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収穫祭が始まるよ!

 全ての家が収穫を終えたから明日は収穫祭をやるんだって! 収穫に遅れが出ていた家は、手の空いている人やご近所さんがどんどん手伝って収穫を終わらせた。村全体で協力しての収穫は、都会にはない感じてなんだかほっこりしたよ。私もお父さんと一緒に色んな所を手伝った。流石に魔法は使わなかったからあまり戦力にはなっていなかったと思うけど、手伝った家の人たちはしきりに褒めてくれて嬉しかったなぁ。


 収穫した小麦はこの後乾燥させてから脱穀することになるから、その間の手が空いてる時にみんなで収穫祭をするのが決まりなんだってさ。祭りが始まる前から結構みんなが浮かれていて、手伝いに行った時も色んな所で楽しそうな声が響いていた。お祭りを目前に活気があって嬉しい限りだ。私もそんな空気にあてられていつもよりテンションが上がっている気がするよ。


「ねぇ、お母さん。収穫祭楽しみだね!」


「そうね、ママも凄く楽しみよ。ノエルもはしゃぎすぎてケガしないでね」


「もう! 私そんなに子供じゃないよ! ところで収穫祭って何するの?」


「そうねぇ、みんなで集まって美味しい物を食べたりかな? 何をするって言われると少し困るわね」


「美味しい物! 私美味しい物は好きだよ! お店は出たりしないの?」


「お店? お店ならいつもの場所があるじゃない。でも収穫祭の日はお店もお休みよ」


 どうやらお祭りと言っても出店みたいなのはやっぱりないみたいだね。残念だな。チョコバナナ食べたかった。あとその日以降二度と使わないよくわからない光る腕輪みたいなやつと、お面とか買いたかったよ。絶対いらないのにお祭りってなると欲しくなるんだよね。キツネのお面被って強キャラ感出したかったなぁ。

 

 収穫祭の日は基本的に村の皆がお仕事をお休みにして楽しむみたいだ。流石に警備とかを担当している人までお休みって訳にはいかないだろうけど、きっと何かしらフォローはしてるよね。お祭りって言っても厳かな祭祀でもなければ沢山の出店が出るような賑やかなお祭りじゃないようだけど、みんなで集まるってだけでもビッグイベントって感じがして楽しみだ! せっかくのお祭りなんだし、子供たちが楽しめるレクリエーションでも考えておこうかな?


 そんなことを考えていた翌日、いよいよ収穫祭本番だ。いつもと大きな違いなんかないはずなのに、何だか空気もソワソワしているような感じがする。村の男たちは朝早くから会場になる村の広場に集まって準備を進めているみたいで、朝起きたときにはもうお父さんは出かけていた。私とお母さんもエマちゃんとエリーズさんと一緒に向かう約束をしている。昨日寝る前に思いついたレクリエーション用の準備をしていると、玄関がノックされた。


「はーい! エリーズおはよう、エマちゃんもおはよう。今日はおめかしして一段と可愛いわね!」


「おはよう、ジゼル。ほらエマもご挨拶」


「お、おはようございます。あと、褒めてくれて嬉しいです」


そんな会話が玄関の方から聞こえてくる。私も早く行かねば置いていかれてしまう! 持っていくものはこれでいいかな? よし、急いで玄関へダッシュだ!


「おまたせー! エマちゃんも、エマちゃんママもおはよう! お母さんが言ってた通りエマちゃん今日は凄く可愛いね! そのお洋服似合ってるよ!」


「ノエルちゃんおはよう! ノエルちゃんも凄く素敵です!」


 そう? 私はいつもと何も変わらないパンツスタイルだけど、エマちゃんは今日おめかししてきたみたいだね。いつもは全部下ろしている綺麗なロングの金髪をハーフアップにして、着ているお洋服も綺麗だ。柄やプリントがある訳じゃないし、染めもされていないような服だけど、基本的にみんな古着だからくたびれた様な物をいつも着ている。でも今日のエマちゃんのお洋服は比較的新し目に見える。それでもお嬢様っぽいエマちゃんにはまだまだ服が……って感じが否めないけど……。


