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後編


戻ってから執事に依頼して侍医を呼んでもらった。

そしてソルシアは侍医に相談をして身体を診て貰う。


結果はソルシアに問題はなかった。


「良かった…ということはアルに原因がある?彼にも検査して貰わないと…」


と言ってもどう説明しよう?

普通にお願いしても受けて貰えるだろうか?


「…。」


ソルシアは暗い顔する。


だめ…きっとアルは受けたがらない。

仕事を何よりも優先する人だ。検査の為に帰ってこないだろう。

義母たちに説得してもらうべきか…?いや、息子に検査を受けて貰うなどきっと気分を害する。

自分がしっかりしていないって逆に責めるだろう。


「あの先生…一つお願いしてもいいですか?」


ソルシアは自分が侍医にお願いして『健康検査』と言う名目でアルソンに検査をしてもらう様にお願いした。


普段は休まず仕事している彼だ。

もしかしたら自分の体調管理など気にしていないのかもしれない。


侍医には訳を話し、少し報酬を多くしてアルソンに検査をして貰うように依頼した。

そして、アルソンの仕事場にも連絡をして侍医が出張できるように手配をする。


こんなことをしているなんてアルソンが知ったらかなり怒りそうだが後継ぎの為だ。


それにお互いの検査の結果が良ければ説得材料になる。

義母の催促でもこれが盾になる。


本当はこんなことをしたくはないけど早く子が欲しい。

アルソンの子を身籠って皆に喜んでもらいたいの。


フェニス家でロバートの顔を見に行っているぐらい子供が好きなら、子が出来たらきっと頻繁に家へ帰って来てくれるわ。


ソルシアは一縷の望みに縋った。


そしてアルソンの検査結果は…


「旦那様も特に問題はありません。」


「本当ですか!?…良かったぁ」


お互いに何もなく子を成せると知ってソルシアは喜んだ。


「奥様、これで今後の蜜夜に励むことが出来そうですね?」


「やめてよ、エリー。でも、そうね。今度アルが帰ってきたら滋養があるものを用意して頂戴?」


侍女エリーの節介な言葉にソルシアは窘めるが、満更ではない。

ソルシアの頭の中は次アルソンが帰宅した時のことばかりだ。



そして数日後、アルソンが家に帰ってきた。


「お帰りなさい、アル。こんなに早く帰ってくるなんて嬉しいわ。」


久々にアルソンが早く帰宅をしてきた。

こんなに早く帰って来てくれるなんて嬉しい。


ただ、アルソンは無言のままエントランスを渡り部屋へと向かって歩いて行く。

そんなアルソンをソルシアは追いかけるようについて行った。


「ねえ、今日は城には戻らないでしょう?久々に長く一緒に居られるかしら?」



部屋に着くとソルシアは甘えるようにアルソンの腕に抱き着く。

すると突然…


「…え?」


抱き着く手をアルソンが払いのけた。


「…なんのつもりだ?」


「…え?な、なに?」


目の前のアルソンはソルシアに冷たい眼差しを向けている。


「勝手に城の者達に風聴するだけじゃ飽き足らず、侍医を呼んで俺の身体を調べたな?どういうつもりだ?」


「…え…風聴?…ちょ、ちょっと待って?侍医を呼んだのは私だけど、風聴ってどういう事?」


「しらばくれるなっ、お前が専属の侍女に言って城の人間に俺が家に帰らない薄情な夫だと噂を立てた癖に!そして極めつけは侍医か?」


え?…エリーがそんな事をしていたの?


「待って!私はそんな事を依頼していないわ。それはエリーが勝手にした事よ?侍医は貴方の健康を考えて敢えて呼んだの。貴方が中々帰ってこないから!」


「お前のその余計な事をしてくれたお陰で、重要な仕事を下ろされたんだ!お前の馬鹿な疑いをするから宰相様が俺に気遣ってな!」


仕事を下ろされた?

検査を依頼しただなのに?


「なんだその目は?俺が知らないと思っているのか?侍医に子供ができるかどうかを検査させに仕向けただろう。健康検査など偽ってな?」


「っ!?…だってそれは…私が言っても…」


アルソンは帰ってこないじゃない?


そう言いたかったけど、アルソンの険悪な目線が私を刺し言葉を詰まらせてしまう。


「馬鹿馬鹿しい…。俺が仕事で帰ってこれないと先に両親に伝えて了承を貰っていた。それでも母のお節介に鵜呑みして馬鹿な事をしてくれるなんて…」


「そ、そんなの私聴いていない!なら、お義母様の催促に追い詰められていると知っていて、なんで助けてくれないの!?」


お義母様だけじゃない。

親戚や友人、自分の両親までも、アルソンの子はまだか?と何度も聞かれている。

その所為で追い詰められてるのに…それを何度も伝えているのに…何故そんなに責めるの?


貴方は私の夫じゃないっ?

