第39話 オーブリーの部屋で
このページまで来ていただき誠にありがとうございます。お待たせ致しました。仕事の都合で2週間ぶりの更新となりました。では宜しくお願いします。
あのヌシの巣での出来事から1週間が経った。
俺達はいつものフルメンバー+ムルコフさんでオーブリーの自宅にいる。
窓から見える空は、紅黒く染まり、夜がすぐそこまで来ているのがわかる。
今夜はオーブリーからの「この前飲めなかった、オスクラル産の5つ星を開けるから、みんなで飲みにおいで」という誘いに乗ってここにいる訳だが、本当の目的は、あの夜の件を国軍の幹部に報告した結果報告だろう。
あの夜のあの船は、やはりシン国の船らしかった。
見た目こそ大きな貨物船で、乗組員も普通の貨物船のクルーの格好をしていたが、荷物を触る様子も無く、乗組員の統率がとれた動きから見て、あの船はシン国軍が所有する船で、そして乗っているのは軍人だろうというオーブリーの分析だった。
シン国の軍人が、我が国に密かに来ている事だけでも十分に衝撃的だったのだが、もっと衝撃的だったのは会っていた相手だ。
崖から降りて来ていた集団は、ランスーク教の集団だったのだ。
ランスーク教とは、我が国でもここ10年位で急速に信者を増やしてきている宗教だ。
起源は不明で、シン国か、その隣国のどこかの生まれだろうと言われている。
ランスーク教は、この世に生まれた最初の男女二人を信仰しており、死後の平等を謳っている宗教で、信者は皆、頭に金色の輪を着けているのが特徴だ。
ただ、ランスーク教には悪い噂もある。
“どこぞの金持ちの全財産が無くなった”とか“親が入信して、一家離散した”とかいう話は、巷では有名な話だ。
そんなランスーク教の信者が、我が国でシン国の軍人らしき人達と密会しているように見える、と、船上でオーブリーから聞いた際、俺みたいな一般人でも頭を何かに殴られたような強い衝撃を感じた。
100年前に内戦が終わり、ここ数十年でようやく俺達一般市民にも安定した平和がやってきたというのに、新たな火種の予感に、不安と怒りを感じたのだ。
オーブリーも同じ思いだったのか、怒りで望遠鏡の持つ手が震え、怒りの形相をしているのが、薄暗い中でもわかった。
「えっ?!」
小声だったが、オーブリーが驚きの声をあげた。
「トラちゃん、あんたが前に言っていたのは“緑のフードを被った男”だったわよね。今、船にいるのがそうじゃないかな?。恐らく要人の警護をしているわ。部屋から数人、誰かを守るようにして出てきたの。船尾の方よ、確認してみて。」
見た瞬間、叫びそうになったが必死にこらえた。
まさにあの夜の男が何人もいたのだ。
つまりは、要人暗殺に関わっているのはシン国及びランスーク教って事か。
勝手に、国内の権力争いを予想していたが、事は更に重大だったのだ。
それから、しばらく偵察して洞窟に帰還した。
当然ながら、再び宴会を再開する空気にはならず、そのまま寝て、翌朝を迎えた。
驚いた事に、対岸は朝にはもぬけの殻になっており、向こう側が、かなり気を使って行動しているのが理解できた。
そして朝にオデリアに無事帰還して、現在に至る訳だ。
今回、悪い話ばかりではない。
大きな収穫もあった。
あの日捕った鬼鯨の髭が、俺達が求めるベースギターの弦にマッチしたのだ。
そう、念願のベースギター完成だ。
というわけで今回、エレキベース、アコースティックベース、魔法攻撃用ベースギターの3本が完成した。
現在の悩みの種は、ベース奏者の不在だ。
前から、ベースギターが完成したら、俺がボーカル兼ベースでやれば良いと思ってたのだが、俺の思ってた以上にハードルが高かったのだ。
俺も前世で、ベースを軽く弾ける位はできたから、できない事はないだろうと思ってた。
だが実際にやってみると激ムズで、俺がやるとボーカル、ベース共に中途半端になってしまうのだ。
前世でのボーカル兼ベースの人達を本当に尊敬した。
ベースが完成した際のリューガルドの演奏も凄かった。
指弾きだったのだが、表現力、速弾きのスピード、時折まぜるスラップ奏法、全てにおいて俺とのレベルが違った。
