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初めてのショッピング!

 朝が来た。あの後アレクシアさんが正気に戻って私を探すまでお風呂に入り続けた。産湯ぶりのお風呂は最高に気持ち良かったよ! 普段から清潔にしているハズの私でも、湯船にゆっくり浸かっていると結構な何かが乙女的に言えない感じで湯船に出てたね……。何度かお湯を貼り直したよ……。


 元々若さ故にタマゴ肌だったけど、お風呂に入って綺麗に磨かれた今の私は、もうとぅるんとぅるん。今ならどんな狭い隙間でもとぅるんと通れてしまうくらいにぷりっぷりのとぅるんとぅるんな輝く美肌になっている。


 お風呂から上がってどれだけお風呂が素晴らしい物かアレクシアさんに小一時間力説したけど、ウンザリした顔で入ればいいんだろと言っていたね。ちなみにアレクシアさんは暑いの一言でさっさと出てくる烏の行水スタイルだった。サッと湯通しして終わり。


 もう一つ楽しみにしていたディナーはレストランでも食べられるけど、ルームサービスも頼めるという事でルームサービスにした。最上階にあるレストランがどんな所か気になったけど、私達はテーブルマナーがわからないしアレクシアさんが限界だったから仕方ないね。


 肝心の料理は……うん。私の口には合わなかったというのが本音だ。香辛料がふんだんに使われていて、けれど味としてはギリギリ纏まっているような、そんな味付けだった。香りが兎に角強くて、辛味の強い料理や苦味が強い料理などなど凄く味が濃い。

  これだけ沢山の香辛料を使っても料理としての体裁が整っている辺り、シェフの技量の高さと料理研究にかけた時間の重みが感じられて感服したよ。でも私の口には合わなかった……。


 デザートに果物の盛り合わせが出てきたのが一番美味しかったよ! 前世食べていた果物よりも野性味が強い? 雑味が強い感じがしたがそんな事はどうでもいい程美味しかった。涙が出る程美味しかったよ。


 お母さんの為にジャムを買って帰ろうね! パンに乗せるんだ! きっとお母さんも感涙に咽び泣くと思うよ。


「マリーさんが三の鐘がなったら迎えに来るって言ってたけど今は何の鐘なの?」


「二の鐘は朝食食べてる時に鳴ってたからもうすぐじゃないか?」


 アレクシアさんも一晩寝た事で体力が回復したみたい。起きてもゲッソリだったらこの宿でお留守番させるつもりだったから元気になってよかったよ。

 ちなみに朝ご飯はシンプルなパンとスクランブルエッグにサラダだったよ。正直豪華な夕飯より美味しかった。



  

 私達はロビーで待つのは居心地が悪そうだったから宿の外に出てマリーさんの到着を待つ事にした。外へ出てみると、昨日とは打って変わって雲ひとつ無い快晴だ。陽射しを受けているとポカポカと暖かい春陽麗和のなんちゃらって感じだね。

 

 宿の入口に立っている警備兵に睨まれない様に少し離れた壁際でぼーっとマリーさんを待つ。楽しい楽しいお買い物は、村に持ち帰る事も考えると今日買えるのは日持ちする調味料なんかがメインになるだろうね。砂糖の補充は欠かせないし、バニラエッセンスとかシナモンとかベーキングパウダーも買えるといいなー。チョコとかココアパウダーとかあるかな? ゼラチンとか寒天、生クリームとバターも欲しい。何があって何がないのかわからないけど、楽しみで楽しみでしょうがないね!


 そんな事を考えながら待っていると鐘が鳴り始めた。お寺の鐘とは違う、少し甲高い鐘の音が三回短い感覚で鳴り、その後長い間隔で三回鳴らされた。


「これが三の鐘?」


「そうだぞ。最初に短く三回鳴っただろ? それは鐘を鳴らす合図みたいな物で、その後に鳴った長い間隔の数を数えるんだ。今は三回鳴ったから三の鐘だな」


「へー」


 じゃあ四の鐘なら三回鳴ってから四回鳴るって事ね。……わかったけどわからんね。朝起きた時に鐘が鳴るまで何時かわからなくない? 起きてノンビリ学校やお仕事行く準備してたら既に大遅刻、みたいな事が有り得るじゃん。街怖すぎるよ……。


「お、あれマリーさんじゃないか?」


 マリーさんがやってきたみたい。鐘が鳴ってすぐに来たってことは、もうそろそろ鐘が鳴る気がする、みたいな勘で出発でもしたのかな? 街の人達鐘に調教されてない? 街の皆の出勤時間が何時の鐘か知らないけど、きっとその鐘が鳴ると虚ろな目をした人達が次々と家から出てくるんだろう。完全にホラーだよ……。


