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リラックス出来るかどうかは意外と才能が必要

 辺境伯からの連絡があったら宿に知らせてくれるそうだ。それまでは街の観光と洒落こみます!


 街に行きたいと言ってから凡そ二年掛かってしまったけど、来てみれば呆気ないほど簡単に辿り着いてしまったなぁ。退屈さを考えれば簡単でもないか。


 マリーさんに案内されて歩く街並みは、最初入ってきたばかりのごった返していた所とは全然違う。露店もないし、歩いている人は疎らで、警備員だか衛兵だかわからないけど巡回してる人が多い。この辺はもうお高いエリアなのかな?

 道幅も広くて、綺麗で大きいお店やお家が多いけど、なんというか閑散としてて寂しく感じる。庶民向けのエリアはお祭りみたいな活気があったのにな。


「もうそろそろ宿が見えてきますよ。ノエルちゃんは大丈夫ですか? 疲れてませんか?」


「大丈夫だよ! 宿とジェルマンさんのもう一つのお店はどっちが近い?」


「ここからは宿の方が近いですね。ただ時間も時間なので、お店へ案内するのは明日にしましょうか?」


 マリーさんの言うように、もう夕暮れって時間帯だ。お店が何時まで開いてるか知らないし、急かされるのも嫌だから明日でいいなら明日がいいかな。楽しみにしてた分、早く買いたいけど今日買っても明日買っても変わらないしね。閉店間際の店内ってお店の人に早く帰ってくれないかなとか思われてるんだろうなって気になってゆっくり選べないよね。


「じゃあ悪いけど明日にしてくれるか? 私はなんだかもう疲れちまったよ」


 アレクシアさんは元冒険者なのに意外と体力ないね! よっぽど疲れたのかオルガちゃんが怒られた後のしょぼくれた歩き方してるじゃん! 流石親子、なんでウチがーって言ってるやつだね。


「わかりました。では三の鐘が鳴りましたら宿へ伺いますね」


「あぁ、悪いな。頼むよ」


 ……? 街用語みたいなのが飛び出して来たのに平然と会話が続いてるぞ!


「ねぇ、三の鐘ってなに?」


「あとでな、あとで」


「むー」


 アレクシアさんがもうクタクタで私の扱いがおざなりだ。今日街にいる間に何度か聞いた鐘の音が時報みたいな役割なんだろうけど、何回も叩いてたしどう聞くのかがわからないよ。


「そう拗ねんなって」


「フフッ。ノエルちゃん、今日泊まるお宿が見えてきましたよー。あれです! あの大きいお店ですよ」


 マリーさんが不貞腐れた私を元気付ける様に話し掛けてくれた。マリーさんが指を差した先は石のレンガで出来た大きい建物が見えた。入口横に立っている二人は警備兵かな? 入口の上部にはアーチ状の明かり窓、一階の正面の壁には中の様子が見えるように大きな窓が二つ作られていて、店内の柔らかい明かりが外へ漏れている。建物の上の方には何かの石像やら装飾なんかも付けられていて、今日見た建物の中では一番オシャレな少し縦長の建物だ。


 ジェルマンさんのセラジール商会は大きくて武骨って感じだったけど、ここが高級ホテルだと思えばオシャレなのも頷けるよね。でも正直こんな立派なのは想像してなかったよ。私の想像してた今日の宿は旅館みたいな物だったけど、これじゃまるで銀座の高級ブティックだ。お金足りるの?


 慣れた様子でどんどん宿に向かっていくマリーさんの後ろを、少し気後れしながら私とアレクシアさんがついて行く。


 中に入ると、少し高い天井にはシャンデリアが煌々と輝いていて、床全体には赤い絨毯が敷かれている。壁際にはツボや絵画などが下品にならない程度に飾られているが、私にはそれが良い物かどうかなんて少しもわからない。


 マリーさんは迷いなく受付まで歩いていく。村娘スタイルの平民と冒険者スタイルの平民が来ていい場所じゃなくね? 居心地が悪くてしょうがないよ。


「いらっしゃいませ、マリー様」


「二人部屋は空いてますか? ランクは高ければ高い程良いのですが」


「すぐにご案内できるお部屋ですと、デラックスのツインがございますが、如何なさいますか?」


「そうですね、ちょっと待ってください。アレクシアさん、デラックスのツインで大丈夫ですか?」


「わ、わたしはわからないからマリーさんに任せるよ。ノエルは?」


「……アレクシアさん、私にわかると思うの? 七歳だよ?」


 元B級冒険者が魔物を前にした新人みたいにアワアワしてるよ。なんだか街に来てから頼れる姉貴的なキャラ崩壊してない?