それに…。


「それに、仕事って言ってよくハロルドとよく話しているじゃない?それも勝手にフェニス家に行っているのでしょう?仕事仕事ってなにが忙しいのよ?時間があるなら帰って来てよ!!」


「…誰の所為だ?」


想いをぶつける様に言い放ったのに、アルソンは更に冷たい表情をしてソルシアを射貫く。


「…っ。」


とても怖い。こんなアルソンは初めて見た。


「城の人間に風聴をし俺を悪者にさせて、俺がこの家に帰りたいと思うか?…侯爵夫人になってから随分偉そうになったな?」


「だから、それは私じゃな…」


「もういい、お前とはもう話すことはない。」


そう言ってアルソンは踵を返し扉のノブを手にかける。


「…次、会うときは離縁届を持ってくる時だ。それまでに荷物をまとめていろ。」


そう言ってアルソンは部屋を出てしまった。


「…あ…あぁ…。」


…どうして…こうなって…しまった…の…?


私は…私は…ただ貴方の子供がほしいだけなのに…


足が震えその場でしゃがんでしまう。

余りにもショックを受けて、その場から動けずにいた。


『君は赤薔薇みたいに直ぐに顔が紅くなってしまうのだな?

しっかりした女性と聞いていたが、たまにおっちょこちょいところがとても可愛いよ。』


結婚する前は、そういって優しく私の頬を撫でてくれて少し照れながら愛おしそうに見てくれるアルソンが好きだった。


私だけを愛してくれるアルソン。


どんな表情も大好きだった。


…でも…


氷の様な凍てついた目で見るアルソンはとても怖かった…侮蔑するような眼で見て別れを言われた時、心が一気に凍りついた。


…愛しているのに…


…ただ愛する人の子を望むのが…何がいけないの?


『城の人間に風聴をし俺を悪者にさせて、俺がこの家に帰りたいと思うか?』


…これは本当に知らない。

でも、エリーは私の心情を知っている。

前に城に友がいると言っていた。


エリーが勝手にしていたら…?


「…エリーに聞かないと…」


エリーに聞いて彼女が何したのかを白状させる。

すべてあの子の所為なら、要人に突き出してアルソンともう一度話し合おう。


私は何もしていない。私はただ貴方の帰りを待っていただけ。

私達は彼女に嵌められたのだと…。


「…そうすれば…アルソンの誤解は解けるわよね?…だってあんなに私の事を愛しているって言ったもの…。ただ誤解しているだけよね?」


そうだ。そうに違いない。


重い足を動かし部屋をでる。

するとドアの前には執事がいた。


「…貴方、良いところにいたわ。急いでエリーを連れて来て頂戴。そして要人も呼んで…。」


「…奥様、エリーはここにはいません。」


どういう事?


執事は私を気まずそうに目を合わせないまま淡々という。


「…旦那様がエリーを連れて行きました。行先は分かりません。」


…アルソンがエリーを連れて行った?

どこに?これでは要人に突き出せないじゃない。取り調べしてほしいのに…


「アルソンは…?彼はどこへ行くって言ったの?」


「城へ戻りました。そこで今日は泊るそうです…。」


城に戻った…?居心地悪いって言ったくせに結局城…?


「奥様は少し落ち着いた方が良いです。御子様の件で奥様は全く余裕がない状態ですから…。そして気持ちに余裕が出来た時に旦那様と話し合った方がよろしいです。」


「…。」


誤解を解かなければならない。

でも、エリーを捕まえなければ…あの子の所為で、私達の関係を拗らせた。


「…すぐにエリーを探して。」


「…奥様。」


執事の声はソルシアには届かない。

ソルシアは尚、エリーを捕まえる様に執事に命じた。


「そして要人に突き出すのよ!あの子はわざと私達の中を悪くさせる為にやったのよ?侯爵家を嵌めようとしたの。重罪人だわ!あの子の実家にも連絡して頂戴、娘の罪を償わせるのよ!!」


エリーはソルシアを妬んで陥れようとしている。

その事実にソルシアは怒りに震えた。


「…それは出来ません。」


癇癪を起すソルシアに執事は冷静な目で応答する。


「なんで!?夫人の命令よ?聞きなさい!」


「旦那様がエリーに関して奥様が何か言われても対応するなと命じられています。」


…アルソンがエリーを?


「…とにかく本日はお早めにお休みくださいませ。後で使用人にお食事をお部屋まで持ってこさせます。では私は失礼します。」


執事は頭を下げて私の前から下がった。


その姿をただ見つめるしかない。

その後、ソルシアはその場にいた使用人達に連れられ部屋に閉じ込められた。


ソルシアは部屋で一人、アルソンに誤解を招いたこと、エリーに嵌められたこと。そして今後自分はどうなるのかと不安に駆られ、食事も睡眠もまともに取れず悶々と夜を過ごす。


不安の中で浅く眠るソルシアは自分の身体が棘の中にいるような感覚を覚えた。


まるで薔薇の中にいる様…。


綺麗な薔薇には棘がある。


アルソンはソルシアを綺麗な赤薔薇だと言っていたが、ソルシアから見るとアルソンの方が薔薇の様に思えた。


綺麗で心を華やかにしてくれる薔薇。

でも触れば棘が刺さり怪我をしてまう。


その薔薇に魅了され身を委ねた自分は薔薇で作られたゆりかごに揺られている。


薔薇の棘に刺さり傷つきながら…ゆらゆらと…




ー翌朝ー


自室のソファでうたた寝をしていたソルシアは目をゆっくり開け、窓から入る光を見つめる。


きっと今自分が手紙を送っても、アルソンは見ないだろう。

アルソンがエリーを取り調べて誤解している事を気づいてくれるといいけど、エリーが嘘をつき続ける可能性もある。

そうなると益々アルソンは誤解したままだろう。


…そうだわ…ハロルド…ハロルドにお願いすればいいのだわ…。


ハロルドの存在を思い出したソルシアは一縷の希望を見出す。


最近アルソンと一緒に居るハロルド。

彼ならきっと義姉を助けてくれる。


早速ハロルドに手紙を書いて執事に渡した。

でも、執事は疑うように手紙の宛先を見ては「これ以上ササライ家の名誉を傷つける場合がありますので王城に送ることは出来ません。これはフェニス伯爵家に送りしますが、それでもよろしいですか?」と言われ、王城に送ることを拒否をされる。