「おはようございます。ノエルちゃんもおはよう。お待たせしてしまいましたか?」


 ロビーに居るはずの私達が外で立っているからかマリーさんが心配そうにそう尋ねる。

 

「おはよう。どうもただの村人の私らにはお高い宿はちょっと……な。だから外で待つ事にしただけだよ」


「そうでしたか……。それはすみませんでした。でしたら今日は別の宿をお取りしましょうか?」


「あぁ、悪いけど頼むよ……。出来るだけ何も触らないようにするのは精神的に疲れる」


 アレクシアさんは豪快な性格に見えて意外と小心者だね。私はもう慣れたよ。ただお料理があれだったから宿替えは賛成かな。

 マリーさんは宿の受付にチェックアウトを伝えに行った。

 

「では後で別の宿にもご案内しますね。それでは中心街のセラジール商会へ行きましょうか」


 中心街というのが多分お高いエリアなんだろう。宿を出発して五分くらいだろうか、本店とは趣きが全然違うセラジール商会という看板が掲げられたお店に着いた。武骨でシンプルな本店とは違う、綺麗な装飾の施された建物は本店より人の出入りが少ない。普通の人は本店の方でお買い物をして、富裕層がこのお店なのかな? 店内も広々としているし、お客さんより従業員らしき人の方が多い。人気ないのかな……?


 マリーさんは店内に入るとお店の従業員に目配せをした。同僚に挨拶でもしたのかな。


「ここが中心街の店舗です。買う物はお決まりですか?」


 店内をキョロキョロ見回している私の背中をアレクシアさんがトンと押した。


「えっとね、お料理に使う調味料とかお菓子作りに使える調味料とか、そういうのが見たいんだけどある?」


「あら、ノエルちゃんはお料理が好きなの? お料理関係の物は沢山あるよー。じゃあ一緒に行こっか!」


 ニコニコのマリーさんとお手手を繋いで食料品エリアを目指す。商品棚を見ながら歩いていると気が付くことがあった。棚に並べられた商品が一種類に付き二個ずつくらいしか置いてないとか、いくら何でも商品が少なすぎる。多分棚に陳列されてるのは見本みたいな物で、お客さんに渡す売り物は別の所にありそうだね。


「とうちゃーく。ここがお料理関係の物があるエリアですよー。ノエルちゃんが欲しい物が見つかるといいね!」


 ふおおおおおお! 棚にチョロチョロと置いてあるだけだから物悲しいけど、それでも色々ありそうだ!


「お砂糖! お砂糖は絶対買う! パイ生地とかは流石にない? チョコは? シナモンは? 何がある? 味噌とか醤油はないのかな」


「おぉ、ノエルちゃん大興奮だ! お料理が好きなんだね」


「砂糖は買う! これは生姜? シナモンある! シナモンも買う! ハチミツも買う! あ、ニンニクもあるじゃん。バターは……なくね? 無塩バター欲しいんだけど、あと生クリームも……。というか乳製品がない……? そもそもお菓子作りに使えるものがあまりない……ウッソだろお前」


 チョコとかココアパウダーは無いだろうなぁと思ってたけど、乳製品無いとかあんまりじゃね? ワザワザ街まで来たのにお菓子作りの材料ほとんどないじゃん。ゼラチンもないじゃん。バニラエッセンスもないじゃん。寒天もないじゃん。砂糖とシナモンとハチミツしかないじゃん。……あかん、涙出てきた。


「ど、どうしたの? どこか痛い?! アレクシアさん! なんかノエルちゃんが泣き出しちゃったんですけど!」


「どした? さっきまで興奮してたじゃん」


「……ないの。欲しいの全然ないの。街だから期待したのに裏切られた。こんなの街じゃないよ。田舎の商店街より品揃え悪いじゃん……」


「……お前流石に失礼だぞ。悪いなマリーさん。こいつ欲しい物が見付からなくて拗ねてるみたいだ」


 ……確かに凄い失礼な事を言った。私が街の大きい商会を想像した時に、勝手に前世のスーパーみたいな想像をして、想像と違っていたからって品揃えが悪いとかホント自分勝手で最低だ。これは反省しなければならない。


「そうでしたか……。ノエルちゃんごめんね? どんな物が欲しかったの?」


「乳製品……。失礼な事をいってごめんなさい」


「そっかー……。あのね、乳製品は悪くなっちゃうといけないから別の涼しくて少し暗い所にあるんだよ」


 ……冷蔵の棚じゃないもんね。勘違いして落胆してたわけか……。


「……くっ、殺せ!」


「殺さないよ?!」

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