第2話 ダリオ
ここまで読んでいただき有難うございます。第二話です。よろしくお願い致します。
「おばちゃん、片付け終わったんで帰ります。有難うございました。」
横でトーランドも頭を下げる。
「トーランド、リューガルド、こちらこそ有難うね。仕事をしながら聞いていたけど二人共上手だったよ。おかげで、お客の入りも良かったよ。これはお礼だから食べてね。」
肉屋のおばちゃんが笑顔で肉串の盛り合わせを袋に包んでくれた。
俺達は再度お礼を言って店を出た。
仕事とは違う身体の疲れと、大工仕事の現場引き渡し時とは違う充実感。
帰り道は二人共、ハイテンションで、今回の感想や次の事で盛り上がる。
俺達は、予定通り5曲を歌いきった。
反応も上々で、友人達の評価も、概ね好評だった。
俺の歌の上手さや声量、トーランドのテクニックにビックリしたと、感想を言ってくれた。
「お袋、ずっと泣いてたな。親父はだいぶ酔っ払ってた。」
リューガルドがボソっとつぶやいた。
「えっそうなの?ていうか、お前、そんな余裕あったの?俺なんか歌で精一杯で、目の前の友達の表情すら、まともに見れてなかったのに。」
「俺はリュートを弾くだけだからな。」
リューガルドも見ていたに違いないが、俺は、俺達に何も声をかけず、帰っていった親父とお袋の後ろ姿は、忘れられない。
嬉しい様でもあり、寂しい様でもある二人の背中。
二人の背中がとても大きく感じた。
突然、夜空が赤くひかり、その後にドーンと爆音が鳴り響いた。
どうやら、宮廷魔術団による魔法の披露が始まったらしい。
多くの人が夜空に浮かぶ魔法の光を眺めている。
俺も、じっくり見たい気もするが、俺らは、今日の反省と歌の練習が待っているので、帰る事にする。
「トー、ちょっと行ってくる。」
言うと同時に、リューガルドは、この通りを少し戻った所の対面にある、薄暗い小さな筋へ向かい歩き出した。
「リュー、どうしたんだよ?ちょっと待てよ。」
俺も急いで後を追う。
よく見てみると、筋を少し入った所に、目立ちづらい格好をした人が立っているのがわかった。
おいリューガルド、こんな時に、その場所とそんな格好って、ちょっとヤベえ奴じゃねえのか?
っていうか、よく人が、いるのがわかったな、昔から思ってたけど、あいつ、どんな目をしてるんだ?
まあいい、久しぶり気合入れっか。
俺は久しぶりの臨戦態勢に入った。
「おいダリオ、そこで何をやってんだ?」
リューガルドが、警戒した声色で言った。
ダ、ダリオ?
隣の一般居住区で、ゴロツキどものリーダーだったダリオか。
俺達のグループとの抗争の時に、二人がかりでようやく倒せた、あいつか。
また、ヤバい奴に当たったな。
ダリオの奴、目がいっちゃってるよ。
大丈夫か?
まあ、俺もいる事だし、どうにかするか。
けどよ、リューガルドの奴、よくそこまでわかったな。
はい、リューガルドは『野生児』決定!!
