第64話 結界内の森
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漆黒の闇の中、木々の間から時々星が顔を出す。
俺達は、結界内の森に走る1本の道を歩いている。
獣道ではなく、人がしっかりと歩ける道だ。
結界の中の森っていうから、手付かずの森なのかな?って思っていたが、道がしっかりあったのを見た時はビックリした。
この道を使うのは、一体どんな奴なのだろう。
妖精は飛んでるしな。
もしかして、人間が住んでるの?
すごく気になる。
それにしても、この広大な大森林にまるまる結界をはれるってスゲーな。
どんだけの魔力を持ってたら、こんな事できるのだろうか。
「ここスゴい!サーチの範囲内だけでも強者ばっかり。」
アビゲイルの囁き声が聞こえた。
真夜中だから、周りに響いたかも。
結界内大森林の中に入った時からずっと、周りの状況確認の為にサーチしてもらっていたのだ。
アビちゃんが、瞬時に戦闘モードの『アビゲイル』に切り替わっている。
いつもの、目だけが笑ってない笑顔。
いつ見ても、前世で見た猟奇殺人映画に出てくるシリアルキラーの顔そのものだ。
この場面でこんな顔ができるのは、極端な現実主義者か、単なる戦闘狂のどちらかだろう。
いや、アビゲイルは両方かも。
「おいアビゲイル、落ち着け。」
クリスの言葉で、瞬時にいつものアビちゃんに戻る。
「ごめん、クリス。」
こんな時の『アビゲイル』をいつもの『アビちゃん』に戻すのはクリスの大事な仕事。
過去にほかのメンバーでも試してみたが、やっぱりクリスが一番だった。
「で、どうだったんだよ?アビゲイル。」
ちょっと機嫌が悪そうなクリス。
「だから、そんな怒らないでよ、クリスごめんって。周りの状況だけど、ヘルタイガークラスの敵が沢山いる。私も魔力が増えて、サーチの精度もだいぶ上がって、強さまである程度わかるようになったんだけど、靄がかかって見えない範囲が所々にあるの。もしかしたら、ここにかなりの強敵がいるかも。これがいわゆる『魔物』なのかも。」
アビちゃんがみんなに視線を合わせる。
「これは私からの提案なんですけど、しばらく行った先に、ヘルタイガーよりちょっと強そうなのが1匹いるから、ローツシルツ様の力で私達の力がどれくらい上がったか、力試しでやってみませんか?皆さんはどうですか?」
アビちゃんの目があの目に戻った。
「そいつは俺達に近づいてきているのか?」
「いや、周辺をぐるぐる回っているだけです。」
「俺は慣れない場所で、見通しの悪い夜に行動するのは危険だと思う。俺は体力を回復する為に朝まで休憩にした方が良いんじゃないか、と思う」
「トーランドの言う通りだ。上がった力の使い方もまだわかっていないまま戦闘するのは危険だ。それに、戦闘の音を聞き付けて他の敵が集まって来るかもしれない。行動するのは夜が明けてからで良いだろう。」
リュー、ナイスアシスト。
「アビゲイルの気持ちもわからなくはないけど、私も夜に動くべきではないと思うわ。」
「そうですか・・・・」
アビちゃんがしょげた顔をしている。
「休憩で決まりっすね。最初の見張り番は俺とアビゲイルでやるっす。交代時間はいつも通りで良いっすよね。いつも通り俺達はまず、周りの確認をしてきます。行くぞアビゲイル。」
クリス、ナイス判断。
助かる。
「は?勝手に決めんな。」
怒っているのは声だけで、他の部分は嬉しさを隠しきれていない。
「あら、嫌だったら私が代わろうか?」
いたずらな顔のフレシア。
「べ・・・別に良いですけど。」
「ごめんね、冗談よ。今日は疲れた。できれば、休憩させて。」
「大丈夫です、姉さんは寝てて下さい。行くわよクリス。あんた足を引っ張らないでよ。」