「じゃあそれでお願いしますね。支払いはセラジール商会が持つので後日請求してください。それじゃあ明日、三の鐘がなったら迎えに来ますので、ロビーで待ち合わせしましょう」


 商会が立て替えてくれるのか、商会に預けてある私のお金から引かれるのかわからないけど、取り敢えず泊まれるならよかったよ。アレクシアさんは首を縦に振ってマリーさんを見送ると深い、深ーい溜息をついた。


「はぁぁぁぁぁーー…………」


「アレクシアさん、周り見てみ?」


「なんだよ、私もうホント疲れて……」


 マリーさんからの質問とかで多分一杯一杯になっていたアレクシアさんは、マリーさんを見送る事で日常に戻ったと勘違いしたらしい。私に言われて今自分が何処にいるのか思い出したのかまた顔が引き攣っている。


「お待たせ致しました。お客様のお部屋にご案内致しますのでこちらへどうぞ」


 壮年の男性従業員の案内に従って、私たちはまるで親について行くカルガモの様にヒョコヒョコとついて行く。


 受付の両側に付いている階段を上り、三階の奥にある部屋へと案内された。


「お疲れ様でした。こちらがお客様のお部屋になります。問題はございませんか?」


 アレクシアさんは返事も出来ず頷くばかりだ。従業員さんはアレクシアさんの状態を察したのか室内に宿の案内情報が書かれた本があるからそれを見て、それでもわからなかったり何かあれば呼んでと言って去っていった。気を使わせてしまったみたいだね。まぁ長々と使うかわからないサービスの話されても面倒だしそっちの方が助かるよ。早速お部屋探検だ!


 私たちの今日泊まるお部屋は、入って少し狭い廊下を通ると正面にベッドが二つ並んでいて、その更に奥にローテーブルとソファが設置されている。玄関すぐ左側にはクローゼットが、右側には洗面所、更に中にトイレ、お風呂がある。そう、お風呂がある!


「アレクシアさん! お風呂! お風呂があるよ! この宿にしてよかったね!」


「そうかい、私はいつもの安宿がよかったよ。おざなりに二階の奥だよって鍵を投げ渡されてさ。それで勝手に部屋に行くんだ。部屋も汚いから今更汚す心配もなくて雑にテキトーに過ごす、そんな宿が私は良かった……」


 アレクシアさんは部屋の奥にあるソファに座らず、何故かその手前にある壁際の執務机の椅子に座ってグッタリとしている。その椅子は書き物とかする場所でゆっくりするところじゃないと思うよ?


 可哀想に、村から街に来るまでの移動で疲れてしまったみたいだね。今はそっとしておこう。


 私は気になるお風呂をちゃんと見に行こうと、バッグをベッドに放り投げてから洗面所に入る。洗面台には蛇口みたいな物が取り付けられていて、上部には小さい宝石がくっ付いているね。これってやっぱり蛇口だよね?  宝石のような所を押してみると蛇口から水がジャージャー出て、水は洗面台の穴へと流れて行った。凄いじゃん! この世界にこんな道具あったんだね! 上下水道完備じゃん!


「アレクシアさん! 水が出たよ! 水だよ! 見てみて!」


「……街までの案内って聞いてたし慣れ親しんだ街だし特に問題はない、そう思ってたのになぁ。慣れ親しんだ街は私の知らない顔も持ってた。初めて街へ来た気分だ。いったいここはどこなんだよ、なんで私がここにいるんだ……? それに皆して私に聞いてくる。私はただの付き添いで……」


 ダメだ。アレクシアさんもブツブツ言いながら一人旅を始めてしまった。エリーズさん親子の十八番だと思ってたけどあの村に住む人の特性だったみたい。きっといつか私も発症してしまうのだろう。


 お風呂もちゃんとお風呂してるよ! 浴槽があって、赤い蛇口と水色の蛇口がある。これは多分お湯と水を同時に出せってことかな? でもシャワーがなさそうだ。体洗わないで湯船に入れってことか……? 湯船で体洗うの? なんか凄い抵抗あるよ……。


 部屋にある本を先に読めば良かったかな。何にせよ念願のお風呂だ!

 

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