商品化はお任せ
商品化について家族で話し合った結果は、エリーズさんに任せることに決まった。作った物が有名になってしまえばそれだけ魔法が露見する危険性が増すことにはなるが、洗礼式の日に多くの人が見ている以上どっちみち時間の問題だろう。それならばこの機会にお金であったり、人脈であったり何かしら身を守る手段が得られる可能性の方が重要なんじゃないかって。基本的に私が考案したというのは秘密にするから人脈というのはイマイチ期待できないけどね。商品が有名になってからちびっ子が現れて、あれ実は私が考えたんです! って言いだしても誰も信じないでしょ。
後日改めてエリーズさんに時間を取ってもらって家族三人とエリーズさんで商品化についてお願いした。エリーズさんは商品として作る価値が十二分にあると思っているそうだけど、実家の商会が最終決定する話だから、まだどうなるかはわからないんだって。もし作ることになったら、商会がこういう物を作ってくれと職人に依頼を出して、作ってもらってから売ることになる。その売り上げから私にお金が支払われるのだけど、ここがまた問題になったよ。問題多くない? 小学生の頃竹馬作ったときは何も問題なんかなかったのにどうしてこうもややこしいのか……。いや、私が竹馬で爆走したせいで校庭が荒れたという問題があったね、懐かしい。
こういった場合の金銭のやり取りは一般的には商業ギルドを通して、口座に入金されるのが大半だそうです。だけど私は商業ギルドに口座なんて持ってないから、私の口座を作りにギルドまで私自身が行かなくちゃいけないんだってさ。
当然こんな田舎村に商業ギルド何てものがあるはずもなく、街まで行かなきゃならない。裕福そうにも見えない五歳児が商業ギルドで口座を作ってたら少なからず目立つ。急に現れた平民の子供が口座を作って、その後とある商会から珍しい商品が何個か売られ始めました、となったら目敏い商人なんかは何かしらの繋がりがあるのではないかと勘繰るかもしれない。そうなったらわざわざ考案者であることを隠している意味が薄れてしまう。考えすぎだとしても用心するに越したことはない。
その対策として、本来私に支払われるお金を商会、あるいはエリーズさんに預かってもらって必要になったら払ってもらうという提案がされた。ただしこれにも問題があって、商業ギルドを通しての契約にならないから、お金を支払わないなどのトラブルがあってもギルドには助けて貰えないんだって。だから本当だったら良いやり方ではないし、おすすめはできないとエリーズさんは言っていた。
一度街に行ってみたい気もするが、行くなら普通に行く時でいいし目立つことをするのは避けたい。気にし過ぎかもしれないけれど、わざわざリスクを負ってまで街で口座を作る必要もないよ。
「信頼できなかったらそもそもこんな話してないから今更でしょ」
って私の発言で商会で管理してもらうことになった。ついでにエリーズさんにありがとう、と微笑みながら頭を撫でられた。美人にしてもらえるなんてこちらこそありがとうだよ! それとついでに竹馬とかが出来たら私とエマちゃんの分も用意してほしいとおねだりしたよ! あと一応オルガちゃんの分も。
でも竹馬がちょっと気になるんだよね。いろはかるたと文字積み木は室内で使う物だから大丈夫だけど竹馬は外で使う物だ。私とエマちゃんがキャッキャッと遊んでいれば村にいる他の子供たちだって気になるよ。自分たちもやってみたいとなること間違いなしだ。私だったらそうだもん。貸してあげるのは良いんだけど、自分たちも欲しい、大人に作ってもらおうってなったら困っちゃうのよね。
そもそも子供の遊び道具だから安全面に考慮しなくちゃならないって理由から職人さんに頼むことにしたのに、村の人たちが勝手に真似してテキトーに作り始めたら本末転倒だ。正直な話、せっかく子供が安全に楽しく遊べるようにと思って職人さんにお願いしたのに、勝手に真似して作って勝手にケガしたなら私の知ったこっちゃない。そんなもの自己責任で自業自得だよね。でもそれが私の住む村で起きたとなればそうも言ってられない。私たちの真似してケガをした子がでたけど、私は別に悪くないから知らんぷりではどうしても角が立ってしまう。ケガされても責任取れないから、エマちゃんとオルガちゃん以外の子には貸さないし、勝手に真似して作らないで街で買ってきてください、って言う訳にもねぇ……。
村で共用として使えるようにある程度の数を私が用意する、というのも一瞬考えたよ。でも街で売り始めた子供向け遊具がたくさん置いてある田舎村とかそれもう完全に発祥の地でしょ。もう隠してるのか隠してないのかわけわからんわ! この村が関係してるぞってバレバレじゃないか!
すぐに出来て私のところに来るわけじゃないんだしその辺はもう棚上げにしよう。私の棚は整理整頓ができない程色んな物が乗っかってるけどいいよね。そもそも整理整頓したりする為の棚でしょ? じゃあ整理整頓されてるね、うん!
行商人が来るからお買い物をする為の金策だ、なんて始めたことが商会で売り出すことになったり、両親に前世の記憶があることを暴露することになったり、最終的にすぐにはお金が貰えないから行商人が来ても何も買えないという結果になってしまったよ。回り道してたら違うところに到着したような、そんな気分だ。今更別の金策を考えたりするのももう面倒だし、今回の行商人さんとは縁がなかったということにしよう。流石に脳みそを使い過ぎて疲れてしまった。
脳みその筋肉だって適度に休憩を挟まなくちゃ成長しない。オーバーワークは良くないぞ!
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家族会議をした日の深夜、少しだけした前世の話に触発されたのか、瑞希だった頃の家族を思い出した。瑞希がどんな最後を迎えたのか今でもわからないけれど、きっともう優しかった両親にも、破天荒で脳筋だったおばあちゃんにも会えないんだろうなぁってそんな事をなんとなく思った。これも棚の整理整頓だ。
色々あったけど、両親に秘密を打ち明けた事で私はもうノエルなんだって一つ心の区切りになったような気がする。それでも一度噴き出した前世の思い出に涙を止められなくなった私を、眠るまで両親が抱きしめてくれた。
もし次に何かを作るとしたら私の新しい両親が喜ぶような物を作れたらいいな。