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反省と気付き

 一つ気が付いた事がある。私はひょっとしたら冒険者に向いていないのかも知れない。ぴょん吉の時もそうだったし、今の犬もそうだ。全くと言っていいほど脅威に感じないから、攻撃が出来ないのだ。子犬がちょっとイタズラをしたからといって本気で殴る事なんてできない。……そもそも私は動物が好きなのだ。


「……私冒険者できないかも」


 ションボリとしてしまう。


「……そうか。ノエルは優しいからな。ただな、ノエルにとっては弱っちい生き物に思えたかもしれないが、今日見たホーンラビットだって、さっきのウルフだって、普通の人からすれば十分命に関わるんだよ。冒険者だって奴らに殺された人もいる。ホーンラビットに角で刺されれば簡単に体に穴があくし、ウルフも手や足に噛み付いて引き倒した後に首を裂いたり骨を噛み砕いてくる。全ての魔物を殺せなんて言わないが、さっき見逃したウルフもいつか誰かを殺すかもしれない、その事は忘れるなよ」


 ……そっか。私は魔物との戦いを試合とか手合わせと同列に見ていたのかもしれない。だからワクワクしていたし、楽しみだったのだ。戦った後、あの一撃は中々良かったですね、なんて感想を語り合うことも無いし、お互いアドバイスをする事もない。命のやり取りだということをまるで理解していなかった。


 私が見逃したウルフも、ぴょん吉もいつか誰かを殺すのかな。それがもし私の知り合いだったら私は自分を許せないかもしれない。じゃあ今後見つけた魔物は全て殺す? ……見つけ次第根絶やしにする様に?


 ……正解はまだわからないけど、何だかもう森で魔物を探す気分では無くなってしまった。それより早くお父さんやお母さんにレオ、それにエマちゃんやオルガちゃんや村の皆に会いたくなっちゃった。


 心に凝りが残る。このままじゃ楽しくないしなんかこうモヤッとする。心に溜まったこの黒い感情を一度全部吐き出そう。


 私は身体強化をマシマシに掛けて目の前の木を思いっきりローキックする。私が蹴った部分は大きな音を立てて砕け散り、残った上の部分がだるま落としの様に落ちてくる。それも手当り次第殴ったり蹴ったり大暴れをして、最後に大声を出した。


「うがあああああああああ!!」


 そこかしこで生き物が逃げていくのを感じた。鳥は一斉に飛び立ち、獣は声を上げて走っていく。

 

「スッキリしたか?」


「……微妙」


「……そうか。にしても派手に暴れたな。お前普段どんだけ手加減して私と手合わせしてたんだよ……」


 私の周りはバラバラに砕け散った木の破片とボコボコに凹んだ地面で荒れ果てている。さながら爆心地だ。


「もう森出て街に行こう! なんか精神的に疲れちゃった。アレクシアさん抱っこして」


「ったくしょうがねぇなぁ。今回だけだぞ? ってお前獣臭っ! さっきより臭くなってんじゃんか!」


「だから女の子に獣臭いとか言うな!」




 森から脱出してまた土の道に戻ってきた。ここからは寄り道しないで真っ直ぐ街を目指そう。


「それじゃ腹も減ったし飯くいながら歩きますか」


「もうそんな時間? 何か美味しい物が食べたいけど、それは街に着いてからのお楽しみにして、今は固いパンで我慢しますかー」


 私は持ってきたカバンに手を入れてお昼ご飯用の革袋を取り出す。なんかやけに軽いな。……というか何も入ってない……?


「アレクシアさん、お昼ご飯落としちゃったかも」


「いやさっきウルフにパンあげてたじゃん」


「…………」


 ぴょん吉だけでは飽き足らず、ウルフまで私のことをコケにしてくれたようだね。やっぱり魔物は人類の敵だ! アレクシアさんは自分の荷物から黒パンを取り出してむしゃむしゃと食べ始めた。自分だけズルいじゃんか!


「ま、自分でやったんだから我慢するこった」


「ぐぬぬぬぬ……。ねぇ走らない? 全力で走ったら直ぐに着くよ?」


「アホか。ノエルが全力で走ったら私が付いていけないわ。恐らくだが強化系の魔法が使えるんだろ?」


「あれ? 言ってなかったっけ? 身体強化ができる魔法だよー。だから力は強いし、頑丈だし、足も速いし、病気にもならないし、頭もいいの。結構便利だよね」


「便利なんて言葉で済ましていいもんじゃないだろ……。一個嘘が紛れていたけど、魔力が切れない限りほとんど敵無しじゃん」


 身体強化が出来るようになってからは怪我も病気もしたことがない。最初の頃は魔力が切れる事も珍しくなかったけど、使えば使うほど魔力は増えていき、魔力切れを起こすことはなくなった。その結果、今では強化をずっとかけ続けていても全く問題ないし、ずっと使っている時間だけ魔力量が増え続けているから最大魔力量なんて意識することもなくなったね。日々、かけ続けている強化の度合いも強くなっている。たぶんこれは私が身体強化の魔法だったから短時間でバカみたいに魔力が増えたんだと思う。


 もしも私が水を出す魔法しか使えなかったら、ずっと魔法を発動し続けることは難しかったんじゃないかな? だってずっと全身から水を垂れ流し続けたら、あり得ない程の汗っかきみたいになっちゃう。それは乙女として流石に辛いものがあるよ。エマちゃんがおはようのぎゅーって抱き着いてきたときに『ノエルちゃんはいつも湿ってますね』なんて言われたら私は軽く寝込むぞ。


 そして魔力関係の力も身体強化の対象になるんじゃないかな? それが成長を促しているのかどうか私にはわからないし、本当に関係しているかはわからない。知り合いに魔法使いがいないから聞けないしね。


「もうずっと使ってるから魔力切れもならないけどね。じゃあアレクシアさんに合わせるからさささーっと走って行こう? それで美味しい物を街で食べるんだ!」


「はぁ? 私に合わせるなんて生意気なこと言いやがって……。良いだろう、私についてこれなかったら容赦なく置いていくからな! 必死で足動かせよ!」


 アレクシアさんは半ギレで走り始めた。その速さは逃げるぴょん吉やウルフ何かよりもずっと速い。合図もなしに走り始めたのは良いんだけど、せめてその手に握ってる食べかけの黒パンは食べるかしまえばよかったと思うな! 私は身体強化のレベルを徐々に上げていき、小さくなった背中を追いかける。前世を基準に考えるとアレクシアさんの速さは人類の限界を上回っている気がするんだけど、気のせいかな? 私の場合は魔法を使っているからどんなに速くても納得いくけど魔法なしのアレクシアさんがあんなに速いのは少しおかしいよね。



 

 どれくらいの距離を走っただろう。天気の悪い見通しが良いだけの道を只管走っている。アレクシアさんに道案内をお願いしたけど、今のところ村からずっとただの一本道で迷う要素は何もないね。逆に目印になるような物も何もないけど。ただただ踏み固められた土の道を道なりに進んでいるだけだ。

 必死に走るアレクシアさんの背中に向かって大きな声で話しかける。


「アレクシアさん足速くない? 普通人間ってそんなに速く走れるものなのー?」


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


「ねぇアレクシアさーん。聞こえてるー?」


「っるせぇ! はぁはぁ。 今っ、必死でっ、走ってんだろ!」


 そっか。多分追いついたら怒って走るの辞めちゃうから、このままアレクシアさんの限界まで付かず離れずで走り続ければ、予想よりも早く街へつきそうだね。街には美味しい食べ物あるかな? 今から楽しみだ!


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