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お泊まりって早く寝ちゃったら意味ない気がする

「悪いけど妻を変な世界に連れていかないでくれるかな?」


 フレデリック様に文句を言われてしまった。変な世界とは何事か。私はしり込みしてしまったヘレナ様をそっと押してあげただけなのにさー。


「油断も隙もないね。それにしても、確かに今日のお昼に食べた甘いものとは一線を画した物だったよ。ミルクレープって言ったかい?」


「そうです。ちょっと面倒ですけど、難しい物ではないですよ」


 フレデリック様は単純に甘い、美味しいで終わらせるつもりはないみたいだ。難しい顔をして何かを考えている。


「わたくし、こんなに美味しいものは初めて食べましたわ!」


「リリに喜んで貰えてよかったよ」


 食事の時間はリリも虚ろな目をしてるからね。味の好みが私と近いのかもしれない。そうなるとお貴族様生活辛そうだ。


「ふん、平民にしてはよくやったと褒めておこう」


「あざーす」


 食事は終わったけどもう各々好きにしていいのかな? それとも閉式の言葉みたいなのがあるんだろうか。お昼は勝手に出てきちゃったからわからないや。

 フレデリック様は難しい顔をしたままだしヘレナ様に聞いてみるか。


「ヘレナ様、食事終わりましたけどこの後はどういう感じですか?」


「そうねぇ、フレッドも難しい顔してるし解散にしましょうか。アンドレ、お願いね」


 私たちはアンドレさん案内の元、また部屋に戻る。二階と一階の往復だ。


「ねぇアンドレさん。今度手が空いてる時にでも手合わせしませんか?」


「そうですね、手加減して頂けるのであれば是非とも」


 手加減って言うと感じ悪くなっちゃうけど、同じくらいの身体能力に強化しようとは思ってる。あくまでも手合わせであって命のやり取りじゃないからね、その辺は弁えてるよ。


「あら、それはわたくしも見たいですわね。やる時はちゃんと呼んでくださいましね」


「というかリリアーヌ様はどうして一緒にいるんですか?」


 アレクシアさんが私も思っていた事を言ってくれた。食堂出て解散だと思ったら何故かリリもついてきてるんだよね。


「だから一緒に寝ると言ったではありませんか!」


 リリは顔を真っ赤にしてそう言うがまさか本当だとは思ってなかったよ。8歳だから怖い話聞いて寝れなくなるのはおかしくは無いのかな? ご両親と寝ればいいと思うんだけどね。


 ●


 私達は部屋の備え付けお風呂に順番で入った後、眠ることにした。私とアレクシアさんが一緒にベッドを使ってリリを一人にしようとしたらギャーギャー騒いだよ。もてなすのだから隣に居なくては〜とか何とか言ってた。もてなすならお客様の意見を聞くべきだと思うけどね!


「はい、じゃあリリはこっちね。私はこっち」


「ええ、ええ、一緒に寝れるなら別にどちらでも構いませんことよ」


 シャルロットを真ん中にして私とリリはベッドに入る。これから三日間はリリと毎日寝る事になる訳か。三日以内にって設定作らなきゃ良かったかなと思う反面、三日目にアレクサンドル様に、いよいよ今日ですねと言うのが楽しみな気持ちもある。難しい問題だよ。


 リリが寝息をたてはじめてから、私はベッドを抜け出してアレクシアさんのベッドに忍び込んだ。


「どうした? まさか明日でお別れになるのが寂しくなったか?」


 アレクシアさんもまだ起きていたようで、そんな風に茶化してきた。


「違うよ。朝起きた時に私がベッドに居ないとリリが騒ぐかなって思ってさ。ノエルがクローゼットに飲み込まれましたわとか言って朝からギャーギャーと。面白そうじゃない?」


「イジるのも程々にしとけよ?」


 ため息をつきながらアレクシアさんは言う。リリは素直じゃないからね。変に強がらずに怖いから一緒に寝てって言えば意地悪はしなかったと思うよ。

 ただ強がりはリリだけじゃなくて私もだ。私はアレクシアさんの正面にシャルロットの様にしがみつく。


「いろいろありがとね、アレクシアさん」


「かまわないよ。私も十分楽しませて貰った。大冒険をした訳でもないのに、冒険者やってた頃を思い出したぞ」


 アレクシアさんにとってはよく知る街くらいしか行ってないのに冒険者時代を思い出すって、現役時代はどれだけ小ぢんまりした冒険してたんだろう。ご近所の散歩じゃん。


「何か困ったことあったら迷わず言ってね? 村にドラゴンがきましたーとかあったら首へし折るし、フェンリルがきましたーとかあったらちゃんと躾して番犬にするよ」


「あのウルフみたいにか?」


「そうだよ! ちゃんと目を見て怒ると良いんだって」


「んなアドバイスされてもノエルにしかできないよ。頻繁に村に戻るつもりなんだろ?」


「うん、一応そのつもり」


「それならほんの少しの間お別れだ」


 いつまでもしがみついて離れない私を、アレクシアさんはそっと抱きしめたまま眠りについた。冒険者をやってたアレクシアさんは色んな別れを経験してきただろうな。活動拠点を変えた人とか、依頼で別の街に行ったりもあっただろうし、中には死別もあったと思う。そう考えると今回のお別れなんてのは、アレクシアさんにとってはじゃあまた明日な、くらいなものなのかもしれない。


