久しぶりのあの遊び
収穫祭で暇を持て余しているのは子供たちだ。子供なんて走り回ってるだけでも楽しいんだから、正確に言うと暇というよりはお祭りを満喫出来てはいないと思うのよ。私たちのテーブルから見える範囲でも親御さんの近くに座って足をプラプラさせてるだけの子供が居たり、テーブル付近で走り回って叱られている子供もいる。もう少し大きい十歳くらいの子供たちはご飯を食べた後、何処かへ遊びに行ってるみたい。流石にもう大人の目の届く範囲外に行くのも許されてるらしいね。
私たちも普段と何も変わらないような過ごし方になってるし、お祭り盛り上げ委員会としては子供たちにご飯を食べました以外の思い出を作ってあげたいのだ。収穫祭であって食の祭典じゃないんだぞ!
「という訳で! 暇なちびっ子しゅうーーーーごーーーーー!!」
「ノ、ノエルちゃん! 急にどうしたの!? みんな見てるよ?」
「みんな見てなきゃ集合できないよ?」
「そういう事じゃないです……」
ほらほら暇なちびっ子も、さっきまで走り回って暇じゃなさそうなちびっ子もチラホラ集まり始めたぞ!
「お姉ちゃんどうしたの? 暇だから来たよ」
「おー、暇な少年少女たち! よく来たね! せっかくのお祭りなのにご飯食べて終わりじゃつまらないでしょ? だからこれからゲームをします!」
「何すんだ? 狩人とウサギか?」
私より少し年上そうな少年がそう尋ねてくる。懐かしいな、その食卓エンドのケイドロ! 結局私はぶっ飛んで気絶したからその遊び未プレイなんだよね。運動が苦手そうな女の子なんかは狩人とウサギと聞いて既に意気消沈気味だ。数人子供が集まれば、そこに更にぞろぞろと子供が集まってくる。集まったのはざっと見で二十人くらいかな? こんなにも暇な子供がいるお祭りなんて許しません!
「ふっふっふ、狩人とウサギなんて遊びはもう古い、古すぎるよ! これからやるのは今この国で流行ってる最先端の遊びだ! 王都じゃ大人も子供も貴族もやってる今一番熱い遊びといっても過言じゃーない! かもしれない。とかなんとか誰かが言ってたかもしれない。そんな遊びだ! その名も……」
「そ、その名も……?」
「エリーズさんの命令! イエーーーーーイ!」
「「「イエーーーーーイ!」」」
おお、ノリのいいちびっ子はよくわからずにノってくれるし、それ以外の子は聞いた事のない遊びに首を傾げたり、隣の子に知ってる? なんてこそこそ話しかけている。エマちゃんは何故か顔が引きつってるぞ。急にたくさんの人が来て驚いてるみたい。
「エリーズさんの命令とは一体どんなゲームなのか……。今回はエリーズさんの命令ゲーム経験者であるエマちゃんに説明してもらいます! 解説員のエマちゃーん、どうぞー!」
「の、ノエルちゃん! 急にそんなこと言われても……。それに、お母さんに怒られないかな?」
「なんで? エマちゃんはいつも良い子だから怒られたりしないよ!」
「もう……。私は知りませんからね。えっと、エリーズさんの命令ゲームは~……」
エマちゃんが戸惑いながらも説明してくれている。人見知り気味のエマちゃんが人前に出て一生懸命説明する姿を見ると、お姉さんとしては成長を感じざるを得ないよ。嬉しいもんだねぇ。
「と、いう感じです。わかりましたか?」
キッズ達はわかったーと声をあげる。そんなの簡単じゃんと嘗めてる子も結構いて、ちょっと不安なのかキョロキョロしてる子もいるね。大人たちも子供が集まって何かやり始めたと、遠巻きに観察しているようだ。
「それではこれより、第一回エリーズさんの命令ゲーム、収穫祭子供の部を始めます! ではみなさん一旦座ってくださーい!」
よくわからず言われた通りに座る子供たちを見て、エマちゃんはクスクスと笑っている。流石は経験者! 既に戦いは始まっていて、そして今、戦いが終わったことを理解しているね!
「ハイ残念でしたー! 私はエリーズさんの命令って言ってないのに座ったので君たちの負けでーす! 敗北者でーす。敗北の味を噛みしめてくださーい」
「ずりーぞ! まだ始まってないと思っただけだ!」
キッズ達ご立腹である。そうだそうだとか卑怯だとかヤジが飛んでくる。全く、負けた癖して態度のデカい子供たちだな!
「まぁ君たち落ち着きたまえ! 諸君らはさっきそんなの簡単だと嘗めていなかったかね? でもこれでこのゲームがそんな簡単なものではないとわかってくれたかな?」
「今度は引っかかったりしないもん!」
「よし、良い面構えだ! 今のは練習みたいなもので本番はこれからだよ! さぁー立ってー!」
ふふ、一瞬立ち上がりそうになったけど周りの座ったままの子をみて慌てて誤魔化した子がチラホラいる。あの子たちは早々に脱落しそうだね。素直でよろしい!