「はぁ?リューガルドか、うっせーよ。俺は忙しいんだよ。どっかいけ。」
ダリオは、小さな声で吐き出すように言った。
ダリオは、リューガルドに目もくれず、向かいにある、この通り最大の食堂を見ている様だ。
「おい、こっち向けよダリオ、何やってんだよ。これはまともな仕事か?俺にはそうは見えねえよ。」
「ちっ、うっせーな。いい加減やっちゃうぞ、コラ。」
ようやくダリオは、リューガルドに目を向けた様だ。
「何だコラ、やんのかコラ。」
おい、お前もキレてどうする、リューガルドよ。
落ち着けって。
「二人共、お祭りの日に喧嘩はいけないよ。大人になろうよ、大人に。」
俺は、ゆっくり二人に歩きながら近づき、余裕ぶって言ってやった。
「クソッ、トーランドも居やがったか。アホ面双子が。お前らには関係ねえだろうが、どっか行けよ。二人揃ってヤッちゃうぞ、コラ。」
何だと、コラ。
俺は、アホ面じゃねえし。
まあ確かに、俺達二人双子だけど、何故かリューガルドだけイケメン枠の扱いんなんだけどね。
「うるせー、オーク顔。お前の目がヤバいんだよ。お前、変な事考えてんじゃねえだろうな?通りの筋をよく見てみると、目が血走ったオークが居たから、心配で来てやったんだよ。」
「お前も黙れ、トーランド。お前らに構っている時間はねえんだよ。どっか行けコラ。じゃねえと、本当にここでヤッちゃうぞコラ。」
「ヤッてみろよコラ。」
あーあ、うちの野生児ちゃんが、火に油を注いじゃったよ。
こうなったら、ダリオの出方次第でヤッちゃうか。
俺とリューガルドは身構えた。
「おや、喧嘩はいけないよ、僕たち。今日はお祭りの日だから、魔法を見なきゃ。ダリオ君、リューガルド君、トーランド君とやら、さあ、行きなさい。」
この小さな筋の奥の暗がりから、深緑のフードを被ったおじさんが現れた。
こんな場面なのに、やけに落ち着いた、静かな佇まいだ。
「こりゃヤベえ。」
リューガルドのつぶやきが聞こえた。
俺もそう思う。
何せ、この男に隙が無い。
(どうやっても勝てない。)
俺の闘争本能も、そう言っている気がする。
俺はこの場を切り抜ける言葉を探す。
「テメエは関係にねえ話だよ。」
リューガルドは気おされつつ、言い返す。
「ダリオ君とやらも、この二人に言ってやりなさい。俺に絡んで無いで、どっか行けと。」
怪しい、ダリオは何か危ない事に巻き込まれているとは思ったが、この場は引き下がる事にした。
「チッ。」
リューガルドは悔しそうに舌打ちをした。
「リューガルド、いくぞ。ダリオ···」
これから先は言葉にならなかった。
俺達は後ずさりしつつ、振り返った。
完全にダリオ達に背を向けた時だった。
「ダリオ、目撃者は消せ。」
静かな落ち着いた声が聞こえた。
その声に驚き、振り返ろうとした瞬間だった。
最後に目に写ったのは、ダリオが腰ポケットから小さな紙切れを空中に投げる姿だった。
(戦闘用魔法陣だと。何であいつが貴族の魔道具を。)
突然、目の前が真っ暗になり、自分が立っている感覚すら無い。
「リューガルド、リューガルド!」叫んだが声も響かない。
何か熱い物が全身を走った感覚と共に、有り得ない痛みを感じた。
俺は死を覚悟した。
(親父、お袋、ごめんな。言うことを聞かないこんな俺達を、これまで育ててくれて有難う。昔のツケが来ちゃったみたいだ。神様頼む、リューガルドだけでも生かしてやって下さい。)
意識が遠のく。
頭がボーっとしてくる。
どの位の時間が経っただろうか。
真っ暗な世界に俺は浮かんでいる気がする。
身体の感覚は無い。
ここはどこだろう?
俺は死んじゃったのかな?
ここ?はどこだ?
っていうか、この状況何?
地獄?
天国?
ずっとこのままだったら、きっとここは地獄に違いない。
なんて思えてきた。
えっ?
何かに引っ張られている気がする。
速い。
とてつもなく速い。
ドンと衝撃が身体を走った気がした。
あれ、身体が固まってきた。
感覚が戻って来た。
指、手、うで、他、全部ある、かな。
何ここ?
目を開けれるかな?
まぶたが重たい。
頑張って開けて見た。
目の前には真っ白い空間が広がっている。
自分の身体がどうなっているか、見てみたい。
正直少しビビる。
けど、すごく身体が重たく、思った様に動かせない。
ようやく首だけ動かせた。
動く範囲で見たところ異常は無かった。
残念な事に、その他は、周りを見ても何もない。
と思ったが、天井以外の空間の壁?が迫ってきている。
えーっまた死ぬの?
と思って、怖くなり目を閉じたが、衝撃は無かった。
改めて目を開けたら、天井が見えないくらい高い、家の広間より少し広い、白い部屋だった。
重い首を曲げて横を見る。
何と、
リューガルドが横たわっていた。
リューの奴もここに来てしまったのか。
リューガルドと叫びたいが、声が出せない。
しばらくすると、コンコンと壁から音がした。
何もない白い壁から扉が
浮かび上がる。
そして、音もたてず扉が開く。
そこには、見慣れない白い装束を着て、長い髪を束ねた男が立っていた。
誰?
それしか俺の頭に浮かばなかった。
respect BUCK-TICK 悪の華
イメージはダリオ この曲は自分が音楽に興味を持ったきっかけになった曲です。聞くのでしたら、殺しの調べバージョンがおすすめです。
※あくまでもイメージです。詩の内容と一致してないかもしれません。