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夏は嫌いでも夏の終わりはなんだか切ない

 行商人は予想通り数日後に来てくれた。商品化の話が進んでも売り出したわけじゃないから今回は何も買うことができないけど、興味はあったからお母さんと一緒に見に行ったよ。


 馬車に乗ってやってきた二十歳過ぎくらいの行商人は村の開けたところに布を広げて、臨時のお店を開いていた。何人か村の人も集まって見ているみたい。この世界の初めてのウインドウショッピングにワクワクしていたが売っている物はなんというか……うん、言葉を選ばなければ大した物がない。


 少しくすんだ塩や、古着、生地の荒い布や農具や鍋なんかが売っていた。もっと異世界ならではの武器とか、あるのかわからないけど魔法の道具とか、魔物の素材とかそういうのを期待してたんだけど、全然売ってなかったよ。考えてみれば田舎村に伝説の武器とか、昼と夜を入れ替える魔法の道具を持ってくるわけない。


「やぁ、お嬢ちゃん。何か買っていくかい?」


 こっちを見ながらそんなことを言うもんだからちょっとびっくりしたわ。子供の私が買うわけないのをわかっていておねだりさせる作戦だな。中々やり手じゃないですか!


「ねぇねぇ、行商人のお兄さん! 売り物はここに広げてあるやつで全部なの?」


「ん? 一応まだ馬車の中にあるけど他の村から買い取ってきた木彫りの置物とかそんなものかなぁ。見てみるか?」


 何か掘り出し物があるかもしれないし念のため見せてもらう。行商人のお兄さんは馬車からいくつかの箱を持ってきて中身を見せてくれた。


「んー……。何か凄いね! お母さんは買う?」


「今日はやめておくわね」


 買うわけないよね。ぶっちゃけこれ旅行先で見かけるような謎の木彫りの置物みたいな奴とか何かの生き物の置物とか、そういう買っても扱いに困るようなものだね。なんで行商人はこんなのを買い取ったんだろう。


「街ではこういう木彫りの置物とかが人気あるの?」


「いや? 人気がある訳じゃないが、全く売れないって物でもないね。空荷で帰るのも勿体ないから一応赤字にはならない少量だけ買ってるって感じかな」


 なるほどなぁ。買い取って貰えるなら深く考えないでテキトーな置物でも作ればよかったよ。結局買うお金もないし、買いたい物も何もないから行商人のお店を後にした。


「お料理に使えそうな物とかなかったね」


「いつもそんなものよ? 極々稀に珍しい物があることもあるけど、途中で買い付けたとかでもない限りわざわざこんな村まで持ってこないわ」


「それでも私は諦めないよ! 本当のスープって物をいつか作ってあげるからね!」


「またお料理手伝ってくれるの? ママ嬉しいわ」

 

 行商人ではお料理に革命は起こせなかったけど、田舎の貧しい農村に高価な商品や調味料なんて持ってきてもリスクしかないからしょうがない。村では手に入りにくい生活必需品って感じのラインナップだったし、もしかしたら利益を出すための行商というよりは、農村での生活が立ち行かなくならないように領主様から依頼とかが出てやっているのかもしれないね。駆け出しの商人がやるお仕事とかなのかも。実際のところはどうなのかわからないけど、今回の事でわかったのは欲しい物は街に行くか作るしかないってことだね。

 

 そんなことを考えながらニコニコのお母さんと繋いだ手をブンブン振りながら気合十分で帰った。ワクワクしてたお買い物も終わってみればなんだかなぁって感じの感想で少し寂しいけど仕方ないね。楽しみにしていた物ほど、待ち遠しくしている頃が華なのはいつもの事だ。ハロウィンしかり、クリスマスしかり準備している頃が一番楽しくて、本番なんかはあっけないものだよ。

 行商人のお兄さんは村長の家に泊まってから翌日には次の目的地へ向かっていったそうだ。結構忙しいスケジュールなんだね。


 それから二週間くらいたって家にエリーズさんがやってきた。エマちゃんが一緒じゃないなんて珍しいけどまぁ上がってってください。


「エリーズが急に来るなんてどうしたの? エマちゃんが一緒じゃないし体調でも崩しちゃった?」


「エマは元気いっぱいだから平気よー。今日は以前話した商品化の事で報告があるの」


「連絡きたの? 作ることになった? それとも作る価値はないって言われちゃった?」


 私はちょっと興奮気味に口をはさんだ。


「数日後には試作品を届けてくれることになってるそうよー。それで問題がなければそのまま商品化に向けて作っていくってお手紙に書いてあったわー。良かったわね、ノエルちゃん」


 おお、作るかどうかの話すら聞いてないのにもう作ってたんだ。急な話で驚いたけど、作って貰えるなら遊べるから良かったよ。異世界で需要があるのかはわからないけど売れるといいね。


「でも作ることに決まった、なんて話はなかったわよ? どうしてそんなに急に?」

 

「私も手紙がくるまで知らなかったのよー。こういう物を作らないかって実家に手紙を出したらお爺様が随分と張り切ったそうで、売れるから早く作るぞーってどんどん話を進めていったみたいなの」


 ほえー、なんかアグレッシブなお爺さんだね。


「お爺様が仰るには今まで子供向けの遊び道具や教育に使える遊び道具という物があまりなかったそうで、興奮気味に売れると息巻いていらっしゃるみたいねー」


 エリーズさんのお爺さんは結構厳しい感じの人なのかな? なんだか口調が丁寧というか角ばっている感じになってるぞ。でも知育玩具がないのは仕方がないとしても、子供向けの玩具が街にもないってのは意外だ。街にいる子供たちって何して過ごしてるんだ?

 

 そんな感じで足早に動き出したお爺さんの指揮で商会は計画を進めて、トントン拍子で試作品の完成までこぎつけたんだって。複雑な物じゃないから作ること自体はそんな大変ではなかったみたい。流石はプロって感じだね。


「お爺様が発案者に他にも何か浮かんだら是非とも連絡をしてほしいと仰っていたそうよー」


「えぇー。変な期待されても困るよ……」


「フフッ、別に浮かんだらで構わないの。浮かばなければそれはそれで構わないわー」


「そうね、下手に考え出すとノエルは何をするかわからないから大人しくしてて」


「お母さんひどいよ!」


 何にせよ試作品が届くのが今から楽しみだ。村の子供たちの為に道具を使わない遊びとかも考案した方がいいかな? 竹馬を皆に用意するのは難しいだろうし。


 そんな日々を過ごしていたらいつの間にか暑い夏が終わろうとしていた。あまり夏は好きじゃないけど、夏が終わるとなるとどこか寂しくて……本当はもっと何かできたんじゃないかって思ってしまうのは前世で長い夏休みを経験してきたからなのかな? でも終わる夏より始まる秋だ。秋には作物を収穫し終えたら村の皆が楽しみにしている収穫祭が始まるんだってさ。子供はお酒が飲めないからご飯を食べて終わりみたいなものだけど、子供でも楽しめるレクリエーションでも考えてみよう。


 終わってみればあっけない夏だったけど、大きなトラブルもなく過ごせた良い夏だったよ。

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