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頑張れオルガちゃん

 アレクシアさんの愚痴を聞いていると、オルガちゃんが大声を出して立ち上がった。


「そうだ! ウチそろそろ自主練しないと!」


「自主練って何するのよ」


「ウチ、ハニービーに相手してもらってるんだ」


 立派な村の一員であるキラーハニービー達に訓練してもらってるみたいだね。それは自主練というのかどうか微妙なラインだけど。


 そんなわけで、キラーハニービーにどう指導してもらっているのか気になった私達は、オルガちゃんの自主練に同行することにした。

 私たちは馬車に乗り込み、オルガちゃんは訓練と称して後ろから馬車を押しながらキラーハニービーのところへ向かった。


 ●


 洗礼式の時、みんなで狩人とウサギをやった教会の丘に来ている。教会の丘には沢山の花が咲き、そこには何匹かのキラーハニービー達が飛び交い、せっせと花の蜜を集めている。


 養蜂当番の人も花畑にやってきて、キラーハニービー達と協力しながら花の手入れをしている姿が目に映った。


「それで訓練って何するんですの?」


「簡単だぞ! キラーハニービーの巣に触って逃げるだけだ!」


「それ指導して貰ってるんじゃなくて、キラーハニービーに怒られてない?」


「んー? ウチ自主練してるだけで指導は受けてないぞ?」


 オルガちゃんは首を傾げながら何の話だって顔をしている。そう言えば私はキラーハニービーに指導受けてるんだと思ったけど、オルガちゃんは最初から自主練って言ってたわ。


 どちらにしろ、実際どんな感じでしてるのか気になったので私たちはオルガちゃんを見守ることにした。教会横にある大きな木が、今はキラーハニービー達の巣に飲み込まれている。オルガちゃんがスタスタと巣に近付いていくと、巣の警備担当であろうキラーハニービー達が集まってきた。


 オルガちゃんはキラーハニービーが集まって来たのを確認してから走り出し、キラーハニービーの巣目掛けて一直線に突撃する。

 当然キラーハニービー達はそんなのを見過ごせるはずもなく、オルガちゃんを捕まえようと飛びかかっていく。

 時にしゃがみ、時にジャンプし、一歩進んでは二歩下がり、キラーハニービーに捕まらないように回避しながら巣へと近付こうとしているが、オルガちゃんは中々近付けないままだ。


「へー。結構難しそうね」


「ノエル様なら簡単ですよね」


「いやまぁ……そうだけど」


 一進一退の攻防の末に、遂にオルガちゃんはキラーハニービー達に捕まり、連行されるように丘の下まで運ばれて行った。

 丘の下ではキラーハニービーに囲まれてしょんぼりしているオルガちゃんと、しかる様にアゴをガチガチ鳴らすキラーハニービー達がいた。


「おー、今日もオルガは怒られてんな。もうそんな時間かー」


 花畑の手入れをしている人たちにとっても最早恒例行事らしく、時刻を告げる鐘のような扱いだったよ。

 五分十分オルガちゃんをしかったキラーハニービー達は満足したのが、すーっと空を飛んで巣へと戻って行った。


 オルガちゃんはトボトボと丘を歩いてのぼり、私たちに合流した。


「今日も一回戦目はウチの負けだったぞ」


「……二回戦目もあるの?」


「あるぞ?」


 あるらしい。雰囲気的には近所の悪餓鬼とそれをしかる大人って感じだったが、本人にとっては立派な訓練みたい。

 実際キラーハニービーの群れはBランク相当だったハズだから、掻い潜って巣に近付くことができれば回避に関してはかなりの物になるんじゃないかな?


