リリアーヌ様との一幕
誤字報告ありがとうございます。大円団だと思って生きてきました。
私とアレクシアさんが部屋に帰ってくると、何故かリリアーヌ様がお茶を飲んでいた。
「遅いですわよ」
そんなまるで遅刻したみたいに言われても約束してなかったよね。
「家族会議は終わったんですか?」
私とアレクシアさんはとりあえず対面のソファに座ると、リリアーヌ様のお付のメイドさんが私たちの分の紅茶を入れてくれる。
「終わりましたわよ。今日からはわたくしもここで寝る事になりましたわ。お父様とお母様はいつも通りお二人で寝るそうです」
それってアレクサンドル様ひとりぼっちじゃない? まぁ余計な事言ってじゃあ助けますかと言われても困るし黙っとくけどね。
「でもベッド二つしかないですから、ソファで寝てくださいね?」
「ちょっと! 一緒にベッドに入れてくれてもいいではありませんか!」
「仕方がないですね。それでは私とアレクシアさんはリリアーヌ様のお部屋で寝るので、ここのベッド二つとも使っていいですよ」
「一人にしないでくださいまし!」
……この子シャルロットと同じでイジると可愛いぞ? 私はシャルロットを抱っこしてギュッとする。
「シャルロットにライバル出現だね」
シャルロットは必死にイヤイヤしているけど、ライバル出現が嫌なのか、同列に扱われるのが嫌なのかはわからない。
「わたくしがお姉さんなのでノエルさんと一緒に寝てあげますわ! 仕方がないですわね。感謝なさい」
「いやいいですよ。アレクシアさんと寝るので」
アレクシアさんも怖がってたからね。アレクシアさんはそっと私の肩を抱いたので私も頭を肩にのせる。フフフッ、さすがに入れまい。
「さ、三人! 三人で寝ましょう!」
リリアーヌ様のあまりの必死さに若干引きつつ、まぁ好きにしてくださいとテキトーに流す。まさかそれを話したくて来たわけじゃないよね?
「では仲良く三人で寝ましょうね。ええ、そうしましょう。それはそうと、ノエルちゃんは明日からどう過ごすつもりですの? な、なんならわたくしと一緒に家庭教師の授業を受けますか?」
なぜ異世界まで来て授業受けなきゃならん。内容にもよるけど基本お断りだよ!
「明日はアレクシアさんのお見送りっていう大事な用事があるので遠慮しておきますよ」
私はすまし顔で紅茶を飲む。この紅茶、茶葉の香りがしっかりと感じられて美味しい。辺境伯家で出されるんだから高いんだろうな。
「無理して見送りにこなくてもいいぞ?」
「無理ってなに? お見送りに無理するような事もないでしょ?」
一緒にいるんだからその気になればこの部屋でもお見送りはできるじゃん。無理要素はないよ。
「それでしたら仕方がありませんわね。お見送りの後はどうなさいますの?」
街で暮らす事になった訳だし、色んな所に挨拶回りがしたいかな。協力してもらったジェルマンさんとかマリーさんには事の顛末を話しておきたいし。
明日じゃなくて良いけど、冒険者やったりとか、アンドレさんと手合わせしたりとか? 結構やる事は目白押しだね。
「やらなきゃいけないことたくさんあるかも?」
「そ、そうですか」
心なしかリリアーヌ様が眉尻を下げて悲しげな顔をしている。フレデリック様がリリアーヌ様はお茶会で何か言われてから心を開かなくなった、みたいな事言ってたし友達がいないんだろうなぁ。その割りには結構グイグイ来てる気がするけど……。
アレクシアさんからは肘で突っつかれて、メイドさんからはジトっとした目で見られている。私の味方はシャルロットだけだ。魔力おいちいねー!