フェニス家に送るなんて、ミリアンナに知られる…。


あの子に心配かけるところか、姉としての矜持が傷つけられる…それは嫌。


「…ならいいわ…直接フェニス家に行く…。」


執事から手紙を奪い出掛ける準備をする為に部屋に戻る。

背を向ける私を執事は後ろから声を掛けた。


「奥様がお泊りできる様、使用人にお伝えします。」


…まるで『帰ってくるな』と言っているようね?

アルソンだけじゃなく、この家の使用人たちも昨日を境にソルシアに冷たくなった。


恐らくソルシアが離縁されると分かっての対応だろう。


…今まで尽くしてきたのに、随分な対応ね?…


今まで仲良くしていたのに冷たくあしらわれ、ますますソルシアは居場所を失っていく。



ソルシアは準備を終わらせ馬車に乗った。

馬車の中、孤独に思えたソルシアは自分を守る様に両手で自分の身を抱きしめる。


…もうなりふり構っていられない。ミリアンナに言えば…私達の中を取り持ってくれるかもしれない。

あの子は姉想いだもの、きっとこの事を知ってハロルドと共にアルソンと私の仲を取り持ってくれる。

仲が修復したら、必ず今いる使用人達を辞めさせ一新させよう。

それがいい。


ソルシアはそう信じた。


そしてフェニス家の近くまで辿りつくが、ふと窓を見るとフェニス家へ向かう道に見覚えらしき馬車が走っていた。



あれは…ササライ家の馬車?



「ちょ、ちょっと止まって!」


窓を開け御者に届く様に大きな声を出す。

そして少し様子を見たくて、隠れる様に行く道を外れて貰った。


…どうしてササライ家の馬車が?


思い浮かべるのは、アルソンの姿。


アルソンが実家に苦情を言いに来た?

それならもっと不味い。


誤解しているまま苦情となると、自分の両親も妹達の家にいる可能性がある。


ソルシアは青褪めた。


どうしよう…


とりあえずササライの馬車に誰が乗っているのかを見たくて、ソルシアはフェニス家まで行くが門番を守る要人に「驚かせたいから来たことを黙っていて欲しい」と伝えて目立たないところに馬車を止めた。

少し遠いが一人で馬車に降りて歩き、身を隠しながら入り口の近くまで来てササライ家の馬車が降りてくる様子を見ていた。


そして馬車の扉が開く。


「…っ!?…ど、どうして??」


馬車から降りたのはアルソン、だがもう一人女性がいる。


その女性はエリーだ。


エリーは使用人の恰好をしていない。

綺麗なドレスを身に纏うエリーがアルソンの手を借りながら馬車を降りた。


…どういうことなの?


アルソンはエリーに優しく微笑む。

それはアルソンが今までソルシアに見せた優しい微笑み。ソルシアの大好きな笑顔だ。


ソルシアはショックで体が震える。


そしてさらにソルシアに追い詰める出来事が起きた。


来客を迎える為に現れたミリアンナとハロルドが二人を笑顔で出迎える。


4人は嬉しそうに抱擁した。


そんな様子にソルシアは立ち尽くすしかない。


4人はソルシアがいることを知らずに雑談に興じながらそのまま庭へと歩いて行った。


孤独な静けさが自分を襲う。



裏切られていた。


愛する夫だけじゃなく


いつも一緒に居た侍女も


信用していた妹までも


その幼馴染さえも自分を裏切っていた。



「…う…うふふふっ……」


目の前が真っ暗だ。


何と言う追いうちだろう?


私が何かしたのだろうか?


こんなひどい裏切りを受けるなんて…



ソルシアは自暴自棄になって、ゆっくりとフェニス家に向かった。


…邪魔者の私が今、現れたら皆はどう思うのだろう?


