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子供のトラウマかくれんぼ

お知らせです。中々時間が確保出来ず、執筆が思うように進んでおりません……。これまで毎日投稿してきたのですが投稿頻度が一日置きになります。

毎日楽しみにして下さっていた方々には申し訳ない気持ちでいっぱいです。次回の投稿は24日土曜、お昼12時になります。


 ウサギさんカットのリンゴを一つ、近くにいた料理人さんに渡す。その料理人さんに、私は小声で話し掛けた。


「これでわかるでしょ? 今度姫様にもこんな風に切ってあげて」


 私はタコさんウインナーとかウサギさんカットのリンゴくらいしかできないけど、料理人達ならもっと子供ウケする物を作れるだろう。飾り切りが無いわけじゃない。この世の中は子供にウケそうな物がないんだよ。

 平民の子は貴重な労働力で遊んでいる暇もなく、貴族の子は勉強で忙しく足早に大人になって行くんだろう。だから子供という概念が曖昧なままなんだと思う。言うなれば『子供』ではなく『半人前』なんだよね。


「姫様は毎日忙しい?」


「私は忙しいよ! 巡回しなきゃいけないし、御作法の勉強とか帝国法? 覚えなきゃいけないし、他にもたくさん」


 姫様は少し表情を曇らせてウサギのリンゴをつついている。リリの小さい頃もほとんど毎日勉強してたし、その上で今も学園に通ってんだもんなぁ。帝国の教育がどんな感じかはわからないけど、姫の教育がおざなりなわけもないよね。


「それは大変そうだね。じゃあ姫様にはお客様を丁重におもてなしして貰おうかな」


「いいよ! お客様は低知能! だもんね!」


「誰が低知能だ」


 私は姫様のほっぺたをプニっと摘んでからお皿を片付けた。

 さて、姫様には子供らしく楽しんで欲しいところだけど……遊ぶことは想定してなかったから遊具は何も持ってきていない。やっぱりこういう時に魔法袋があれば、取り敢えず全部持っておこうの精神でいられたんだけどなぁ。


「ねぇ姫様、かくれんぼって知ってる?」


「知らないよ?」


 ●


 やってきたのは姫様の私室。メイドさんが若干嫌そうではあったけど、姫様御本人の「お客様は低知能――」でゴリ押された。

 姫様の私室は、白やピンク色をたくさん使った可愛らしいお部屋だ。もちろん広さも豪華さも可愛らしいとは思えないレベルだけど、目を細めて細かく見なければ可愛い女の子のお部屋だね。


「かくれんぼの説明をします! これは隠れる人と、それを見つける人に別れてやる遊びだよ! 言ってみれば宝探しみたいなものだね」


「宝探し? 探さなくても宝物庫にあるよ?」


 これが生まれの差って奴か。少なくとも我が家にはなかったぞ。宝物庫もお宝も。強いて言うなら私とレオが宝だ。


「姫様はわかってないなぁ。まさか宝物庫にある物だけがお宝だと思ってる? 思い出してみなよ。さっきのウサギさんカットのリンゴは宝物庫にあるかな?」


「ない!」


 そゆことだ。これで理解してくれたのか、姫様の瞳はもう待ちきれないと訴えかけるように、七色に光っておられる。これで探すのが私だと思った途端にテンション下がったら傷つくわ。


「という訳で、姫様にはお宝役の私を探して貰うよ! いいかな?」


「わかった!」


 姫様に、「じゃあ見えないように目を隠しててね」と一言告げてから私は早速行動に移した。

 相手は五歳の女の子。それもかくれんぼは初プレイの素人だ。私が本気で隠れてしまえばトラウマクラスの遊びに成り下がってしまうだろう。そんな思いをさせたくて遊んでいる訳では無い。

 先ずはどんな感じの遊びか体験してもらう、言わばチュートリアルといこう。


 私はさっとソファの後ろに座り込んで、姫様の視界からは見えないように、けれど周り込めばすぐに見つかるよう隠れた。


「もーいーよっ」


「はーい!」


 途端にドタドタと子供特有のやけに騒がしい走り方で部屋の中を駆け出した。メイドさんも大慌てだ。

 姫様はベッドの中を探しているのか、バサバサと布を動かす様な音が聞こえる。せっかく整えてあるのに無駄に散らかされていく様をみて、メイドさんはさぞかし悲しみに暮れているだろう。どうかその悲しみの矛先を私には向けないで欲しい。