 せっかくオシャレしてきたんだし、汚れたりしないようにハンカチを多めに持っていこうかな? お祭りの広場がどうなっているかよくわからないし、座れる所が用意されてても空いてるとは限らないしね。何かと使う機会はありそうだ。


「ごめん忘れ物あるからちょっと待ってて―!」


「もう! そそっかしいんだから……」


「フフッ、元気でいいじゃない」


 そんな会話を後ろに聞きながら、汚れてもよさそうなハンカチを何枚かポケットに突っ込んだ。


「おまたせー! 今度こそ準備万端だから早くいこ! お母さん遅いよ!」


 ため息をつくお母さんから逃げるようにエマちゃんと手を繋いで歩き出す。お母さんはエリーズさんと楽しそうにおしゃべりを始めたからお説教からは逃げられたようだね。


 ついこの前まで黄金色の絨毯が出来ていた畑も、収穫を終えて物悲しい風景になっている。家の周りは畑が多いから村の広場までは結構時間がかかるし、お祭り当日なのに何もなくて少し寂しい景色が続くね。


 エマちゃんとどんな食べ物があるのかな、美味しいかな、無くなってないかな、なんてお祭りの事を話しながらテクテク歩いていると広場の様子が少しずつ見えてきた。決して私が食いしん坊だから食べ物の話しかしていないわけじゃないよ? そもそも収穫祭についての情報が美味しい物を皆で食べるしかないんだからしょうがない。


「エマちゃんもう少しでお肉だから頑張ろうね! 疲れてない? 足痛くなったりしてない?」


「フフッ、大丈夫ですよ。心配してくれてありがとうございます。ノエルちゃんはいつもお肉ですね」


「違うよ? それじゃ私が食いしん坊みたいじゃない! お肉は筋肉を育てるのに必要なんだよ! つまり頭が良くなる!」


 前世でおばあちゃんがよく言ってたよ、あんたは脳みそまで筋肉だって。だから私は肉を食べる度に賢く強くなっていくんだ!


「はい、とうちゃーく! イエーイ!」


 そんなこんなで広場にようやくたどり着いた。少し恥ずかしそうにしているエマちゃんとハイタッチをしてから辺りを見渡してみると、普段置かれていないイスやテーブルがおもむろに設置されていて、そこで休んだり食事を取ったりできるようになってるみたいだね。開始の合図も挨拶もないから、ついた人から勝手に祭りが始まってるみたい。なんじゃそりゃ。……さては一刻も早く酒飲みたいだけだな! 大人たちはいくつかのグループに分かれて何か食べながらお酒を飲んでる。子供たちも親の傍で食べている子、子供たちだけで集まっているテーブルや、もう食べ終わったのか走り回っているグループもいる。


 なんというかこれってお祭りなのか……? 休日の公園って感じだぞ。まぁいっか。


「エマちゃんも何か食べる? あっちで食べ物が貰えるみたいだよ」


「そうですね、少しお腹がすきましたし、食べましょうか」


 広場にある共同の炊事場では村の奥様方がお喋りしながら何かを振舞っている。美味しい物があるといいな! お肉とか。


「お母さん、エマちゃんと一緒に食べ物貰ってくるね」


「はいよ。いつもより人が多いからぶつからないように気を付けてね」


 都会出身の私はこの程度なら特にぶつかったりしません。というか人とすれ違う時にたまにフェイントの掛け合いみたいになることがあるのに、人ごみの方がぶつからなかったりするよね。流れが出来てるからなのかな?