行き先には庭師が念入りに手入れした庭園がある。


そこでアルソンたちは座り楽しそうに笑っていた。


その様子に更に心が憎悪に満ちる。


ソルシアはその心のまま堂々と庭園へと入っていった。


「皆様お揃いで随分楽しそうなこと。私も混ぜて貰えません?」


「お、お姉様!?」


毒を吐く様に告げながら現れるソルシアにミリアンナは驚き声をあげた。

皆が一斉にソルシアに振り向く。


「…ソルシア…」

「…義姉様」


アルソンとハロルドは席を立ち、ミリアンナとエリーを庇う様に二人を自分の身体で隠す。

その様子にソルシアは更に苛立った。


「随分酷い事をしてくれるじゃない?二人の浮気を皆で隠し私を貶めようなんて…。」


「…浮気?お姉様、それはどういう事?」


ミリアンナが不思議そうに姉に問うと、ソルシアは憎しみをぶつける様にミリアンナを睨みつけた。


「…よくいうわ。貴女まで私を裏切るなんて…なにかしら、日頃の恨み?実の姉を貶めて楽しい?」


「ど、どういうこと?言っている意味が分からない…。」


憎しみをぶつけられて動揺しミリアンナはふらつく。

そんなミリアンナをハロルドは抱きしめた。


「…ミア、部屋に入ろう?…アル義兄様、少しだけお願いしてもいいですか?」


「ああ、いいよ。エリー、君もミアについて行ってくれ。」


「…分かりましたわ。」


そう言ってハロルドとエリーはミリアンナを連れて家に入っていった。


「やめないか、ソルシア。今のミリアンナは身重っているんだ。不安にさせるんじゃない。」


皆がいなくなると急にアルソンの目が鋭くなる。

でも、今のソルシアに怯む事はない。


「あの子がどうなろうと知らないわ。ねえ、いつから裏切っていたの?エリーと一緒になりたくて、私を追い出したいのでしょう?」


仕事と偽り子を成す事をさせず不出来な嫁と周りに思わせる。


酷い…酷い、酷い、酷い、酷いっ!


「…くくっ、いい顔になったな?その顔にさせる為に随分、長かったよ?」


「っ!?」


アルソンの表情がみるみる変わっていく。

ソルシアを侮蔑するような眼差し、その目には狂気が帯びていた。


どうして、そんな目をされなきゃいけないの?


「…どういう事?」


「…全部、お前が見ていた物は紛いものだよ?俺が赤薔薇姫を懲らしめる為に計画していた事だ。」


…傷つける為?


私が見ていたものは紛いものという事は…偽りだった?


狂気を帯びた瞳にソルシアを映しアルソンは不敵に微笑んだ。


「ササライ家がフェニス家の娘を求めたのは全てこの為に俺がしたことだ。憎き女であるお前に復讐をする…それだけの為に。」


その言葉にソルシアは胸を抑える。


…嘘…嘘…


ソルシアは酷く動揺してしまう。


婚約の顔合わせ以外に一度もアルソンとは会ったことないのに、ここまで憎まれるなんて…。


「…私は貴方に一度も会ったことがないじゃない…なんでそこまで憎まれるの?私が貴方に何したの!?」


必死に対抗するためにソルシアは叫んだ。

だが、アルソンは蔑みながら微笑んでいる。


「お前は一人で悲劇のヒロインぶっているが、お前の無意識な行動の所為で苦しめられた者がいる。覚えていないか?『アーロン・キャニス』と言う名を?」



アーロン・キャニス?


アーロン…誰?…いや…知っている。


たしか…アルソンと婚約を結ぶ前に私の従者をしていた人物がそういう名だった…。


眼鏡をつけたひょろっとした青年。

伯爵家の三男な為、執事見習いとしてソルシアの従者になった人だ。



ソルシアの耳に懐かしい声が届く。


『ソルシアお嬢様』


にっこりと微笑むアーロン。


『心優しい貴女にそんな辛い顔は似合わないです。どうか泣けるときは泣いてください。ここには僕しかいません。』


「…あ…あの人?」


ソルシアは記憶の中から彼を思い出した。


…何故、忘れていたのだろう?


だけど、彼は突然仕事を辞めている。


父からは病気になって辞めたと聞いていたから気にする事もなかった。



「思い出したか?」


アルソンは更に鋭くソルシアを睨んだ。


「…え…でも、何故貴方が彼の事を?…彼は貴方と関係がないじゃない…。」


アルソンの家とアーロンの家は全く繋がっていない。

親族でも仕事関係者でもないのだ。


「アーロンの家は元々母の兄弟である三番目の弟が養婿になった家。その息子である彼は俺の従兄で昔は良く彼の家に行って3()()でよく遊んでいた…兄がいない俺にとってアーロンは実兄の様な人だった。」


「…アーロンがアルソンの従兄弟…。」


その真実にソルシアは驚愕した。


アーロンが従兄弟だったなんて…言われなければそんな事絶対に分からない。

アルソンとアーロンは似ているところなんて全くと言いていい程ないのだ。


「…で、でもアーロンと貴方が知り合いでも、私がアーロンの事で貴方に復讐されるようなことはしていないわ!」


確か彼は病気でやめたの。

だから私には関係ない。


かんけ…い…ない…わ…


ふとあることが頭を過る。


『…どうか僕を貴女の傍に居させてください。』


彼はあの時、そう言っていた。

その前に何か言われた気がする…なんだったのかしら?


