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初めての村の外

 村の原っぱは色とりどりの花を咲かせ、もうすっかり季節は春になっている。初めて村の外へと出る今日は生憎の天気。雨が降っているわけではないが、雲が多く、太陽が隠れてしまうと少し肌寒さを感じてしまう空模様だ。


 こんな天気ではせっかく用意したお弁当もピクニック気分では食べられそうにない。綺麗な丘があったらそこでお弁当を広げてのんびりとお昼ご飯を食べる姿を想像していただけに非常に残念だね。そもそもお弁当も硬いパン一つだけど。


 家から軽く走って門まで向かうと、村を守る柵が見えてきた。初めて見る村の周りは丸太を地面に突き刺したような簡単な柵で囲われているだけで、それも隙間だらけで子供なら通り抜けられそうだね。これで本当に守れているのか少し心配になるけど、私が知る限り魔物が村に入ってきたって話は聞いたことがないから、村の周辺は案外安全なのかな?


 門の近くまで行くとアレクシアさんが門番の人と話している姿が見えた。私は待たせてしまったかと急いでアレクシアさんの所へと走る。


「お待たせ! 遅くなってごめんね!」


「いいや、私もさっき来たところだよ」


 アレクシアさんはそう言って肩をすくめた。どうやら村の外へ出るために装備を整えて来たみたいだね。革製の動きやすそうな鎧とブーツ、金属製の篭手を手に付けている。革鎧は左胸と胴回りを覆うだけで、最低限急所を守る様に、かつ肩周りや腕の動きを阻害しないような形になっているのかな。


「おいおい、旦那の前で逢い引きか? 悲しくなるぜ」


「あぁ、私とノエルは仲良しだからな。残念ながらモリスはお呼びじゃないよ」


「初めまして、モリスさん? 私はノエルでアレクシアさんの新しい恋人です!」


「お、噂のノエルちゃんだな。俺はモリスでアレクシアの旦那だ。そう、俺が、旦那だ。普段はここで門を守ってる。といっても何も来やしないからほとんど何もしてないがな!」


 モリスさんは30歳くらいのかなり大柄な男性で、髪は短いツンツンヘアーの茶髪だ。オルガちゃんの赤い髪の毛はやっぱり母親のアレクシアさん譲りなんだね。モリスさんは仕事用なのか簡素な革鎧と槍を持っている。身長は190センチくらい有りそうだし、筋肉も凄い。今世で見た一番筋肉がモリモリのモリスさんだ!


「何張り合ってんだよ。それじゃ私らは街へ行ってくるから、オルガの事よろしくな」


「任せとけ。可愛い娘と二人で仲良くお前の帰りを待ってるよ。ノエルちゃんもアレクシアの言う事をちゃんと聞くんだぞ? 外は危ないからな」


「分かってます! それじゃあ行ってきまーす」


 私とアレクシアさんは手をヒラヒラと振って、筋肉モリモリのモリスさんと別れた。村の門と外との境目をせーのっと一声上げてからぴょんと飛び越える。

 これが村の外への始めの一歩だ。あまり天気は良くないけど、何だか凄く楽しくなってきたよ!


「ハハッ、ノエルも可愛い事するんだな」


「な! 私はいつだって可愛いもん! それよりモリスさんも結構強そうだね!」


「勿論強いよ。私が弱っちい男と結婚するわけないだろ?」


「それもそうだね。……いや、でも案外男勝りのアレクシアさんが弱っちいヒョロヒョロの男性を ”私が一緒にいないと何もできやしないじゃないか、全く見ちゃいらんないよ” とか言いながら献身的に尽くすのも有り……?」


「人を使って変な想像すんな! ほれ足止まってるぞ」


 妄想の世界に旅立って足が止まったみたいだね。初めての村の外はなんというか、何もない。踏み固められた土の道と、その左右に広がる草むら、そして結構遠くに見える森と山だ。前世の都会暮らしならこの景色も感動するかもしれないけど、今見える景色は村の中と大差がなくて少しガッカリだね。


「ねぇねぇ、魔物はどこにいるの? 私村から出たらそこら辺にひょこひょこ居るのかと思ってたのに全然居ないんだね」


 始まりの村から旅に出た勇者もこれじゃレベリングもできやしないね。


「村から出て直ぐに魔物が居たらそんなとこ住んでられないだろ。いるのはもう少し離れたところとか、後はあの森の方だな。ただあの森も奥まで行かなければそんなに強い魔物もいないよ」


「なーんだ。じゃあ街へ向かいながらあの森に寄る感じ?」


「そうだな。道中何もいなければそうするしかないか」


 あの森にどんな魔物がいるのか全然知らないけど、ワクワクする。聞いた話によると魔物は魔力を持った動物で、強さはマチマチ。子供でも倒せるような弱い魔物もいれば、一夜にして街が滅ぶ様な強い魔物もいるらしい。子供でも倒せるような魔物も良いかもしれないけど、やっぱりある程度歯ごたえが無いと楽しくはなさそうだなぁ。


「どんな魔物が出るかな? キモイ魔物はいらないけど、可愛い魔物居たら捕まえて持って帰ってもいい? 家で飼える? あと美味しい魔物が出ればいいな!」


「落ち着けって、まだまだ魔物は出ないよ。ノエルはたまにこうやって子供っぽくなるよな」


「だって初めての村の外だしテンションも上がるよ! はーやっく魔物が出ないかなー」


 私は浮かれ気分で草を一本ちぎって指揮棒の様に振りながら歩く。



 それからしばらく歩いていると、あることに気が付いた。……退屈なのだ。徐々に森に近づいてきてるから進んではいるんだろうけど、代り映えしない景色を見続けて何一つイベントも起きないから退屈だよこれ。


「アレクシアさん。旅ってこんなに退屈なの? 景色は変わらないし、魔物も出ないし、面白い何かが落ちてるわけでもないでしょ? 皆旅の途中何してるの?」


「やっぱり飽きたか。本当だったらこういう街の外ではある程度警戒しながら移動するんだよ。この辺は出ないけど、魔物や盗賊が良く出る場所もあるし、急に何かから襲撃されても対応できるようにな。暇なら警戒する練習でもしてな」


 ほう、アレクシアさんは警戒しながら歩いてたからいつもより口数が少なかったのかな? 流石元B級冒険者だね、知らないうちに守って貰っていたという訳だ。じゃあ私もお言葉に甘えて警戒レベルを上げてみよう。これまで身体強化の魔法を実験してきて色々な事がわかった。この身体強化は何も筋肉だけを強化するものではない、例えば視力を強化すれば遠くまでしっかりと見えるようになるし、嗅覚を強化すれば色んな匂いを嗅ぎ分ける事が出来る。身体の機能は多分ほとんど強化できるんじゃないかな? だから警戒するなら五感を研ぎ澄ませれば良いと思う。私は魔力を循環させて五感を強化した。


 すると今まで気が付かなかった事がわかるようになった。魔物かどうかはわからないけど、そう遠くない距離のところに獣臭いにおいが感じられる。多分100メートルくらい先の草むらの中に何かいるね。におい的にそこまで大きい生き物でもないし、アレクシアさんが何も言わないって事は危険はあまりないんだろうね。ちょっと気になるし見に行ってみよう!


「アレクシアさん、あっちのあれ何か見に行ってもいい?」


「気が付いたか。まぁノエルなら危険はないだろうし別に構わないよ」


「やった! じゃあ行ってくるね!」


 私は身体強化をして一気に謎の獣に近づいた。

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