第11話 クリス
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セルスとクリスは地面で絡みあいながらお互いにがむしゃらにパンチを打ち合っている。
体勢が上になっているセルスが若干有利な状況だ。
しかし、クリスの方も下からとはいえ、力強いパンチを繰り出しているし、足でセルスを地面に着けようと必死でもがいている。
「止めろ、立て。」
リューガルドはMMAの審判らしく二人に地面で組み合うのを止めて、立つように指示した。
二人は離れ、再び対峙する。
「セルス、ちょっとはやるようになったじゃねえか。」
「ありがとう。」
セルスはボクシングスタイルに構え、クリスを牽制する様にジャブを繰り出す。
「単調だな。」
そう呟くと、クリスはジャブを掻い潜り、顔面に向けて、大振りもフックを放つ。
セルスはとっさに、パンチが流れる方向に体を流し、ダメージを少しでも減らそうとしたが間に合わず、クリーンヒットした。
セルスが吹っ飛び、地面に叩きつけられる。
(こりゃやばい。立てるか? スウェーでダメージを減らせてたら良いけど・・・・頑張れセルス。)
「立て、セルス!立つんだ。」
リューガルドが審判なのにも関わらず、必死でセルスを応援している。
「・・・ウッス。」
セルスは、か弱い声で答えると、弱々しく立ち上がった。
ダメージが大きいのは明らかだ。
クリスがゆっくりとセルスに近づく。
余裕の表情だ。
ここからは一方的だった。
クリスが一方的に攻め立てた。
セルスはガードで精一杯で、倒れないのが不思議な位だった。
「目は死んじゃいない。」
リューガルドが呟く。
俺がこの一方的な喧嘩を止めないのもそこだった。
確かに大きいダメージを負っているが、目は鋭いままだったのだ。
「おい、倒れちゃえよ。その方が楽だぞ。」
クリスが再び、ゆっくりとセルスに近づいた時だった。
「うおおおーっ」
セルスは叫びながら、クリスに低い姿勢でタックルをするように突っ込む。
クリスはそれを受ける様に少し前屈みになった。
その時だ、セルスは伸びている右腕を掴み、体を反転させクリスに背中を預け、投げた。
俺が教えた、柔道の背負い投げだ。
正直、セルスが実戦で出せるとは思ってなかった。
自主練習いっぱいしたんだろうな、しっかり形になってたもん。
勢いがつきすぎてクリスに乗っかって、ダメージを上乗せしたのはご愛嬌ですな。
あそこまできれいに決まったら、クリスのダメージもかなりの物だと思う。
案の定、クリスも立ち上がったけど、フラフラだ。
しかも、何が起こったのか分からず、ビックリした表情をしている。
セルスはここが攻め時と思ったのか、間髪入れずにクリスに、再び低い体勢で素早く近づく。
クリスも低い体勢でそれを受ける。
そこから二人は密着した状態で、お互いにパンチを打ち合っている。
喧嘩の経験豊富なクリスが若干有利といった所か、結構重いパンチが入っている。
セルスも必死だが、体重が軽い分不利な状況だ。
セルスはクリスの重いパンチを嫌い、距離を取ろうと下がった。
その隙を見て、クリスは左のフェイクパンチを出して、本命の右フックを打つ。
それをギリギリでセルスはかわし、パンチで反撃するが、二人は再び密着状態となる。
「次だな。」
リューガルドが呟く。
俺もそう思う。
二人共、体力の消耗が激しく、次の離れ際の攻防が勝負を決めるに違いない。
密着状態を嫌がったのはやはり、セルスの方だった。
先程のパンチを覚えていた様で、今回は低い体勢でタックルに入る。
クリスは一瞬笑った。
俺にはそう見えた。
クリスはタイミングを計り、右足を動かした。
膝蹴りだ。
(マズイ、タイミングを合わされた。)
そう思った。
しかし俺の不安は外れ、膝蹴りが入ること無くきれいにタックルが入り、クリスが地面に叩きつけられる。
セルスが馬乗りになり、一方的にクリスを殴る。
勝負が決した。
セルスの勝利だ。
「そこまで。セルス、お前の勝ちだ。」
「ヨッシャーーーーーーー!」
セルスが雄叫びをあげた。
固唾を呑んで見守っていたクリスの友達が、クリスのもとへ駆け寄る。