「関係ないだと?アーロンがお前を大切に想っていたのに、お前はあいつに何をしたかっ!?お前の所為でアーロンは執事への道を断たれ貴族として居られず追い出されたんだ!」


声を張り上げ怒りを表するアルソンにソルシアは怯んだ。

こんなに怒るアルソンは、昨日の家で怒るよりも恐ろしい。


「お前はある時、アーロンを突き飛ばしただろう?ハロルドが振り向かない事に落ち込んでいたお前を必死に励まそうとしたアーロンに、お前は悲劇のヒロインぶってアーロンを八つ当たりの様に突き飛ばして逃げた。その時のアーロンは壊れた柵にぶつかり両足が刺さった!!その所為でアーロンは一生歩けなくなってしまった!」


アルソンから事実を聞かされたと同時にソルシアは忘れていた記憶を思い出す。


※※※


フェニス家の庭に出て来たソルシアはある二人を見つけた。


目の先にはミリアンナとハロルドが仲良く雑談している。


ただのおしゃべりならいいが、まだ婚約者でもないのにお互いの距離は近い。


ミリアンナが何かを言われて可愛らしく頬を膨らませると、ハロルドは楽しそうに頬を指で突っつき次第に甘い顔をしてその頬に口づけをする。


ミリアンナは顔を真っ赤にして驚くが、次第に嬉しそうにはにかんだ。


ソルシアは目に涙を浮かべて二人を見つめる。


元々、最初にハロルドと仲良かったのは私なのに…。


いつの間にか、妹に取られてしまった。


妹ばかりずるい。


ハロルドは私の婿養子に来て欲しかったのに…。


なぜ長男なの?


貴方が次男だったら妹に絶対に譲らないのに…



心が憎しみに満ちる。

そんなソルシアを後ろで見守っていたアーロンはゆっくり口を開いた。


『そんな風に思わないでください。』


『…アーロン…。』


『彼の気持ちは元々貴女にはなかった、それはお嬢様も初めから知っていたでしょう?最初がどうこうなんて関係ありません。…彼はミリアンナお嬢様を心から好いています。それなのにミリアンナ様の所為にしてはいけません。貴女はただ失恋で心が一杯になっているだけです。』


指摘されソルシアは怒りに震える。


あなたに…あなたに…なにが分かるっていうのよ…っ。


『彼がお嬢様を選ばなくてもお嬢様は素敵な方です。僕はそんなお嬢様が好きです。貴女の傷が癒えるまで、どうか僕を貴女の傍に居させてください。』


『貴方に私の何が知っているのよ!雇われている身の癖に余計なことしないで頂戴!』


彼の声を聴きたくなくて、私はアーロンを突き飛ばし走って部屋に戻った。


私の気持ちが貴方なんかに分かるわけないわ。

漬け込むような言い方でいやらしい。アーロンなんて大っ嫌い!


私は一人、泣きじゃくった。


でも、その後アーロンは姿を見せなくなる。


父に聞いたら彼は病気で実家に戻ったそうだ。


ソルシアは正直ほっとした。


要らないことを言うアーロンなんていない方が良い…。


ソルシアは彼の事を気にしずに、そのままいつも通りの日常を送った。


だが、突き飛ばした後アーロンに何があったのかソルシア以外の人は知っている。

でも、伯爵当主の命令と僅かばかりの賄賂でアーロンの事は口に出すことを禁じられた為、誰もソルシアに真実を伝えることはなかった。




※※※


「…嘘…嘘…そんな…の、わたし…知らされて…いない。」


思い出した…でも、私は彼が怪我したことを知らない。


ソルシアは両手で頭を押さえて知らないと頭を振った。


その姿をアルソンは見て、侮蔑するような眼差しを向ける。


「これを知った俺はお前に復讐しようと思った。高位貴族である侯爵家が名指しで伯爵家に直々求婚を申し込むなんて、伯爵家にとってこれ以上のない名誉だ。当然娘を差し出すだろう。そして差し出す娘は長女のお前になる。俺の狙い通りお前が俺の婚約者になった。」


初めからアルソンはソルシアを狙って婚約話を申し込んだ。

そして計画通りになった。


「そこから復讐の開始だ。お前に俺を依存させる為に色々と尽くした。俺に溺愛されていると思っただろう?馬鹿なお前は簡単に俺に入り込んだ。そして更にお前を調子に乗らせる為、母や使用人達に協力してもらい理想の嫁として扱ってもらった。それを知らず有頂天になったお前は馬鹿で面白かったよ?」


アルソンは淡々と今まで仕組んでいた事を話す。


ソルシアが侯爵夫人として努力してきたものは、アルソンによって作られたものだった。

おだてるように仕組み順風満帆だと思わせて、後にじわじわと焦らせる。


「お前に子供が出来ないのは当たり前だ。家令に命じてお前に避妊薬を飲ませいるからな?貴族の娘にとって一番後継者問題が悩まされる。出来なければ周りに非難を浴び離縁は確実だ。侯爵夫人としての自分の名誉を守りたくて必死になる。そして今、お前は追い詰められた。…これで以上かな?」


