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新しい世界 Ⅰ

「ロー君。私、何て言ったか覚えているかな?」


私、怒っています!と全身で表現する少女。幼さ残る顔が、プンプンと膨らんでいる。


――今日もミーちゃんかわいいなぁ。あ、この野いちご、酸っぱい。


「危ないから、森に行ってはいけません!」


「それじゃあ、手に持っているものは何?」


「野イチゴ!」


「…。何処で取ってきたの?」


「危なくない森!」


「ロー君―――!」


「あははははは!」


「待ちなさーい!」


――田中、今日も俺は楽しく生きているよ。





 目覚めた、というか思い出したのは、8歳の時。酷い高熱を出し、三日三晩生死を彷徨っていたそうだ。両親の必死の看病の甲斐あって、何とか一命を取り留めたが、そこからさらに三日昏睡状態。それでも不思議なこと、母が俺の手をずっと握っていた感触をなんとなく覚えていた。


 目が覚めた俺は当然、混乱した。ここは何処?俺は誰?と思考した瞬間に、「僕」の家。「僕」の名前はログス・アウローラ。と答えが返ってきたのだ!

 それから、自問自答を繰り返す中で、はっきりしたことがある。俺は、なんと異世界にきていた!

 

 その衝撃を割とすんなり、受け入れられたのは田中の功績だろう。以前、田中から、面白い作品があるから読んでほしいと、頼まれて読んだ作品の中の一冊に、似たようなものがあったのだ。それは、魔法が使えて、魔物がいて、困っている美少女がいる世界に迷い込んだ主人公が、現代の知識やチートを使って試練を乗り越え、美少女たちを侍らすお話しだった。

 読んだ当時は、「お前彼女いるんだから、こういうの読むなよ!」と空手チョップを叩き込んだが、まさかあの本を読んだことが役に立つことがあるとは。


―――センキュー田中。フォーエバー田中。


 そう。ここはどうやら異世界らしい。もっとも、あの時読んだ本とは少し違うようだが。

どうやら、魔法は特別な存在である貴族にしか扱えないらしいのだ‥‥。異世界で魔法使えないとありかよ!せっかく面白そうな世界にきたのに!ちくしょうめええええええ!

 加えて、俺はチートらしきものを未だ見つけられずにいる。これに関しては、割と焦った。俺が読んだ物語は、チートが無ければ確実に()()()()()からだ。しかし、今のところ試練と言われてピンとくるようなものにも遭遇していないため、一先ず保留にしておく。

 余談だが、魔法の攻撃は魔物にはあまり効果がないらしい。何の為の魔法やねん…。




  

 ミーちゃんから完全に逃げ切り、村を一望できる小さな丘にちょこんと腰を下ろし、野イチゴを口にしながら村を見渡す。

 ここはロデニウム領地の辺境にある、小さな村だ。人口約30人。狩りや作物を行いながら、自給自足の生活を送っていると自分の知識にはあったが、実際に目の当たりにすると驚いた。だって、小麦を育てながら、狩りや果物の採取、川で魚を釣ったりして自分が生活するなんて、誰が想像するだろう!いやしない。(反語)

 

 テンションが上がった俺は、棒を片手に、モ○ハンだぁ!一狩りをしに行くんだぁ!と森に突撃した。森には樹齢100年以上あるであろう大きな木があったり、美しい渓流があったり、見たこともない蝶がいたりと、目を奪われるもの沢山あった。魅了されるがまま、森を進み、感動に浸った。

 イノシシに追っかけまわされるまではの話だけどね!マジで死ぬかと思った。森で狩りをしていた親父が助けにくるのが、あと5秒遅かったら、多分死んでいたと思う。

 親父とともに村に帰ったら、俺がいなくなったと村は騒ぎになっていた。流石反省しつつ、村の人全員に謝罪リレー。勿論、母さんには、めちゃくちゃ怒られた。ミーちゃんには「うわあああん!」と叫びながらの激突をもらった。

