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ノエルの新居1 リリアーヌ視点

 陛下もお父様も、サカモトが王都へ住み始めた段階で動き始めていたそうですの。どうせ隠し通せないのだから、難癖をつけられる前に開示した方がいいとのお考えだそうですわ。早馬(ノエル曰く速くない)で手紙を送り、連絡を待っていたそうですわ。

 

 しかし、夏が終わり、木々が赤や黄色に色付き始めても、マグデハウゼン帝国からの連絡はきていないそうです。

 恐らくはあまりにも突飛な内容に目を白黒させ、情報の真偽を確かめるのに手間取っていたのでしょう。


 ノエルの走る速度や、サカモトでの移動で感覚がおかしくなっていますけど、本来は王都と我が家まででも二十日間はかかるのですから、調査に時間が掛かるのも無理ないことですわ。


 実家の村へ帰ると言っていたノエルも、王都の外に家を建てることで納得してくださいましたし、サカモトが入れる大きな家を作る予定だと息巻いていました。

 そんな大きな家を建てるとなったら一体何年掛かるのかもわかりませんが、余計な事を言って「やっぱり村へ帰るよ」なんて言われてしまっても困るので、わたくし達の間では建築については禁句になりましたの。


「大きい家って時間かかるみたい」なんて切れ長の目に哀愁が浮かんでいた時は皆で励ましましたわ。

 ベランジェール様も、王城の建築には大量の人員を投入して数年かかったと本に書いてあったと言っておりました。城を立てる訳ではないですけど、サカモトが入れる大きさでしたら十分大事ですし、国家事業ではないので大量の人員も投入できませんから気長に待つしかないですのよ。


 一人だと寒くて眠れなくなる冬がやってきた頃、ノエルが皆を集めてこう言いましたわ。


「お家ができたよ!」と。


 もう着工していた事も知りませんでしたから驚きましたし、年単位で掛かる建築を終わらせたと聞いて不安な気持ちにもなりましたわ。

 屋根があるだけの大きな馬小屋の様な物、或いは地面を掘っただけの洞穴、そんな物が脳裏を過ぎりましたわ。


 早速皆を招待すると言い始めたノエルに従い、王都外でサカモトに乗り込み大空へと羽ばたきました。ただでさえ寒い季節に、サカモトでの移動は辛い物でしたけど、エマがわたくし達を魔法で覆い、温度を閉じ込める事で快適な空の旅へと変わりましたわ。

 この子のノエルの役に立ちたい、必要とされたいという想いには頭が下がりますわ。


 暗闇で覆われ、外が見えないまま移動していると、サカモトがゆっくりと地面に降り立ちました。王都を離れて数分、思っていたより遠くに家を建てたようですわね。これでは気軽には行き来できませんわ……。


 エマが魔法を解除すると、冷たい風が顔に当たり思わず身をすくめましたわ。

 ノエルに抱き抱えられ、サカモトから下ろされましたが、ノエルの家らしき物は見当たりません。視界に映るのは森でした。


「こっちこっち! 驚かそうと思って反対向きに降りたの」


 ノエルはイタズラでもする子供のような表情で手招きしてサカモトの後ろへと回っていきましたわ。


 わたくし達も大きなサカモトの周りをぐるりと回って反対側へと向かいました。

 そこで見えたのは見慣れた青い光沢の金属でできた巨大な壁。まるで王都やティヴィルの街壁の様な、アダマンタイト製の壁がそこにはありましたわ。


「……よくアダマンタイトがここまで手に入りましたわね」


「まぁねー。皆で集めたんだよ! 凄いでしょ」


「皆……?」


 良くはわかりませんが、周囲は森に囲まれているので、魔物の襲撃から守るためには必要だったのではないかしら。そんな辺鄙なところに家を建てなくても……と思いましたけど、王都に近過ぎてはまた文句を言われると思ったのかもしれませんわ。結構煩わしそうな表情をしていましたからね……。


