁ水魔法が全て同じ物ならって条件はつくけどね。

 

 でもずっと気になっていたことがあるのだ。水魔法の水って一体何を指してるのかって事だね。これがずっと気になってたの。


 例えばお風呂に入った時に、人それぞれ感想があると思うんだよね。誰かはぬるま湯だと言うだろうし、誰かはこんな熱湯に入れるかと言うかもしれないし、誰かはこんなの水風呂じゃんと言うかもしれない。ならリリが出す水ってなんなの? 水温は? 硬度は? 成分は? 味は?

 この辺りをリリがコントロール出来るのであれば零度の水、つまり氷を出せるんじゃないの? それが気になっている。今はまだ春の途中だからいいけど、やっぱり夏になったら私はアイスが食べたいのだ。冬に食べるアイスだって乙なものだしさ。是非とも氷を出して欲しい。


 ギルマスが応用しだいで別の魔法と同じような事が出来るって言ってた。氷を直接出すのが氷魔法だったとして、例えばマイナス何十度の水を出して、刺激を与えれば結果的に凍ったりするんじゃないの? なんかそういう商品とかあったよね? キンキンに冷えたジュースを振ったらシャーベットみたいになるやつ。それと同じこと出来るんじゃない? 過冷却って言ったっけ?

 何にせよ氷が使えるならかなり便利だよね。気になるなぁ。


「はい、結構ですよ。では少し休憩にしましょうか」


 少し離れた所で立って見ていた私の所へリリがやってきた。


「どうでした? わたくしの華麗な水魔法はご覧になりました?」


「うん、見てたよ! 凄いねー」


 私は手をパチパチと叩いてリリを褒める。正直途中から視界に入ってるだけで見てはなかったけど水が出るだけで凄いと思う。ギルマスの言っていた応用でどうのこうのを考えれば、私も代謝を一時的に強化して汗をバシャっと出すことが出来ると思うんだよね。擬似的水魔法! みたいな。まぁそんなの乙女的に死を意味するからやらないけどね。


「ねぇ、リリ。休憩中に悪いんだけど小さくて良いからウォーターボール近くで見せてもらえる?」


「かまいませんわよ!」


 リリがいつものお椀ポーズをするとウォーターボールが浮かび上がった。私はそこに顔を近付けてウォーターボールをパクッと飲んでみた。

 水温は結構冷たい。外気温と同じって事は無さそうだし、味は特にない。甘みがあるわけでも癖がある訳でもなく、言うなれば飲みやすい水って感じだ。


「ちょ、ちょっと! わたくしのお水を飲まないでください!」


「なんで? 魔法の水って飲んじゃダメなの?」


「そうじゃありませんけど恥ずかしいじゃありませんか! わたくしから出たお水でしてよ!」


 それは言い方次第だと思うわ。わたくしから出たって言うと酒場系水魔法使いっぽいけど、用意したとか言えば平気じゃない? 出たって言うからなんか出ちゃった感あるんだよ。


「ご馳走様でした」


「ッ! 喉が渇いたなら普通にメイドに言いつけなさい! まったくもう」


 リリは顔を真っ赤にしながらプリプリしている。そこまで恥ずかしがるとは思わなかったね。謝ろう。


「ごめんね? 喉が渇いてたわけじゃないけど、ちょっと飲んでみたかったんだよ」


「わ、わたくしの水魔法を?!」


「え、まぁうん」


 わたくしのとか付けるから変な感じになるんじゃん。普通に水魔法がどんな感じか気になっただけだよ。

 いつものメイドさんが私にグーサインを出してきたけど、これはそういうのではない。普通に知的探究心だよ!


「それで、飲んでみて何かわかったのかな?」


 気が付くとお爺さん先生が近くまで来てた。私たちの様子を見てたみたいだね。


「なんとなーく、気になってた事はわかりましたよ。でも先生には内緒です」


 私はシーっと指を唇に当ててウインクをする。先生はきっと信頼されてるからリリの先生をやっているんだろうけど、私はあなたを知らないからね。世の中に水魔法使いがどの程度居て、どの程度の魔法が使えるのか、そして水魔法ってカテゴライズされる魔法は全て全く同じなのかもわからない。もしかしたら中には水魔法使いなんじゃなくて、液体を操作する魔法を使ってる人もいるかもしれないしね。

 リリの魔法能力によっては切り札にもなりうると思うから無闇に話すことは出来ないよ。

 午後になったら二人っきりでこっそりと実験してみようかな?


 休憩をおえてからもリリは魔法の授業に勤しんだ。魔法を使う度にドヤ顔でコッチを見てくるのは若干ウザかったが、小さな子供が授業参観で張り切っていると思えばまぁ愛らしくも見える。


 私はリリが少しでも楽しく訓練出来るように、少しわざとらしい程に凄い凄いとはしゃいで見せた。リリは小鼻をピクピクと動かして満更でも無さそうだったと言っておこう。

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