大移動と登録
追いかけっこが終わらないからシャルロットは胸に抱いて、新女王蜂は頭に乗せた。喧嘩しないでジッとしてなさい。シャルロットは私に抱っこされて上機嫌だね。おしり振って喜んでるけど、日に日に甘えん坊になってないかな? 帰ってきた先代の女王が甘えん坊になってる様子をみて、かつて仕えていたミツバチーズは何を思うんだろうか。
せっかくの機会だし、前から考えていた事をミツバチーズに聞いてみることにしよう!
「今近くの街に住んでるんだけど、キミ達の中に私と一緒に来たい子いない?」
ミツバチーズは寄り集まってガチガチブンブン会議をしてるみたい。集まってる子達は代表格のキラーハニービーなのかな? それと新旧女王蜂が会議に参加してないのが気になる。意外と権力ないの?
まぁ全員じゃなくてもせめて何匹か来てハチミツ作ってくれると嬉しいね!
しばらく待っているとミツバチーズ達は話し合いが終わったみたいで、一匹のキラーハニービーが私に一生懸命何かを伝えようとガチガチアゴを鳴らしてるけど全然わからん!
「ごめん、わかんない! 一緒に行く子はガチガチ鳴らしてくれる?」
私の声に合わせて森の中にキラーハニービーの威嚇音が鳴り響いてる。大合唱って感じだけど、もしかしてこれ全員来る感じかな?
「じゃあついてくる子はお引越し準備してー!」
個人の荷物とかあるのかわからないけど、着の身着のままじゃ寂しい。お引越しする子達のハチミツの取り分を後で請求しよう。うん、そうしよう。
女王蜂を放ったらかしにして行われている引っ越しの準備は、巣をある程度のブロックにバラして全部持っていくみたいだ。ハチミツごとお引越しできるのは嬉しいけど、持っていかないなら貰っていくよ作戦が出来ないのは残念だよ。
「よし、じゃあお引越し出来そうだし多分皆だよね? 皆で街へ出発!」
沢山お花の種を植えたけど、結局皆でお引っ越しだ。これ私が花の種植えたからここが嫌になったとかじゃないよね……?
街へ向けて出発した私たちは、新旧女王蜂を乗せた私が先頭を歩き、皆でデッカイ巣を持って数十匹で移動中だ。ざっと八十匹くらいは居そうだね。巣を空輸してるから走る事は出来ないし、安心安全にノンビリと行こう!
キラーハニービーの大移動は森の中で存在感を放っていただろうに、魔物に襲われることはなかった。流石にそんな無鉄砲な奴はいないらしい。
●
森を抜け、街道を行列を成して進む事約二時間くらいかな? ようやく東門に到着する。いつも空いてる東門は今日も空いているけど、流石にハチの群れが来たとあって門番さんも冒険者も臨戦態勢だ。
「すいませーん! 敵では無いので攻撃しないでくださーい! あ、門番さんやっほー! わたしわたし!」
いつもの門番さんは私の顔を見て驚愕に染まっている。他の皆さんは私が門番と知り合いだとわかって武器をしまってくれた。襲われなくて安心したよ。これ半分スタンピードみたいなものだからね。
東門利用者は、並ぶ事も忘れた様子でポカンとこっちを見てるので、その隙をついて門番さんのところまで行っちゃおう! 並ばない皆がいけないと思うな!
「ただいまー! 門番さん、檻用意して貰えないかな? このキラーハニービー達は身分証ないし、私が従魔登録の為に街に入れるよ。それなら平気でしょ?」
「ア、アレクシア殿は……?」
「村に帰ったよ? もしかしてアレクシアさんに惚れたの? ダメだよ? アレクシアさん結婚してるし」
アレクシアさんもカッコイイ系の美人さんだし惚れてしまう気持ちもわからないでもない。前回は短い時間だったのに仲良さそうだったし相性も良かったんだろう。でも私は浮気には反対だ。
「アレクシア殿が居ない時になんであえて東門へ来るんだ……。子供一人でさえ手に負えないのにこんな魔物の群れまで連れて一体私にどうしろと言うんだよ……もう辞めたい」
ブツブツと言いながら自分の世界に入ってしまった門番さんにもう勝手に入っちゃうよ、と声を掛けても止められなかったので皆を引き連れてそのまま門を潜った。あとで文句言われたらちゃんと確認したって言おう。
私とシャルロット以外は初めての街だね。
「みんな勝手にどっか行かないこと、勝手に何か取ったりしないこと、いいね?」
街へ入って歩きながら説明すると、全員がちゃんと理解したのかアゴをガチガチと鳴らす。門の近くにいた人はキラーハニービーの大音声に驚いて尻もちを付いてる。なんかごめん。
キラーハニービー達は代わる代わる私に張り付いて魔力を食べる。その度にシャルロットが少し不満そうにアゴを鳴らすのは嫉妬なのかな?
