第20話 妖精さん
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ほこらが完成した。
美しい月明かりに照らされたほこらと池、そして風になびく草原、虫の音。
リューガルドが言った通り、とても美しい景色が目の前に広がっている。
そして、月明かりに照らされた石像が池を眺めているようにも見える。
完成した達成感もあり、全員無言でただ景色に見とれている。
作業中、モンスターにも警戒したが何事も無く、安心して作業ができた。
当初、リューと俺の予定では簡単に作る予定だったが、みんなで『こうしよう』とか『こうしよう』とか言っていたら、想定していたより時間はかかったが、思った以上に良い物が作れたと思う。
今は夜なので、全体的な仕上りがあまり分からないかもしれないが、みんなびっくりするだろう。
みんなで作るのは、やっぱり楽しい。
クリスは頑張っていたが、基本的に不器用なので俺とリューのサポート役、女性陣は軽作業を頑張ってもらった。
あまり興味がなさそうな女性陣からも、「ああしたい」「こうできない?」など、積極的な意見が色々と出たのは意外だった。
そして今回、リューガルドが少し可哀想だった。
ほこらの組み立てが終わり、あとは仕上げだけとなった所で、俺達は当然のように、楽器制作用にアイテムボックスに大量にストックしてある、クリアタイプのニスを取り出した時だ。
我がチームの女帝フレシア様が、「えーっ、そのまんまの色なの?なんか味気無い気がする。色付けようよ、何か色を付けるの無いの?」と言い出したのだ。
しかも「たしか、リューちゃんのアイテムボックスに黒のやつがあった気がする、それ使っちゃ駄目?」だって。
そう、確かにリューガルドは黒のオイルステインを持っている。
前世でも、(前世でのリューガルドの名前の)ジョン・タイターと言えば黒いギターだった。
それは前世でのロック好きには、知って当然の『常識』だった。
だから、リューガルドが最初に作るギターの色も当然ながら、『黒』である。
前世でも、リューガルドから黒いギターの話や、『黒』へのこだわりを、楽屋や酒の席でどれだけ聞かされた事か。
俺達は楽器を作る為に、色々なカラーのオイルステインを集めたが、黒だけはリューガルドが厳選して入手した物だ。
リューガルドのこだわりに俺の入る余地は無かった。
しかも、物が集まる王都でさえ中々入荷が無く、業者間では、高品質で発色に深みがあると評判の『シン国製』だ。
もちろん、かなり高価だったが、二人で頑張ってようやく入手した物だ。
リューガルドと俺は、黒のオイルステインを死守するために、必死になってフレシアに他の色を勧めた。
けどフレシアは、黒が良いと言って聞かず、しまいには静観していたクリスやアビちゃんを味方につける始末だった。
結局、「次にリューちゃんが気に入った、黒のオイルステインを見つけたら、私が責任を持って買うから。」
というフレシアの言葉に負けて、黒のオイルステインをほこらに使う事になった。
俺達は、いざ使うと決まったら、男らしくケチる事なく、美しい仕上げにこだわって、丁寧にほこらに塗っていった。
明るくなったら、改めて発色の良さを見て欲しい、『シン国製』は黒さが違うのだよ。
わかって無さそうだったら、俺とリューでしっかりと解説してやる、覚悟しておけよ。
ほこらの完成後、フレシアとアビちゃんが綺麗に磨いた石像を鎮座し、みんなで祈りを捧げた。
「トー、せっかくだから、祈るだけじゃなく、歌も捧げようか。曲は『月あかりの女神様たち』なんかどうだ。」
『月あかりの女神様たち』は、女神様達がみんなが寝静まった真夜中に集まって、楽しく食事をしながら、良い事をした人には祝福を、悪い事をした人には罰を与える為の話し合いをしているよ、という内容の曲だ。
多くの人は親から、良い事や悪い事をした後に「女神様は見てるんだよ。」という言葉と共に聞いた歌として記憶しているのではないだろうか。
この歌を知らない人は多分いないと思う。
王都やステルでの夜のライブの際に、「女神様ごめんなさい。夜に集まって歌う僕達は悪い子です。」という掛け声と共にこの曲を観客と共に、よくみんなで歌っていた。
「おお、それ良いじゃん。みんなで歌おうよ。クリスはどう思う。」
「いいっすね。俺、この曲好きっすよ。俺は怒られた後に聞いた歌っす。」
「クリスは、3人でよく怒られてたもんね。たまにセルスも一緒の4人でね。」
「うるせえ、アビゲイル。お前もだろうが。」
「残念でした〜っ。私は褒められてた方が多いです〜。」
「私は小さい声で歌おーっと。ちょっと音痴なのよね~。」
「そんな事ねえよ。俺達しかいないんだし、堂々と歌えよ。上手い下手なんてねえよ。女神様が見てるぞ。」
「トラちゃん、ありがとう。みんな私につられないでね。」
リューガルドはリュートを、クリスがカホンを準備して、俺が中心となってほこらに正対するように並んだ。
「クリス。」
俺はクリスへ曲を始めるよう、目配せをする。
コン・コン・コン
クリスがカホンを叩いて、リューガルドがリュートでイントロを弾く。
♫みんなが寝静まった夜に〜〜〜〜〜〜♫
♫女神様達は、みんなを起こさないようにこっそりと〜〜〜〜〜〜♫
5人全員で歌い出した。
そういえば、ステルを出てからこのメンバーでずっと一緒にいるけど、みんなで歌う場面なんて無かったな。
フレシアは本人が言うほど下手ではない。
アビちゃん良いな!
