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アレクシアさんの悩みごと

 壁に穴が空いていたアレクシアさんのお家も今じゃ立派な石レンガのお家だ。ドアをノックすればドタドタとオルガちゃんが走ってくるか……と思ったけど、意外や意外。静かにドアが空いた。


 中から出てきたのはアレクシアさん、に似た私より背の高い大人びた女の子。長いポニーテールを揺らして首を傾げている。


「あれ? ノエルじゃん。久しぶりだしなんか小さくなった?」


「オルガちゃん久しぶり。また背が伸びたね」


「うん、ウチ膝が痛くて痛くて寝るの大変だよ」


 少し項垂れたようなポーズをするオルガちゃん。ゴリゴリ背が伸びてるのか、まだ12歳なのに170センチ近くありそうだ。ちなみに膝は成長痛かと思ったけど擦りむいてるっぽい。膝に包帯みたいなの巻いてあるよ。


「それより上がってよ。なんかお客さんもいっぱい居るみたいだし」


「ありがとー。おじゃましまーす!」


 オルガちゃんに案内されて、ゾロゾロと家の中に入っていく。リビングにはアレクシアさんが待っていて、私たち一行を見て少し呆れたような顔をした。


「ホント皆で来たんだな……。ここまで来るともうどうにでもなれって感じだな。どうぞくつろいでってください」


 皆がテキトーにイスやソファに座ると、オルガちゃんが早速ベランジェール様に話しかけた。


「ごめんね、その席はウチの席なの。こっちでもいい?」


「え? あ、うん」


 一人がけ用のソファに座っていたベランジェール様にそこどいてって言うとは、さすが怖いもの知らずのオルガちゃんだ。

 もうどうにでもなれって言ってたアレクシアさんも顔面蒼白だ。


「ありがとー。代わりにウチのお気に入りのクッション貸してあげるよ。これ甘い匂いするんだよ?」


「そうなの? あら、ほんとね。特別な素材でできてるのかしら……。アデライトも嗅いでみて?」


「……ハチミツみたいな香りがするわ」


 歯に衣着せぬ物言いで、嫌味なく真っ直ぐなオルガちゃんの言葉は新鮮なのか、ベランジェール様は流されるように席を移動して普通に会話を始めている。


「あのオルガって子も昔と変わらず真っ直ぐの様ですわね」


「そうだよ。でも昔程ヤンチャな感じじゃなくなったでしょ?」


「そうですね。昔のオルガちゃんはもっとおバカな子でした」


「アレクシアさんに怒られるから一生懸命猫かぶってるんだよ? 楽しくなると保てなくてアホになるの。面白いよね」


 第三王女と侯爵令嬢が平民の家でクッションの匂いを嗅ぐという蛮行を眺めていると、アレクシアさんが気絶するんじゃないかってくらい顔色が悪くなっていることに気が付いた。


「そのクッションね? ウチがハチミツ零したの」


「洗濯しなさい! なんなの? この村! 王女の扱いがおかしいわ! それとも村ってどこもこんな感じなの?」


 ベランジェール様は立ち上がり、下手くそなフォームでクッションをオルガちゃんに投げつけた。


「どこもこんなだよ? 普通の村だもんここ。それに今のオルガちゃんとのやり取りは友達っぽかったなー」


「……そ、そう? 私も少し思ったの。なんか対等な友達っぽかったよね?」


 ベランジェール様は少しニヤニヤしながら席に座った。人と遊ぶ楽しさを知り、友達に飢えすぎて少しだけおかしな感じになってるけど、旅先でハメを外していると思えば許容範囲かな?


