騎士団の人
帝国のお城内部は華美じゃなかった。絨毯などは敷かれているが、足がとられるほど毛は長くないし、謎のツボとかも少ない。変わりに壁際には鎧なんかが多く立てられている。
窓も少なくて小さいし、圧迫感を感じる程に閉鎖的だ。
中はメイドさんだけでなく、軍服のような物を着た人や豪華な礼服を着た人なんかも忙しなく走り回っている。王都のお城はもっと優雅だったけど、こっちは慌ただしい感じがする。
王都のお城とは違うから楽しめるけど、お城ツアーですって初めて連れてこられたのがここだったら私は「なんか違くね?」って言う自信があるよ。向こうが優雅にオーケストラでも流れてるとしたら、こっちは陣太鼓でも鳴ってそうだもん。
薄い絨毯の上をコツコツ足音を鳴らしながら歩いていると、ウルゼルさんが扉の前で止まった。
扉の上には『第二騎士団団長室』と書かれたプレートが貼られている。
ウルゼルさんがノックして入ると、中には四人の男性が顔を突合せて何か会議をしていた。
「第2騎士団所属ウルゼル、任務を遂行しモンテルジナ王国より帰還しました!」
「あぁ、御苦労。というとやはりこの騒ぎの原因はキミって事か」
一人のガタイがいい髭面の男が顔を上げて返事をした。どうやらこの山賊頭みたいなイカつい男が第二騎士団の団長っぽいね。
「騒ぎ……ですか?」
「そうだ。騎士団は有事に備えて武装し配置に着き、お偉方は客人を迎える為にてんてこ舞いだ」
どうやら忙しそうな雰囲気はお国柄では無く、実際に緊急事態が起きているそうだ。私はどうしたらいいのかな? 邪魔にならないように隅っこでご飯でも食べてようかな。
「それで、そちらのお嬢さんが?」
「はっ! こちらが件の妖精、ノエル様です」
「こんにちは。ノエルです」
頭を下げて軽く自己紹介する。男四人がソファに座りながらジロジロと私を観察しているが、居心地が悪いからやめて欲しい。
「私はユルゲン。ウルゼルの上官にあたる第二騎士団の団長だ。よろしく頼む」
山賊頭はユルゲンさんらしい。恐らくはアンドレさんと同等くらいの強さはありそうだね。第二騎士団の団長がその強さなら第一騎士団の団長はどのくらい強いのか。
「ふん、君が妖精? どういう手を使ったか知らないが、ドラゴンを手懐けて出世するとは運がいい」
「はぁ」
ユルゲンさんの対面に座っていた細身のイケメンが人を小馬鹿にしたように話し始めた。まぁサカモトが人間慣れしてたからすぐ家族になれた訳で、運の良さは否定できない。ドラゴン以外は劣等種! みたいな価値観の子だったら手加減してぶん殴らなければならなかったと思う。その点確かに運が良かったよ。
「私はカールハインツ・ヴァインシュタイン。第一騎士団団長だ」
私の運勢を占ってくれた細身のイケメンは第一騎士団団長だったようだ。ユルゲンさんと、その隣に座っている人は黒の軍服、カールハインツさんとその隣に座っている人は白の軍服を着ている。所属騎士団で別れてるみたいだね。
第一騎士団団長は強そうに見えない。まぁもしかしたら魔法的な何かが優れているのかも知れないしその辺は私の野生勘ではあまりわからない。
魔法使いと対峙したことなんかほとんどないからね。経験不足だ。
「ウルゼル、上空のブラックドラゴンに危険は無いと判断しても?」
「はっ! 平気です。私は帝国史上初、あのブラックドラゴンに乗って来た人間です。こちらから危害を加えなければ襲われることはないでしょう。ただ、あのまま上空を旋回させておく訳にもいかず、訓練場に降ろしたいのです」
私はウルゼルさんの隣でブンブンと縦に首を振る。サカモト降ろしたってください。君たちも嫌でしょ? 目的地に着いたのに足踏みしてろって言われたら。
「良かろう」
「ならん」
ユルゲンさんは良いと言って、カールハインツさんはダメだと言っている。つまりいいって事だ。
「じゃあサカモト呼んで来ますね?」
私はウルゼルさんにそう言ってから団長室の窓から上空へ飛んだ。グングン高度を上げてサカモトに合流する。
「二人ともお待たせ! 着陸していいってさ! 寒い中待たせてごめんね」
私は徐々に高度を下げていくサカモトを撫でながら、横で一緒に降りていく。訓練場がどこかはわからないけど、降りられる場所が限られてるんだからだだっ広いあそこだろう。
城から少し離れた所にある無人のエリアに降り立った。
少し砂埃が待ってしまうが仕方がない。王都に帰ったらリリに手伝って貰って洗車するか、新居の池で洗車かな?
ゴレムスくんはドロドロっと液体のようになり、流れ落ちるみたいにサカモトから降りて、またゴーレムの体に戻った。便利な生態だね。ゴレムスくんも労いながら魔力をたっぷり流し込む。コアで吸収できない余剰分でも出てるのか、ボディが虹色でとってもオイリーだね。
「ちょっとまだ話し合ってただろ! 勝手に飛び出すし降ろすし」
ウルゼルさんが慌てた様子で駆け付けて文句を言う。確かに話し合いの途中ではあったけど、結果は既に決まっていた。
「わかってないなぁ、ウルゼルさん。あの場でユルゲンさんが許可を出したんだからどの道こうなる事が決まってたんだよ。あの場には第二騎士団と第一騎士団がいた。ユルゲンさんとカールハインツさんで意見が別れたとしても、第二騎士団の方が人数多いんだから最終的には多数決でユルゲンさんの意見に決まり。簡単な推理だよ明智くん」
「誰だアケチクン。さっきはクララだっただろ。それに事はそう単純じゃない。第一と第二では色々あるんだよ……。発言力の差とかな」
まぁダメならダメで移動すれば良いでしょ。もう降りちゃったし。
「ウルゼルさん、それで私はどうすればいいのかな? 話し合いにまだ時間かかるならお昼ご飯食べに行かない? お城は忙しそうだし帝都で有名な所に行こうよ! どこかある? 帝都のオススメ飲食店。香辛料マシマシは嫌なんだけど、こっちのご飯はどうなんだろう?」
「はぁ……。団長に報告するから少し待ってろ」
「はーい!」
ウルゼルさんは肩を落として城の方へと去っていった。ウルゼルさんとは出会って間もないけど、何だか妙に親近感が沸くと思っていた。その理由がようやくわかったわ。あの人アレクシアさんに似てるんだね。ぶっきらぼうな感じとか、何だかんだで振り回されちゃうところとか。
女性で戦いに身を置く人は環境的にぶっきらぼうになっちゃうのかな? 周りには男が多いだろうから。
アレクシアさんの事を思い出したら、ふとモンテルジナにいる皆の事を思い出した。皆は元気にしてるかな。遠い異国の地で空を見上げながらそんなことを思った。
「数時間で帰れるんだけどね」
「グルウ」