「おう、俺をなめんなよ。アビゲイルこそ足を引っ張るなよ。じゃあ、俺達行って来るっす。」
「「行ってきます。」」
二人が森に消えて行った。
いろいろあった1日に疲れてたのか、見張り番の時間以外はずっと熟睡で朝まであっという間だった。
何事もなく無事に朝を迎えた俺達は、準備と食事を手早く済ませた。
「よし、行くぞ。」
「「「「おう。」」」」
見上げると、わずかな木もれ日が入ってくる。
森の中は光があまり入って来ない為、下草が生えてないのは良いが、土地の起伏が激しく大小の岩がゴロゴロしているので、体力の消耗は平地を歩くのと比べもんにならないだろう。
休憩を小まめに入れていこう。
薄暗い森の中を進んでいく。
出発してからしばらくたった頃だった。
「しばらく先に反応あります。」
至って冷静なアビちゃんの声。
どうした?アビちゃん。
敵次第では腕試しをしても良いんだけど。
「数と強さは?」
「群れのようです。動きが早いので、オオカミ系かもです。一匹では私達に及ばないですが、この数ではかなり苦労すると思います。」
だから冷静なのね。
クリスと二人で見張り番した時に何かあった?
やっぱ、アビちゃんは落ち着いてこそ頼もしい。
みんなが武器を構える。
「アビちゃん、無駄に体力を使いたくない。迂回できそう?」
「ちょっと待って下さい。・・・・・西で僅かに別の反応があります。強さまでは今の所わかりません。東は迂回可能です。」
「よし、東に迂回するぞ。アビちゃんありがとう。腕試しは必ずするから、ちょっと待ってね。」
「はい。」
それからしばらく歩いたが、モンスターに遭遇する事は無かった。
「えっ?待って、何それ?」
アビちゃんがそう言うと、そこで立ち止まってしまった。
目を閉じて右手を頭にあてている。
どうやら、サーチに集中しているようだ。
「どうした?」
「ちょっと待って下さい。・・・・・先程のオオカミらしき群れですが、どうやら全滅したようです。靄がかかってる奴がいるので、そいつがやったみたいです。靄の範囲からいって、一匹で間違いないでしょう。時間もあまりかかって無かったので、一方的な戦闘だと思われます。『魔物』の可能性が大きいです。」
『魔物』はヤバイな。
俺達が苦戦しそうな相手(しかも複数!)を、簡単にヤっちゃうのかよ。
見せつけられた『魔物』の力に絶句する俺ら。
アビちゃんの表情が一瞬曇ったと思ったが、次の瞬間には戦闘モードにになる。
「こっちへ向かって来ています。かなりのスピードです。こっちの存在に気がつかれたかもです。このペースだと2、3分以内でしょう。こっちから来ます。」
アビゲイルが魔物の来る方向を指差す。
指を指した方の森の奥からバキバキと木が折れるような音と共に、ズンズンと大地が揺れる音がする。
「クリス、ちょっと先にストーンウォール出せるか?」
「やって見るっす。」
クリスが魔物が来る方向に両手をかざす。
ズーン
轟音と共に、高さと幅が5メートル位位で、かなり分厚い石の壁が出現した。
思ってた以上に立派な石壁の出現にみんなが驚いていたが、一番驚いていたのはクリスだった。
俺もこのくらいは強化されているって事だな。
この石壁だったら、そう簡単に壊せないだろうし、相手が壁を避ける時間も僅かだができたのかも。
ほんの僅でも対応の為の時間は欲しい。
音がどんどん迫って来る。
「来るぞ。みんないいか、生き延びるぞ。」
「「「「おう」」」」
ドーン
俺の期待も虚しく、クリスの壁は魔物によって簡単に破壊されてしまった。
壊れた壁の先には、石の体を持つゴーレムが立っていた。
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