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二年がたちました


「レオー! こっちだよー! こっちおいでー!」


 寒い冬が終わりを迎え、私が記憶を取り戻した日から二年が経とうとしている。今回の冬は比較的穏やかな気候で、皆体調を崩すことも無く春を迎えることができた。まぁ私は体調を崩した事が一度もないけどね!


「あー! ねー! ねー!」


 笑いながらレオが一生懸命ハイハイで私を目指す。もうすぐ一歳になるこの赤ん坊はレオ、私と同じ金色混じりの明るい茶髪に、少し垂れた目をした可愛い可愛い私の弟だ。そう、私には弟ができたのだ! 前世も含めて初めての弟だから可愛くてしょうがない。


 レオが産まれたのは今から約一年前になる。皆で盛り上がった一昨年の収穫祭の後からお母さんは少し体調を崩す日が増えた。心配する私にお母さんは冗談めかして、ノエルが心配ばかりかけるからよーなんて言ってた。私は心配なんてかけないから、それなら大したことはないんだろうと思っていた。そんな冗談が言えるくらいには元気ならすぐ良くなるでしょ、と。

 

 だけど予想に反してお母さんは食欲がなくなったり、食べても吐いてしまうようになった。そんなお母さんの様子を見て、流石に不安になった私とお父さんが村で医者の代わりをしている神父様の所に連れていった結果、おめでただということが発覚したのだ。


 その時は私もお父さんも狂喜乱舞したね! 最初はお父さんが私を持ち上げてクルクル周り、次は私がお父さんの両手を掴んでジャイアントスイングのようにグルグルと振り回した。お母さんは二度目の妊娠だから薄々わかっていたようで、やっぱりね〜なんて納得顔をしていたよ。

 ほら! やっぱり私が心配かけてるわけじゃなかったよ! 変な汗かいて損をした気分だ。


 出産のときはそれはもう大変だった。お母さんが産気づいた時はお父さんも私もどうしていいか分からず、アタフタするばかりで全く役に立たない。辛そうなお母さんが一番冷静で、落ち着きなさいと叱られてしまったよ。叱られてすぐに冷静になった私は先ず産婆さん、次に神父様を身体強化全開で迎えに行って、順番にお姫様抱っこで運んだ。超特急だ! 当然叱られた。産婆さんからはババアを殺す気かと割とガチ目に叱られた。悪い事をした子供に言い聞かせるような叱り方ではない。イチゴのショートケーキに乗ってるイチゴを、最後に食べようと取っておいたのに ”食べないならもーらいっ” とか言ってヒョイパクされたのかと思うくらいガチギレだった。正直怖くて泣いた。山姥とか妖の類だよ。


 そうして無事に生まれた小さな弟は、皺くちゃの小さいお猿さんみたいでなんというか……こう、ね? ぷくぷくとした可愛い赤ん坊がポンと出てくるわけないのは知っていたはずなのに……こう、ね? 実際見たら衝撃だった。何か思ってたんと違う!? が正直な感想だったね。


 そんな類人猿だった弟も、一年も経つとぷくぷくとして凄く可愛い天使に進化したのだ。私のイメージしていた赤ん坊って感じで最高にキュートだ! 羽根とラッパがあれば完全に天使ってレベルで可愛いよ。


「ねー! ねー!」


「凄いねー! もう私の所まで来れたの! 凄いよレオー!」


 座って両手を広げている私に、止まることなくお腹に突っ込んできたレオを抱き上げて褒める。何処か得意気な顔で喜ぶレオは元気いっぱい手足をブンブンと振り回しているよ。何度も何度も顔を叩かれてるけどこれくらい私にとってはそよ風と変わらん! お姉ちゃんは強いからね!


「レオはほんとノエルの事が好きね」


「へへん! お姉ちゃんだから当然だよ! ねーレオー!」


 あーあー言いながら両手をお母さんに伸ばしてるけど一番好かれてるのは私なのだ。私だよね? 凄い叩かれてるのはたまたまだよね?


「はいママでちゅよー」


 私から奪うようにお母さんがレオを抱っこすると、レオはあっという間にお昼寝タイムに突入だ。ちなみにレオは私が抱っこしている時は寝ない。むしろ元気いっぱいきゃっきゃと笑いながら私の顔を殴る。……一番好かれているのは私なのだ。だって名付け親だし、お姉ちゃんだし。強い子に育ってほしいという思いを込めて付けたレオという名前に力一杯答えているだけだ。

 

 結局人の心の中など本人にしかわからない。いや、時として本人ですらわからない事があるのだ。だからレオが一番好きなのは私である、と私が決めてしまえばそれは私の世界では真実になるんだよ。


「今日はエリーズのところに行くんでしょう? そこでブツブツ言ってないで早く支度しなさい」


 声に出てたみたいだね。


「はーい。じゃあ行ってくるよ」


 もう春だと言っても、まだ少し冷える。薄い上着を一枚羽織り、エリーズさんに渡す荷物を持ってから私は家を出た。

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