楽しいことはみんなでやろう
エマちゃん達が酔っぱらいのオッサン数人に囲まれてあたふたしてる。お祭りには厄介な酔っぱらいが付き物だけど、エマちゃん達に酔っぱらいのあしらい方なんかわからないだろうし、助けてあげないとね。私は少し早歩きでみんなのところに戻る。
「お待たせ―。どうしたの? これどういう状況?」
「ノ、ノエルちゃん!」
エマちゃんが私の後ろに隠れる。突然酔っぱらいのオッサンに囲まれるなんてシチュエーションはさぞ不安だったんだろうね。
「おじさん達どうしたの?」
「おー。さっきまでチビ達がよくわからん遊びしてたろー? 何やってたのか気になって聞いてたんだよ」
「なーるほどね。集まった子供たちが急に皆で手を挙げたり頭触ったりしてたら気にもなるか。じゃあおじさん達もやってみる? でも酔っぱらいには難しいよねー」
「おー? 言うじゃねーか! おじさん達はむしろ酒飲んでる方が調子いいんだぞ?」
オッサン達がそうだそうだと盛り上がってるけど、普通にダメなオッサンのセリフだからね! 盛り上がるオッサン達に子供たちが少し驚いている。大人に囲まれるとやっぱり不安になるみたいだね。まぁお姉さんがいるから安心するといい。私は靴を脱いでからイスの上に立った。
「ならばよし! 暇な酒飲んでるオッサンしゅーーーごーーーー! 子供たちは座って見学ね」
広場には遠巻きに事の成り行きを見てるオッサンも入れば、なんだなんだと寄ってくるオッサン、既に半分眠ってるオッサンまでいる。酒飲みにオッサンばっかり広場にたむろってるじゃん。最初に絡んできたオッサン三人と、新たにやってきたオッサン合わせて八人が集まった。もう少し集まって欲しかったけど、子供の招集にこれだけの大人が集まったんだから十分か。
「これより! エリーズさんの命令ゲーム、収穫祭大人の部を開催します! いぇーい!」
「「「イエーーーイ!」」」
オッサン達の野太い歓声があたりに響き渡る。とりあえずノリに合わせてくれるなんて流石は酔っぱらいだ。
「ここにいる人達はどんなゲームか知らないでしょ? オッサン達は流行に乗り遅れるものだから知らないのもしょうがないけど、エリーズさんの命令ゲームとは今王都で大人気のゲームなんだよ!」
オッサン言うなとか知らねーぞーヤジが飛ぶ。おうおう盛り上がってきたね!
「よぉし! 三年前の事でさえこの間〜なんて言ってしまうオッサン達にわかりやすくルール説明をしよう!」
「い、嫌な予感がします……」
「それではエリーズさんの命令ゲーム経験者であるエマちゃん、説明をお願いします」
「やっぱりこうなりますよね……。えっとエリーズさんの命令ゲームというのは〜……」
さっきもやったからエマちゃんは割りとスラスラと説明をする。人見知り気味で私の後ろに隠れがちだけど、意外とこれやってって言うとこなせるから凄いよね。もう少し自信を持てたらいいんだけど、可愛いエマちゃんは同年代の男子に揶揄われる事が多かったから対人関係、とりわけ男が苦手そうなんだよね。この問題もどうにかできればいいんだけど。それにしてもエリーズさんの命令ゲームなんて誰もやってない遊びの説明を今日だけで二回もやってるんだから、恐らくこの世界で一番説明慣れしてるぞ。凄いぞ! エリーズさんの命令ゲーム第一人者だね!