「でも、まぁずっと忙しい訳でもないでしょうし? リリアーヌ様がお勉強してる間に用事を済ませれば暇になるかな?」
「まぁ! それでしたら仕方がないですからわたくしが構って差し上げますわ! 屋敷の案内も必要でしょうし、平民の方は知らないでしょうけど先日絵本って素敵な物も頂いたのでお見せしますわね。仕方ありませんからね、ええ」
まさに花が咲いた様に満面の笑みを浮かべて早口でそう言ったリリアーヌ様。たぶん待ってる間とかずっとこうやって誘おうってイメトレしてたんだろうな。涙ぐましい努力の跡をみたよ。
「えっと、ありがとうございます?」
アレクシアさんは顔を逸らして笑ってるし、メイドさんは頷いてから紅茶のおかわりを入れてくれた。きっとこのメイドさんは私が遊ぼうとしなかったら紅茶入れる気なかったね。フレデリック様からも仲良くして欲しいって言われてるし構わないけどね! でも貴族の子って何して友達と遊んだりしてるの?
「リリアーヌ様はいつも御友人の方々とはどのようにお過ごしなんですか?」
「ノエルちゃん、普通に喋ってもよろしくってよ? 平民の方には難しいのでしょう?」
まぁ正直助かる。お貴族様相手に丁寧に話すってどうすればいいかよくわからないからね。
「ありがとう! じゃあリリって呼んでもいい?」
「え、ええ。構いませんわよ? リリ……。リリですか」
リリはティーカップを持ってお澄まし顔でリリリリ言ってる。変な鳴き声のキャラみたいになってるよ。メイドさんは私にグーサインをだしてる。このメイドさんも癖強そうだよね。
「それでリリはいつも友達と何してるの?」
「えぇ、わたくしはリリですわ。わたくしもノ、ノエルって呼びますわね」
それは好きにしていいよ……。お貴族様は何して遊ぶのか教えて欲しい。まさか原っぱ走り回ったりしないでしょ?
メイドさんが目を閉じたままゆっくりと首を横に振っている。
「なぁ、リリアーヌ様は友達いないんじゃないか?」
アレクシアさんが耳元でそう言ってきた。そういえばそうだった……。酷なことを聞いてしまったよ。話題を変えよう。
「リリは普段お勉強以外だと何してるの? 何するのが好き?」
「お勉強以外ですとお茶を飲んだり、魔法の練習をしたりですわね。後は先程も話した絵本を読んでおりますの。今人気の妖精さんという方が手掛けている商品なんですけど、その方の作る物は小さい子向けやお外で遊ぶものが多くって……。お兄様はよろこんで遊んでおりましたが、わたくしのような淑女はどうしても難しいでしょう? なので絵本は本当に嬉しかったんですのよ。寝る前に読んで差し上げますわね!」
確かにレオの成長に合わせたものを優先して作ってたから小さい子向けが多いんだよね。それに村では外で遊ぶのがメインだったしなぁ。ご令嬢向けの商品も考えるべきかな? でも小学生女子とご令嬢は同列には扱えないと思うんだよね。可愛い小物とかビーズアクセサリーみたいなの作っても、ご令嬢なら宝石とか付いた豪華なの買うでしょ? それなら普通にいらないよね。まぁ追々考えていこう。
「貴重な意見ありがとね」
リリはキョトンとした顔をして、メイドさんは今の一言で察したのか驚愕の表情をしている。
その後リリは心の壁など無いかのように、ずっと喋り続けた。今まで同年代の子に話したかったあれやこれを貯め続けた分、吐き出したんだと思う。
これはリリと私が仲良くなった、というよりは年齢も身分も下の相手だから気負うこと無く話せたんだろうね。リリが家庭内や外でどんな風に振舞っていたかは知らないけど、やっぱり友達は欲しかったんだろう。フレデリック様の願いを叶える為に私が仲良くなるというのも一つの手ではあるけど、色んな人と友達になれるようにサポートしてあげるのが一番なんだろうな、といつまでも一方的に話し続けるリリを見て思うのだった。