 私もそう思っていたつもりだったんだけど、やっぱりいざお別れが迫ると寂しさが込み上げてしまうのは仕方がないよね。

 近々シャルロットの巣にも挨拶に行こう。シャルロットだって皆に会いたいかもしれないもんね。そんな事を考えながら眠りについた。


 ●


「アレクシアさん! 大変ですの! ノエルとシャルロットがクローゼットに飲み込まれてしまいましたわ!」


 朝、そんな騒がしい声と共に目が覚めた。シャルロット居なくなってるの? あ、私の背中に張り付いてるね。いつの間にこっちに来たのか。


「それは一大事ですね。リリアーヌ様、クローゼットを開けて確認してみては?」


 イジるのは程々に、とか言ってた割に起き抜けにいじってるじゃん!


「で、ですが……わたくしは……。いえ、お友達を見捨てる訳には行きません! 開けます、開けますわよ! 開けますからね!」


 ひょっこり顔を出して見てみると、リリはクローゼットの前で深呼吸を繰り返している。恐怖心を抑えつつ、私の為にクローゼットを開けるつもりみたいだね。仕方ない、今のうちに自分のベッドに戻ろう。ささっと音を立てないようにベッドに潜り込む。


 ガンっと大きな音を立ててリリはクローゼットを開けるが、そこには当然何もいない。


「い、いませんわ! アレクシアさんどうしましょう!」


「いえ、リリアーヌ様のお陰でノエルたちは助かった様ですよ」


 今頃多分私の入ったベッドを指差してるんだろうな。


「ノ、ノエル! 怪我はありませんか! 大丈夫ですか!」


 心配してくれたリリが駆け寄って、意識を失っているフリをしてる私を揺り起こす。


「うぅ……あなたはだぁれ? くっ、頭が……」


 普通に助けてくれてありがとう、怖かったよーで終わろうと思ったんだけどイタズラ心がひょっこりと顔出しちゃった。アレクシアさんは呆れた顔をしてる。


「そ、そんな……。ノエルはわたくしの事を忘れてしまったの? わたくしよ、あなたの大親友のリリアーヌよ! 思い出して! リリ、ノエルって呼びあっていつも一緒にあそんでいたじゃない!」


 この子どさくさに紛れて変な記憶植え付けようとしてない? 昨日会ったばかりだからエピソード弱くない?

 

「うぅ、思い出しそう」


「忘れなさい! 無理に思い出さないの!」


「バカやってないで朝の支度しろ」


 アレクシアさんから終了の合図が入ったね。


「はぁーい」


「ふえ? だ、騙しましたわね!」


「そんなことないよ? 大親友のリリ?」


 リリは顔を真っ赤にして口をモニョモニョと動かすだけに留まった。これ以上恥はかかないようだね。


 ●


 

 アレクサンドル様を除いた辺境伯家の皆様と私で、玄関でアレクシアさんをお見送りだ。


「今生の別れでもあるまいし、んな泣きそうな顔するな」


 アレクシアさんは私の頭をクシャクシャっと撫でる。どうやら私は半ベソをかいているらしい。最近は別れの連続って感じで敏感だよ。


「少し癖のあるヤツですが、どうか宜しくお願いします」


 アレクシアさんがフレデリック様に丁寧に頭を下げたので、私も慌てて一緒に下げた。フレデリック様は力強く頷いてくれた。だけど、任せろ的な事を言わないのは下手に言質を取らせない貴族的な立ち回りってわけじゃないよね?


「それじゃあ元気でやれよ。……ほら手離せって」


 おっと、知らぬ間にアレクシアさんの服を掴んでたみたい。


「元気でね」


 私は最後にぎゅっと抱きついてから見送った。お別れ慣れっこのアレクシアさんはそのままいつもみたいにドアをくぐって行った。村まで、或いは街の門まで見送りにいっても良かったけどキリがない。ここでお別れだ。

 しょぼくれてしまった私を、ヘレナ様が後ろから抱きしめてくれた。

 いつまでもしょぼくれてたら、せっかく迎え入れてくれた辺境伯家の皆様に失礼だ。早く気持ちを切り替えよう。

  

「お母様! それはわたくしの役目ですわよ!」

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