 父さんからは、森は危ないからこれをもって行きなさいと、俺の身の丈にあった弓を渡された。止めないの?と聞いたら、苦笑しながら「男だから、森に魅了されるのは分かるからね。けど、森に行くなら、最低限弓を扱えるようになってからかな」とだけ。


 翌日から、農作業の手伝いの合間を縫って、俺は弓を猛練習した。弓を構え、矢を構え、射る。ひたすら同じことを繰り返す。指にタコができてはつぶれ、少し硬くなってしまった。手は痛かったが、着実に上手くなっていく楽しさの方が遥かに大きかった。

弓を練習する俺に対し、母さんは何も言わなかったが、時折心配そうに眺め、タコがつぶれては薬草ぬってくれた。

 そんな日々が4カ月ほど過ぎ、15Ⅿくらいの止まった的になら、確実に射ることができるようになった。その成果を親父にも見てもらうと、珍しく目を見張るってから、うん、穏やかに頷き、俺の頭を撫でながら、

「よく、頑張った。」と満足そうに行った。そして、渓流までなら、森に入ることを許されたのだ!





「ロー君!やっと見つけた!」


「どうしたの?ミーちゃん。そんなに慌てて」


「どうしたの?じゃないでしょう!全く。逃げ足だけは速いんだから…」


息を整えながら、俺の横に座るミーちゃん。表情から、少しだけ拗ねていると悟る。


―――俺が森に行くのが心配なのが8割 置いてかれたことに拗ねているのが2割ってところかな。実際、心配かけているのは申し訳とは思っているけど、こればっかりは…。


「ミーちゃん。あーん。」


「ありがとう…。ん、酸っぱい」


小鳥に餌付けするように、ミーちゃんに野イチゴを食べさせる。

やはり少し酸っぱいらしく、口をすぼめながら咀嚼している。

その姿を愛らしく思いながら、心の中で謝罪する。


―――ごめんね、ミーちゃん。試練のようなものが、こないとは限らない。チートが無い以上、備えは欠かせない。この世界の魔物は、おそらく…。


 父さんの話だと、魔物は200年前から突然現れるようになったそうだ。最初はとある田舎街。

突如、現れたその生き物は、人々を踏みぶし、炎のブレスを吐き、街を壊滅状態にさせた。知らせを受けた王国からの精鋭が、三日三晩かけて何とか討伐したそうだが、多くの死者が出でしまい、その街は滅んだ。その怪物は四足歩行で、翼が生えていたとされている。


―――どう考えても、龍だよなあ。リアルモ○ハンとか、落ち着いて考えるとかなりやばい。魔物って、スライムみたいなものだと思っていたが、まさかのボスクラスの龍オンリー。真正面から戦ったら、普通は勝率ゼロ。


 現状、龍に対して魔法攻撃が通じないことが判明している。当たり前だが、人の力で龍の鱗を切り、肉を断つのは困難を極めるだろう。しかし、そこの何とかするのが人間だ。一人一人の力はちっぽけでも、集まれば龍をも屠る力になる。


 しかし、龍の登場は悪い事だけではなかったらしい。それまでは魔法を使える貴族が、富を独占していた社会が、龍の登場により変化した。龍に対抗するためには魔法だけでなく、騎士や弓兵などを育てる必要がある、と皆が理解していたからだ。その結果、元々貴族の子どもだけが通うことを許されていた学び舎に、才能が見込まれた市民が参戦し、ある程度の地位を得た。

 反面、才能を見込まれなかった市民は、力をもつことを禁止された。いざ戦場になった際に邪魔だというのが建前だが、本音は反乱が怖いのだろう。そのため、この世界にはギルドが存在しない。


「そろそろ、帰ろうか」


「うん」



 そんな無茶苦茶な世界で、今日も俺たちは生きていく。






王国…巫女を王とした国。12人の英傑がそろっている。


魔物…龍種。全長5~30mのものが記録に残っている。

   現れる場所は不規則だが、街に直接出現したのは最初で最後。

   基本、人が寄り付かないような奥地に住んでいる。

   

魔法…貴族にしか扱えないとされている。属性は火、水、土、雷。

   1人につき1属性しか原則扱えない。

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