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不器用な子供は何処にでもいるものだ

 短くて濃い茶色の髪をした、同年代と比べて少し大柄な男の子がこちらへ向かってくる。確か名前はダン、私たちより何歳か年上の子で、ちびっ子たちから少し怖がられているがまとめ役って感じの子供だ。言ってみればガキ大将って感じかな? ノエルの記憶ではダンとはあまり仲が良くないのだ。


「どうしました? 何だか少し嫌そうな顔をしてますけど」


「あー、ちょっと面倒な事になりそうだなーって」


 エマちゃんは首を傾げてから私が見ていた方へと顔を向けると、同じような渋い表情になってしまった。


「ダンですか……。あまり言いたくはないですけど私は苦手です……」


「まぁ気持ちはわからないでもないけどそんな風に言わないの」


「だってあの人はいつも私たちの事をバカにするじゃないですか!」


「あー、まぁねー……」


 私は苦笑いするしかない。瑞希の記憶が戻る前ならエマちゃんと一緒になって憤慨していたと思うけど、今なら少し彼の事がわかるのだ。簡単に言うと好きな子と仲良くなりたいけど素直になれなくて意地悪をしてしまう男子そのものなのだ。小学校の頃によくいるタイプだね。それで女子から凄く嫌われているのにそれがわかっていないのか、構って貰えればそれでいいのか態度を改めない子。彼はまさにそれだ。

 仲が良くなかったと言っても、今の私から見れば彼だって八才くらいの子供に過ぎない。そんな子供にあからさまに嫌そうな態度はとれないしどうしようかねぇ。


「おい、お前たちはいっつも二人で一緒だな! 他に友達いねーのかよ!」


「……やぁダン、そう大きい声を出さないでよ。ご飯は食べた? あそこで美味しいお肉が貰えるんだよ? 収穫祭は凄いね!」


「ん? 俺はもう食べたぞ! 肉は美味かったな!」


「そうだよねー! 肉は偉大だよ、毎日食べられたらいいんだけどなー」


「わかるぜ! 肉を食いたいって言うと母ちゃんに贅沢言うなって怒られっからいつもは言えないけどな。肉が食えただけでも今日は来てよかったぜ!」


 何だよダンも肉好きの同志じゃん! 肉が好きな人に悪い人はあまりいないよ! だって大抵の人は肉が好きだし、世の中悪い人の方が少ないからね!


「私もお肉は好きですけど、別に毎日じゃなくていいです」


「おっとエマちゃん。確かに食べ過ぎは良くないけどお肉は体の成長を助けるし、お肉を食べることで新陳代謝が上がって美容にも効果的だったりするんだよ? もちろんさっき言ったように食べ過ぎは良くないけどね!」


「そうなのか? 俺はただうめーから食いてえだけだ! いやそんなことよりお前らはまた二人で遊んでばっかりじゃねーか。二人一緒じゃなきゃなにもできねーのかよ」


 このままみんな大好きお肉トークで話をそらして、それじゃ私たちはお肉のおかわりに行くからじゃあねーってロールキャベツのお肉とキャベツみたいに離れる作戦だったんだけどうまくいかなかったか。当然私たちがお肉担当でダンはキャベツ担当だ。


 今日は楽しい収穫祭なのに揉め事でケチがついてもつまらない。この不器用なダン少年に年上のお姉さんとしていっちょアドバイスでもしてあげよう。


「なぁタイショー、ちょっとこっち来てよ」


「なんだタイショーって。俺はダンだぞ!」


「良いから良いから」


 私はエマちゃんに聞こえないように少し離れたところにダン少年を連れて行き、顔を近づける。


「なぁタイショー、お前さんがエマちゃんと仲良くしたいのはわかる。だからちょっかいかけてきたり、いつもエマちゃんと一緒にいる私が邪魔なんでしょう?」


「バッ、バカ! そんなんじゃねーよ! 俺はむしろお前と――」


「いやいい、皆まで言うなって。エマちゃんは何でこんな田舎村にいるのかわからないくらいの美少女だもん。男子としては気になっちゃうよね。だけどね、タイショー。やり方が、やり方が違うんだよ。あんな風にバカにするように話しかけたり喧嘩腰じゃ仲良くなんかなれないよ。女の子には優しくしなきゃ! それが鉄則だ!」


「そ、そうなのか? お前も友達になるなら優しいやつがやっぱりいいのか?」


「そりゃ誰だってそうでしょ? ”おい、お前!” なんて言われるよりも、”ねぇタイショー” って話しかけられた方が聞く気になるでしょ?」


「だからタイショーじゃねえよ。そんな風に呼ばれたって聞く気にならねーよ。誰だよタイショー」


「タイショーは皆のリーダーって意味だよ。ピッタリでしょ?」


「そ、そうか……皆のリーダーか……」


 ダン少年が口をモニュモニュ動かしながら満更でもなさそうな顔をしている。その顔はエマちゃんに見られると引かれるぞ少年! 少し変態チックな顔してるわコイツ。


あ、そうだ良い事考えたぞ!


「そうだ、タイショー。せっかくの収穫祭だし、男子も女子も暇そうな子供たちを集めてさ、皆で遊ぼうよ。タイショーなら人数集められるでしょう?」


「お、おう! 任せろ! 俺はタイショーだからな! さっそく行ってくるぜ!」


 ダン少年は力一杯胸を叩いてから何処かへ走って行った。ノエルは大柄な体格と乱暴な口調が苦手だったみたいだけど、そう悪い子ではない。何処にでもいる普通の子供だよ。


「エマちゃんお待たせー! 一人にしてごめんね」


「私は別に大丈夫ですけど、何の話をしていたんですか?」


 何だかエマちゃんの纏う空気がやけにヒンヤリとしている。口では別にいいと言っているけどほったらかしじゃ機嫌悪くなるのも仕方がないよね。失敗失敗。


「収穫祭だからみんなを集めて遊ぼうよって話をしてたんだ。ずっと絡まれてるのも嫌でしょう?」


「そうですね。皆で遊ぶなら別にいいですけど、ノエルちゃんはダンと二人で遊んだりしませんよね?」


「しないけどなんで?」


「いえ、ないなら良いんです」


 よくわからないエマちゃんだ。私たちは食べ終わった食器を炊事場のオバサンに渡してからまた席へと戻った。


ダン少年が皆を集められるのか、いつ集まるのかもよくわからないけど収穫祭ってこの後どうすんだろう? 皆で集まって美味しい物を食べるって言ってたけどもう終わったぞ? これにてお祭り終了かな? 大人たちはまだまだ楽しそうにゲラゲラ笑ってるけどほんとにこれ収穫を祝うお祭りか……?


「そこのおじさーん! 大地の実りに感謝して、来年の豊作を祈ってますかー?」


「おう! たりめーよ! 感謝して酒飲んで、祈って酒飲んでるぞー! んーーーーかんぱーい! ガハハハッ」


 祝ってるわ。収穫祭だった。


「収穫祭だったよ! エマちゃん!」


「……私ノエルちゃんのことは凄く好きだけどたまによくわからない時があります」


 急に辛辣じゃん!

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