第17話 アビゲイル
このページまで来ていただき誠にありがとうございます。今回は日曜日に更新できました。次回もなるべく早い更新をこころがけます。
あのパーティーから5ヶ月が過ぎた。
こんなに早いの?ってくらい早かった。
俺たちはというと、毎日のようにやっていたライブを週一回に減らし、ギターを2本とベースを1本の制作に集中している。
ギターは『白い本』を教科書に、リューガルドが前世でも愛用していた、ギブソンのアコースティックギターとフェンダー・ストラトキャスターを制作中だ。
木材はフルストさんが自ら走りまわり、知り合いの卸問屋の倉庫の奥に眠っていた木材を特別価格で譲ってもらった。
セルスが得意げにサンプルを持ってきた際、チェックしたリューガルドが大喜びだった。
どうやら、木材が好みの重さと硬さだったらしい。
やっぱりリューガルドは優秀なギタリストだな、ふつーのギタリストだったら木材でこんなに大喜びしないもん。
前世でも、こだわりが強く、メーカーの担当泣かせで有名で有名だったよな。
その木材を必要量で買おうとしたら、フレシアが「買えるだけ買うわ。楽器もまだ作るだろうし、オデリアでも使うでしょう。」と言って、結局全て買ってしまった。
フルストと一緒に来た問屋さんの人もビックリ。
実のところ木材は不良在庫だったみたいで、その卸問屋も大助かりだったらしい。
よっぽど嬉しかったらしく、ギター制作に必要な他の材料も、問屋側のサービスで提供してくれる事になった。
俺達がお金の心配をしていると、「買うべき時は買う、これは基本よ。これでも、想定したよりは安くで済んだのよ。とはいってもある程度の出費になったから、しっかりクエストもこなして、お金を稼いでね。」と言ってフレシアは平気な顔をしていた。
一方のフレシアはオリジナルポーション生産の段取りで出っ放しでとても忙しそうだ。
けど、充実しているみたいで、疲れた顔はせず毎日楽しそうだ。
フレシアが、オリジナルポーション生産でまず目をつけたのは孤児院だった。
フレシアは、クリスからこの街の孤児院の状況を以前から聞いていて、「何かあったら」と思っていたらしく、クリスを連れて交渉に行った。
町からの少ない補助金と町の住民からの寄付金で、運営資金に困っていた孤児院のスタッフは大喜びで、一緒に行ったクリスに泣いて抱きついていたとフレシアが言っていた。
クリスの方も孤児院がポーション作りに関わる事が決まった事に大喜びだったが、それ以上に初めて見るフレシアの話術に驚いていて「どういう風に生きていたらあんな風になれるんだろう?姉さん化け物っす。」と目を見開いて言っていた。
クリスはしばらくの間、カホンの練習の傍ら、孤児院の子供達の指導にあったっていた。
元々いたとあって、みんなと顔なじみですんなりと入って行けたそうだ。
いたずら好きな子供達もいて毎日騒がしくやっているのだろう、疲れた顔をして帰って来ていたっけ。
クリスに毎日大変だなと声をかけると「あいつら一生懸命頑張ってるっすよ。『毎日美味しいごはんを食べたいだろ』て言い聞かすと、いたずら小僧も血相を変えてやりますよ。」と充実した顔で言っていた。
しかし、孤児院だけではオリジナルポーションの生産は追いつかないので、次にフレシアが目を付けたのは、仕事を引退したおじいちゃんとおばあちゃん達だった。
木材が基幹産業のこの町で、引退したとはいえ、おじいちゃんおばあちゃん達には、植物の知識だけではなくリーダーシップ、生産管理、会計など各個人で様々なスキルを持っており、それを使わない手は無いとフレシアが豪語していた。
それ以前にフレシアの持ち前である『誰とでも仲良くなれる能力』で、俺達のライブ場所を探している時から、多くの人と仲良くなっていて素性もある程度頭に入っていたのもあると思う。
思いついたらすぐ行動のフレシアは、手当たり次第に知り合いのおじいちゃんおばあちゃん達を口説いて行った。
俺は、さすがのフレシアも少しは苦戦するだろうと思っていたが、あまり苦労する事無く、順調に多くの人が集まっていった。
仕事を受けた理由は「小遣い稼ぎにちょうどいい」とか「毎日暇だから」とか「フレシアの頼みだったら」とか理由は人それぞれだ。
フレシアは、集まった人達を収穫班、生産班、管理販売班に分けて、それぞれリーダーを立てて、総責任者としてフルストさんの問屋の先代で、この町で顔も広いカリンバル氏を立てた。
フレシアとフルストさんは取締役として、名を連ねている。
カリンバルさんは「やっぱり立ち上げが一番大変だし、一番の楽しみ」と言って早速やる気だ。
生産拠点も、従業員のおじいちゃんが使っていない倉庫を持ってるという事で、格安で借りる事ができたようで、フレシアも大喜びで俺達に報告してくれた。
しばらくして、このおじいちゃんおばあちゃんによる組織は孤児院の人達と合流し、「ポーション生産組合」として正式にスタートした。
当初は多少ギクシャクしたが、おじいちゃんおばあちゃん達は『孫みたいな子供』を、子供達は『頼れる大人』をパートナーにする事で次第にまとまっていった。
俺も何回か収穫の手伝いに行ったが、おばあちゃんが子供達が頑張った後に褒めながら見せたあの笑顔と嬉しそうな子供達の顔が忘れられない。
何か、見てるこっちまで嬉しくなっちゃった。
大好きだった俺のおばあちゃんもこんな笑顔を俺に向けてくれてたんだろうな。
3か月後、最後の試作品が完成し、スタッフはもちろん、フルストさんやタンカレイ卿も集まって生産拠点で試飲会があった。
不具合が誰一人出る事無く、皆が効果を実感し、正式に『商品』としてスタートすることになった。
その試飲会でリューガルドがフレシアに聞いた。
「おいフレシア、この組合を立ち上げる際の資金はどうした?俺達にはそんな金は無いはずだ。」
そーだよねリューガルド、俺も気になってたけど怖くて聞けなかったんだよ。
「もちろん私達のお金から多少は出したけど、殆どがフルストさん提供よ。その代わり、何件か『パーティーの仕方を聞かれてたから、その人にはフレシアの名前を教えているので、もし話があったら、アドバイスなり格安で引き受けるなりしてくれ』だって。正式に決まったら言おうと思っていたけど、決まったらよろしくね。さすがフルストさん、先を見る目あるわよ。」
と平然な顔をして言った。
一体、フレシアにはどんな未来が描かれているのだろうか?