今夜、タイミングを見て、オーブリーとムルコフさんに、ベースギターをお披露目する予定だ。
まずは仮で、ギターボーカルが俺、ベースがリューガルド、カホンがクリスの3ピースバンドで曲を披露し、リューガルドのベースソロで締める予定だ。
オーブリーはもちろんの事、あまり俺達の音楽に興味が無さそうなムルコフさんがどういう反応をするかが楽しみだ。
あーだこーだと、にぎやかな声がキッチンから近づいてくる。
どうやら料理の準備ができたようだ。
フレシア達がテキパキと、持ってきた物をテーブルに並べていく。
乾杯まであっという間だった。
オーブリーが立った。
「みんな、今日は集まってくれてありがとう。早速乾杯したいけど、酔っ払う前に真面目な話題からよ。」
今まで賑やかだった空気が一変し、静かになった。
「ヌシの巣での夜の件を、この国の親衛隊の幹部をしている昔の仲間に報告したんだけど、思ったような対応は引き出せなかったわ。どうやら国の方も、いろんな暗殺事件にランスーク教とシン国が関わっているらしいっていうのは、掴んでいたみたいね。私達の証言で、拠点らしき所が掴めたものだから、たいそう喜んでいたわ。けど今、この国では、軍全体の指揮系統が、国王から次期国王である王子に移行する為の引き継ぎで、今回の件に対応できそうな有能な人材を充てる余裕がないそうよ。だからしばらくの間は特例として、私が動くことになったわ。緊急時にはどうにかして、親衛隊が動いてくれるそうよ。」
「おいおい、国内で暗殺も頻発しているのに何をやってるんだ。指揮系統の移行なんて、今する事じゃないだろう。第一、今オーブリーは一般人だろ。」
つい、苛立って言ってしまった。
「特例での協力なんて、元軍人あるあるよ。トーランドの気持ちもわかるわ。国としては、暗殺事件への対応を含めた、指揮系統のスピードアップを図るのが狙いだそうよ。有能な人材も暗殺事件で手がいっぱいらしいわ。」
「オーブリーだけで大丈夫なのか?」
「良い事を聞いてくれるわね、リューガルド。そこで私からのお願いなんだけど、しばらくの間、私に協力してくれない?あなた達の力が必要なの。親衛隊の幹部からの許可はもらってるわ。ノウハウはきっちり私が教えてあげるから。とは言ってもあなた達には大事な本業があるから、今すぐに答えを出してとは言わないわ。急で悪いけど、みんなで話し合って、3日後に答えを教えて。」
間違いなくみんな協力するって言うと思うが、せっかく時間をくれた事だし、しっかりと話し合って決めたいと思う。
あっそうか、オーブリーに協力する代わりにオーブリーにベースをやってもらうというのはどうかな?
それの事も含めてみんなで話し合おう。
「わかった。3日後の場所は虎の穴で良いかな?」
「ありがとう。良い答えを待ってるわ。・・・・他に真面目な話がある人はいる?」
「はい、あるっす。」
「あら、何なの?クリス。」
「喉が乾いて腹も減って死にそうっす。」
ナイスだ、クリス。
「あら、それは大変ね。ここで死なれたら大変だわ。悪いけど、みんな急いでエールを注いで。じゃないとクリスが死んじゃう。・・・・みんな準備できた?」
「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」
「じゃあ、いくわよ。カンパ~イ!」
「「「「「「「「カンパ~イ!」」」」」」」」
宴が始まった。
「気を使わないでね。飲みたい物を飲んで、食べたい物を食べてね。けど、オスクラル産の5つ星がある事だけは忘れないでね。」
みんな反応しているが、飲み食いに夢中で言葉になっていない。
テーブルの上には「うめえ」だの「うまっ」だの「おいし~い」と言った類いの言葉しか並んでない。
しかし、宴会の花は楽しい話があってこそ咲くもの。
食欲が少し満たされると、テーブルの上は楽しい話でいっぱいに、なっていった。
Slipknot/9,0:live
私の大好きなスリップノットのライブアルバムです。まさに音の嵐。一回で良いからこのバンドのライブに行ってみたいです。やっぱ、ロックバンドのライブアルバムって良いですよね。




