第5話 フレシア
このページまで来て頂き有難うございます。トーランドとリューガルド編は最後です。よろしくお願いします。
「よがっだよー、リューじゃんとトラじゃんがいぎでだよー。ぶでええぐうっっった。」
彼女が何言ってるか、涙声で半分以上分からない。
けど、『トラじゃん』って、きっと『トラちゃん』だろ。
『トー』とは言われるが、『トラちゃん』は無いってー。
恥づかしっ!
それにしても全身が痛くて重い。
ダリオから受けた傷だ。
戻って来た方が痛かった。
まあ、当然だな。
生きている証拠だと捉えよう。
それより、一秒でも早く、ミュージシャンとして活動したい。
その為に、しばらくは治療に専念しよう。
それにしても、彼女の名前って何だっけ?
頭の片隅にあるような気がするんだけど。
だって、俺が今居るのは、創造主様のご好意で、幼馴染がいる世界線なのだ。
記憶があってもおかしく無い。
けど、頭の中の記憶の探し方ってどうするの?
分かんない。
こういうのって、すごく気持ち悪いな。
ア···イ···ウ····カ···ハ···フ·フ?····フレ·シア·····フレシア?······フレシア!
そうか、彼女の名前は『フレシア』だ。
奇妙だが、名前を思い出した瞬間、彼女との小さい頃からの記憶があふれてくる。
彼女は幼馴染のフレシア。
親父の親友の娘で、俺達より2歳年上の、自称『二人のお姉ちゃん』だ。
昔から、我が家に入り浸っていて、帰って来たら彼女が居たなんて事は日常茶飯事だった。
お姉ちゃん気取りで、口うるさく、俺達がヤンチャしていた頃も、彼女だけには頭が上がらなかった。それを見ていた友人からは、ここの居住区最強は俺達兄弟ではなく、彼女だと言われてたらしい。
フレシアは黙っていれば、優しそうな感じの美人で、明るい性格という事もあり、周りから結構人気があった。
しかし、常に俺達の周りに居た為、言い寄る奴らはいなかったと思う。
それにしても創造主様は、何でこんな余計なお世話な追加設定したんだろ。
記憶の中には、彼女が楽器を持っている記憶すらなく、俺達が練習している時も興味が無さそうだった。
そう考えると、今は俺とリューガルドだけの方が身軽で良いのに。
彼女が絡んでくると思うとちょっと面倒くさくなる気がする。
「トーランド、リューガルド、とりあえず、意識が戻って良かった。二人共意識が無い状態で教会に運び込まれと聞いて、生きた心地がしなかったぞ。
馬鹿野郎、また喧嘩か?いい加減にしろよ。大体お前らいつも······」
親父は、俺達の意識が戻って安心したのか、心配もそこそこに、説教タイムが延々と続いた。
母ちゃんも、黙って聞いて親父の説教を聞いて、泣きながら頷いていた。
それから俺達は歩ける様になるまで2日間、教会で過ごした。
俺達は本来ならば、治療費として結構な額をお布施しなければならなかったが、親の責任だからと親父がお布施してくれた。
親父、お袋、本当に有難う。
それからしばらく経ち、体力が回復した俺達は、今後についてきちんとケジメをつける為、親父とお袋に、近い将来に吟遊詩人として活動したい事、腕磨きの旅をしたい事、その為の資金を貯める為にもうしばらくは大工仕事をさせて欲しい事を告げた。
口数の少ないリューガルドも一生懸命に自分の熱意を伝えた。
それを聞いた親父は明らかに落胆した顔をして、考え込んでしまった。
「しょーがねな、やっぱり血は争えねな。やっぱり冒険者の子だったな。俺も若い頃、お前らの父ちゃんと冒険者をしてたんだ。俺は途中で挫折しちまったが、その事を無駄だと思った事は無え。返って今の人生に必要で、大事な経験だったと思っている。よし、やってみろ、そしていっぱい失敗をして、いっぱい成功してこい。若い頃の経験は、後の人生の糧となる。」
俺とリューガルドは、笑顔で小さなガッツポーズだ。
最悪の場合、お互いが引かずに喧嘩になって勘当される事も覚悟したが、思いの外すんなりといった。
親子関係にヒビが入らなくって安堵した。
まずは第一関門突破だ。
「その前にお前らにはやらなきゃならない事がある。分かるか?」
やらなきゃならない事ってなんだろう?