「……平民も色々努力してるのね。王侯貴族の義務も無いし、ほとんどの平民が学園にも行かないから余った時間でただのんびりしてるんだと思ってたわ」


 転んだ拍子にとっ捕まり、また丘の下まで連行されていくオルガちゃんを見てベランジェール様が呟いた。ああやって膝の怪我はできるんだろう。


「王女様は浅はかね。私達貴族が平民をひっ叩いた所でなんの問題にもならないのよ? そんな生き様がラクな訳ないじゃない。我が家の領地でも見にいらっしゃいな。皆死んだような顔してて笑えるわよ」


 アデライト嬢が鼻で笑いながら答えた。マルリアーヴ侯爵領はだいぶ圧政を敷いているみたいだ。


「アデライト嬢、おいで」


「はいっ!」


 私がアデライト嬢を呼ぶと、しっぽを振り回しながら嬉ションでもするんじゃないかってくらい嬉しそうに私の所に来た。

 私はそっとアデライト嬢を抱きしめる。


「あぁ! ノエル様の腕の――」


「アデライト嬢は好きな人いる? 家族とか友達とかなんでも良いんだけど」


「はいっ! いと尊きお方がおります!」


「じゃあその人がね、他の人から叩かれたり虐げられてたらどうする?」


「どうするも何も、そんなことできませんよ? 万が一そんな事があれば私の全てを持ってして報復すると思います。安心してくださいね」


 安心も何も私がしたいのはそういう話じゃない。


「んと、まぁ報復は置いといて、良い気はしないでしょ? アデライト嬢がひっぱたいた誰かも、誰かにとっては大切な人なんだよ。だからできれば他の人にも優しくしてあげてね」


 政治なんて私にはわからないし、見知らぬ誰かを救おうと思うほど善人でもない。マルリアーヴ侯爵領に住む人達は可哀想だけど私にはあんま関係ない。

 ただ、せっかく仲良くなってきたアデライト嬢が誰かを虐げたりするのはあまり見たくないし、私は優しい人の方が好きだ。押し付けるつもりはないけど、まだまだ子供なこの子達が立派な大人になれたら良いな、とエゴかもしれないけど少し思う。


「ノエル様がそうお望みとあらば」


 アデライト嬢に私の言葉は響かなかったのか、言われたからそうするくらいのスタンスだった。ただ、不満は感じていなさそうだし、平民が虐げられる事に対して今まで特に何も感じてなかったんだろう。

 ちょっと悲しいね。


 三回戦目も無事に敗北したオルガちゃんは丘の下まで連行され、説教の時間はドンドン伸びていた。


「よし、じゃあアデライト嬢! オルガちゃんが戻ってくる前に私たち二人でキラーハニービーの巣を攻略するよ!」


「ふ、二人の共同作業ですね!」


 私はアデライト嬢をくるっと回転させて、背中側から抱きしめながら巣へと歩いていく。


「やあやあ! 遠からん者は音に聞け! 近くば寄って目にも見よ! 我こそは最強の平民ノエル様と!」


 私は二人羽織の様に抱きしめているアデライト嬢をツンとつつき、続きを促す。


「その下僕、アデライト!」


 サラッととんでもないね。人聞きが悪過ぎるよ。


「友達ね、友達。友達のアデライト! そして君らのリーダーシャルロットのお通りだー! そこのけそこのけ美少女三人が通るぞー!」


 私の名乗りに恐れ慄いた……訳ではなく、いつも通り普通に通してくれる。

 キラーハニービーの巣の横にはアダマンタイト製の箱が設置してあり、その中には大量のこぶし大の魔石が入っている。キラーハニービー達への報酬であり、おやつでもある魔石に、私は大量の魔力を流し込む。言ってみれば充電だね。彼等はこれに齧り付いて魔力を吸うのだ。


「ほらアデライト嬢も巣に触ってみたら? 中々ない機会だよ?」


 おっかなびっくりって様子でアデライト嬢が巣に触っていると、一匹のキラーハニービーがお礼なのか瓶に詰めたハチミツを持ってきてくれた。


「ありがとう。アデライト嬢、これで後でパンでも食べよっか。採れたてだよ」


「これ中々手に入らない高級品ですよ?」


「この村ではどの家庭にもあるけどね」


「やはりノエル様の故郷は普通じゃないわね」

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