 炊事場についてみるとお肉の焼ける音や、お肉の焼ける匂いなんかが立ち込めている。お肉を食べるのは確定として、ほかにはどんなものがあるのかな? 寸胴鍋をかき回している恰幅のいい肝っ玉母さんみたいな人に聞いてみよう。


「すみませーん! 何か食べたいんですけど、何があるんですか?」


「お、いらっしゃい。その顔はジゼルとエリーズんとこの子だね。今ならスープとパン、あと焼いた肉が食べられるね」


「あ、じゃあ全部もらえますか? あとできれば葉野菜なんかも欲しいんですけどありますか?」


「野菜を食べたがるなんて偉いじゃないか。いいよ、野菜炒めにでもするかい?」


「いえ、そのままで大丈夫です。エマちゃんもそれで平気?」


「ノエルちゃんにお任せします」


 炊事場の肝っ玉母さんはどうやら私たちの事を知っていたみたいだね。私はよく知らないからなんだか少し申し訳なく感じるよ。肝っ玉母さんが手際よく器に盛りつけてからトレイに乗せている。見たところ普通の野菜スープって感じで特別感はあまりないけど私にはわかる。スープに油が浮いてるじゃないか。肉だ。このスープには肉が入っている! そして焼いたお肉も結構量が多い! パンもいつもの黒くて固い酸味のあるパンじゃなくて、バゲットのような見た目をしてる。収穫祭、やるじゃないか!


「はいよ、おまたせ。お肉多めに入れといたよ。オバサンが運んであげようか?」


「あー、そうですね、すみませんが空いている席までお願いします」


 名前も知らぬ肝っ玉母さんが親切に運んでくれる。たぶん毎年はしゃいで転ぶ子やひっくり返す子がいるんだろうな。オバサンは席に食事を置いてからゆっくり食べるんだよと言い残して炊事場に戻って行った。ありがとう。肉の恩は忘れないよ。いつか必ず、必ずや恩に報いる。


「そうだ、エマちゃんちょっと待って。はい、綺麗なお洋服着てるんだから汚さないようにこれ使って!」


 私はイスにハンカチを敷いてからエマちゃんを座らせて、エプロン代わりに別のハンカチを首にかけてあげた。お祭りにオシャレして来て汚しちゃったら悲しいもんね!


「ノエルちゃんありがとうございます!」


 頬に手を当てて身体を揺らしながらいつもの一人旅に出てしまったエマちゃんに、聞こえているかわからないけどちょっとだけ待っててと声をかける。別のテーブルでママ友グループと合流してるお母さんの所へ向かった。向かっている途中で目が合ったのでジェスチャーであそこにいるねと伝えて席に戻る。


「エマちゃんお待たせ―。お母さんたちにここにいるって伝えてきたよー。じゃあ食べよっか!」


 身体強化を使ってパンを半分に割ってから葉野菜とお肉を挟んでバゲットサンドみたいにする。こうやって挟むなら緑もないとなんだか物足りないから野菜も貰ったのだ! ただパンに挟んだだけなのに、バラバラに食べるよりも食べやすいし美味しい気がするよね。エマちゃんも私の真似をしてパンを一生懸命割ろうとしているけど、いつもの黒パンじゃなくても子供には固すぎるよね。パンで殴ったらケガしそうだもんこれ。


「エマちゃん貸してごらん」


「お願いします。でもノエルちゃんはよくそんな簡単に割れますね」


「私力が強いからね! 任せてよ!」


 エマちゃんの分は少し食べやすい様に小さめにちぎってあげる。食べにくさはあるけど、あえて具を少しはみ出させるのが美味しく見せるコツだ。その方が具沢山に見えて色合い的にも美味しそうに見えるからね! でも少なすぎる具を前に持ってきてあたかも沢山入っているかのように見せるのは違うと思う。それは悪意だぞ。


「はいどうぞ、召し上がれ」


「ありがとうございます! 凄く美味しそうです!」


「そうでしょ? それにお肉がこんなに食べられるなんて収穫祭万歳だよー」


「フフッ、ノエルちゃんはお肉が大好きですね」


 お肉は美味しいし、元気が出るからね! そんな風にお喋りをしながらのんびりと食事をする。周りを見渡してみると、地面に座ってお酒を飲んでる人達、テーブルで談笑している人達、お酒片手に色んな人のところへ回って話しかけている人もいる。みんな思い思いの過ごし方で収穫祭を楽しんでるみたいだ。



 子供たちはどうしているんだろうか、と思って口いっぱいにパンを頬張りながら周りを見回していると、少し面倒くさい子と目が合ってしまった。せっかくのお祭りなのになー……。

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