私たちが最優先で向かったのは冒険者ギルドだ。本来未登録の魔物は檻に入れなければいけないところを、どさくさに紛れてそのまま連れているから問題視される前に登録しなくてはならない。
だから冒険者ギルドで約八十匹分の申請書を出さなきゃならないのだ。言葉にするだけで大変だよ……。
注目を浴びながら街を練り歩き、ようやく冒険者ギルドに到着した。
中に入って受付をキョロキョロと見ていつものお姉さんを探す。ギルドにいる人達がキラーハニービーの大群を見てギョッとする中、いつもの受付さんだけは溜め息をついていたからスグに見つけることができたよ。
「やっほー! お姉さん、数日ぶりです! この子達の登録したいんですけど、お願いできます?」
「出来るか出来ないかで言えば出来ますけど、正気ですか? 何匹いるんですか?」
「数えてないね。たぶん八十くらいかな? そこで提案なんだけど、一匹一匹の登録はお互いに大変でしょう? だからミツバチーズってパーティみたいにまとめて登録できませんかね?」
「そんなの無理です。少なくとも私の裁量では決められませんよ。ギルマスに言ってください」
お姉さんは疲れた様な顔をしてギルマスに丸投げしようとしてる。この人仕事こなしてる感じは出しながら意外と欲望に忠実だよな。バタークッキーで情報売り渡したし。
ギルマスは上にいるから勝手に行ってくださいと言われたので向かう事にする。ギルドの入口やロビーは広いから皆入れたけど、流石に上に連れていくことは出来ないから私と新女王だけ連れて行こう。他の子達は受付のお姉さんに託した。お姉さん顔引きつってたよ。
ギルマスのお部屋をノックする。
「ノエルですけどギルマスいますか?」
「どうぞ」
部屋に入ると今日はサファイア色のドレスを着たギルマスがいた。髪飾りにバラを刺しているけど色は赤だね。植物魔法で青いバラは作れないのかな?
「急にくるなんてどうしたのかしら?」
「実は従魔の登録をお願いしたいんですけど、受付さんがギルマスに言ってって」
「わざわざ私に? ……嫌な予感がするわ。アレクシアが言っていたのはこれね。きっと近々何かやらかすからって言ってたけど流石に早すぎるわよ……!」
何やら一人でブツブツ言い始めたギルマスのナターシャさん。
「えっとですね、登録する従魔の数が多くて、全部申請書書くとお互いに大変ですよね? だからパーティ登録みたいにできないかなーって思ったんですけど……。無理そうですか?」
「それだと未登録と区別がつかなくなるから無理ね。そんなに書く項目も多くないんですから我慢なさい。多いって言っても商隊の馬車引いてるランドリザード程いる訳じゃないんでしょう?」
商隊の人達が何匹登録してるのか知らないけど、無理ならしょうがないか……。約八十匹も名前付けられないから番号を振ろう。ちょっと可哀想だけど、名前を付けると言うよりは便宜上の記号だね。
「何匹いるかわからないから一度皆連れてきても平気ですか? いや、順番に並んで来て貰おう」
巣を放ったらかしにできないけど、持ってくる事も出来ないし順番に並んで終わった子はどんどん巣の警備に戻れば平気かな?
「ちょっと待ちなさい。何匹いるかわからないって、指が足りなくて数えられないみたいな可愛らしい話よね? 十五匹くらいよね?」
「いえ、たぶん八十匹くらいですね」
申請書足りる? コピー機ないだろうからギルマスが手書きで申請書類作って、それに私が記入していく事になると思うんだ。
「お互い大変ですけど頑張りましょうね!」
私は気合いを入れてフンスと鼻息を出した。ギルマスのバラがシナシナになってしまった気がするけどたぶん気のせいだよ!