彼女の頭の中を見てみたい。
この旅にフレシアがいてくれて本当に良かったです。
旅の最初で嫌がってすみませんでした。
まあ、そっちの話はフレシアに任せた!
好きにやって下さい。
俺達もできるだけ協力します。
丸投げでフレシアには悪いけど、俺らの本職はミュージシャンだし、創造主様との約束もあるしね。
お互いに楽しいめているからいいんじゃないかな。
という訳で今も3人で黙々と楽器を制作中だ。
フレシアが居ない今が一番静かな時間だ。
あーあ、ギターの弦とドラムヘッドの皮早く見つからいかな?
ってオデリアに行かないと無理か。
もうすぐギターとベースは完成しそうなんだけどな。
ギターとベースが完成したら次はドラムだな。
クリス、頑張ろうな。
ドラムセットが完成したらカッコいいドラムソロを考えてやるからな。
俺とリューで、お前を一流のドラマーに育ててやる。
後はベース担当を探さないとな。
そしたらギター、ベース、ドラムが揃った形でロックができる。
ベースが決まったら創造主様と前世での事を上手く隠して、白い本の音源を聞こう。
きっとクリスやベース担当もびっくりするに違いない。
気に入ってくれると良いけど、というかクリスはきっと気に入ってくれるだろう。
今やってるリュートへのアレンジ曲も、楽しそうに演奏しているし。
今から言い訳をリューガルドと一緒に考えておかないとな。
そんな事を考えていた静かな空間にコンコンとドアをノックする音が響いた。
絶対にフレシアだ。
「ただいま。」
「ただいまです。」
入り口からフレシア以外に、元気な女の子の声がする。
しかも『ただいま』って何?
俺はびっくりしてふり返って入り口を見る。
リューガルドとクリスも作業中の手を止めて、驚いた顔で入り口を見ている。
そこにはフレシアともう一人、見た事のある赤い髪でショートカットの可愛らしい女の子が立っていた。
そうだ、孤児院で出会った、やけに頭の切れる『お姉ちゃん』だ。
明るくて面倒見が良く、孤児院の子供たち皆のお姉ちゃんで、1を教えたら2を理解するような女の子だったっけ。
フレシアが気に入りそうだとは思っていたが、実際に連れて来るとは思ってもいなかった。
「今日からお世話になります、アビゲイルです。よろしくお願い致します。」
って何も聞いてないよ。
リューガルドは知ってたのかなと思って見てみたら、俺と一緒でびっくりした顔をしている。
「おい、何でお前も来るんだよ。せっかくうるさいのがいなくなって、清々したと思ってたのに。」
クリスが口を尖らせて言った。
「馬·····じゃなくて、クリス。今日からもよろしくね。」
彼女は失言を取り繕うような最高の笑顔だ。
フレシアが軽く二人を睨むと、二人は少し申し訳なさそうな顔をして、黙ってしまった。
その後のフレシアの笑顔が怖い。
「という訳で今日からしばらくの間、私の助手として働いてもらうアビゲイルちゃんよ。最近、私もする事が増えてきて、一人では抱えきれないと思ったから、思い切って誘ってみたら来てくれたの。早く一人前になるようにビシバシいくつもりだから、みんなアビちゃんのフォローよろしくね。」
確かにフレシアは忙しい。
自分で持ってきた事とはいえ、俺達のマネージメントにパーティーのプロデュース、それにオリジナルポーションとするべき仕事が多くなった。
助手を付けないと大変だ。
他の人だったら壊れるに違いない。
「アビちゃんよろしくね。」
「よろしくな。」
「···よろしく。」
男連中は納得したようだ。
リューガルドも珍しく笑顔だ。
「トーランド、リューガルド、クリス、お待たせしました。ようやく私も、この町を出る準備ができました。頼まれているパーティーの件も段取りは付いたし、いつ出発しても良いわ。」
よっしゃー、ようやくオデリアに出発できるぞ。
「みんな、一週間後にオデリアに出発する。クリスとアビちゃんはお世話になった人達や友達にしっかりと挨拶をして周るようにな。」
「ウッス。」
「わかりました。」
「リューはいつでも準備OKだよな。」
「当然。」
よーし、1週間後に砂漠の町オデリアに向けて出発だ。
Respect Santana/The game of love ft Mishelle Branch 実は女性ボーカルのロックをあまり知らないのですが、この曲はかなり好きです。サンタナの特徴である、ビブラートやチョーキンングが無いギターとミッシェル・ブランチの伸びやかなボーカルがマッチした名曲です。もしかしたらラジオで聞いたことがあるって方もいらっしゃるのではないのでしょうか。サンタナには他にもおすすめの曲が他にもあるのですが、別の機会にいたします。