私に子供が出来なかったのは…アルソンの所為…

最初から子を成すことが出来ないように仕組まれていた…。


呆然とするソルシアに、アルソンは尚ソルシアを否定するように嘲笑う。


「すべては従兄の為だ。だが、アーロンもどうしてこんな軽い女に好意を寄せたのか理解が出来ない…顔だけなら、この程度など他所にもたくさんいるのにな。」


その言葉に心の中で何かが割れた。


ソルシアを侮辱するアルソンに、少しずつソルシアは落ち着きを取り戻す。


…もう彼に愛など求めない。


「…本当に…全て偽りだったの…ね。」


「ああ。そうだ。」


「…でも、この復讐はただ私を孤立させただけじゃない、これが復讐?」


アルソンを睨みつけ、ソルシアは思ったことを口にする。


憎んでいる理由は分かった。そして私は今貴方に追い込まれている…だけど、中途半端だ。


「こんなこと私がお父様に言えば、咎められるのは貴方よ?逆に慰謝料とれるわ。」


ここはフェニス家、私の実家だ。

周りにフェニス家の使用人がいる。つまり使用人達が証人だ。

ここで色々と暴露するなんて、自分の首を吊っているしか思えない。


「くくっ…そうか?でも、そうだな…この復讐はまだこれで終わっていない。これからが本番だ。」


狂気を帯びた目を細めて楽しそうにアルソンは笑い出した。



「お前の父親にこの事を言っても無駄だ。既に俺はアーロンにしたことを隠蔽した前夫妻を裁いている。そしてソルシア、その罪をお前が背負うんだよ?」


…両親を裁いた?


「…どういうこと?父と母に何したのよぉ!」


「自分の心配をしたらどうだ?既に俺はお前が親殺しを背負うように手配をしている。そうだな…離縁される自分を助けて貰うよう両親に頼んだが逆に責められてしまい、逆上して親を殺した。という殺害動機がいいな。」


楽しそうに嘘をでっちあげるアルソンにソルシアは信じられない。


こんな…こんな人だったなんて…?


「…だれかこの人を捕まえて!」


使用人達に声を掛けるが、誰も動かずただ静かにソルシアをみていた。


どうして動かないの?


「無駄だ。ここに居る者はみな俺の協力者ばかりだ。前に居た奴らは全員ハロルドがクビにしている。ここでお前を庇う奴はいない。」


「…ハロルドまで…」


ハロルドまで何故なの?


ここに居る人達は誰も味方ではない…このままでは自分が不利だ。

…でも、まって?ミアはこの人の味方?


自分の怒りで忘れていたが、さっきのミアの様子をみるともしかしたらこの事を知らないのかもしれない。


あの子に会って確かめないとっ!


家に入ろうとソルシアは動いたが、ファニス家に勤めている使用人達が道を阻み壁となる。


「どいて…」


「ミアの元には行かせない。後、良いことを教えてあげるよ?」


良い事?何が良い事なの?

犯罪者の癖に…。


「ミアのお腹の子…一体誰の子だと思う?」


お腹の子?一体どういうこと?


また何かあると、ソルシアは更に警戒を強めるが、アルソンは嬉しそうに微笑む。


「…俺の子だよ?」


「っ!?」


ミアのお腹の子はアルソンの子?


あの子…ハロルドを裏切ったの?


「ああ、心配しなくてもちゃんとハロルドには許可を貰ったよ?でも、もしかしたらハロルドの方が濃いかもね?ミアを眠らせて二人で手籠めたから…これによりミアのお腹の子はササライ家の養子になることが決定した。君がいなくなってもフェニス家の血はササライ家に継がれる。」


あられぬ事実を聞かされてソルシアは身体を震わせた。


ミアを無理やり手籠めて出来た子…

そういえばミアはアルソンに薬を貰い飲んでいた。…まさか…


「どうだい?今まで欲しかった俺の子を妹が孕んだことは?…勿論その子は大事にするよ?ササライ家とフェニス家がこれからも共に歩むための懸け橋になる。…だからお前はもういらない。なあ、エリー、ハロルド。」


「はい」


「ああ。」


アルソンの声に応えるように二人が庭に現れた。


「…ハロルド…エリー…。」


「いいざまですわ。親切な私は死んでいく奥様に一つだけ教えてあげます。貴女が突き飛ばした従者は私の実の兄でございます。ようやく貴女に復讐が出来てよかったわ?」


エリーは嬉しそうに微笑むと、続いてハロルドが前に出た。


「俺もあんたに怨み言がある。よくも今までミアを苦しめてくれたな?お前は何かとミアを出来損ないと風聴していた。それを鵜呑みにした前使用人達は皆、ミアを陰で嘲笑っていたんだ。ミアはずっと一生懸命努力していたのに…それを知っていてお前は嘘を…まぁ俺が全部、綺麗にさせて貰った。やっと1番の元凶を懲らしめる事が出来て嬉しいよ?」


ソルシアも努力をしていたが、ミリアンナも努力をしてきた。

だけど、ソルシアはそんなミリアンナを認めず自分より甘やかされて何も出来ないと言いふらしていた。

それを知っているハロルドはソルシアを憎んでいる。


「ここでは誰もお前を助けない。ソルシア、お前の終わりだ。」


狂気を帯びた目をした3人は楽しそうに笑う。


ソルシアは恐怖に震え助けを求める様に周りを見渡した。


だか、誰もが皆冷たい目をソルシアに向けている。


助けて、助けて、助けて、助けて、助けて!


「…ミア…アーロン…っ。」


「ミアは先程、寝かせましたわ。そしてお兄様はこの地にはいません。…あの世でお兄様にしっかりと謝罪して下さいませ?」


エリーはゆっくりソルシアに近づきポケットから小瓶を取りだして、中から錠剤を取った。


あれは毒?