セルスもすぐに我に返り、倒れているクリスに駆け寄った。
「クリス大丈夫か?」
「・・・・・・おう。」
「やったぞ。クリスに勝ったぞ。この日の為に、死ぬ気で頑張ったんだ。自分に負けそうになっても、必死で堪えて練習したんだ。僕は絶対に夢を叶えてやる。成功して、エーテルを幸せにする。見ててくれ、クリス。今日はありがとう。」
「セルス、頑張ったな。強くなった。お前の覚悟は分かった、頑張って夢を追いかけろ。応援するよ。今の俺は敗者だ。そっとしておいてくれ。」
それからセルスは、俺達に何度もお礼を言って『木材は僕が責任を持って探します。』という言葉を残し帰っていった。
エーテルちゃんも遠くから深々と頭を下げていた。
夢に向かって、走り出した二人の背中が前より少したくましくなった気がした。
「おい、行ったぞ、起きろ。もう、話をできる位には回復したろ。」
俺は横になったままのクリスへ声をかけた。
「ああ、起きますよ。」
「お前、わざと負けたな。タックルに膝を合わせる事できたろ。何でしなかった?」
リューガルドが二人で去る背中を見ながら言った。
「初めて、あいつが真面目に努力したのが分かったからですよ。」
「初めて?」
「初めて?」
「あいつ昔から中途半端な所があったんですよ。やれば何でもそこそこできちゃう。それで満足して、やりきる事無く止めちゃう。喧嘩もそうだった。この位で良いやと思ったら、すぐに俺達に頼っちゃう。そんなあいつが、ボロボロになっても俺に挑んで来た。俺の動きや、対決中に通用した事を考えて戦う様にもなった。この短期間で、そこまでできる様になるには、お二人の指導もあったろうが、自分でも努力しないと無理だ。あの時『一生懸命に努力したんだろうな』そう思ってしまった。そしたら足が動かなくなった。まあ、そんな所です。お前らもそう感じ無かったか?」
友人二人も大きくうなづく。
「で、お前らはどうなんだよ?」
俺は、夢を追いかけるセルスに残されたようになってしまった、3人が心配になった。
「俺達は孤児院出身で昔から働いているから大丈夫だ。夢の為ではなく、生活の為だけど。けど、ちゃんと真面目に働いてるから偉そうな事が言えるんだよ。あーあ、俺もエーテルちゃん好きだったんだけどなー。やっぱり、もう少し殴っておけば良かった。」
3人はみんなで笑い合っている。
こいつら、こうやって楽しく過ごして来たんだろうな。
結構良い奴らじゃん。
こいつら見てたら、俺も王都のあいつらと会いたくなってきた。
いつになるか分からないが、帰ったら、絶対にあいつらとばか騒ぎしよう。
「トーランドさん、リューガルドさん実は俺も最近夢ができまして・・・・・」
「何だよ?」
「何だよ?」
「俺もお二人の旅に加えてもらえないかなと思いまして。お二人の演奏を見てたら、俺もお二人のようになりたいと思いました。荷物持ちでも、用心棒でも、何でもやります。お願いいたします。」
「お前、楽器やった事あるの?」
リューガルドが厳しい顔でクリスを見つめて言った。
「無いので、教えてくださらないでしょうか?」
おーっと、ここでバンドメンバー候補ですか。
当然、やる気さえ有れば良いですよ。
後は、厳しく楽しく教えますよ。
センスがあれば良いなー。
これは俺達のギーリさんへの恩返しでもある。
あの時の俺達を導いてくれた恩は決して忘れない。
今回のクリスはあの時の俺達だ。
夢を持った人を見捨てたら、ギーリさんに会った時に顔向けできない。
「リュー、俺は良いと思うけど、お前はどう思う?」
「俺も良いと思うぞ。厳しいけど、お前、ついてこれるか?」
「当然、大丈夫です。よろしくお願いします。」
俺達のパンパンスケジュールはまだしばらく続くのが決まった。
Respect/キラーズ、When You Were Young このバンドはボーカルのオリジナリティが凄いです。もし、この曲が日本語で、カラオケに入っていても歌う勇気が自分にはありません。(笑)聞いて下されば分かっていただけるとは思いますが、このボーカルあってのこの曲だと思います。是非聞いてみて下さい。