「ノエルちゃんノエルちゃん。これってどこから入るんですか?」


 エマが言うように、門らしきものは見当たりません。堀には水が流れ、馬車がすれ違える程大きな鉄製の橋が掛かっていますけど、その先も継ぎ目のない壁ですわ。


「ふふふ、ここが一個目の驚きポイントだよ! なんとここには入口がありません!」


「流石はノエル様です! 出入りするための家からあえて入口を取っ払うなんて普通では考えられません!」


「でしょう?」


 最近一段とノエルのことになると何でも肯定するアデライトは早速意味不明なことを言い始めましたわ。


「まぁ私の場合はサカモトとかシャルロットとか、なんならぴょんと飛んで上から入れるからね。門なんて作ったら強度下がるから要らないんだよ」


「力技ですわね……」


「だけど他の人は困っちゃうでしょ? そこで驚きポイント2だよ! おーい、あけてー!」


 ノエルが手を口元にあてて大きな声で呼びかけると、橋の先にあった外壁がグニグニと動き出し、瞬く間に空洞ができましたわ。

 皆がノエルの近くにいるゴレムスくんを見ましたが、ゴレムスくんは手を挙げて首を左右に振っていました。どうやらゴレムスくんではないらしいですわ。

 ということは……、


「まさかノエル、先程の皆ってそう言う事ですの?」


「お、さすがは我が半身リリだね。アダマンタイトゴーレムとアイアンゴーレムを雇ったの。魔力払いで出入り自由。去ってもいいし、居てもいいよって」


 後ろ向きに歩きながらノエルが説明してくれましたわ。一体どれ程のゴーレムが出入りしているのかわかりませんが、少なくとも常駐してくれるアダマンタイトゴーレムもいるのでしょう。


 ようやく橋を渡切り、壁の内側に入ると、見えてきたのは広大な敷地でした。何も無いのにいくつかに柵で仕切られた土地がたくさん並んでおりますわ。


「まわりは何も無いのね」


 ベランジェール様がキョロキョロ見渡しながらそういうとノエルがバツが悪そうに頬をかきながら答えてくれましたの。


「なんか職人さんがさ、建築中の空き時間とかにはしゃいでさ。畑作ろう! みたいな事言い始めたんだよね。見える? あそこにある水も川から引っ張ってきてるし、あっちにあるのはサカモトの水浴び用の池だよ。あれもこれも職人さんの悪ノリだね」


 ノエルの指さす方には緩やかに流れる川と、大きな池がありました。しかし、気になることが一点。


「ノエル様、私達のお家がありませんよ?」


 そうなんですのよ。アデライトの言う通り、家は見当たらず、ぐるりと外壁に囲まれた広い空間しかありませんの。


「ふっふー。そこが驚きポイント3だよ! 実はここにあるのは畑と池だけで、お家は更に壁の向こう側なの」


「平民街と貴族街みたいな事?」


「そだね。そんな感じ」


 ノエルの話に寄りますと、建築にはノエル達みんなが大いに力を奮ったそうですわ。重い物も楽々運べて、それが大量であればサカモトがまとめて運び、必要な足場や道具があればゴレムスくんがアダマンタイトで作り、職人さんの移動はシャルロットに頼めば高低差も関係なく速く移動したそうですの。

 そこに更に単純作業であれば雇ったゴーレム部隊がせっせと働き、余った時間で職人達がはしゃいだそうですわ。


「だから予定にないよくわからない物ができちゃったんだよね」


「でもノエルちゃんなら一緒になって遊んだんじゃないですか?」


「流石はもう一人の我が半身、その通りだよ! 外壁をアダマンタイトで作ったのは私の案。これなら誰が攻めてきてもゴレムスくんが壁からニョキっとアダマンタイトを棘みたいにしちゃえば迎撃もできるんだよ! 凄くない? この外壁はゴレムスくんにとっては装備でもあるんだよ!」


「一体何と戦うんですのよ……」


 坂道や階段を登り、入口とは反対側の壁へと向かっていく。そこにもボーッと座っているアダマンタイトゴーレムがいましたわ。


「開けてくれる?」


 ノエルがひと言告げるとゴーレムは壁に触れ、また入口ができましたわ。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] これ魔王城爆誕してない?
[一言] えぇ...サカモト空港がサカモト城になってる
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