逃げなければ…。


ソルシアは踵を返し一気に走ろうとするが、使用人たちに取り押さえられながら地面に叩きつけられた。


静かにアルソンがソルシアに近づく。


「…赤薔薇が散る…か。最後だけお前に夢を見させてあげよう?」


アルソンはソルシアの髪を引っ張り顔を上げさせた。


そして、とびっきりの笑顔を作る。


その笑顔は今までソルシアが大好きな笑顔。


「…ア…ル…。」


『 愛しい私の妻、どうかお休み? 』


アルソンはソルシアの口元に錠剤をいれソルシアにの口を塞ぐように口づけをした。


「んんっ!」


抵抗するが、アルソンが押し込むように舌を絡ませるとソルシアの喉に錠剤が通る。


薬を飲んでしまった…


呑んだ薬の効きがいいのか、ソルシアの身体が熱くなり頭が朦朧とする。


「せめての情だ。眠る様に死ね。」


唇を離しながらアルソンは言い捨てた。

そんなアルソンにソルシアは涙を流す。


「わ…たし…は…ただ、あなたが…あ…なた…が…すき…だった…。」


始めて顔を見たとき、胸が熱くなるほど焦がれた。


優しく私の名を呼んでくれる時、なんて甘いのだろうと思った。


一緒に手を繋いで散歩する時、胸の鼓動が聞こえる程ドキドキして胸を躍らせた。


婚約を結んで結婚するまでは毎日が幸せで、やっと自分も報われる時が来たと心から喜んだのに…。


恋を感じることが出来て、本当に幸せだったのに…。


「その幸せは全部紛いものだ。俺はアーロンの人生を奪ったお前が心から憎い。それだけだよ?」


「…そ…ん…な…」


ソルシアは絶望した。




「これで終わりましたね?ようやく兄様の無念を果たせましたわ。」


「…うん。でもアル義兄様、ミアはどうするのですか?…このままだと姉殺しに気づかれてしまう可能性がある。お願いです。ミアだけは助けてください。」


先程、ミリアンナはとても動揺していた。

なんとかハロルドとエリーで落ち着かせ、今は眠っている。

ソルシアを殺す事を邪魔されないように、エリーがミリアンナを眠らせた。


それでも、ミリアンナが起きればソルシアが来たことを思い出すだろう。

ハロルドの懸念にアルソンは「心配ない」と微笑んだ。


「ハル、大丈夫だよ。ミアは今日の件を既に忘れている。…そうだろう、エリー?」


「はい。先ほど寝かしつける時に飲ませた薬は暗示をかけるには最適で、夢と思わせることが出来ます。勿論、妊娠している身体に負担がないものですよ?後、ここの者達からのフォローもしっかりしてくださいますので心配無用ですわ。」


ここの使用人は全てアルソンとエリーが手配した人材。

誰もがミリアンナに夢だと偽るだろう。


「本当か?良かった…。」


「ああ、心配しなくていい。あの子をどうこうする気はない、あの子の罰はすでに終わっているからな?お腹の子が無事に産まれたらミアはハルに返してあげる。今度はエリーの子が欲しいな?」


「ふふ…既婚者を口説くなんて罪な人。亡くなった妻を想いながら生きる侯爵様になるのでしょう?ミアの子で我慢してくださいな?」


「君の旦那様には勝てないから諦めるか。流石に宰相様には頭が上がらない。今回の事で色々と手をまわしてくれたしね。それによってこの真実は誰にも触れられず闇に葬られる。仕方ないや…。ハル、もし産まれてくる子が女の子ならもう一回三人で床を共にするか?」


「…御冗談を…と言いたいところですが、結構よかったですからいいですよ?ミアも気持ちよさそうに乱れていましたし、あの顔をもう一度みたい…。」


普通なら他の誰かに愛する妻を触れらて拒絶するのに、何故かハロルドは興奮している。

彼の隠された性癖にアルソンとエリーは苦笑した。


「ミアが可哀相ですわ…まあ、あの子も兄様に何もしなかったもの。直接関係していたわけではないけど、二人に可愛がられるだけで償いになるならいいわね?この女より可愛いものよ?」


