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森の中を探検

 目の前には森が広がっている。元々天気があまりよろしくない今日は太陽が隠れてしまうと少し暗く、目の前の森はそれに輪をかけて暗く見える。


「それじゃあ森に着いたことだし早速行くぞと言いたいところだが、先に注意しとくぞ。基本的には私からは何も言わない、その変わり私が指示を出した場合必ず従うこと! 本当なら森での歩き方やら注意点なんかを教えながら進みたいんだが、そこまでの時間がないからな。好きにやれ」


「はーい、じゃあ早速森へ突撃ー!」


 私たちは薄暗い森の中へと足を踏み入れた。少し苔むした地面は湿っていて、そのせいかさっきより滑る気がするね。さっきまでいた草原とは比較にならないほど見通しも悪く、何かが木の後ろに隠れていたら中々見つけられないかもしれない。


 私は身体強化を一段階上げて周りに意識を向ける。緑の匂いや湿った土の匂い、それと獣臭さも感じる。遠くでは鳥の鳴き声や何かの獣の声も聞こえてくるね。近くにはそれなりの大きさの生き物は居ないような気がするのに、獣の匂いだけは結構近くに感じる。もしかしたら気配を消す事に長けた魔物が潜んでいるのかもしれない。


 流石の私も未知の魔物が潜んでいる事に気が付いていながら無警戒で突撃したりしない。アレクシアさんからは何も言わないとしても、こっちから聞いたらいけないって事もないだろうから、私は手っ取り早くアレクシアさんに聞いてみる事にした。


「ねぇアレクシアさん。近くには何の気配も感じないのに、獣臭さだけは近くに感じるの。これって気配を消す事に長けた魔物が近くに潜んでるってことだよね?」


「ん? 擬態して隠れてるハイドスネークはあそこにいるが、気配を消す獣臭い魔物なんかこの森には居なかったと思うぞ? もしそんな奴が居たら厄介だし、臭いも隠すと思うが……」


 アレクシアさんにもわからないのか顎に手を当てて考え始めた。まさか初めての森に入って早々に、本来こんな森に居るはずが無い厄介な魔物が現れるとは運が良いのか悪いのか。初戦くらいは簡単な魔物で良かったんだけどなぁ。


 私は慎重に森の中を進んでいく。相変わらず獣臭さを近くに感じるが、魔物は一向に姿を現さない。少し滑るデコボコの地面や木の根っこのせいで森の中は歩きにくく、ずっと隠れて付いてきている魔物のせいで若干イライラしてくる。森歩きは私が思っていたより結構大変だ。ちょっと舐めてたね。


「まだ獣臭さを感じるよ。やっぱり近くに何かいるんだと思うんだけど、ホントにいない?」


「あぁ、少なくとも私は気配も臭いも感じてない。どうする? 念の為森を出るか?」


「……そう……だね。ホントだったらちゃんと魔物と戦いたかったけど、アレクシアさんでもわからない魔物が居るかもしれないならやめておこうかな。無茶するようなタイミングでもないしね!」


「いい判断だと思うぞ。若い冒険者なんかは撤退の判断が遅くなりがちだ。せっかくここまで来たんだから、あと少しだけ、そんな事を言いながら死んでいく冒険者は多い。引き際を見極められるのも優秀な証拠だよ」


 アレクシアさんはそう言って私の傍へやってきて、頭を撫でてくれる。


「……ん? もしかして……」


 そう言いながら急に私を抱き抱えたアレクシアさんに驚く。


「え? なに? 緊急事態? 走って逃げる?」


「…………ぷっ。ククククク、アハ、あはははは! ホント面白過ぎるだろ! あはははは!」


「な、なに!? いったいどうしたの?」


「お前自分の匂い嗅いでみろよ! あはははは!」


 地面に降りた私は、自分の服を引っ張って匂いを嗅ぐと、ずっと感じていた獣臭さをダイレクトに感じた。


「…………」


「ノエル、気配を消す魔物の正体はお前だよ! 獣臭いのはぴょん吉抱いたお前だ! あはははは!」


「…………女の子に獣臭いとか言うな!」


 アレクシアさんはまたお腹を抱えて涙まで流して笑ってる。一方私は両手をギュッと握り締めてぷるぷると震える。たぶん恥ずかしく顔が真っ赤になってるよこれ……。


 


「あー笑った笑った! どうする? もう森出るか?」


「出ないよ! 絶対に出ない!」


 こんな恥だけかいて森から出られるか! 森まで何しに行ったのって聞かれた時に恥かきに行きましたって答えるの? そんなのは絶対にいや!