決して上手とは言えないが、素直で綺麗な歌声が心地良い。
クリスも大事なコーラス要員なので、発声練習を俺と一緒にしているのだが、その効果が出ている。
以前と比べて、しっかりと声が出てるな。
ん・・・何だろう?
何とも言えない音?声?がする。
草が風になびく音かな?
♫女神様達が集まった夜は〜〜〜〜〜〜♫
♫女神様達はテーブルに座って〜〜〜〜〜〜♫
あれ、ホタルかな?
白、青、赤、黄、小さな光が集まってきたぞ。
歌が進むにつれ、少しずつ増えていってる気がする。
何とも言えない美しい光景だ。
思わず歌うのを忘れ、見とれそうになる。
それにしても、今日一日の疲れからか、声が出しづらい。
ていうか、この光景にみんな気がついているよね。
他のメンバーを確認してみる。
リューガルドだけは目を閉じてリュートを弾きながら歌っている。
しかし少し様子が変だ。
いつもの音じゃない。
少しだけキレが無い気がする。
他のメンバーは目の前の光景に驚きながらも、リューガルドの演奏のおかげで、なんとか歌えてはいる。
みんなも今日一日の疲れが出ているようだ。
小さな光達は、しばらくの間俺達の周りを飛んでいたが、次第にほこらの周りに集まっていく。
ほこらを照らす月の光が石像の部分だけ強く照らしている気がした。
先程まで、そこら辺の石とあまり変わらなかった石像が、見違えるように神々しい。
♫〜〜〜〜〜〜女神様は静かにあなたに微笑む♫
歌い終えた。
小さな光達はほこらの前に集まり、大きな一つの光となっている。
何でだろう、どういう訳か普段歌う一曲より疲れた気がする。
リューガルドは気分が悪そうな感じで、座り込んでしまった。
それを見て、すぐにフレシアが介抱する。
クリスとアビちゃんも心配そうにリューガルドを見ている。
「おい、リュー大丈夫か?演奏中も何かおかしかったもんな。」
「えっ、お前たちには『声』が聞こえて無かったのか?歌い出してからずっと、今も頭の中に直接喋りかけてくきてるんだ。言っている言葉すらわからない。歓迎しているようではあるが、耳で聞こえてないからか、気分が悪い。とにかく頭・・・?いや全身が重いんだ。」
フレシア達は、俺と一緒で、『声』は聞こえず、ただ綺麗な光景に見とれそうになったが、言われてみると確かにこの疲れはおかしいという意見だった。
「うっ、気持ち悪い。・・・・・・あ・り・が・と・う。光の一つ一つがありがとうって言っている。」
リューガルドが苦しそうに言った。
「・・・・・ありがとう。感謝します。」
俺の頭にも『声』が響いてきた。
うっ、リューガルドが言っていたのはこの感覚か。確かに頭が重い。
みんなも頭をおさえて気分が悪そうだ。
『声』を聞いたら、体力が消耗するのが明らかにわかる。
ほこらの前に集まっていた大きな光が散り散りになったかと思ったら、池の上に移動し再び一つの大きな光となった。
すると、池の中から大きな光が浮かんでくるのが見える。
水中の淡い光がだんだん大きく、明るくなっていく。
水中から出てきた大きな白い光は、ほこらの前で集まった大きな光と重なりさらに大きい一つの光となった。
光は美しく心地良いが、頭は重く、体力は削られていく。
良いのか悪いのかわからない、不思議な感覚だ。
よく見ると、大きな光の中に、手のひら位の大きさのシルエットが見える。
人の形をしていて、羽根が生えているようなシルエット。
これは、『妖精』では無いのか。
小さい頃に、お袋や親父に昔話で聞いた『妖精』の姿そのままだ。
光の中で『妖精』が2回手を叩いた。
パンパン。
周囲に音が響く。
すると、頭の重たさが消え、体力も元に戻った。
「失礼しました。あなた方には魔力が無いようですね。お疲れになったでしょう。私が『祝福』をしましたので、もう大丈夫です。改めて我が力の元である、ほこらの再建ありがとうございます。私は雷の妖精ルミタリス。我々この地方の妖精一同、貴方がたを歓迎致します。」
声と共に光の中から、淡い黄色の衣装が美しい妖精が姿を現した。
ザ・ラスト・ロックスターズ、ニュースになりましたね。メンバー全員が私の好きなアーティストなので、音がとても楽しみです。さて、ベースは誰なのでしょうか?DJがいても面白いかもしれません。