「武器の使い方。」
リューガルドがさらりと言った。
クッソー、負けた。
よく考えりゃそうだよね。
「そうだ、リューガルド。トーランドもよく聞けよ。旅ではモンスターに出くわしたり、盗賊なんかもいる。喧嘩と違い、相手は命を狙って、武器を使ってくる。素手でも構わないが、相当な技術が必要だ。地元で喧嘩が強い位では、全く通用しないのは確実だ。そうなれば、ある程度、剣術ができてないと、ろくに旅もできないぞ。今日から仕事が終わったら俺が稽古をつけてやる。母ちゃん、木刀どこやったっけ?」
どこから持ってきたのか、お袋は木刀を黙って置いてどっかに行ってしまった。
それからすぐに、親父による剣術の稽古が始まった。
カン、カンと木のぶつかる音と庭に響いている。
俺は、前世で中学生まで柔道をしていた為、間合いがわからない。
リューガルドの方は振りこそ下手だが、間合いの感覚は掴んでいる様だ。
ぜってーリューガルドに負けねえぞ。
「こんにちは〜」
元気な若い娘の声が聞こえた。
フレシアだ。
頼むからお袋、余計な事言わないでくれよ。
「おばさん。何か、カンカン騒がしい音がするけどどうしたの?ところで二人共いる?」
「いるわよ。トーランドとリューガルドが、いずれ吟遊詩人になって旅に出たいって言うもんだから、お父ちゃんがまずは剣術の稽古だって。もう、カンカンうるさいったらありゃしない。まあ、男って単純で良いわね。」
お袋は嫌味ったらしく、大声で俺達に聞こえる様に言った。
余計な事を······はあ。
それを聞いたフレシアは凄い勢いと形相で庭に入って来た。
木刀を握る手を止める。
「おじさんこんにちは。」
親父には笑顔だが、俺達の方を向いた瞬間、鬼の形相になる。
「おばちゃんから聞いたわよ。リューちゃんトラちゃん、どういうつもり?あんたらこの前の事懲りて無いの?」
「うるせえ、邪魔。」
「邪魔って何よ、リューちゃん。トラちゃんもどういう事?旅に出なくても吟遊詩人はできるでしょ。ここは王都フィラインよ。聞く人はいっぱいいるわよ。ここですればいいじゃない。」
フレシア様は大変ご立腹の様だ。
今までの経験上、彼女は聞く耳を持っていない。
こうなったら嵐が落ち着くまで待つしかない。
「まあ、まあ、まあ、フレシアちゃん。この前の事はあったけど、こいつら練習を頑張てきたよ。しかも仕事をきっちりこなした後で。こいつ達が考え抜いて決めた事だ。好きにさせれば良いとおじさんは思うな~。」
親父ナイスアシスト!
「えー、けど·······」
時間をかけて親父はフレシアを諭してくれた。
「分ったよおじさん。じゃあ、私にも考えがある。こうなったら早速家に帰らなきゃ。」
嵐は去っていった。
とりあえず良かった。
「おい、稽古再開するぞ。·····よし、決めた。剣術の卒業試験は、王都の近くにあるダンジョンの攻略だ。王都で冒険者を目指す者は、大抵あそこで腕を磨く。アイテムのドロップも安定しているし、良い資金集めにもなるだろう。お前ら頑張れよ。」
「はいっ。」
「はいっ。」
おっ、双子シンクロ。
気持ちいい。
これから俺達は、大工と吟遊詩人の練習に加え剣術の稽古と、将来に羽ばたく為の準備に忙しくなりそうだ。
少しでも早く、様々な準備を整えて、俺達の夢と創造主様との約束を果たす為に、日々頑張っていこうと思う。
「頑張るぞ、リュー。」
「おう。」
リューガルドは俺に自信ありげな表情をこっちに向ける。
新しいスタートラインが見えてきた。
最近レゲエのBrushy one string/Chichen in the cornにハマっています。一本の弦しかないアコースティックギターを弾いて歌っているだけの曲です。音楽が好きだったら聞いてみて下さい。
次話から新章です。よろしくお願い致します。