「と、言う感じです。わかってもらえましたか?」
オッサン達の余裕そうな声と乾杯の声が聞こえる。おいこら飲んでないで話を聞け。
「よぉーし! 野郎共ールールはわかったなー? それでは、これより! 第一回、エリーズさんの命令ゲーム収穫祭大人の部を始めます! みなさん一度座ってくださーい」
「うーい、よいしょー」
変な声を上げながらスローテンポで座り始める。お約束の流れにエマちゃんだけじゃなくて今度は子供たちもゲラゲラ笑ってるね。君たちもさっきまではあっち側だったぞ! オッサン達は何がそんなに面白いのかわからず不思議そうにしている。
「おいオッサンども! ルール聞いてなかったのかー? エリーズさんの命令って言ってないのになんで座ってんのー!」
「お? そういやそうだったな! ガハハハハッ」
「よぉーし、これでどんなゲームかわかったでしょー? じゃあ本格的に始めるぞー! エリーズさんの命令! 立ち上がって!」
「うーどっこいしょ〜」
「おー誰か手貸してくれ〜」
「ったく仕方ねーなー」
テンポ悪すぎだろ! ゲームにならんわ! こうなったら方向性を変えよう。酔っぱらいなんて酒を飲むための口実に皆で集まる催しを開き、愚痴や自慢を肴に酒を呑むんだ。早い話酒が飲めればなんだっていいんだよ。たぶん。
「エリーズさんの命令! コップを掲げろー! エリーズさんの命令! 酒を飲めー! カンパーイ! ウェーイ!」
「カンパーイ! ウェーイ!」
「次! エリーズさんの命令!酒を飲めーい! ウェーイ!」
「カンパーイ! ウェーイ!」
「次、酒を飲めー! おっと私はエリーズさんの命令って言ってないから飲むんじゃないよ!」
「ふざけんなー!」
「酒を飲ませろー!」
「そうだそうだ!」
「よぉーし、命令に従ういい子達にはご褒美をあげよう! エリーズさんの命令! 酒を飲めーい! カンパーイ!」
最早ゲームでもない教育……調きょ……ごほん。これはゲームだね! ゲームを進めていると……。
「なぁ頼むよぉ〜。エリーズさんの命令を聞かせてくれぇ!」
「しょうがないなぁ! これからもエリーズさんの命令はしっかり聞く?」
「あぁ! 聞くに決まってらァ!」
「じゃあ良し! エリーズさんの命令! 酒を飲めーーーい!」
オッサン達は酒が飲めて満足気だ。もうゲームも関係なくみんな車座に座って酒を呑み交わしてるよ。子供たちもエマちゃんも心なしか呆れ顔だ。
「ねぇノエルちゃん、これ絶対お母さんに怒られるよ?」
「なんで? 流石にお酒飲ませ過ぎた?」
なんかゲーム途中から遠巻きに見てたオッサン達まで集まって皆でカンパーイってしながら楽しそうに酒飲んでたし随分大所帯になったもんだね。彼らはもうエリーズさんの命令がご褒美に感じる身体になってしまった。 素晴らしいぞ! エリーズさんには親衛隊に続いて下僕まで出来た!
「よぉーしオッサンたちー! オッサンたちに有難くも命令をして下さる我らが女神、エリーズさんに感謝の言葉を伝えに行くぞー!」
「おうよ! エリーズさんのお陰でうめー酒が飲めるぜー! ガハハハハッ」
オッサンたちは面白そうだなんだと重い腰を上げてふらつきながら立ち上がる。
「こらーエマ姫にも敬意を払わんかー! そこのあまり酔っ払ってないオッサン達! エマ姫を抱えなさい!」
「あわわ!」
エマちゃんは急にオッサン達に騎馬戦みたいに持ち上げられて驚きの声を上げている。準備はできたね! 今度はオッサン達引き連れての大行進だ! よぉーししゅっぱーーーつ!
周りの人に見られながら広場を横断する。先頭を威風堂々と歩く私と、その後ろを神輿のように担がれるエマちゃん、そしてそこに続く酔っ払いのオッサン達が続く。いいね! 祭りの神輿を担いで行進してる感じになったじゃん! このままママ友グループのテーブルまで突撃ー! ママ友グループは今どうしてるかな? お母さんは頭を抱えていて、エリーズさんは両手で顔を覆っている。金髪の隙間から出てる耳が真っ赤だ。二人ともお酒を呑んでるようには見えなかったけどな。他のママ友さん達はちょっとワクワクしてそうだね。お祭りはやっぱりそうでなきゃね!
「よぉーし、到着! エリーズさんちょっと良いですか?」
「……か私じゃありませんようにどうか私じゃありませんように……」
「エリーズさーん! 聞こえてますかー?」
「あぅぅ、やっぱり私かぁ。もうやだぁ」
なんか少し幼児退行してるぞエリーズさん、お酒は程々にね?
「おい、オッサンたち! エリーズさんの前だぞ! エリーズさんの命令、頭を下げんかー! すいませんね、エリーズさん。ちゃんと命令しないと出来ない困ったヤツらなんですよー。でも安心してください! 逆に言えばエリーズさんの命令には忠実ですからね! そうでしょ? オッサンたちー!」
「おうよ! エリーズさんの命令ならなんでも聞くぜー!」
同意する野太いオッサン達の声が広場に響き渡る。エリーズさんも感動のあまり身体が震えてる。今日だけで親衛隊と、下僕まで手に入ったのだから感激するのも無理は無い。ひょっとしたら今この村での最大勢力になったんじゃないかな?
エマちゃんはオッサンに下ろして貰ってからエリーズさんの所へトテトテと向かっていった。
「お母さんごめんね、私止められなかったです」
「エマちゃんが謝ることじゃないのよ。うちのバカ娘がごめんね、エリーズ」
「ねぇねぇ、いつもこんな感じなの? ノエルちゃんって」
「えぇ、残念ながらこうよ。目を離すと意味がわからないことが起きるわ」
ママ友グループが凄いわとか面白いわとか盛り上がってるけど……あの、無視しないで貰えますか?
「あのー?」
「ノエル、良いから一度戻りなさい」
やば、なんかお母さんが怒ってる……? 私の本能が危険信号を出している。ここは余計な事はせず速やかに撤退するが吉だぞ!
「わかった! ノエルはいい子! 向こうに行ってるね! オッサン達ー、戻る前に挨拶ー!」
「「「おー! 我らの女神エリーズさんにカンパーイ!」」」
「もうやめてぇぇぇ!」