「消えた! 部屋から出たのかな?」


「……姫様、部屋からは出ない決まりですからきっといるはずですよ。向こうの方はどうでしょう?」


「見てくる!」


 バタバタと足音が近付いてくると、姫様がピョコッとソファーの横から顔を覗かせた。


「お客様いたー!! ここ! コリーナここにいたよ! 変なのー!」


 姫様はコロコロ笑いながら私を指差している。


「見つかっちゃったなー。でも次はそう簡単に行かないよー?」


「お客様は私より大きいから簡単だよ!」


 その後も繰り返されるかくれんぼ。私はカーテンから足を出したまま隠れたり、コリーナさんの後ろに隠れたり、テーブルの下に隠れたりと、姫様がちょっと探し出せば見つける所ばかりに隠れた。

 ゲーム性なんてあってないような物だけど、隠れた物を見つけるのは楽しいらしく、どんな簡単でも見つけると楽しそうに笑ってくれた。


「お客様は私より大人なのにかくれんぼ下手だね!」


「……………………そうかなぁ」


「うん!」


 言うじゃん。もう少し難易度をあげようかな?


「じゃあ次は簡単には見つけられないよ?」


「え〜。まぁ言うだけなら簡単だよね!」


 生意気な姫様はまた目をつぶって私が隠れるのを待った。今まで簡単に見つけられたからこそ、姫様は自分にかくれんぼの才能があるとか、なんて簡単な遊びなんだと舐め腐っていることだろう。だけど違うぞ、姫様よ。かくれんぼは全国の子供達を泣かせてきた恐ろしい遊びなんだよ。見つけられず、出てこないともう帰っちゃうからねと言っても出てこなくて、泣きながら帰って行く子供がいるくらいには難易度が高い遊びだ。その真髄を見せてやりましょう!


 私はスタっとジャンプして天井のすみっこに張り付いた。今までのゲームでは足元見てれば見つけられただろう。カーテンの裏、テーブルの下、ベッドの下……。だが今回は天井だ。背が低く、更に視点を下げるように誘導されてきた姫様はゲーム開始と共にうつむき加減で探すだろう。

 見つけることが出来ず、トボトボ帰って行く子供の後ろ姿の様にね!


「もーいーよっ」


 私の合図と共に、姫様は敗者の様に俯いて探し回る。探せ探せ!


「ここかなー! ……こっちかな!」


 姫様は今まで私が隠れていた場所を、思い出を辿るように探し回る。一度使った場所は使わないという先入観を逆手にとるタイプなら秒で見つかっただろう。しかし、私はそんなに甘くない。


 部屋の隅から隅まで探し回るが、見つけられない姫様。ウッキウキだった始まりが嘘のように、自信なさげに肩を落として「いない」と呟きながら部屋をぐるぐると回っている。その後ろ姿からは寂しさが溢れ出ていた。


 姫様の中で楽しかった思い出が、儚く消えてしまっただろう。かくれんぼとは楽しいだけの遊びじゃないんだよ。見つけられない悲しさを知り、失って初めて気が付く友達が大切だったんだという事実。子供たちはかくれんぼを通して、友達は居て当然だという認識を改めるのだ。パーティーゲームは独りじゃできない。そしてパーティーゲームには何故か友達が同梱されていないのだ。友達は貴重なんだよ。


 メイドさんもそろそろ介入しなくては……と思ったんだろう。だがそう思ったのはメイドさんだけではなかった。

 天井に張り付く私の更に上、天井裏からコンという軽く叩いたような音が静まりかえっている部屋に鳴り響いた。おのれ影ッ! 貴様情に絆されて存在を隠しきれなかったな!


 音を聞いた姫様はバッと顔を上げてキョロキョロと見渡すと、天井の隅で手足を広げて張り付く私を見つけた。


「お客様ー!! そんな所にいたー!!!」


「見つかっちゃったー! さっすがは姫様だね。おいで」


 しゅたっと降りた私が手を広げると、姫様は嬉しそうに走り出して飛びついた。私はヨイショと抱き上げて左右に揺らす。


「お客様もう隠れちゃダメだよ? 下手っぴなんだから」


 姫様は私の服の襟の辺りをギュっと握りながらそう言った。


「そうだね。どうせ隠れたって簡単に見つかっちゃうからもうかくれんぼは懲り懲りだよ」


「うん! もうコリゴリだ!」


 姫様は私の首元にしがみつくように抱き着くと、ウトウトし始めてしまった。巡回をして、リンゴを食べて、かくれんぼではしゃいで不安になって安心したら眠くなってしまったらしい。

 起こさないように気を付けながらコリーナさんに姫様を渡すと、コリーナさんはそっとベッドに寝かせた。


「ありがとうございました。姫様がこんなにも楽しそうにしていたのはいつぶりでしょうか」


「たまには遊んであげなよ。勉強ももちろん大切だけど、それだけじゃ寂しいでしょ。それじゃあそろそろ部屋に戻るよ。お昼食べて皇帝陛下と面会しなきゃいけないしね」


 私はスヤスヤ眠る姫様の顔を見てから部屋を出た。

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