「何か魔物倒すまで絶対に出ない! この怒りをぶつけてやる!」


「はいはい、じゃあ気を付けて進むか」


 気を取り直して森を進み始める。私自身が、いや違うね、私の服に! 魔物の! 獣臭さが付いちゃってるから嗅覚はあまり宛にならないかもしれない。聴覚を気持ち多めに強化して、息遣いや物音を聞き逃さないよう注意して歩みを進めた。


 あれから十分くらい経っただろうか。特に目的地も無いままズンズンと奥へ進んでいくと、漸く魔物の気配がした。


「アレクシアさん、今度こそ気配がするよ! 行ってもいい?」


「構わないぞ」


 その言葉を聞いた瞬間私は駆け出して、気配の元を目指す。地面は歩きにくいから、木を蹴り、枝に掴まり、飛んだり跳ねたりしながら高速で向かっていき魔物の所にすぐ辿り着いた。そこには少し痩せた犬のような魔物がいた。


 魔物は警戒しているのか私の方を見ながら唸り声を上げている。灰色の体毛に、所々固まった泥がこびり付いている少し痩せた大型犬っぽい魔物。これはオオカミなのかな? オオカミなんか見たことないけど、シベリアンハスキーに似ているね。ご飯食べさせて、洗ってあげれば結構可愛いのでは……?


 魔物は一吠えしてから私に向かって駆け出し、そのまま足に噛み付いた。けれどその強さは甘噛みレベルでくすぐったいだけ。噛み付いたまま必死に引っ張っているが、身体強化をしてる私にそんなものが通じるわけないでしょ。

 

 ……わかっている。コイツは甘噛みをしてる訳でもじゃれついている訳では無い。ぴょん吉とかいう腹立つ魔物で学んだ私はもう騙されたりしない。コイツは私に懐いてなんかないのだ! 私は噛み付いている犬を引き剥がし両手で鼻先を握って口も閉じてやると、犬は唸りながら後退りしようとする。それを私が許す訳もなく、犬は一生懸命四肢に力を入れているが滑るだけで一歩も後ろには下がれていない。


「だーめ! 何でもかんでも噛み付いたらダメでしょ! 何でそんな事したの!」


 鼻先を握る手にギュッと力を入れて犬の顔を私の方に向けた。犬を叱る時はしっかりと目を合わせるって聞いたことがあるからね。


 それでも犬は反省していないのか顔を向けても目を逸らすから、私は自分の顔を動かして目をしっかり合わせてやる。右に目を逸らせば私もそちらを覗き込み、左に目を逸らせば私もそちらを覗き込む。


「なんで目を逸らすの! 怒られてるのわかってるでしょ? だーめ!」

 

「グルウウウウウ」


 私が叱ると聞こえないと言わんばかりに唸り声を出して目を逸らす。これが魔物との戦いか。結構辛抱強く向き合わないとならないね。仕方なく、鼻先を握る手を徐々に強くしていく。


「いい? 噛み付いたらダメなんだよ? わかった?」


 力を込めていくと反省したのか、唸り声から徐々に悲しそうな声に変わっていく。尻尾も足の間に入れてピタリとお腹に這わせるようにしまい込んでしまった。


「わかったね? もうやらない? じゃあパンをあげるから行っていいよ。あとたまには水浴びをしなさい」


 そう言ってわたしはパンをあげると、犬型の魔物はパンを咥えて走り去った。


「……お前はホントになにしてんだ?」


「……魔物との戦い……?」


 後ろから話しかけてきたアレクシアさんの問い掛けに、私自身同じような気持ちになった。私なにしてんだ?

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