エリーは息を引き取ったソルシアを冷たく見つめる。


アルソンとエリーの復讐相手は、ソルシアとその両親だ。

アーロンに一生治らない傷を負わせ、娘を守る為に前夫妻は本人を脅した。

その所為で、アーロンは貴族として居られず遠い地に追いやられたのだ。


結果は…残酷なものになった…




ーそして


「おい、誰かがいるぞ?」


「女だ。女が浮いている!」


翌日、王都に近い海に漁港していた船によって女性の遺体が発見された。


その遺体はソルシアだった。


その海の近くの岸壁にソルシアが書いた遺書が発見され、両親を殺した罪悪感によって自害したと世間に広まった。


アルソンのシナリオ通りに…


アルソンはそんな憐れな妻を嘆き、彼女の為に籍をそのままにしてササライ領にある親族専用の霊園にその亡骸を連れて行く。

本来、罪人が親族の霊園には入れないが、彼は特別に彼女を入れ供養した。

これにより世間は『ササライ侯爵は心から妻を愛していたのだ』と彼を同情した。


翌年、ミリアンナに第二子である男の子が生まれる。

アルソンは妻の繋がりとしてその赤子を養子として貰い、次期当主として育てることにした。


そして月日は流れ、ササライ家で起きた悲劇は人々の記憶から薄れていく。


とある穏やかな日。


「アル義兄様、ハル、ロニーとアレックス、お茶が入りましたので休憩しましょう?」


「ああ。分かったよ?」


父親達に見守られながら子供達が木登り勝負している最中にミリアンナに呼ばれて、皆でミリアンナの元へ行く。


「ふふっ、家族揃ってお茶ができるなんて久しぶりね?」


「本当だね?ミア、君も領主としてだいぶ貫禄も出て来たお陰でこうして楽しい時間を過ごせるよ。流石俺の奥さんだ。」


幸せそうなミリアンナにハロルドは彼女の額にそっと口づけをすると、ミリアンナが恥ずかしそうに照れる。

そんな二人にアルソンは苦笑した。


「ご馳走様、子供達の前だから少しは自粛しようか?」


「いつもの事だからいいよ。それより僕達そんなにお腹すいていないから、まだ遊んでもいい?あれの続きしたいんだ。」


「僕も。ロニー兄様、行こう?」


子供達は席に座らずまた戻っていった。


「落ち着きが無いわね?誰に似たのかしら?」


「それは勿論、ミアだね?」


「ああ、ミアにそっくりだ。」


ため息をつくミリアンナに、ハロルドとアルソンは苦笑しながら指摘する。


「もう、酷いわ。ロニーの顔は私に似ても、性格はハロルドにそっくりよ?それにアレックスだって…私に似ているというよりも、なぜかお義兄様に見えるのよね?性格だけじゃなく目の色も同じ…本当に誰に似たのかしら?」


「ふふ…誰に似ても可愛いからいいじゃないか?そのお陰でアレクは皆から愛されている。いい子を貰ったよ?」


その子の本当の父親は自分だとアルソンは告げていない。

知らせるつもりはないのだから。


「そうね?…本当は、お父様とお母様やお姉様にも、アレックスを見てほしかったわ。アレックスを身籠った年に三人が亡くなって、どれだけどん底に落ちたか…でもハルとお義兄様、ロニーが私を支えてくれたから、何とか立ち直ることが出来たけど…。」


「…そうだね、でも俺達は生きているんだ。子供たちの為にご両親と妻の分まで頑張って生きよう?」


哀しそうに呟くミリアンナにアルソンは手を伸ばし頭を撫でると同意をするようにミリアンナは頷いた。


「ええ。勿論よ。父や母、お姉様の為にもこの家とササライ家を守っていくわ。ねえ、お義兄様、お姉様のお墓の近くにある薔薇は今年は咲いていますか?」


「ああ、丁度見ごろだよ。近いうちにおいで?」


「はい。今度花を添える時に見に行きますわ。」


「父様ー。母様ー。見て、アレクがあんな高いところまで登れたよ?」


ロバートの声にミリアンナとハロルドは子供たちの方へ向いた。


「木登り勝負はアレックスの勝ちみだいだ。といって降りられるのかな?」


「ええ、危ないわ。ハル。行きましょう?」


「二人ともアレクを頼むよ?」


アルソンはフェニス夫妻に子供を任せ一人紅茶をすすった。


「…薔薇の花は綺麗でも棘は鋭く刺されば毒を盛られたように腫れてしまう。…彼女はまさしく薔薇だった…。」


カップを口から少し離すと残っている紅茶が揺れる。

紅茶の色はまるで薔薇の様な色だ。


赤薔薇姫と例えられたソルシアは美しかった。

でも、中身は薔薇の棘の様に痛々しい。


「…ソルシア、だから君は敢えて霊園の外れにある花壇に入れてあげたよ?あそこは薔薇ばかりだから君に相応しい。」


ソルシアの遺体は墓地に入れられたと表向きには公表しているが、アルソンは薔薇が植えてある花壇の中に彼女を弔った、


霊園の外れにある花壇は美しい薔薇が沢山植えてあり毎年綺麗な薔薇を咲かせている。

ただそこはあまり手入れをされていなくて無造作のまま置かれていた。

鋭い棘が沢山あるから誰も近づかない。


「薔薇の棘で作られたゆりかごの中でゆっくりと眠れ…。」


アルソンは再びカップを口にして紅茶を飲みほした。




「もう復讐は果たした。あとは君を忘れるだけだ。今度こそさよなら…」




そして更に長い年月が経ち、ロバートとアレックスはお互いの家を継ぎ家を盛り立てていく中、ササライ領のとある霊園で一際大きな薔薇が咲いた。


薔薇はまるで血で滴る様な艶やかな花弁で、綺麗なのに皆その薔薇を気持ち悪くて近づかない。


でも薔薇は美しく咲いている。


だが、ある日雨にうたれ一枚の花びらが雫の重さで落ちてしまった。


すると突然、強い風が吹き花びらが飛ばされていく。


風に舞う薔薇の花びら


静かな湖まで辿りつき、湖の上でそっと落ちる。


すると眼鏡をつけた一人の男が、浮かびながら流れる花びらをそっと優しく手で包み込んだ。



Fin


お読みいただきありがとうございます。


先に謝ります。

気分を悪くしてしまい申し訳ありません。

バッドエンドを書こうと思い勢いで書いた物語ですが、あまりにも酷い話になってしまいました。

自分で書いていても?になっています。


でも、こんな物語を読んで頂き有難うございました。


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