「ノエルも久しぶりだったけど、エマも久しぶりだな! 背が伸びてないけど飯食べてるか? ウチ少し心配だぞ」


「大丈夫ですよ。ちゃんと食べてます」


「それにリリアーヌも何年ぶりだ? 飯食べてるか?」


「わたくしも食べてますわよ」


 オルガちゃんは自分がモリモリ身長伸びてるから、他の子が小さく見えて心配してるみたいだね。田舎のおばあちゃんみたいにやたらと飯食べさせてきそうではあるけど。


「それに知らない子も居るぞ?」


「私はアデライトよ。貴方はノエル様の友達かしら? それなら仲良くしてあげるわ」


「私は第三王女! ベランジェールよ! 良い? 王女よ!」


「お姫様か? 通りで綺麗なわけだな! ウチはオルガ。第一長女だぞ!」


「長女は普通第一なの!」


 お互い自己紹介を済ませる。ベランジェール様がオルガちゃんに振り回されてるみたいだけど、概ね問題なさそうだ。


「オルガちゃんは最近どう? 村での生活」


「ウチか? ウチは毎日母ちゃんにボコボコにされてるぞ……」


 オルガちゃんはそう言ってシャツをめくってお腹を見せた。結構綺麗な腹筋とくびれはさておき、お腹の正面、横腹や背中側にいたるまで、色んなところにアザが出来ていた。


「アレクシアさん悩み事でもあるの? オルガちゃんにあたるのは良くないよ?」


「んなことするか! オルガが冒険者になるから鍛えてくれって言い出したんだよ。あたしもモリスも反対してるんだが聞きやしないから諦め半分で鍛えてる」


「へぇー」


 オルガちゃんは冒険者になりたいのか。アレクシアさんもモリスさんも元冒険者だし、そう思うのも自然の流れなのかもな。

 ベランジェール様は青アザを見た事ないのか、興味津々な様子で観察している。


「それ、痛くないの? 青くなってるわよ?」


「痛いぞ? 触ってみるか?」


 ベランジェール様はオルガちゃんの提案に頷き、恐る恐る手を伸ばして青アザをグッと押した。


「い、痛いって! ほらな? 結構痛いでしょ?」


「ホントね」


 オルガちゃんのちょっとおバカ空間に飲まれてしまったのか、ベランジェール様も少しアホアホな感じになってるね。


 アデライト嬢は痛いと言ってるオルガちゃんの青アザを「じゃあここは?」とニヤニヤしながら何ヶ所も押していた。


「アレクシアさんは冒険者だったのにオルガちゃんが目指すのは反対なの?」


「反対だ。冒険者なんて他に生きる術が無いような奴か腕っ節しか無いような奴がなるんだよ。食う為生きる為に命賭けで戦って、騙し騙され出し抜く世界だ。そんなとこに大事な娘を送り出せるか」


 アレクシアさんは嫌な思い出でも蘇ったのか、少し暗い表情で吐き捨てるようにそう言った。


「ノエルくらい強ければどうとでもなるが、見ての通りオルガはアホだろ? 最悪依頼達成して金払うぞアイツ」


「さすがにそこまでではないですわよね?」


 アレクシアさんはリリのツッコミにも近い問いかけに首を横に振りながら答えた。


「いえ、冒険者の世界ではたまにある事ですよ。依頼主に騙されて賠償だなんだと吹っかけられるとか。荷運びの荷が最初から壊れていたりとか。確認を怠るとそういうこともあるんですけど、オルガにそこまで出来ると思いますか?」


「……」


「そういうことです」


 正直怪しいよね。「この荷を隣町まで運んで」って言われたら、「これか? これくらいならウチ運べるぞ!」って流れで何も考えずに走り出しそうだよ。それがご禁制の物だったとしても知らずに嬉々として運ぶと思う。


「それに、冒険者の多くは行き場がないんだよ。家が貧しかったり、孤児だったり。だから冒険者にしかなれなくて、一旗上げようと躍起になる。五体満足で引退出来れば御の字だし、引退後に貧しくない程度に暮らせるようになれば大金星だ。だけど誰かさんのお陰でこの村の生活は豊かだ。だからオルガはそのどちらも既にあるんだよ。冒険者が目指す場所にもう立ってるんだよ。それなのに命だけ賭けてどうすんだって話さ」


 アレクシアさんは冒険者というのがあまり好きじゃないんだろうな。初めて二人でティヴィルに向かった時も、私に冒険者の良くない部分ばかりを紹介してたっけ。


 その後もアレクシアさんは酒があればベロベロに酔っ払うまで飲むんじゃないかってくらいに愚痴を零していた。

 親として大事な娘が危険な道へ進むのは認められず、かと言って望まぬ生活を押し付けていてもそれは生きているとは言えない、と答えが出せないまま、日々オルガちゃんを鍛えているそうだ。


 私が一緒に冒険者をやってあげればアレクシアさんは安心できるかもしれないけど、魔物は私を避ける。一緒にいたらまともな冒険者生活にはならず、お散歩する毎日になるのが目に見えてるから困りものだ。

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