「うむ、よろしい! 流石に二回目は引っかからなかったね! それではエリーズさんの命令! みんな立って! あ、そうだ。ルールを追加しようか。エリーズさんの命令ゲームで間違えちゃった子は座ってね。そして最後まで立っている事が出来た選ばれし者はエリーズさん親衛隊の称号をあげよう」
「あの、エリーズさんの命令って言ってないけどそれは無視していいの?」
「あーごめん。今のは普通にルールの追加だから従ってね。改めて始めるよー」
まったく、このゲームを始めて警戒心強くなるといちいち面倒臭いことになるよね。誰? このゲーム始めた人!
それからしばらくエマちゃんと私はゲームマスターとして比較的簡単な指示を出してゲームを進める。そして残り五人になってから誰も引っかからなくなったからこれで一旦終了かな? 今回の勝者は男の子三人と女の子二人だね。
「はい、しゅーーーりょーーーー! 今立っている五人が第一回エリーズさんの命令ゲーム収穫祭子供の部の勝者です! 皆さん盛大な拍手ーー!」
拍手も凄いまばらだ。だからもう終わりだって言ってんでしょ! めんどくさいなこのゲーム!
「ごめんね、もう終わりだから皆で普通に拍手してあげて! イエーーイ!」
今度は盛大に拍手をしてくれたね。遠巻きに見ていた大人たちもよくわからぬまま拍手してくれてる。今お祭りが最高に盛り上がってる感あるね! 良いじゃん良いじゃん! 勝者の子供たちも嬉しそうにしているし、負けちゃった子も次は負けないと気合十分だ。面倒だからもうやらんけどな!
「君達五人は誰よりもエリーズさんの命令を忠実に守った選ばれし騎士である! これからもその誇りを胸にエリーズさんの親衛隊として励むように!! じゃあ君達五人は私に着いてきなさい。あなた方が主君と仰ぐエリーズさんに面通しをするぞ。さぁエマ姫もお手をどうぞ」
さっきまでヤケに不安そうだったエマちゃんも姫様呼びが満更でもないのかイヤンイヤンと身体を揺らしている。そんなエマちゃんと親衛隊の五人をゾロゾロ引き連れてママ友グループのテーブルへいざ出発!
楽しそうに談笑していたママ友たちは向かってくる私たちにどうかしたのかしら? という表情をしているけどお母さんだけはなんか嫌そうな顔をしてるぞ。娘が近付いてきて嫌そうな顔しないでよ!
「エリーズさん! お忙しいところ申し訳ありません!」
「あら? 急に畏まってどうしたのー?」
「今回、後ろに控えるこの五人が栄えあるエリーズさん親衛隊となりました! どうか騎士の誓いを立てさせてはくれないでしょうか?」
「なぁに? 騎士ごっこ遊び? フフッ良いわよー」
「貴様ら! 何を惚けている! エリーズさんの御前だぞ! エリーズさんの命令! 膝を着き頭を垂れろ!」
さっきのゲームで散々体に染み付いたエリーズさんの命令に彼らは忠実だ。我先にと片膝を着いて頭を下げ始める。エリーズさんもこの忠実な親衛隊には御満悦だね! まるで固まってしまったかのように崩れることの無い笑顔を向けてくれてるぞ! よかったなお前たち!
「ほら挨拶せんか!」
「はっ! 我々はエリーズ様の親衛隊! 我らの忠誠をエリーズ様に捧げます!」
「よし、よく言った! さぁエリーズさんも彼らに何か声を掛けてあげてください。彼らはあなたの忠実なる親衛隊です」
「そ、そなた達の働きに期待する」
「「「「「はっ!」」」」」
「よぉし! じゃあこれにて一旦解散ねー。みんなの所に戻るよー!」
またエリーズさんの親衛隊を引き連れてみんなの所へ戻ろうとしたら……。
「ノエルは残りなさい」
と、お母さんに呼び止められた。エマちゃんにみんなの引率をお願いして私だけママ友グループに残る。おぉ! 親衛隊はエマ姫を囲んで守るように歩いてってるね。エマちゃんは居心地悪そうだけど。
「皆さんこんにちはー。それでお母さんどったの?」
「あんたさっきのは何? ちゃんと説明しなさい」
「さっきのって親衛隊の話? 暇そうな子を集めて皆で遊んだの! そしたらエリーズさんの親衛隊が出来たよ! 選ばれし五人の騎士だね!」
「我が娘ながら何を言ってるかわからないわ……。エマちゃんにも残ってもらうべきだったわね」
失礼だよ! ちゃんと要点をまとめて説明したのに! お母さんのあまりに失礼な物言いにエリーズさんも頭抱えてるじゃないか。エリーズさんは優しく子育てするようなタイプだからそんなキツイ言い方は好きじゃないんだよきっと。他のママ友さんも苦笑いじゃん。ちょっと恥ずかしいよ。ウチのお母さんがごめんなさいね?
私はもう行くねと言い残してこの場を去る。帰ったら覚えておきなさいというお母さんの言葉は三歩目には忘れたよ! だって話すことは全部話したもん! ぶぅー。
私は一人寂しくとぼとぼとみんなの所へ戻る。すると何だか複数人の酔っ払いに話しかけられてアタフタしてるエマちゃんが見えるぞ……。祭りはやはりトラブルが起きるのがこの世の常だね……。こらー親衛隊なにしとるかー! 酔っ払いからエマ姫を守らんかー!